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【完結】読心術と物理法則で、青春の嘘を完全論破する ~空気を読まない怪物が、仮面の聖女を「論理的」に救うまで~  作者: こころよみ
『嘘(くうき)』だらけの教室と、聖女の仮面の剥がし方

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18/102

仮面を外した帰り道

 カップのブラックコーヒーを飲み干すと、窓の外は完全に暗くなっていた。


 気象観測部の活動時間は終了だ。


 僕は記録ノートを片付け、百葉箱を閉め、あの錆びた鉄の扉に鍵をかけた。


「……帰るぞ」


 僕はうつむいて座っている星野千夏に声をかけた。


 今の彼女には、来た時のような張り詰めた空気はない。まるで高難度の数学の問題を解き終えた受験生のように、どこか放心状態だった。


 僕らは前後になって階段を下り、旧校舎の渡り廊下を抜け、昇降口へ向かった。


 その間、会話は一言もなかった。


 だが、静かというわけではない。


星野千夏(裏):


『……あの時、彼はどうしてあんなに冷静でいられたの?』


『鬼塚先生の怒鳴り声なんて、私だったらビビって謝るだけだったのに……』


『天気の話でもするように推理を話して、先生に謝らせるなんて。』


『空気を読まなきゃ死ぬ……ずっとそう思ってた。』


『みんなに溶け込むために、弾かれないために、必死で自分の考えを殺してきたのに。』


『でも、この人は空気を完全に無視して、誰よりも強く生きてる……もしかして、間違ってるのは私の方?』


『それに……あれを「取引」だなんて。』


『論理は通ってるし、帳尻合わせなのは分かるけど……なんでだろう、そんな冷たい言葉を聞いて、逆に胸が苦しくなるのは。』


『助けてもらったのに……素直に喜ぶべきなのに……』


 彼女の内面世界は、先ほどの衝撃を反復するだけでなく、深い反芻はんすうのプロセスに入っていた。


 彼女の中で激しい嵐が吹き荒れている。


 僕の行動ロジックへの困惑、自身の生存様式への疑念、そしてあの「取引」という定義に対する、ある種の悔しさ。


 高密度の思考活動が、途切れることのないデータストリームとなって僕の脳を打ち続けている。


 普段なら、こうした結論の出ないループ思考は騒音ノイズとして処理し、ヘッドホンで遮断するところだ。


 だが今日は、そうしなかった。


 なぜなら、その心声には嘘がないからだ。


 以前の「内心では拒絶しながら、口では喜んで引き受ける」といった虚偽のノイズに比べれば、今の「純粋な困惑」は、聴覚的に遥かに聞き心地が良い。


 校門を出ると、駅へと続く道は街灯によってオレンジ色に染められていた。


 僕は駅の方角へ歩き出した。


 星野千夏は何も言わず、自然と僕の横に並んだ。


 前後ではなく、隣に。


 人二人分の距離はあるが、傍目には十分「一緒に帰っている」と判定される距離感だ。


「あ、あれ……」


 前方のコンビニ前で、アイスを片手にたむろしていた二年生の集団が、動きを止めた。


 暗がりから現れた二つの人影を見て、硬直したのだ。


『あれ星野さん? それに……霜月?』


『あの鬼塚先生をボコったっていう猛者?』


『なんであの二人が一緒に? しかもこの雰囲気……喧嘩してるわけじゃなさそうだし。』


『まさか噂は本当だったのか? あの二人、実は仲良いとか?』


 驚き。好奇心。下世話な勘ぐり。


 空気が瞬時に粘度を増した。


 以前の千夏なら、こうした場面に直面した際、万に一つの誤解も生まないよう、即座に完璧な笑顔を貼り付けて駆け寄っていただろう。「あ、偶然会っただけだよ! ちょうど先生の手伝いで……」と。


 僕のような問題児と一緒にいるところを見られるのは、彼女の地位にとって明白なマイナス要因だからだ。


 僕は避けるために歩調を速めることはせず、興味深く横目でサンプルを観察した。


 この「対応を誤れば悪い噂になる」という社会的圧力テストに対し、彼女はどのような意思決定を下すのか?


 千夏は顔を上げ、彼らを淡々と一瞥しただけだった。


『……あ、C組の山田たちだ。』


『普段なら、行って挨拶して誤解を解くところだよね。』


『でも……しんどい。』


『どうせ説明したって変に勘ぐるんでしょ。勝手に思ってればいいよ。』


 彼女は足を止めず、営業スマイルも作らず、彼らの方を見ようともしなかった。


 彼女は無表情のまま、路傍の石ころに気づかなかった通行人のように、呆然とする彼らの前を通り過ぎた。


 僕は視線を戻し、脳内の記録帳のデータを更新した。


 いつも完璧な仮面をつけていた委員長の顔には、今、なんの表情もない。


 その「演技をするのも面倒」という倦怠感が、逆に彼女をいつになくリアルに見せていた。


 駅の分かれ道まで来た。


「私、電車だから」千夏が立ち止まり、改札口を指差した。


「僕は徒歩だ」僕は反対側の通りを指した。


「あのね、霜月くん」


 背を向ける直前、彼女は鞄のベルトを強く握りしめた。依然として僕の方を見ていない。


「今日のコーヒー……すごく苦かったけど、また分からない問題があったり……気分が乗らない時は……」


「……また、お邪魔してもいいかな?」


『拒絶しないで。拒絶しないで。』


『私……またあそこに居たい。』


 僕は彼女を見た。


 脳内で瞬時に費用対効果コスト・ベネフィット分析を行う。


 コストは一杯のインスタントコーヒー代と、彼女が必然的に発生させる心声ノイズ。


 対するリターンは、至近距離での優良な「人間行動サンプル」の獲得。


 仮面と素顔を行き来する彼女のデータは、僕が人間論理を理解する上で極めて参考価値が高い。


 結論。収支はプラスだ。


「構わない」


 僕は計算に基づいた回答を出力した。


「閾値を超える騒音を出さない限り、好きにしろ」


「……バカ」


 千夏は小さく呟き、口元にようやく、小さな弧を描いた。


「また明日」


 彼女は改札を抜け、帰宅ラッシュの人波へと消えていった。


 だが彼女が遠ざかっても、「安心」という名の波形は、僕の観測ログに残存していた。


 僕は鞄のベルトを直し、帰路についた。


 短い同行だったが、周囲の生徒たちの驚愕の視線が告げている。明日のクラスの空気は、恐らくより混濁し、かつ興味深いものになるだろう。


 だが、どうでもいい。


 以前のような一方的な悪意に比べれば、こうした変数だらけの混乱カオスの方が、観測しがいがあるというものだ。


 僕はヘッドホンを装着した。


 帰ろう。

「閾値を超える騒音を出さない限り、好きにしろ」


実質的な「部室への入室許可(合鍵)」が出ました。

夕暮れの帰り道、二人の距離感が絶妙ですね。


**面白かった!と思っていただけたら、ぜひページ下の【☆☆☆☆☆】で応援をお願いします!**


次は**【本日 18:10】**に更新します。

(帰宅した理人を待っていたのは、意外な人物でした)

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