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第九十九話 不死身の存在

第九十九話


カリーナが吠えながらヘルゴートへと突撃する。その背中を追うように、僕達も散開して動いた。


「みんな、気をつけて!」


 クラリスが両手を掲げ、青白い魔法陣から淡い光を放つ。

 力が全身に満ちていく感覚。筋肉が軽くなり、視界が広くなる。


「カリーナ」

 僕は振り返った彼女の目をまっすぐに見て言った。

「――あのゴーレムは僕たちに任せてくれ。…君は、アイツを」


 僕が指さした先――ヘルゴート。

 カリーナは歯を食いしばった表情のまま、こくりと深く頷いた。


「任せる」


 その一言を聞き、僕達は一斉に動き出す。


「行くよっ!」

 レオが風魔法を構え、放つ。

「サポートは任せて!」


 爆ぜた風が渦を巻き、ゴーレムへ直撃する。巨体が一瞬ぐらついた。


「隙ありッ!!」

 アネッサが跳躍し、拳を握りしめる。

「おりゃあああああ!!」


 彼女の拳がゴーレムの顔面に突き刺さり、肉と金属が悲鳴をあげた。

 巨体がよろめき、平衡を失っていく。


「足元、もらった!」

 アイゼンが低く呟き、槍を突き込む。

 

 ゴーレムはもはや支えを失い、そのまま仰向けに倒れ込んだ。

 地面が揺れ、砂煙が舞い上がる。


 ――今だ!


 僕は聖剣を構え、光魔法を集中させた。

 聖剣が光を帯びて輝き、瘴気を打ち払う気配を纏う。


「はああああっ!」


 跳躍し、倒れたゴーレムの腹へ聖剣を突き立てる。

 光を流し込むと、内部から焼けただれるような音が響いた。


「グォォォォォォ――――ッ!!?」


 悲鳴とも咆哮ともつかない異形の声。

 瘴気による結合が光に浄化され、崩壊していく。


「うっ……!」


 暴れる巨腕が僕を掴もうと伸びてくる。

 即座に剣を引き抜き、体をひねって飛び退く。


「リアンさん! 下がって!」


 セラフィリアが両手を突き出し、魔法陣を展開した。

「燃えろッ!」


 赤い炎が円状に立ち上がり、ゴーレムを包囲する。

 逃げ場を失ったそれは、ただ焼かれ続けるだけだった。


 僕が息を整えたそのとき――

 ヘルゴートはつまらなさそうにそれを見ていた。


 その無防備な表情。その油断。カリーナが見逃すはずがない。


 鋭い加速音。

 彼女は炎の影を駆け抜け、機械剣を振り下ろす。


「死ねッ!!」


 斬撃が袈裟懸けにヘルゴートを裂いた。

 なんの抵抗もなく、ヘルゴートの体が崩れ落ちる。

 夥しい量の血が地面に広がり、ヘルゴートはピクリとも動かない。


「……は?」


 あまりにあっけない。

 カリーナは呆然とした声を漏らした。


 後方では、ゴーレムが黒い炭となって崩れ落ちる。

 動く気配はもうない。


 勝った――?

 本当に?


 胸の奥がざわつく。

 こんなに簡単なはずがない。そんな直感だけが、冷たく脳裏を締め付けた。


「……終わった、のか……?」


僕は聖剣を構えたまま、一瞬たりとも視線をヘルゴートから外せなかった。

嫌な予感が、どうしても消えない。


  ――まだだ。終わっていない。


 僕達は倒れたヘルゴートを囲み、呼吸すら殺して傷口を注視した。

 そのときだった。


「……ッ!」


 ヘルゴートの裂けた胸元から、黒い瘴気がブワッと吹き上がった。


「下がれ!」


 僕は即座に聖剣を地面へ突き立て、光魔法で障壁を展開する。

 眩い白光の方陣が仲間たちを包み込み、瘴気を押し返した。


 溢れた瘴気はヘルゴートの体へと逆流し、皮膚を覆い、裂けた肉を繋ぎ、

 まるで粘土の傷を均すかのように、傷跡を消していく。


「……まさか、治って……?」

 レオが思わず声を漏らした。


 完全に再生したヘルゴートはひょいと立ち上がり、面倒くさそうに息を吐く。


「ふぅ、まったく……あんまり痛いことはしないでほしいなぁ」


 破れた服の隙間から覗く肌には――傷一つなかった。


 信じられない光景に、僕達は言葉を失う。


「その剣じゃ、ボクは殺せないよ」

 ヘルゴートは楽しげに笑い、右手を軽く掲げた。

「それにね……攻撃ってのは、こうするんだよ」


 手のひらに瘴気が収束し、黒々と輝きながら形を成す。

 ――剣だ。

 だが、常識では考えられないほど巨大だ。

 建物一つ分はある、禍々しい瘴気の巨刃。


「せーーーのっ!」


 ふざけた掛け声とは裏腹に、振り下ろされた一撃は世界を裂いた。


「伏せろッ!!」


 叫ぶと同時、僕達は四散して回避する。

 巨刃が通過した場所の建造物は影ごと断ち切られ、

 遅れて轟音と瓦礫が降り注いだ。


 それだけでは終わらなかった。


 斬られた瓦礫が瘴気を帯び、黒い霧へと変わり、

 巨刃に吸い込まれていく。


 刃が――さらに大きくなった。


「な……何、これ……」

 アネッサが怯えた声を漏らす。


 ヘルゴートだけが心底楽しそうにケラケラ笑っていた。


「あははっ、よく避けたね。少しでも当たってたら、今頃瘴気に呑まれてたよ?」


 巨刃が再び閃き、ヘルゴートの猛攻が始まる。

 僕は聖剣で浄化しつつ衝撃を受け流し、クラリスとセラフィリアが防御障壁を展開し、全体を守っていく。


「魔法部隊は下がりなさい。いつでも門を開けられるようにしておいて」

 アルボレアが指を鳴らし、木の根が地中からせり上がって壁を形成する。


 ヘルゴートは無邪気な子供のように剣を振り回していたが、――その攻撃は大振りで隙だらけだった。


「……甘い!」


 カリーナがその隙を逃すはずがない。

 銃砲が吼え、炸裂音が響く。


 直撃。


 爆風と砂煙が巻き上がり、ヘルゴートの姿が見えなくなる。


 そして、煙が晴れ――


「……っ」


 ヘルゴートの肉片が散乱していた。

 血の湖。臓物。腕も脚も、首もどこにも繋がっていない。


 だが、僕達はもう騙されない。


 案の定、断面から瘴気が噴き出し、肉片が勝手に動き始めた。

 吸い寄せられるように一箇所に集まり、瘴気で再構成され――


 ヘルゴートが、何事もなかったかのように形を取り戻した。


「……不死身、か」

 カリーナが苦々しく舌打ちをする。


 ヘルゴートは再生しきった口元で、ぽつりと短く呟いた。


「2……」


 数字。

 意味はわからない。ただ不気味な不快感だけが走る。


 カリーナは憎悪を燃やし、歯を噛みしめた。


「死なないというなら――死ぬまで殺してやる」


 彼女の声に、僕達は互いに顔を見合わせる。

 冷静さを欠いたカリーナは、危険だ。


 ヘルゴートはそんな彼女を嬉しそうに指差した。


「来なよ。あの使えないヤツらと同じところに送ってあげる」


 その言葉が指すのは、間違いなく機戦隊の仲間たち――

 カリーナの怒りが、静かに限界を超えていくのがわかった。

 ヘルゴートの挑発が、確実に彼女の理性を侵食している。


 そのとき、アルボレアが静かに一歩前へ出た。


「落ち着いて。挑発だってわかるでしょう?」


 指先をひらりと動かすと、小さな花がふわりと咲き、甘く落ち着く香りがカリーナの鼻先へ流れる。

 カリーナは肩を震わせ、数秒の沈黙ののち、わずかに息を吐いた。


「……助かった。ありがとう」


 アルボレアは柔らかく微笑む。


「いい子ね。怒りは力になるけれど、呑まれてはダメよ。仇を討つなら――冷静にね」


 その言葉に、カリーナは深く息を吸い直す。

 僕も胸の奥で張り詰めていたものが、少しだけほぐれるのを感じた。


 しかし、そんなやり取りを見ていたヘルゴートは露骨に不快そうに顔を歪めた。


「おばさん、邪魔だなぁ。せっかくボクのおもちゃができそうだったのに」


 アルボレアは微笑みを崩さず、穏やかな声で返す。


「しつけのなっていない子供ね。命はおもちゃではないのよ」


 その瞬間――

 ヘルゴートは何も答えず瘴気を呼び出し、再び巨大な剣を形成し始めた。


「来るぞッ! 防御だ!」


 僕たちは即座に障壁展開と陣形の準備に入る。

 しかしヘルゴートは今度、十本の指をこちらへ向けた。


 すると巨大な剣は、無数の小型の瘴気剣へと砕け散り――空中に浮いた。


「防げるものなら、防いでみなよ!」


 一斉に撃ち放たれる黒い刃。

 クラリスとセラフィリアが最大の防御障壁を張り、僕たちは衝撃に備えた。


 だが――


 刺さるはずの刃は、一つとして僕たちに届かなかった。


「え……?」


 見ると、アルボレアが操る蔓が、すべての瘴気剣を空中で絡め取っていた。


「な……! 全部掴んだ……!?」

 ヘルゴートの声が初めて焦りを帯びる。


 アルボレアは微笑んだまま、蔓をしならせた。


「返すわね」


 無数の剣がヘルゴートめがけて一斉に飛ぶ。

 ヘルゴートは慌てて手を振り、剣を瘴気へ戻して無力化するが――

 その顔には、露骨な苛立ちが浮かんでいた。


「おばさん……ホンット邪魔!」


 アルボレアはやはり笑みを崩さない。


「失礼な子ね。そんな子には――お仕置きよ」


 アルボレアが視線をヘルゴートの足元に向ける。すると突然、ヘルゴートの足元の地面が割れ、太い根が飛び出した。ヘルゴートは完全に反応が遅れ、体を縛り上げられる。


「なっ――!?」


 次の瞬間、無慈悲な数本の根が槍のようにヘルゴートの体を貫いた。


「これで倒し切れるとは思えないけど……不死身のタネくらいわからないかしら」


 アルボレアの言葉どおり、体に開いた無数の穴は、瘴気によってみるみる塞がっていく。


「無駄だよ、無駄ッ! ボクは死なないんだから!」


 必死に叫ぶヘルゴート。

 しかし、彼は気づいていなかった。


 背後に――静かに、冷ややかに迫る影の存在に。


「……ここが一番再生が早かった。――もしかして、時間が経ちすぎると再生できなくなるんじゃない?」


 冷たい声。

 カリーナが、背後からヘルゴートの頭に銃砲を突きつけていた。


「防げるものなら、防いでみな」


 ゼロ距離の閃光。

 頭部が、吹き飛んだ。


 根から解放された体は地面に崩れ落ちる。


 カリーナは無表情で銃砲を換装し、倒れた体を踏みつけて固定する。


 再生しようと蠢く瘴気――

 顔を形作りかけた瞬間、火炎が覆い尽くした。


「お前には――似合いの炎だ」


 冷酷そのものの声で、カリーナは火炎を浴びせ続けた。


読んでくださってありがとうございます。

次回はいよいよ100話です。特に仕掛けがあるというわけではありませんが、なんとなく嬉しいものですね。

不死身の悪魔、ヘルゴートとの戦いがどうなるのか、お楽しみに。

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