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第九十八話 悪魔ヘルゴート

第九十八話


 side:リアン

 再び、攻撃の日がやってきた。

けれど今回は、いつもと違う。

並んだ顔ぶれを見て、胸の奥がざわつく。


僕たち六人――僕、クラリス、レオ、アネッサ、アイゼン、セラフィリア。

それに、カリーナ率いる機戦隊、魔法部隊、そしてアルボレア。

……それだけだ。


鬼族も、陸戦軍も、いない。


作戦前、ロザリンドが僕達の前で説明してくれた。

彼女の表情には、いつもの冷静さと、わずかな緊張が混じっている。


「恐らく敵はそろそろ、こちらが手薄になった隙をついてくる。……これは、私ならそうするという根拠のない勘に過ぎんがな。

だが、ここ王都が手薄なのは確かだ。鬼族と陸戦軍には防衛を任せる。お前達の今回の任務は“攻撃”ではなく、“座標の取得”だ」


「……つまり、今回は次回のための繋ぎということか?」

アイゼンが短く尋ねると、ロザリンドは静かに頷いた。


「そのとおりだ。交戦するなとは言わんが、無駄な消耗はするな。目的は座標の記録。それを忘れるな」


その言葉に、誰も何も言わなかった。

戦う覚悟はある。でも……今回は何かが違う。そんな予感が、胸を締めつけていた。


詠唱が始まる。

魔法部隊の声が重なり、空間が軋むような音を立てた。

やがて空間が裂け、門が開く。


カリーナの機戦隊が先行。

続いて、僕たちとアルボレア、魔法部隊が飛び込む。


***


降り立ったのは、ヴァスヘルの中心に位置するであろう噴水広場。

……四つ目の座標だ。


しかし――


「……静かだな」


アイゼンの言葉が、風に溶ける。

静かすぎた。悪魔の姿どころか、一般の市民もいない。

まるで“最初からここに誰もいなかった”ような、そんな不気味な静けさ。


僕は辺りを見回す。

建物の影、瓦礫の隙間、路地の奥。

どこにも、気配がない。


「おかしい……」

思わず呟いたその時――


コツ、コツ、と。


乾いた足音が響いた。

みんなの視線が、一斉にそちらへ向く。


「……あいつは……」


歩いてきたのは、リザだった。

いつもの軽い調子、柔らかい笑み。

だが、この静寂の中ではその明るさが異様に見えた。


「いらっしゃい。来ると思ってたよ」


軽く手を振るリザに、カリーナが即座に銃砲を構える。

僕たちもそれぞれ武器を取った。

だが、リザはまるで気に留める様子もない。

そのまま、片手を上げて――微笑む。


「――ヘルゴート。起きて。ボクが止めるまで、君の好きにしていいよ」


次の瞬間、リザの身体がぐらりと傾き、その場に倒れた。


「なに……? なんのつもり……?」

アネッサが様子を見ようと近づこうとするのを、僕は腕で制した。

……何かが、違う。

空気が、変わった。


ピクリ、と。

リザの体が、小さく動いた。


ゆっくりと上体を起こす。

だが、その顔は――もうリザのものではなかった。


 頭部にはねじれた二本の角が生え、白銀の髪は黄金色に変わっている。顔の作りはリザのままなのに、そこから溢れる圧はリザのそれとは全く違う。異質で……まるで自分の肺を握られているかのような息苦しさを感じて呼吸が浅くなる。

アルボレアでさえ、その顔から柔らかな微笑みを消していた。


「……誰だ」


僕の声は、思ったよりも掠れていた。


その存在は、ゆっくりと唇を歪める。

そして――まるで舞踏会で客を迎えるように、恭しく一礼した。


「こんにちは。ボクはヘルゴート。リザの体を借りて、ようやく出てこられるんだ」


軽い調子。だが、その声の奥にある“何か”が、僕の全身の毛を逆立たせた。

心の底から恐怖を覚える――本能がそう告げていた。


「それじゃ、早速だけど――」


そこで言葉が途切れた。


……掻き消えた。


次の瞬間、爆音でも光でもなく、“崩れる音”が広場に響いた。

振り返ると――機戦隊の兵たちが、一斉に倒れていた。


「なっ――!」


カリーナが叫ぶ。

だが返ってくるのは、呻き声だけ。

動ける者、防げた者はごく僅か。一瞬にして、機戦隊のほとんどが殺されてしまった。


そして、背後から――柔らかな声が響く。


「こんなこともできるんだよ。……よろしくね」


振り向いたその笑顔は、ひどく冷たく、嗜虐的だった。


紫の瞳が、愉悦に濡れている。

――まるで“生き物”を弄ぶこと自体を楽しむように。


僕は歯を食いしばり、聖剣を構えた。

胸の奥が、嫌な予感で締めつけられる。

リザには戦闘能力はないはずだった。事実、彼女はこれまで絶対誰かに守られていた。

それがまさか、こんな力を隠し持っていたなんて。


(……ここで倒さなきゃ、全滅だ。僕達がやるしかない!)


剣を構え直し、光を纏わせる。

眼前の悪魔――ヘルゴートを、真っ直ぐに見据えた。


 僕達は構えたまま、ヘルゴートの動きから目を離さないでいた。

 だが奴は僕達を見向きもせず、先ほどヘルゴートの攻撃に倒れた機戦隊の死体の方へと歩み寄っていく。


「何をするつもりだ……?」

 思わず口をついて出た僕の呟きに、カリーナが息を呑む。


 ヘルゴートはその手をゆっくりと掲げ、掌から黒い瘴気を噴き出した。

 死体を包み込むように、瘴気は地面を這い、やがて蠢き始める。


「なにを……やめろっ!」

 カリーナが叫び、左腕の銃砲を構えて引き金を引く。

 だが、弾丸は濃密な瘴気に防がれて届かない。


 ヘルゴートは気にも留めず、淡々と作業を続けた。

 濃密な瘴気が一点に集まり、どす黒い塊が形を持ち始める。


「……なんだ……アレ……」

 その光景から目が離せなかった。


 やがて、ヘルゴートが手を下ろし、満足げに笑う。

「でーきた!」


 瘴気が晴れたとき、そこに立っていたのは――歪んだ肉の塊。

 人の形を模したゴーレムのように見えるが、腕はねじれ、皮膚の下には機械の残骸が埋め込まれている。肉片や機戦隊の装備は無理やり瘴気で繋がれ、動くたびに血や肉が落ち、異臭が鼻をつく。


 もはや人とは呼べない何かがそこにあった。


 クラリスが口を押え、思わずえずく。

 セラフィリアは静かに息を吐き、鋭い軽蔑の視線でヘルゴートを睨んでいる。

 アルボレアは言葉を失い、ただ視線を伏せる。

 レオも、アネッサも、アイゼンも魔法部隊も――全員が、その光景に息を呑んでいた。


 その中で、誰よりも強い怒りをあらわにしたのはカリーナだった。

 拳を震わせ、唇を噛みしめ、憎悪の炎を瞳に宿す。


「私の部下を殺すだけでは飽き足らず、死体まで弄ぶか……!」


「カリーナ、落ち着きなさい。思う壺よ」

 アルボレアの声も届かない。


 ヘルゴートは楽しげに笑った。まるで新しい玩具を手にした子供のように。

「じゃあ……あの女。生意気だから黙らせちゃって」


 命令を受けたゴーレムが、悲鳴にも似た咆哮をあげて動く。

 右腕をカリーナに向け――次の瞬間、手首から先を射出した。


 轟音。風圧。土煙。

 アルボレアが木の根を操り、即座に壁を作る。爆発の衝撃波がそれを叩いた。


 僕達は、その一撃に覚えがあった。

 ダッチ。機戦隊の砲手。彼の得意技――ロケットパンチ。

 そのままの動きを、あのゴーレムが再現している。


 ヘルゴートが肩をすくめて言った。

「防がれちゃった。こんなもんか、役に立たないね」


 その一言で、カリーナの怒りが限界を突破した。

「貴ッ、様ァァァアアア!!!」


 叫びとともに機械剣が展開し、火花を散らす。

 刃が閃き、カリーナは一直線にヘルゴートへと斬りかかる。


 ゴーレムが咆哮を上げ、右腕でその一撃を受け止めた。

 金属と肉のぶつかる音が響く。


「貴様だけは……絶対に私が殺す……!」


 その声には、怒りと悲しみ、そして憎しみが混ざっていた。

読んでくださってありがとうございます。

書き溜め分が完結したので、投稿ペースを上げられる時は上げていきたいなと思っております。

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