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第六十二話 気弱な魔法使い

二話投稿。第一村人発見です。

第六十二話


遺跡のホールに戻ると、結界の淡い光が僕たちを包んだ。

それぞれが軽く息を整え、順に報告を始める。


まず、アネッサとクラリス。


「奥の遺跡は思ったより安全だったわ。罠や仕掛けもなし」

「ただ、瓦礫で進路が遮られている場所が多くて、注意は必要だね」


アネッサは得意げに尻尾を揺らし、クラリスは思い出したように補足する。

「あと、奇妙な装飾や石像が残っていたから、文化の手掛かりになるかもしれないわ。今でこそ必要ないかも知れないけど……この戦いが終わったら、文化に目を向ける時間も生まれるかと思って」


次に、アイゼンとレオ。


「門の周辺は罠らしきものは発見できなかった」

「水場は少し離れた場所に小さな川があって、飲料や簡易補給には使えそうだったね。魚もいたから少人数なら食糧にも困らないかも」


僕は頷きながら周囲を見渡す。

「なるほど、補給と隠密移動は両立できそうだな」


最後に、僕とセラフィリア。


「僕たちは周囲の地形見つつ、この廃墟となった街の目印になりそうな建造物や、注意すべき場所を把握できたよ。街の外には森や川もあったし、更に遠くには恐らく悪魔族と思われる煙が立ち上っているのも確認した」

セラフィリアも頷く。

「危険箇所はありましたが、周辺に目立った罠や敵の気配はなし。ここを拠点にして、偵察や待機に活用できます」


みんなの報告を聞き、僕は拳を軽く握り直す。

「よし、これで情報は揃った。次はこの情報をもとに、どう動くかを考える段階だ」


アネッサがにやりと笑う。

「ふふん、これで準備はバッチリってわけだね!」


クラリスは軽く肩をすくめ、レオは真剣な目を光らせる。

アイゼンも頷きながら「次の動きが肝心だな」と言った。


結界の光の中、僕たちは新たな一歩を踏み出す決意を胸に、再び周囲を見渡した。

ここからが、この大陸での本当の任務の始まりだ。

僕達は円になり、石の床に腰を下ろしていた。


「今回の偵察は三班に分かれようと思う」

僕はみんなを見回しながら言った。


「まず、高台から敵や地形を観測する。その役割をクラリスとレオに任せたい。ロザリンドから預かった魔導具がある。これで遠くまで見渡せるはずだ」


「了解。視界が開ける場所を探して、敵の動きや数を把握するよ」レオが頷き、クラリスもそれに倣う。


「ねえねえ、あたしは?」アネッサが手を挙げた。


「アネッサはアイゼンと一緒に、観測地点の索敵、護衛と僕達の退路の確保を任せたい。……アイゼン、指揮を任せていい?」

 

「ああ、状況に合わせて動くとしよう」

 アイゼンは短く答え、腕を組む。


そして視線が僕に集まる。

「……残るは接近偵察。僕とセラフィリアが行く」


「分かりました」セラフィリアは落ち着いた口調で頷いた。

「敵の規模や拠点の手がかりを掴むのが最優先ですね」


「危険は大きいが、情報を得るには踏み込むしかない」僕は剣の柄を握り、気を引き締める。


「まずはあの煙が上がっていた地点まで進む。そこの安全が確認できたら合図するから、そこで合流してまた先に進んでいこう」


アネッサがにかっと笑った。

「りょーかい!……だけど、二人とも気をつけないと本当に危ないからね?」


「……ええ、心得ています」

セラフィリアが神妙な面持ちで頷く。


「セラフィリアぁ、顔が固いよ!リラックスリラックス〜!」アネッサは笑って肩をすくめる。緊張していた空気が少しだけ緩んだ。


僕は改めてみんなを見渡し、言葉を絞り出す。

「――まず、最初の目的は煙の正体を確かめること。そして可能なら、敵の拠点や規模も掴む。危険を冒す価値はあるはずだ。無茶はしないが、情報を持ち帰ることを第一に。今日はここで体を休めて、翌朝出発しよう」


全員が力強く頷いた。



翌朝。

冷えた空気の中、僕たちは遺跡を抜け出し、それぞれの任務へと散っていく。


クラリスとレオは丘の上を目指して歩き、アイゼンとアネッサは迂回路を確認するために遺跡の外れへ。

そして僕とセラフィリアは、煙が立つ方角へと足を踏み出した。


「――行こう」

そう呟くと、セラフィリアが静かに微笑み、隣に並んだ。


煙の正体を突き止めるために。

そして、僕達の大陸を守る、その一歩目のために――。


 道を進むと、地面に黒く焦げた跡が見つかった。

焚き火の跡だ。つい昨日までは煙が上がっていたが、今はもう消えて冷えてしまっている。


「……やはり誰かがここにいたな」

僕は足を止め、慎重に周囲を見渡す。落ち葉を踏む音一つもしない。鳥の声すら遠い。

静かすぎる。


「セラフィリア、僕から離れないで」

「はい、分かっています」


彼女は神妙にうなずき、僕のすぐ横に立つ。緊張感のせいか、その気配がやけに近く感じられる。


焚き火の跡の周囲には、靴の跡が残っていた。けれどもそれ以上の痕跡はなく、すでにどこかへ立ち去ったらしい。

僕は眉を寄せつつも、それ以上は追わなかった。今必要なのは敵を深追いすることじゃない。まずは仲間たちと合流できる地点を見つけることだ。


「リアンさん、こっちを見てください」

セラフィリアが森の奥を指さした。少し入ったところに、小さな開けた場所がある。木々に囲まれて視界は狭いが、逆に外からは見つかりにくそうだった。


「……いい場所だな」

僕は小さくうなずき、腰の聖剣を軽く掲げて仲間に合図を送る。


ほどなくして木陰からクラリスたちの姿が現れる。僕らは目配せを交わしながら合流し、ようやく一息つける場所を確保することができた。


 合流したのち、僕はクラリスとレオに向かって、周辺の地形を描いた紙を差し出した。

「高台から見て、次はどっちへ進むべきだと思う?」


クラリスは顎に手を当て、地図をじっと眺める。

「進行方向にある小高い丘を経由してから、川沿いを登るのがいいかもしれないわ。程よく遮蔽物もあって、偵察にも向いているし」


レオは息を一度漏らしてから、静かに付け加えた。

「ただし、見つかりにくいというのは敵も同じだよ。警戒は怠らないよう気をつけよう」


意見は一致した。僕たちは短く頷き合い、進路を北回りに決めた。

「じゃあ支度をして出発だ」僕が言うと、皆が立ち上がる。セラフィリアは結界の端で息を整え、アイゼンは槍を肩に掛け、アネッサは軽くストレッチをしてから楽しげに笑った。


その瞬間――茂みの奥で、ガサリ、という小さな音がした。


空気が一瞬で変わる。僕の全身の感覚が鋭くなり、戦闘態勢に移行するのを感じた。

「誰だ!」僕は無意識に声を張り上げ、聖剣の柄に手をかける。アイゼンとアネッサが一歩前に出て茂みを睨みつつ戦闘態勢に入り、クラリス、レオ、セラフィリアは少し下がっていつでも詠唱できる姿勢をとる。


茂みの向こうから、慌てた声が聞こえた。

「ま、待って待って待って! やめて! 何もしませんから!武器なんて向けないでください!」


声は震えている。言葉の切羽詰まった感じ――敵意よりも恐怖が滲んでいた。


「姿を見せろ!」僕は低く、強く命じる。隙を見せられない。誰が味方か敵か、ここでは分からない。


茂みがざわりと揺れ、葉がはらりと落ちる。黒く細い影がゆっくりと姿を現した。


痩せこけた体格。大きめの魔法使い帽子を斜めにかぶり、薄汚れたローブをまとっている。肌はやはり黒く、その色素が反転したかのような瞳は真っ直ぐ僕らを見つめていたが、そこには明らかな怯えの色があった。両手を上に上げて無抵抗を示し、声はなおも震えている。


「お願い、ぼ、ボクは……何もしませんから! お願い!武器を向けないでください!」


少年は悪魔族の特徴を残す顔立ちだが、子供らしい線の細さが目立つ。どうやら魔法使いを志していたらしい帽子が、その必死さを余計に頼りなく見せていた。


僕は一瞬、全員の顔を見渡す。クラリスは警戒を解かずに杖を構え直し、レオも杖を向けたままだ。アイゼンは槍を構え、アネッサは身を低くして周囲を睨む。セラフィリアはその瞳を少年から離さない。


「何者だ。どうしてここにいる」僕は冷たく問い詰める。だが胸の奥では――この子供が、本当に敵なのかという疑問が湧いていた。だが、外見だけで判断するのは危険だ。


茂みの向こうで、少年は震える声で繰り返した。

「ま、待って……! ボク、ただ……このへんに住んでるだけで――こ、殺さないでください!」


 僕とアイゼンは前に出て、同時に武器を構えた。

「動くなよ」アイゼンの低い声が森に響く。槍の刃が陽の光反射し、少年の顔を照らした。

僕も剣を突きつけながら問いかける。

「説明しろ。ここで何をしている」


少年はびくりと肩を震わせ、慌てて両手を高く上げた。涙が滲んだ目が、必死にこちらを見返してくる。

その声には怯えと必死さが混じっていた。

「普段は……家にこもって魔法の研究をしてます。ただそれだけ……!」

喉が詰まるような声で言葉を繋ぎながら、少年は続ける。


「昨日は、その……魔法の触媒に必要で……灰が欲しくて、火を起こしました。焚き火をしたのはそれで……! いま、その灰を取りに来てて……そしたらあなた達がいて……!」


涙がぽろりと頬を伝い落ちる。

「ボク、本当に敵意なんてありません……! お願いです……! 武器、下ろして……せめて、刃を向けないで……」


その懇願に、僕は一瞬だけ剣を握る手に力が入った。だがアイゼンと視線を交わし、同時に短く頷く。

「……仕方ない」


僕たちは渋々武器を下げた。ただし油断はしない。剣も槍も、まだ鞘や背には納めないまま、間合いだけを外す。


少年は安堵の息を漏らし、へたり込みそうな足を必死に踏ん張った。そして、おっかなびっくり、震える声で言った。

「ぼ、ボクの名前は……エミリオ。……知りたいことがあれば、答えられる範囲で答えます。だから……ボクの生活を、脅かさないでほしい……です……」

読んでくださってありがとうございます。

エミリオとの出会いは彼らに何をもたらすのか。敵なのか味方なのか。

次回もお楽しみ頂けると幸いです。

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