表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/111

第六十一話 悪魔族の大陸

夜にも投稿します。

第六十一話


side:リアン

 門をくぐった瞬間、闇が僕らを呑み込んだ。

足元には確かに地面の感触があるが、視界は何も映さない。ただ深い暗黒の中に、遠く淡い光だけが浮かんでいた。


「……向こう側に見える光を目指してください」

セラフィリアの静かな声が背中を押す。


「わかった。僕が先頭に立つ」

呼吸を整え、僕は剣を握り直した。仲間たちの気配を確かめながら、一歩ずつ光の方へ進む。


やがて闇が薄れていき、僕らは外へ出た。


――そこは、広大な遺跡だった。


崩れ落ちた石造りの建物、半ば風化した塔、見たこともない様式の装飾。僕らが住まう大陸――エステリゼのどの国にも似ていない、古い国の名残。異様な静けさと共に広がる光景に、思わず息を呑む。


「……国の跡かしら」

クラリスが低く呟いた。


だが感傷に浸る暇はない。

「まずは身を隠せる場所を探そう。人影は――ないな」

耳を澄ませても、獣や鳥の気配すら感じられない。


すぐそばに、苔むした遺跡の入り口を見つけた。石の階段が地下へと続いている。


「降りてみるか」

アイゼンの言葉に、僕らは警戒しながら階段を下った。


広間のように開けたホール。石柱が林立し、崩れた壁が奥を隠している。

アイゼンが周囲を見渡し、満足そうに頷いた。

「……ここなら拠点を作れそうだな」


「そうだね」僕も頷く。

「だけどまずは周囲の安全を確認する。危険がなさそうなら、結界を張って拠点にしよう」


仲間を三人ずつ二組に分けて探索に出る。僕はアネッサとセラフィリアと共に、周囲を見て回った。風に砂塵が舞うだけで、怪しい気配はない。

戻ってみると、クラリスの組も同じ報告だった。


「よし、ここを拠点にしよう」

ロザリンドから託された魔導具を取り出し、床に埋め込む。淡い光が広がり、遺跡全体を包み込むように結界が張られた。


ひとまず安心は得た。だが、ここからが本番だ。

僕は仲間たちを見回し、口を開く。


「……さて、これからどう動こうか」


 闇の向こうで蠢く敵を意識しながら、僕らは最初の作戦会議を始めた。

魔導具で張った結界は淡い光を帯び、少しだけ心を落ち着かせてくれる。


「――まずは、何を掴むべきか整理しよう」

僕が口火を切ると、クラリスが顎に手を当てて頷いた。


「最優先は地理情報よね。特に、この門の周辺。帰還経路が一つしかない以上、地形を把握しておかないと危険だわ」


「それと敵の拠点だな」アイゼンが腕を組む。「悪魔族の本拠地がどこにあるのか、そこにどんな兵力が集まってるのか。それが分からんと次の一手も立てられん」


「つまりは散歩ってわけだね!」アネッサがにやりと笑う。黒猫の耳がぴょこっと揺れて、やけに楽しそうだ。


「遊びではありませんよ。……ですが、拠点の場所を突き止めるのは必須ですね」セラフィリアがきっぱりと付け加える。


「……問題は、どれだけの危険があるかだね」レオが小声で呟いた。眼差しは冷静だけど、その奥に張り詰めた緊張がある。


僕は一同の視線を受け止め、深く息を吸った。

「よし。まずは門の周辺を重点的に調べる。拠点はここでいいとして、隠れられる地形や水場なんかを確認する。それに、罠がないかどうかも確認しないと。それから少しずつ範囲を広げて、敵の根城を探す……そんな流れでどうだ?」


クラリスが即座に頷き、アイゼンも「異論はない」と短く返す。

アネッサはしっぽを揺らしながら「ふふん、任せときなって!」と胸を叩き、セラフィリアも静かに「ええ」と同意した。


「……分かった」最後にレオが呟いた。「危険だけど、やるしかないもんね」


結界の光が仲間の顔を照らす。誰も怯えてはいない。

僕は思わず、剣の柄を握りしめていた。


「じゃあ、班を分けよう」僕が口を開くと、全員の視線が集まった。


「まず、この遺跡の奥まで行って安全を確認する班。……クラリス、アネッサ、頼めるか?」

「了解よ」クラリスがすぐに返す。

「うん、あたしに任せといて! ちょっとした探検だね!」アネッサは尻尾を揺らしながら笑った。


「次に、門の近くを確認する班だ。僕達が気づかなかった罠が仕掛けられていないか、それから水場の有無を探ってほしい。――アイゼン、レオ、頼む」

「承知した」アイゼンは短く頷き、背に担いだ大剣を軽く叩いた。

レオは少し緊張を滲ませながらも、「分かった。水さえ確保できれば、補給の負担も減るね」と冷静に分析してみせる。


そして残ったのは僕とセラフィリア。

「最後に……僕とセラフィリアで周囲の地形を探る。拠点を離れて歩き回る分、最も危険だ」

そう言うと、セラフィリアがすっと立ち上がった。

「問題ありません。もしかしたら私が知る地形もあるかもしれませんし……それに、リアンさんとなら、きっと大丈夫です」

自信に満ちた声音に、ほんの少し胸が熱くなる。


クラリスが僕をじっと見て言った。

「……気をつけて。あなたが無茶をすれば、みんな困るんだから」

「分かってるよ」僕は苦笑して肩をすくめた。


それぞれが武具を整え、軽い携行食と水を確認する。

結界の光に照らされる仲間たちの顔は真剣で、それでも少しの期待を帯びていた。

未知の大陸の初めての偵察。胸の鼓動が早まる。


「じゃあ――行こうか」


こうして僕たちは三班に分かれ、それぞれの任務へと足を踏み出した。


 僕とセラフィリアは、崩れ落ちた街並みの中を歩いていた。

石畳は割れて草が生え、建物はほとんど瓦礫と化している。時折、風に砂埃が舞い上がる以外は、本当に静かだった。


「……随分、独特な造りだな」

壁に残る彫刻を見上げながら、僕は思わずつぶやいた。


「ええ。……ここは、やはり……」

セラフィリアは立ち止まり、欠けた柱に刻まれた模様を指先でなぞる。


「知ってるのか?」


彼女はゆっくり頷いた。

「ここは……私がこの大陸にいた頃、悪魔族に最後まで抗った国の跡地です」


僕は足を止めた。

「最後まで……?」


「ええ。勇敢でした。どれほど兵を失おうとも戦い続け、民すら決して屈しなかった。けれど……ついに悪魔族に討たれ、滅んだのです」


彼女の瞳はどこか遠くを見つめ、静かに揺れていた。

そう聞くと、荒れ果てた廃墟が急に重みを帯びて見える。ここで人々は最後まで戦い抜き、そして散っていったのだ。


やがて視界が開けた先に、それはあった。

崩壊した街並みの中で、ただ一つ――塔が天へ伸びていた。


「……あれは?」


「この国の象徴とも言える塔です。まだ残っていたなんて……」

セラフィリアは息を呑み、見上げた。


青空の下に、ひときわ高くそびえる塔。

かつての栄華の名残を、ただ一つ示すように立ち続けていた。




瓦礫に覆われた街を、僕とセラフィリアは慎重に進んでいた。

折れた石柱や崩れかけたアーチを抜け、時折風が運ぶ砂埃に目を細める。静かすぎて、足音だけが妙に響いていた。


そんな中、セラフィリアがふと口を開いた。

「……リアンさん、ひとつ聞いてもいいですか?」


「ん? なんだ?」


「あなたはどうして、“勇者”と呼ばれているのですか?」

真っ直ぐな眼差しでそう言われ、僕は思わず足を止めた。


少し考えてから、苦笑いを浮かべる。

「まだ旅に出る前の話さ。王国がまだ健在だった頃に、王様から賜った称号なんだ。この聖剣も、その証だった」

腰の聖剣に軽く手を添える。鞘越しに感じる冷たい感触が、少しだけ胸を締め付けた。


「でも……色々あって剥奪されちゃってね。それに、王国も滅んでしまったし、今となっては勇者じゃなくただの剣士なんだけどね。みんなは名残で呼んでくれているのさ」


自嘲気味に笑う僕に、セラフィリアは静かに首を振った。

「……いいえ。私を牢から救い出してくれたときのあなたは間違いなく私にとってのヒーローでした。……それに、皆の先頭に立って導き、もっとも危険な役目を自ら買って出る姿……それはまさに勇者そのものです」


「……っ」

胸の奥が熱くなる。

そんなふうに言われたのは初めてで、心臓がやけに早鐘を打っているのを感じた。


「……やめてくれよ。褒めたって何も出ないぞ」

思わず顔を背け、取り繕うように言う。


「ほら、探索に集中しよう。敵に気づかれたら元も子もない」

そう言って周囲を見渡す。

瓦礫の陰や崩れた建物の影を一つひとつ確かめながら、僕は熱を帯びた胸の鼓動を必死で落ち着けようとしていた。

 

 僕とセラフィリアは、さらに廃墟の奥へと足を進めた。

崩れた街並みは広大で、思っていた以上に入り組んでいる。瓦礫の山を越えるたび、道が途切れていたり、地下へと抜ける穴が口を開けていたりした。


「……やっぱり地形は複雑ですね。兵を展開するには不向きですが、隠れるには最適です」

セラフィリアが周囲を見回して言う。


「となると、拠点には悪くない。逆に敵に使われると厄介だな」

僕は苦い顔で答える。


やがて瓦礫の合間から高台に出ると、見渡す景色が一気に広がった。

遠くには森のような黒々とした樹海が広がり、その先に小さな川のようなきらめきが見える。


「……水場だ。あれなら使える」


「ええ。そして、あの森……実りがあれば補給の負担も減ります」

セラフィリアの声は冷静だったが、わずかに安堵が混じっていた。


さらに目を凝らすと、遠方にうっすらと煙のような影が見えた。

「……あそこ。見えるか?」


「ええ。あれは……集落跡でしょうか。それとも……」


確証はない。ただ、あれほど離れていても分かるということは、それなりの規模だ。悪魔族の拠点である可能性も高い。


「帰ったら、みんなに報告だな」


セラフィリアは頷き、表情を引き締める。

「ここは思った以上に広い。ですが、方角ごとの地形はある程度把握できましたね。これで動きやすくなるはずです」


僕は息を整え、聖剣の柄を握り直した。

「よし、拠点に戻ろう」


胸の奥にまだ熱を残したまま、僕はセラフィリアと並んで歩き出した。

読んでくださってありがとうございます。

いよいよ悪魔族の大陸に降り立ったリアン達。

これからどんな戦いが彼らを待っているのか、お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ