表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/110

第五十一話 終戦

いよいよ決着です。

第四章、これにて閉幕。

第五十一話


そして翌朝。

王都の城壁が見えたとき、思わず息を呑んだ。


堂々たるはずの正門は、どこか荒れ果て、修繕もされぬままだ。

街に入れば、民衆の表情には活気がなく、ただ無言の諦めが漂っている。


誰も口にはしない。けれど、この国に漂う終わりの雰囲気を、人々自身が悟っているのだ。


市場の商人は値を叫ばず、黙って品を並べるだけ。

子供の姿はなく、声も響かない。

兵士の数は少なく、立っている者でさえ覇気を失っていた。


「……これが、戦に敗れた国の姿か」

思わず、僕は呟いた。


クラリスは目を閉じ、胸の前で静かに祈りを捧げている。

レオは苦い表情を浮かべ、アネッサは耳を垂らしてうつむいた。

アイゼンは冷静に辺りを見回し、セラフィリアは震える唇を結んでいた。


勝者が誰であれ、敗北した国には静かな絶望が広がる。

その事実が、胸に鋭く突き刺さったまま、僕は目を逸らせなかった。


 王都に足を踏み入れてから、胸の奥がずっと重かった。

街並み自体は、戦に巻き込まれたはずのわりに大きな傷跡は残っていない。焼け落ちた家もないし、城壁だってまだ威容を保っている。けれど――人々の顔に、活気はなかった。


「なんか最近、兵達が少なくないか?」

「出兵してるんだろうが……にしても、警備も雑だよな。こないだ王都から出ようとしたとき、こっちを見もしなかったぞ」

「やっぱり……負けたんじゃないか?」


そんな声があちこちから聞こえてくる。敗戦の事実はまだ民に知らされていないはずなのに、もうこの国に未来がないことを感じ取っているのだろう。市場を歩いても、売り手も買い手も笑っていない。ただ、生活のために無言でやり取りしているだけだった。


僕たちは手分けして聞き込みをしていた。

けれど返ってくるのは、不安や不満ばかりで――肝心の「ひび割れ」に繋がるものは見つからない。


「やっぱり簡単にはいかないな」

小さく呟いた僕に、隣を歩いていたアネッサがローブの下で肩をすくめる。

「怪しいとこ全部回ってたら日が暮れちゃうよ」


その言葉のとおり、気がつけば空は茜色から群青へと変わりつつあった。

そろそろ宿を探さないと、と思ったそのとき――ふと声をかけてきた男がいた。


「……あんたらか?王都の異常を調べ回ってる集団ってのは」


土埃にまみれた服を着た、年配の村人風の男だ。


「そうですが……なにか知ってるんですか?」

 僕は丁寧に男性に対応する。彼は小さく首をすくめながら続けた。


「向こうのほう……東の森の入口あたりで、バキバキって……枝を折ったみたいな音がな。けどもっと重くて、不気味な響きで……。一度だけ聞こえたことがあるんだ。東の森は普段静かだから、なんだか忘れられなくてよ……」


僕は思わず顔を見合わせた。レオもクラリスも眉をひそめている。

だが、真っ先に反応したのはセラフィリアだった。


「……それは、空間を開くときの音に……似ています……!」


彼女の静かな言葉に、一行の空気が一気に張り詰める。

まさか、もうここまで……?


けれど周囲はすでに暗く、街角の灯火が頼りない光を落とし始めていた。

「……だけど、今から確かめに行くのは危険だな」

そう判断した僕に、皆も黙ってうなずく。


「……明日にしよう。今日は宿に泊まろうか」


そう決めて、僕たちは王都の雑踏を抜けていった。

背後ではまだ、重苦しい空気の中で人々のざわめきが続いていた。



 宿の部屋に入ると、外のざわめきが嘘みたいに静かになった。

けれど、心は落ち着かない。安普請の宿屋の木枠ベッドに腰を下ろしても、さっきの証言が心の奥に残っている。


「空間を開く音……」

セラフィリアが呟いたきり、言葉を続けなかった。

彼女は窓辺に立って、夜の王都を見下ろしている。灯火が点々と散らばる街は美しいはずなのに、どこか影が濃く見えた。


「もし本当に……ひび割れが広がっていたら……」

レオの声は小さく震えていた。

クラリスは唇を引き結んだまま黙っている。アネッサでさえ、いつもの調子を崩して毛布にくるまっていた。


「……大丈夫だ。明日確かめよう」

僕はそう言ったが、自分自身を納得させるための言葉にしか聞こえなかった。


その夜、浅い眠りの中で何度も目が覚めた。夢の中でも、ひび割れのことを気にしていた。



翌朝。

王都は昨日よりもずっと騒がしかった。

通りを歩けば、人々の声が一段と大きく耳に飛び込んでくる。


「兵が急に動いてるらしい」

「いや、どこかで暴動があったんだって!」


真偽はわからない。ただ、確実に昨日より空気がざわついていた。

胸騒ぎを抑えきれないまま、僕たちはひび割れの確認に向かおうとした。

 東の森へ向かう途中、街道沿いが特に騒がしかった。

人の波が一方向へ流れていく。僕たちも足を止め、その先に目を向けた。


――正門から、馬車団が入ってくる。


一際目を引くのは、分厚い鋼鉄で覆われた公国の装甲馬車。武骨な巨体が軋みを立て、兵士たちがその周囲を固めていた。さらに複数の公国の馬車が続く。その中央、国旗を掲げて進むのは――大公エルドリヒの乗る馬車だ。その前後を守るように騎士と兵が配置され、異様なまでに厳重な布陣を敷いている。


「……これは……」

思わず息を呑んだ僕の視線は、自然と列の真ん中へ吸い寄せられる。


檻のように作られた馬車。その中に、カイリスがいた。

両手を縛られ、項垂れた横顔には光がなかった。わざと外からでもよく見えるように作られたその馬車は、王都の人々に敗北の証を見せつけるためのものに違いなかった。


「……あれって、王子様……!」

群衆の中から、誰かが小さく叫んだ。その声からどんどんざわめきは広がる。


さらに後方から迫るのは、漆黒の馬車団。首のない騎士が操る、異様な馬車たちが列をなして進む姿に、人々は青ざめる。恐怖のざわめきが広がり、悲鳴さえ混じっていた。

その中心に、一際豪奢な馬車があった。濃紺の帳を垂らし、三日月の紋章を掲げた夜を象徴する国旗を掲げている――魔王ヴァレリアが乗る馬車だ。その威圧感は、王都そのものを黙らせるかのようだった。


人々はその光景で完全に理解した。

――王国は、敗れたのだと。

そして、終わったのだと。


嘆きと絶望が広がる中、馬車団が広場で止まった。

そこから姿を現したのは、公国の将軍――ヴァルディス。精悍な顔立ちに鋼の鎧をまとい、民衆を見渡して声を張り上げる。


「聞け!王国はすでに敗れた! この正午、王子カイリスを処刑し、王国は幕を閉じる!」


その宣告は雷鳴のように広場を打ち抜いた。

泣き崩れる者、怒号を上げる者、声を失う者――反応は様々だが、誰一人として否定はしなかった。


ヴァルディスは続ける。

「だが心配はいらぬ。王国の民は、我ら公国とその同盟国である魔導国が守り導く! 明日からも変わらぬ生活を送れることを約束しよう!」


その言葉に、民衆のざわめきは次第に落ち着きを取り戻す。絶望の中で掴んだ細い綱を手放すまいとするように、人々は互いに頷き合っていた。


……敗北を受け入れさせる宣告。

そして、生き残りへの保証。

これが、この場を支配する者たちのやり方なのだろう。


僕は奥歯を噛みしめた。

民衆の反応を横目に、仲間たちと目を合わせる。


「……行こう。ひび割れを確認するんだ」


嘆きの声がまだ尾を引く王都を背に、僕たちは東の森へと足を向けた。


 東の森は、王都の喧騒とは別世界のように静まり返っていた。

枝葉が頭上を覆い、射し込む陽光はまだら模様になって揺れている。だがその静けさは、むしろ薄気味悪さを強めていた。


「危険があるかもしれない。ここからは固まって動こう」

僕がそう言うと、みんなが頷く。アネッサも尻尾をぴんと立て、周囲を警戒している。


しばらく森を進むと、雰囲気が変わった。

木々の並びが不自然で、まるで切り開かれた跡のように開けた土地が広がっていたのだ。

苔むした倒木もなければ、草花も生えていない。そこだけぽっかりと人工的に削ぎ落とされたような空間だった。


「……これは」

息を呑む僕の視線の先。


その中央に、それはあった。


宙を裂くように黒いひびが走っている。

蜘蛛の巣のように細かく、しかし中心部は細いながらも深々と開いていて、奥底からはぞわりとした冷気のようなものが滲み出していた。


「空間の……ひび割れ」

セラフィリアが小さく呟いた。表情は冷静に見えたが、声はわずかに震えている。


近づきすぎれば、何が起こるかわからない。

僕たちは互いに視線を交わし、刺激しないよう周囲を確かめながら場所を記録した。


「……これで十分だ。今は戻ろう」

僕の声に、全員が頷く。


森を抜ける頃には、太陽はすでに天頂へ近づいていた。

空の色は白々しく、まるで息を潜めたような静けさが漂っている。


「……もうすぐ、正午だ」

アイゼンの言葉に、胸が締め付けられる。


処刑の刻限。

僕たちは足を速め、王都の広場へ向かっていった。



 広場には、信じられないほどの人だかりができていた。

ざわめきはあるが、怒号や罵声はない。ただ皆、息をひそめて舞台を見守っている。


その中央に、処刑台が据えられていた。黒布で覆われた壇上には、すでに公国と魔導国の首脳たちが列席している。

威容を誇る大公エルドリヒ。冷徹な瞳で威圧する魔王ヴァレリア。二人の存在だけで、場の空気が圧し潰されそうになる。


そして――兵に囲まれて連れ出されたカイリス。


彼の歩みは重い。だが、鎖に繋がれたその姿は、思った以上に落ち着いて見えた。

処刑の場に引き立てられる王族に、民衆は侮辱の声を浴びせることもなかった。

むしろ、誰もがただ目を逸らせずにいた。


「……最後くらいは、王子としての矜持を保つつもりか」

思わず口の中で呟いていた。


カイリスは処刑台の上で立ち止まると、群衆を見渡した。

その目に、かつての傲慢さはなかった。ただ、己の末路を受け入れた静けさだけがあった。


 処刑台の上に立ったカイリスは、凛と背筋を伸ばし、騎士に支えられることなく一歩前へ出た。その堂々とした姿のまましゃがみ、首を差し出すかのように少し背を丸める。促されることもなければ拘束すらない。そこには覚悟を決めた王族の姿があった。

 広場を埋め尽くす民衆を見渡し、静かに語る。


「……民よ。僕は愚かであった。王家に生まれながら、誇りを失い、民を導くこともできなかった。だが、王子として最後に願う」


 彼はゆっくりと、公国の大公と魔導国の魔王を順に見つめた。


「隣国の賢君たちよ。この国は……もはや王家を失う。だが、どうか……民を見捨てないでくれ」


 広場の空気が揺らぎ、民衆は息を呑む。

 カイリスの声はさらに強く響いた。


「戦争を引き起こした僕の願いなど、と思うかもしれない。それでも、民に罪はない。導き、未来へ繋げてくれ」


 そして彼は空を仰ぎ、深く息を吸った。


「女神エステルよ……見ていてください。これが、我が最期です」


 一拍置いて、カイリスは全身の力を込めて叫んだ。


「――エステリア神聖王国、万歳!」


 

兵士の剣が振り下ろされ、その首が飛ぶ。赤が飛び散り、カイリスの命は絶たれた。

だが、その最期の姿は決して惨めではなかった。愚かで未熟な生涯だったかもしれない。それでも彼は、最後の瞬間だけは王族として立ち、誇りを胸に死んだのだ。


「……これで、王国は……」

息を呑む僕の中で、言葉は途切れた。


宿敵。

僕たちを追い詰め、苦しめた相手。

その最後を、僕は決して忘れない。焼き付けるように瞼の裏に刻んだ。


広場を覆う沈黙は、あまりにも重かった。

王国という国が、ここでその歴史を終えたのだと、誰もが理解していた。


 

 処刑が終わると、広場に深い静寂が訪れた。

カイリスの亡骸は兵士たちの手で慎重に運び出されていく。その姿には、嘲りも侮辱もなく、最後まで王族としての尊厳が守られていた。


僕は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。

――あれほど狡猾で、僕たちを苦しめてきた相手だったのに。最後の言葉も、その死に様も、どこまでも誇り高かった。


誰もがまだその余韻に囚われている中、壇上に新たな影が現れる。

公国の大公エルドリヒ。そして魔導国の魔王ヴァレリア。

二人が並んだだけで、広場の空気は再び緊張に満ちた。


エルドリヒが前に出て、低く響く声で語り始める。

「王子の墓所は、王都外郭の北東にある古墳群に設ける。我が公国が責任を持って埋葬の儀を行う」

言葉には抑揚こそ少ないが、確かな重みがあった。


彼は続ける。

「そして、これよりこの国の在り方を改める。貴族制度は解体し、兵は“治安維持隊”として再編する。王都と周辺の治安を守り、民の安全を担わせるのだ。……民は、完全とはいかぬが、これまで通りの暮らしを続けよ。生活を乱すことは望まぬ」


広場にざわめきが走る。

「貴族が……なくなる……?」

「じゃあ、私たちは……」

不安の声があちこちで漏れ始めるが、まだ混乱に留まっていた。


次に、ヴァレリアが一歩進み出た。

その姿だけで、ざわめきは途切れる。民衆の誰もが、無意識に口を閉じていた。


「王国はこの瞬間から、その名をエステリアと改める。そしてエステリアはこれより、我が魔導国の保護下に入る。それにあたって、王都の一部を立ち入り禁止とし、そこに特殊訓練部隊を配備する。立ち退きが必要な者には新たな住居を与えよう。希望者は、公国や我が国への移住も認める。立ち入り禁止区域や移住の詳細は追って伝える」


広場全体が再びざわめきに包まれる。小さな抗議の声も混じったが、ヴァレリアの冷たい視線がすぐさまそれをかき消した。

その場に立つだけで、民衆の反発は容易く押し潰されてしまう。


僕の横で、アイゼンがぼそりと呟いた。

「……悪魔の侵攻に備えて、防衛線を敷くつもりだな」

「うん、少し強引だけど、しょうがないよ」

僕は小さく返した。民衆にまで悪魔族のことを伝えれば、余計な混乱を招く。かといって何も伝えずに避難させることもできない。防衛線より内側には敵の侵入を許さないというヴァレリアの覚悟でもあるのだろう。


ヴァレリアは最後に、広場を鋭い眼差しで見渡し、宣言した。

「これからそなたらは、我が国民だ。余が導く」


その言葉を置き土産に、彼女は背を向け馬車に乗り込む。エルドリヒも同じく続いた。

威容を誇る馬車団は、静かに王城へと進んでいく。


残された広場には、深いため息と嘆きだけが満ちていた。

王国の終わりを悟った人々の顔には、悲しみと諦めが交錯している。


僕はしばらくその光景を見つめ、それから仲間に向き直った。

「……行こう、王城に。森で見た“ひび割れ”を報告しないと」


誰も言葉を返さなかった。ただ無言のまま、皆が頷いた。

民の嘆きを背に、僕らは馬車団とは別の道を選び、王城へと足を運んだ。


 王都の中心にそびえる王城は、昼の光の下でもどこか影を帯びて見えた。

本来なら白亜に輝く威容を誇っていたはずなのに、今は敗戦の象徴として静かに沈黙しているように思える。


「止まれ。何者だ……と、勇者殿か」

城門前に立つのは、魔導国の獣人だった。黒い鎧を纏い警戒していたが、相手が僕達だと知って警戒を解く。


僕は一歩前に出て用件を説明した。

「僕達は王都の東の森で“空間のひび割れ”を発見した。その報告に来たんだ」


兵はすぐに隣の兵と目配せを交わす。短い言葉で確認を済ませると、頷いて僕達に向き直った。

「であれば、作戦参謀に伝えるのがよいだろう。ついて来てくれ」


王城の中は冷たい空気に包まれていた。装飾の豪奢さはそのままだが、歩くたびに重たい靴音が反響し、やけに広く感じる。

案内された先の一室をノックし、「入れ」と返事が来るのを待ってから扉を開く。


「……ロザリンドじゃないか」


そこにいたのは、落ち着いた気配を纏いながら、こちらを真っ直ぐに見据える女性。魔導国の参謀として活躍するロザリンドが、椅子に腰掛けて待っていた。


「お前達……その顔、さっそく見つけたようだな」

穏やかにそう言ったロザリンドに、僕は仲間と視線を交わし、静かに頷いた。


僕らはすぐに本題へと入った。

東の森の奥――人為的に開かれた土地。その中心に、明らかに異質な“空間のひび割れ”があること。

下手なことをして刺激しないよう、触れずに場所だけを記録したこと。


ひとつひとつを丁寧に説明していくと、ロザリンドの表情も少しずつ硬さを増していった。


「……なるほど。確かに重要な情報だ」

彼女は真剣な面持ちで手元の紙に記録を取り、僕達の言葉を漏らさぬよう刻んでいく。

 

 部屋の奥、長机の上に広げられた地図。その上には赤や黒の印がすでにいくつも記されていた。

ロザリンドは指先で地図を押さえ、僕達を見据える。


「ここが王都の東区の森、お前たちがひび割れを発見した場所だな」

指し示された位置には黒い印が重ねられていた。


「すでに魔導国と公国の兵が、この周辺の路地や地下水路を調べている。……お前たちはこっちだ」

そう言って、今度は地図の東寄りに視線を移す。赤い印が円を描くように記されていた。


「王都の北東……この森の外れに近い区域だ。ひび割れが出入口であるなら、あまり近くにはないかも知れんが……この森は何かを隠すのにちょうどいい。万が一ということもある。お前たちには、この範囲を調査してもらう」


僕は地図を覗き込み、場所を確認してから頷く。

「わかった。発見したら報告するよ」


仲間たちもそれぞれ頷き、指示を受け入れる。


ロザリンドはそれを見届けると、地図を畳みながらふっと息をついた。

「……気をつけろよ。お前たちにもリュミアの成長を見てほしいんだからな」


その言葉に、僕は穏やかに微笑んだ。

「もちろん。必ず戻ってくるよ」


短いやり取りののち、僕達は部屋を後にし、新たな探索へと向かっていった。



 side:ヴァレリア

 王城の貴賓室は、昼の光を遮る厚手のカーテンのせいで陰影に包まれていた。窓の外には、まだ処刑の余韻が残る王都の広場が広がる。

私は椅子に深く腰を下ろし、対面に座るエルドリヒを見据えた。


「王国は滅んだ……だが、まだ民が混乱する前に、余らが秩序を示す必要がある」

私の声は低く澄み、室内の空気に冷たく響いた。


エルドリヒは肘を机につき、指先で軽くリズムを取りながら答える。

「その通りだ。しかし、王族を失った民の不安は想像以上だ。急ぎすぎれば反発を招く」


私は頷き、机上の書類に視線を落とす。王都東部の森で確認された異常――空間のひび割れの報告書。

「だが、遅きに失するわけにはいかん。悪魔族の侵攻を防ぐためにも、あのひび割れの兆候は、無視できるものではない」


指が書類の一枚に止まる。文字の一つ一つが、大陸の未来を示す暗号のように思えた。

「リアン達が現地で調査している。あれらはよく働く。任せておけば問題ないだろう。次の行動は、現場の確認と……できることなら封印を施したいものだがな。余はそれを優先する」


エルドリヒは眉を寄せる。

「時間が惜しいという現状は承知しておる。だが、民の心理も考慮せねばならぬ。秩序維持には、統治の段取りも慎重にすべきだ」


私は窓の外に視線を移す。広場に立つ民の顔、処刑の余韻、嘆き――そのすべてを思い出し、エルドリヒの言葉にも一理あると考える。


――この国を導くのは容易ではない。しかし、導かねばならぬ。民の混乱は、悪魔族に侵攻の隙を与えるだけだ。


エルドリヒと視線を交わす。言葉は少なめだが、互いの思いは理解できていた。秩序を維持しつつ、未知の脅威に備える。

この大陸は渡さん。悪魔族になど、屈してたまるものか。


私は立ち上がり、窓の外に広がる王都を見下ろした。

「……準備は整った。あとは動くのみ」


静かな決意が、私の胸に満ちた。王都に漂う沈黙の中、次の戦いの足音が確かに聞こえている気がした。


 

 第四章――閉幕

読んでくださってありがとうございます。

第四章『大陸戦争編』閉幕です。次章の内容も食い込んでますが、完全なる終戦となったこのエピソードで完とさせていただきました。

次章は『第五章 悪魔侵攻編』となります。第四章以上の長編になりますが、お楽しみいただければ幸いです。

書き溜めもかなり減ってきているので、更新頻度は変えずに一話一話を短めに切っていく予定です。

今後もリアンの戦いを応援していただけると嬉しいです。

よければコメント等待ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ