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第三十七話 卑劣な罠

三度目の投稿。

書き溜めがなくなるのであまりしたくないのですが、投稿して読んでいただくのが楽しすぎるので仕方ないですね。

第三十七話


side:ゴルド・レグナ

 魔導国を発ってから八日。

山脈の冷たい風が頬を撫でる頃、我らは公国北の山道に至った。

長き行軍の疲れを見せる兵もいたが、多種多様な者たちが互いを支え、決して崩れぬ陣容を保っている。これが魔導国の兵の誇りだ。


やがて前方に、公国の軍勢が姿を現した。

整然と並ぶ鋼鉄の騎士たち――鍛冶と冶金を極めた武具に身を包み、重厚な威圧を放っている。

その背後には奇怪な影。砲を積んだ馬車、鉄と火薬の匂いを放つ武装兵。異様な光景に、我が兵らはざわめきを隠せない。


「……これが公国の技か」

「鉄の匂いが濃い……」


一方、公国兵もまた我らを見て声を失っていた。

翼を持つ鳥人、角を持つ魔人、獣の血を引く戦士、古の竜人。我らの多種多様さは、彼らにとって未知であろう。

「人も獣も、魔も……同列に立っている……」

「まるで雑然とした混成軍……しかし、それでいて揺るがぬ統率……」


互いの驚きが山風に混じる中、二つの影が我が前に歩み出た。


ひとりは鋼鉄の鎧を纏い、歴戦の風格を漂わせる男。

「公国陸戦軍将軍、ヴァルディスだ」

その声は低く、硬い。黄金竜の末裔たる我を前にしても怯むことなく、しかし微かな畏怖を隠しきれぬ眼差しで我を見据える。


もうひとりは機械仕掛けの両腕を持つ女。

右腕に長剣、左腕に砲を忍ばせ、鋭い眼差しを光らせる。

「機戦隊隊長、カリーナ。……以後、よしなに」

声音にはわずかな震えがある。だが、それ以上に前へ出ようとする強さがある。恐怖を飲み込み、我に立つ者の眼だ。


我は二人を見渡し、黄金の槍を地に突き立てた。

「……良き目をしているな」


小さき者らしい畏怖を覚えながらも退かぬ姿。これならば共に戦場に立つに足る。


「我はゴルド・レグナ。この軍の総大将だ。あと二人、我と同じ七曜魔の者がいるが……この軍の後方にいるゆえ後ほど紹介しよう。許せ」


その言葉に、ヴァルディスはわずかに息を吐き、背筋を正した。

「大公閣下の命により、魔導国の兵に補給を整えてある。炊き出し、携行食、矢弾や包帯……すべてここで受け取っていただこう。首都に入れば混乱を招くゆえな」


「助かる」

我は短く答える。


互いの兵はまだ相手を値踏みしている。だが、我には分かる。

この出会いは、ただの合流ではない。

――魔導国と公国が肩を並べ、王国に挑む、その第一歩だ。


 炊き出しの煙が山風に乗って広がり、食欲をそそる香りが辺りに漂っていた。

同じ釜で煮込まれた肉と豆のシチューを、魔導国の兵も公国の兵も木椀によそい、肩を並べて口にする。


最初は互いに視線を合わせることすらためらう様子だった。

だが、熱々のシチューをすすり、兵士同士で「熱っ!」と笑い合う声が一つ生まれると、硬い壁は少しずつほころんでいく。


「お前らの鎧の輝き、すげぇな。どうやって磨いてる?」

「なぁ……その獣の耳、本物か? ……触っていいか?」

「やめとけ、怒られるぞ」


種族も文化も違えど、腹を満たす行為の前では皆同じ。

共に食べることで、互いを敵ではなく仲間として認め始めているのが分かった。


我は椀を置き、ヴァルディスとカリーナを視線で呼び寄せる。

「紹介しておこう。魔導国が誇る七曜魔の二柱だ」


背後から歩み出たのは、鬼の女。

屈強な腕に浮かぶ筋肉の線、その双眸は炎のように力強い。

「グレン。肉弾戦ならば誰にも劣らぬ鬼族よ。怪力無双、この腕で敵陣を粉砕する」

彼女は胸を張り、豪快に名乗った。

「七曜魔、猛火のグレンだ。よろしく頼むぜ」


続いて、ぬめるような光沢を纏った女が現れる。

柔らかな曲線を持つ身体、だがその奥に潜む威圧感は鋭い刃のようだ。

「そしてこやつがネレイア。グランドスライムだ。対人戦でこの女に勝てる者はそうはおらん」

ネレイアは柔らかい、警戒をほぐすような声で言った。

「妖水のネレイア。……仲良くしようね」


ヴァルディスは逞しい手を差し出し、まずはグレンと握手する。

骨が軋むほど強く握られても眉一つ動かさずに笑うその様はさすがだ。

「豪胆な握りだな……悪くない」


カリーナは機械の腕をわずかにきしませながらも、臆せずネレイアと手を取る。

「機戦隊隊長、カリーナだ。互いに命を預け合う仲……よろしく」

「ええ」

握った瞬間、ぬるりとした感触に僅かに目を見開いたが、それ以上に真剣な眼差しを崩さなかった。


我はその様子を見届け、低く笑う。

「よかろう。こうして釜の飯を共にした時点で、我らは戦友だ」


山の寒気を押し返すように、兵たちの笑いと声が広がっていった。



 side:リアン

 僕たちが潜んでいる放棄領の入り口――元関所は、魔獣対策としていまや厳重に封鎖されていた。

そこに近づく者などまずいないはずなのに、今朝方、巡回の兵が妙なものを見つけたという。


「……これだ」

作戦会議の席上、獅子の獣人の歩兵隊長が、一枚の紙を卓上に置いた。

年季の入った木の机の上で、それはいやに新しく、どこか嫌な光沢を放っている。


「関所の門に貼られていた。誰かが、監視の目を盗んでだ。まったく気づかなかった」

彼の低い声に兵たちがざわめく。封鎖の厳重さを知る者ほど、その異様さに背筋を冷やしていた。


僕も身を乗り出し、紙を覗き込む。そこには、王国特有の仰々しい書体でこう記されていた。

 

『王国に仇なす思想を抱き、その徒を育て上げ、さらに王国を欺いて聖女の座に就かせた罪により、以下の者を投獄する――』


そこに書いてあった二つの名。

僕には誰のことかわからなかった……だけど、聖女という言葉に不安がよぎる。

そしてその不安は的中することとなる。


 クラリスの身体が一瞬で硬直した。

肩が小刻みに震え、唇がかすかに動く。息が詰まったような音が、はっきりと聞こえた。


「……そ、そんな……」


その声と同時に、空気が凍りついた。

全員の背筋がピンと張り、周囲のざわめきが一気に消えたように感じる。

目の前のクラリスの蒼白な顔、震える肩、ぎゅっと握りしめた指先。

その瞬間だけで、張り紙の重みが全員に圧し掛かる。


「父様……母様……?」


かすれた声が漏れた途端、僕の心臓が跳ねた。

兵たちも一斉に静まり返り、誰もが息をひそめる。

紙に書かれた名前が、ただの文字の羅列から、凄まじい現実へと変わった瞬間だった。


僕は彼女の肩越しに紙を見つめる。

これは間違いなく僕達を狙った罠だ。相手にするべきではない。けれど、クラリスの震えと目の揺れが、僕の心を揺らす。

部屋に漂う緊張が、僕たち全員の胸に重く沈み込む。


 クラリスは紙を見つめたまま、しばらく動けずにいた。

肩は小刻みに震え、唇はかすかに動く。息遣いも荒く、まるで心が波に飲まれているようだ。


「……どうして、こんな……」


やっとの声が漏れたが、それ以上は出なかった。

僕はそっと彼女の横に寄る。

「大丈夫……か?」

言葉をかけても、クラリスは僕を見ようともしない。ただ、紙の名前に視線を固定したまま、震えが増していく。


レオが、クラリスの手に軽く触れようとした。

「……クラリス、落ち着いて。僕達がいるよ」


アイゼンも黙って頷く。彼は言葉少なだが、気持ちは伝わる。

アネッサは怖そうに目を丸くして、しかしクラリスを見つめる。

「……でも、これ……どうするの……?」


歩兵隊長の獅子の獣人は静かに張り紙を見下ろし、低く唸る。

「これは王国の手だ。わざわざ辺境まで知らせに来た。罠だと心得よ」


紙を握るクラリスの手がさらに強く震える。

彼女は息を整えようと、深く胸を打ち付けるように呼吸した。

そして、静かだが確固たる声で言った。


「……行かなくちゃ……両親を、助けるために」


その一言に、部屋の空気が一気に変わる。

僕ら全員の胸に、緊張と覚悟が同時に押し寄せた。

部屋の空気はまだ重く、貼り紙の名前が頭の中で何度も反響していた。

歩兵隊長の獅子の獣人は静かに首を振る。

「間違いなく罠だ。行くべきではない」


僕もその通りだと思う。

理屈では、この知らせに飛び込むのは愚策だ。罠に違いない。


だが、クラリスの顔を見た瞬間、理屈は吹き飛んだ。

青ざめ、震える肩、必死に押し込めようとする涙。

その姿を前に、僕は「行かない」という選択を口にすることができなかった。


「……行く」


真っ先に口を開いたのは、意外にもレオだった。

控えめな彼が、しっかりと目を見開き、言葉を届ける。

「クラリスの顔を見たらわかるよ、両親がとても大切だって。僕にもその気持ちは痛いほどわかる。だから僕は、助けに行きたい」


アイゼンも静かに言った。

「……俺にはもう両親がいない。だから言える。まだ生きていて会えるのなら、後悔のない選択をするべきだ」


アネッサは顔を引きつらせながらも、決意を込めた声で言う。

「あたしは……正直、また王都に行くのは怖いよ。……でも、怖いけど……クラリスのためなら、あたしも行く」


僕は深く息をつき、冷静に言葉を紡ぐ。

「わかっている。これは絶対に罠だ。でも……仲間のためなら、僕は行く」


クラリスは涙目で僕たちを見上げ、小さく頷いた。

「ありがとう……本当に、ありがとう……」


歩兵隊長が深く息をつき、再び制止する。

「……まったく、行くべきではないのだが」


僕は優しく首を振る。

「仲間のためだから、今回は僕たちの意志で行く。申し訳ないけど、理解してほしい」


歩兵隊長は少し黙り込み、そしてゆっくりとうなずいた。

「……ならば仕方がない」


僕たちは互いに覚悟を確かめ合い、再び王都に向かう準備を整えた。

胸の奥には緊張と不安、そしてそれを超えた覚悟が混ざり合っていた。

 


 歩兵隊長は小さく頭を下げて、表立った支援はできないと告げた。

「だが……無事を祈っている」

その言葉だけが、冷たい風の中で背中を押してくれる。

僕たちは拠点を出た。放棄された領地の入り口を抜けると、空が広く開け、風が荒々しく頬を打った。


王都までの道のりは長いけれど、もう隠れる意味はなかった。

カイリスが仕掛けた卑劣な罠――それを跳ね返すのは、隠れることじゃない。堂々と乗り込んで、その思惑をぶち壊すしかない。

胸の奥で、怒りがじわじわと熱を帯びていく。


王都の城門前。検問の兵士たちが立ちはだかる。

「止まれ! 通行許可は――」


僕は剣の柄に手をかけ、目をじっと上げた。その視線に兵が怯むのがわかる。

「勇者リアンだ。邪魔をするな。わざわざ出向いてやったんだ」


低く、でも揺るがない声。

仲間たちも背筋を伸ばし、視線を僕に集中させる。

目の前の兵士たちの視線も、ざわりと動いたけれど、僕らはひるまない。


進むたびに、人々の視線がこちらに集まる。

警戒、疑念、驚き――いろんな感情が混ざり合った空気を背に受け、僕たちは真っ直ぐに王城を目指す。


怒り。覚悟。そして、仲間への信頼。

胸の奥でぐっと噛みしめるそれらを力に変えて――僕たちは堂々と、王都の門を踏み越えた。

 

 

 side:カイリス

 伝令が息を切らして駆け込んできた。額に汗を浮かべ、声は震えている。

「王子……勇者一行が、正門から堂々と……王都に……!」


僕は目を細め、唇に笑みを浮かべた。ニヤリ、と――おびき寄せは完璧に成功した。


その瞬間、頭の中であの日の出来事を回想する。


 クラリスの実家を人質に取れと命じたあと、僕は考えた。逃げた連中が隠れられる場所など、この辺りにはない。では、どこから現れ、どこへ消えたのか。

 

点と点が繋がる。間違いなく、あの勇者どもの背後にはロザリンドがいる。元領地は放棄され、魔獣の巣と化しているが、禁踏地の森を通れば王国領の外へ抜けられる。そして数日前の「森が騒がしい」という報告…… ――なるほど、あいつらはあそこを通って侵入したのだ。


僕は部下に命じた。あの領地の関所に、クラリスの両親を投獄したことを書いた貼り紙をするように、と。もし引っかからなければ、第二候補、第三候補でも同じ手を使うつもりだった。

 

 それが今、まさかここまで早く成果を出すとは。

思考を整理し、現状を見つめる。すべては予想通り。あの日、勇者どもに屈辱を味わわされた瞬間は、今でも思い出すとはらわたが煮えくり返りそうになる。胸の奥に渦巻く怒りと快感が、静かに、しかし確かに僕を満たす。


「よし……奴らの狙いは僕だ。邪魔をしなくていい、真っ直ぐ来させろ」


部下たちは瞬時に反応した。あの敗北の雪辱を晴らすべく、すべてをこの手で取り戻す――それだけを胸に、僕は視線を遠く王都に向けるのだった。


 

 side:リアン

 王城の塔が見えてきた。

石造りの壁に囲まれた城は、僕たちを威圧するようにそびえ立つ。

胸の奥で、怒りがさらに熱を帯びる。あの卑劣な王子カイリスめ――クラリスの両親を人質に取るなんて、許せるはずがない。


「さすがに緊張するけど……でも、行くしかない」


僕は剣の柄に手をかけ、いつでも抜ける準備を整える。

仲間たちも無言で背筋を伸ばしている。レオはクラリスを見つめ、強い決意を滲ませているし、アイゼンは目を細め、静かに槍を握る手に力を込める。アネッサも震えながら、でもしっかりと僕たちの後ろに立っている。


歩くたびに、周囲の兵士や市民の視線を感じる。

警戒と驚き、そして微かな恐れ――それでも、僕たちは堂々と石畳を踏みしめ、城門の奥へ進む。


(卑劣な手口には屈しない。仲間を巻き込むことも許さない)


胸の奥で覚悟を確認する。怒りと信頼、そして守るべきもの――すべてが力になって、足を前へ前へと進める。

王城まであと少し。

僕たちは、真っ直ぐに、王都の中心へと歩みを進めた。



 side:カイリス

 リアン一行の動向を探らせながら、僕は玉座の間で報告を待っていた。

そこへ、また一人、伝令が駆け込んでくる。


「お、お知らせいたします! 公国軍に動きあり! 魔導国の歩兵隊と接触したとのこと!」


「……なに?」


思わず息を呑んだ。胸の奥にざわめきが広がる。まさか、進軍……?いや、王国の砦は堅牢だ。そうそう破れるものではない。では、どこから……?


思考が走る。

リアン達は恐らく禁踏地の森から侵入してきた。王国を脱出したときもそうだったのだろう。だがあそこにはヌシがいたはずだ。その存在ゆえに、王国は長らく立ち入りを禁じてきた。

なのになぜ、あの森が騒がしかった? わざわざ報告が来るほどに……。


あの時は、魔獣同士の縄張り争いか何かだと思っていた。先ほどは、勇者一行が通過したからだと解釈した。

だが……本当にただ通るだけで、わざわざ報告する必要があるくらいの騒がしさになるか?


もしも――あの時の音が、ヌシが戦っていた音だったとしたら。

もしも――すでにヌシが倒され、森が安全に通れるようになっていたとしたら。


勇者どもが生きている時点で、その可能性は高い。

つまりあの森は……ただの無防備な抜け穴になっているということだ。


「……っ!」


背筋に冷たいものが走り、思わず立ち上がっていた。

僕は慌てて近くの兵に怒鳴る。


「今すぐ兵士長に伝えろ! 兵を編成し、禁踏地の森に隣接する領地と森そのものに兵を配置しろ! やつら……森から進軍するつもりかもしれない!」


伝令は慌てて駆け出していく。

だが胸の中でざらつく焦燥感は拭えなかった。


勇者どもは王城に迫っている。

その一方で、公国と魔導国は連合軍を組み、進軍の構えを見せ始めた。


二つの脅威を同時に捌かねばならない――そんな状況に、僕は苛立ちを抑えきれず、思わず頭を掻いた。


「くそっ……!」


すべては誇り高き王国のために。だが、その誇りを守る重圧は、確実に僕の肩を軋ませていた。


 

 side:リアン

  重厚な扉が閉じた瞬間、外界のざわめきは断ち切られた。

 僕たちは王城の奥、静まり返った回廊を進んでいく。

 石造りの廊下に反響するのは、僕らの足音だけ。

 この沈黙そのものが、罠に足を踏み入れていることを告げていた。


「……ねえ」

 小声でアネッサが口を開いた。猫耳がわずかに震えている。

「クラリスの両親……探さなくていいの? あの貼り紙……捕まってるんだよね?助けに来たんじゃないの?」


 その問いにアイゼンが口を開く。落ち着いた声だった。


「助けられるものなら助けたい。だが……王国貴族の立場である以上、王国から連れ出すことはできん」

「なんで?」アネッサが食い下がる。

「背負うものが多すぎるからだ」

 アイゼンは静かに答え、歩みを止めずに続ける。

「この場から逃げたとしても、彼らが王国に属する貴族である以上、王国が追ってくる。……結局、再び鎖に繋がれるだけだ。……ならば、カイリスの心構えそのものを砕き、両親の安全を保障させるしかない」


 アネッサは唇を噛んで黙り込む。その横で、クラリスはうつむいたまま歩き続けていた。肩が小さく震えている。


 そんな彼女の隣に、レオがそっと歩調を合わせる。

 ちらりと彼女を見やり、控えめに声をかけた。

「……大丈夫。必ず守る。だから、顔を上げて」

 クラリスははっとして彼を見たが、すぐに俯き、ぎゅっと口を結ぶ。その頬がわずかに赤く染まっているのが、歩きながらでもわかった。


 僕は何も言わず、ただ聖剣の柄に添えた手に力を込める。

 やるべきことは決まっている。


 視線の先、豪奢な装飾に飾られた巨大な扉が見えてきた。

 ――王国の心臓、玉座の間。


 緊張の波が押し寄せ、仲間たちの息遣いすら重く感じられる。

 だが歩みは止まらない。止める理由など、どこにもなかった。


 

 side:カイリス

  苛立ちはまだ胸の奥で燻っていた。

 だが――怒りに任せては失策を呼ぶ。僕は深く息を吐き、冷静さを取り戻す。


「神創騎士団、魔法隊に出撃準備を」

 低く、だが揺るぎない声で命じる。

「配置はやつらが潜む旧領へ続く街道だ。必ずやあの地で迎え撃ち、連合軍の牙を折る」


 伝令が慌てて駆け出そうとした瞬間、僕はさらに言葉を投げた。

「伝えろ――『絶対に勝て。王国の威をもって叩き潰せ』とな」


「はっ!」

 重々しい返答と共に、伝令は玉座の間を飛び出していく。


 ……連合軍を叩き潰す。

 それができれば、王国の威信は揺るぎなく保たれる。

 あの日受けた屈辱も、塵一つ残さず返してやれる。


 そのとき――

 分厚い扉の向こうに、重い気配を感じた。

 鼓動のように、こちらへ近づいてくる。


 僕は片眉をわずかに上げ、口元に冷ややかな笑みを浮かべた。

「……来たか」


 その一言は、広大な玉座の間に低く響き、まるで嵐の前触れのように空気を震わせた。

読んでくださってありがとうございます。朝昼晩で三話。これ以上は無理かな。

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