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第二十六話 王国騎士団VS魔導国歩兵隊

新キャラ登場。王国騎士団長、ロムレスです。

第二十六話


俺の名はロムレス。王国騎士団の団長を務めている。

とはいえ、王城の中で命令を下すより、現場で兵と共に剣を振るっている時間の方が長い。兵たちからすれば「団長」としてより「兄貴分」として見られているだろう。上の連中からは、勝手に動く厄介者と映っているかもしれんがな。


だが、俺にとって最優先は兵の命だ。民の命だ。

理屈をこねて誰かの犠牲で成り立つ戦略など、まっぴらごめんだ。


――王国は今、戦火の渦に呑まれようとしている。

魔導国との対立は決定的になり、公国までもがその板挟みに立たされている。

城では貴族たちが声を張り上げ、「王国の威信」だの「異種族を駆逐せよ」だのと息巻いているが……俺からすれば、そんなものは兵と民に血を流させるだけの戯言にしか聞こえん。


俺は正直、魔導国のことをよく知らん。奴らが放つ魔法は強大で、戦場に立てば兵士一個中隊など瞬く間に消し飛ぶ……などと上の連中は言っているが、そのくらいならうちの魔法隊でもできる。現場を知らずに喚くだけでいいんだから気楽なもんだな。たしかに魔導国は得体の知れない国だ。そりゃそうだ、最近まで沈黙していた国だ。本当のところなんて誰も知らないんだもんな。だが、だからといって「亜人を皆殺しにせねばならん」と叫ぶ連中の言葉は簡単には頷けない。俺にとって敵は、目の前で剣を振るってくる者だ。それが人間であろうと亜人であろうと、変わりはしない。


「王国を守る」――それが俺の全てだ。

それ以上でも、それ以下でもない。


 王国の戦況は、決して楽観視できるものではない。

大陸で最大の領土と兵力を誇るとはいえ、国土の広さは同時に守るべき戦線の長さを意味する。補給の線は伸びきり、辺境の砦では兵糧不足を訴える報告が絶えない。


兵の士気も決して高いとは言えん。

戦場に赴く者の目は、栄誉よりも恐怖に濁っている。

無理もない。順当にいけば王国が負けるはずはないからな。誰も勝ち戦で命を失いたくなんてない。


それでも城の中に集う貴族たちは、涼しい顔でこう言う。

「この戦いに勝てば、王国の威信は永遠のものとなる」と。

「人間の正義を示す時だ」と。


正義だと? 

民の生活を顧みず、兵を使い潰すことが正義か。

俺には到底そうは思えん。


……だが、だからといって退くわけにもいかない。

王国が崩れれば、守るべき民が無秩序の渦に呑まれるだけだ。

俺は剣を執る。己の命と引き換えにでも、兵を、民を守り抜く。


それが――この俺、ロムレスという男の、生き方なのだから。


 

 戦場は――常に理想からかけ離れている。


補給の遅れから兵糧を削り合い、疲弊した兵が眠る間もなく槍を握る。

俺は何度も本陣に具申した。

「兵糧を優先しなければ戦にならん」と。

だが返ってくるのは、耳障りの良い叱責ばかりだった。


それでも俺は現場の判断で、余った兵糧を融通し、病に倒れた兵を後方に下げた。

規律を乱したと咎められようと、死体を積み上げるよりはましだ。

……その甲斐あってか、兵たちの目にまだ光は残っている。

「団長が俺たちを見てくれている」と、口にこそせずとも、背中で感じ取れる。


だが王都に戻れば、空気はまるで別物だ。

大理石の廊に響くのは、武勲や領地拡大の話ばかり。

血の匂いも泥の重みも知らぬ舌が、軽々しく「勝利」を口にする。


今日もまた、王城の広間に呼び出された。

煌びやかな燭台の下、鎧の音が重く響く。

玉座の前に並ぶのは重臣や将軍たち――誰もが、この戦を避けられぬものと悟っている。


「いよいよ出撃の刻が迫った」

誰かがそう口にした瞬間、広間の空気がわずかに震えた。

昂揚とも、恐怖ともつかぬざわめきが人々の胸を叩く。


開戦は、もはや目前。

その機運が、確かに王都を覆い始めていた。

広間の空気は、重く、しかし熱を帯びていた。

玉座の近くに立つ王族は、華麗な装束に身を包み、戦の行く末よりも自らの威光を誇示するかのように背筋を伸ばしている。


「諸君!王国の威信をかけて、魔導国に女神の鉄槌を下す時だ!」

若き王子――カイリス殿下が声を張り上げる。

その言葉に従う者もいれば、心の奥でため息をつく者もいるだろう。

だが俺は、目の前の兵たちの命を最優先に考える。威信など紙切れに等しい。


「各部隊の兵糧と前線の布陣は整ったか?」

俺は声をかける。現場主義者として、形式より結果を重んじる立場だ。

報告を受けた参謀の顔には、わずかに焦りが滲む。


「全て順調とは言えません、団長。辺境の補給線に遅れが出ており……」

俺は軽く眉をひそめるが、焦ることはない。知っていたことだ。


「ならば現場の判断で調整せよ。判断は各部隊長に一任するが、責任は俺がとる。兵が飢え、疲弊して戦えぬなどもってのほかだ」

その声には、命令というより忠告に近い響きがあった。

現場の士気を上げるのは、豪語する王族や机上の計算ではなく、仲間と共に汗を流す者の言葉だと、俺は知っている。


重臣たちが戦略の細部を議論する中、俺は自分の胸の中に確かな感覚を抱いた。

開戦は近い――高くはなかった士気も、戦える程度には警戒と覚悟で満たされている。

敵は魔導国、だが我らの命もまた、王国を守るための盾となる。


そして俺は、玉座の王族たちの言葉よりも、兵たちの背中に目を向ける。

「行け……戦場で、仲間たちを守れ」

そう心の中で告げ、次に動くべき指示を見定めるのだった。


 王城を出る頃には、朝の陽光が石造りの城壁を照らしていた。

騎士団の面々は、剣を、槍を、鎧を整え、出撃に備えて息を整える。俺もまた、肩に掛けたマントを正し、騎乗の準備を完了した。


「よし、全員、諸準備を終えろ」

声をかけると、兵たちは整列し、士気を高めるための号令を合わせる。

この瞬間の沈黙と緊張は、戦の直前にしか味わえぬ重さだ。


騎馬隊は公国北の山脈の麓に向けて進軍する。

広大な平地が視界に広がると、俺は腰を伸ばして兵を見渡す。

「ここで陣を敷く。各隊、布陣完了まで待機せよ」


しかし、視線を空に向けた瞬間、赤い朝陽に反射する小さな影が目に入った。

――鳥人だ。しかも、かなりの速度。おそらく魔導国の偵察部隊か。

その俊敏な翼が風を切り、上空から我らの布陣を見渡している。


「……やつら、全てお見通しだ」

呟きながら、俺は兵士たちに声を張る。


「お前ら、見ろ! 敵は空から我らの動きを把握している! 遅れるな、急げ! 布陣を完了し、準備を整えよ!」


騎士たちの目が鋭く光り、馬の蹄が地面を打つ。

声に応えるように、歩兵も槍を握り直し、弓兵も矢を番えた。

陣は一気に活気を帯び、戦場に立つ覚悟が全身に流れ込む。


俺は深く息を吸い込み、視界の果てに広がる平地を見据えた。

ここから、王国の兵たちは魔導国との激突へと進む。

覚悟はできている――命を懸けて仲間を、民を、王国を守るために。

 

 それから数日、この平地を拠点とし目の前の山脈をどう進むか、攻めて来られた場合どう守るか、シミュレーションと訓練を繰り返していた。伝令のあの速度からして、おそらく今日明日中には魔導国側の兵と激突するだろう。そうでない場合はここを拠点とし、進軍する。平地に布陣した我らの前に、北の山脈が不穏な影を落としている。

風がわずかにざわめき、空気が張り詰める。兵士たちの呼吸も自然と荒くなる。


「敵軍、見えました!」

見張りの声が自軍に広がる。

目を凝らすと、山影から魔導国の兵が降りてきているのが見えた。鎧を揺らし、槍や剣を手に進むその姿は、まぎれもなく戦場に赴く戦士のものだ。


だが、その背後に、異様な存在が視界に入る。

木々の陰に隠れていたはずの巨体。いや、木と同じか、それ以上の高さの人間のような影が、地面を踏みしめるたびに大地を震わせている。


――その肩に乗る亜人も、ただ者ではない。


瞳が合った瞬間、兵士たちの肩に張り詰めた緊張が、俺の胸にも波のように押し寄せた。

誰もが息をのむ。足もとに血の気が引くのを感じる。


「……来やがったな」

俺は噛み締めるように呟き、馬の手綱を握り直す。

これまでの全ての訓練、準備、覚悟――すべてが今、試される。


風に乗って敵の気配が迫る。

地響きが、兵たちの心をさらに揺さぶる。

胸の鼓動が早まる。

戦は、もはや避けられぬ。


――いよいよ、激突の時が来た。


 

 side:グレン

アタシたちは山脈を下り、麓の平地に足を踏み入れた。

眼下に広がる光景――既に王国の騎士団が陣を敷き、槍や旗が朝日に反射して輝いている。


あの視線、あの構え……恐れてはいるが、覚悟を決めた表情だ。戦士の目として申し分ない。

そして奥、鎧の上にマントを羽織った者……あいつはただ者じゃない。おそらく騎士団の団長か、それに準ずる立場の者だろう。あの気迫……なかなか楽しめそうだ。


テラリスに目をやる。アタシを乗せた巨人の七曜魔は、足元の兵士たちを一瞥し、ふっと微笑む。

「なかなかよい目をしておる。戦士の目じゃ」


そしてテラリスの声が響き渡る。

「わしは七曜魔、剛土のテラリス!王国の騎士団よ!正々堂々と戦うことをここに誓おう!」


その勇壮な声に応じ、アタシも笑顔で倣う。

「アタシは猛火のグレン!同じく七曜魔!アタシを楽しませてくれよ!」


足元では魔導国の兵たちが鬨の声を上げ、地面が震える。

槍を握る手、盾を掲げる腕、顔に浮かぶ決意――戦意は最高潮だ。


胸が熱くなる。さぁ、いよいよ激突だ。

この戦場で、アタシたち七曜魔の力を見せつける時が来たのだ。



side:ロムレス

 視界に入った瞬間、俺は思わず息を呑んだ。


巨人だと……?

あの存在は、もはや人間の範疇を超えている。すでに滅んだはずではなかったか。


そして、巨人の肩に乗る亜人――あの角、あの体つき……まさか……鬼?

希少種で、比類なき強さを誇ると言われる存在。

「くそっ、どっちもバケモノじゃねえか……」


だが、ここで恐れを顔に出すわけにはいかない。

兵たちの士気は、俺の心の奥底に映った恐怖ひとつで揺らぐ。

――俺はその恐怖をぐっと飲み込み、心の奥に押し込めた。


目の前には魔導国の兵が整列し、槍や剣を構える。

巨人と鬼……いや、あれも含めて、この敵をどう料理するか、頭を巡らせる。

戦略の長考は許されない。目の前で戦いが始まろうとしているのだ。


「進軍!」

俺は声を張り上げ、馬を前に押し出す。

槍を握る手に力を込め、盾を肩に密着させる。

兵たちは一斉に声を上げ、号令に応える。


轟く蹄の音、風を切る槍先、震える大地――戦いの火蓋は、今、切って落とされた。



 side:グレン

 平地に足を踏み入れた瞬間から、戦場は騒然としていた。

王国の騎士団と魔導国の兵が槍や剣を交わす。拮抗した戦いだ――だが、それもアタシたち次第だ。


テラリスの肩に乗ったまま、アタシは地上の兵士たちを見下ろす。

「ふぅん、なかなかよく頑張ってるじゃねえか」

地を揺るがすような巨体が前に立つだけで、王国の兵士たちは思わずたじろぐ。


テラリスは悠然とした微笑を浮かべ、斧を振るいながら進む。

「我が斧の一撃、受けてみよ!」


その衝撃は目の前の兵士たちを吹き飛ばし、進路を開く。

アタシも跳躍しながら拳を叩きつけ、盾や槍を構える敵の隊列をかき乱す。

轟く地響き、飛び散る砂塵――戦場全体に圧迫感を植え付ける。


それでも、地上の兵士たちは必死に戦う。剣を交わす音、槍の突き刺さる音が耳をつんざく。

拮抗しているのは間違いない――だが、アタシたちの存在があれば、全体の流れは魔導国の有利に傾く。

兵たちは一歩ずつ前進し、王国騎士団は徐々に押し返されていく。


アタシは笑みを浮かべた。

「さあ、もっと楽しませてくれよ、王国の騎士たち!」


戦場はまだ始まったばかりだ。だが、この圧倒的な存在感――七曜魔の力がある限り、この戦は魔導国の有利で進むに違いない。



 side:ロムレス

 巨人と鬼――二つの化け物が現れた瞬間、兵の顔には明確な動揺が走った。

無理もない。俺とて背筋が凍る思いだ。だが、この恐れを表に出せば軍は瓦解する。

俺は唇を噛み、冷徹な将としての顔を作った。


「聞け!」

声を張り上げ、数万の兵に響かせる。


「奴らは確かに脅威だ! だが見ろ――敵の兵は一万にも満たぬ! 我らは五万だ! 数の力は揺るがぬ盾、打ち砕く剣だ!」


巨人が一歩動くたびに大地は震える。だがその巨体は、同時に目立ちすぎる的でもある。

俺はすぐに指示を飛ばす。


「魔法隊、巨人の足を狙え! 属性はなんでもいい、膝を砕け! 歩を止めれば恐れるに足らん!」

「剣盾隊は左右に広がれ! 巨人の足元に群がり、刃を浴びせろ!」


そして鬼――奴の身のこなしと力は兵士をまとめて薙ぎ払う。

だが、だからこそ狙いを限定させねばならん。


「重装騎士、前に出ろ! 盾を構え、鬼の拳を受け止めよ! 他の兵は下がれ、背を守りつつ弓と魔法で奴の脇を突け!」


次々と伝令が走る。兵は秩序を取り戻し、声を上げて前進する。

巨人の轟音、鬼の猛撃――だが俺たちも数と陣形で応じる。


俺は槍を構え、前線を睨んだ。

「化け物二人がどうした。数で押し潰す。これが戦だ!」


 

 side:グレン

 ちっ……! さすがに数が数だ、やりやがる。

テラリスの足元に風やら火やらの魔法が雨みたいに降り注ぎ、地響きと爆炎が絶え間なく広がってる。

兵どももよく見てやがる、あの巨体を的にして狙いやすいときたもんだ。


「テラリス!」

思わず叫ぶ。けどアイツは眉一つ動かさず、堂々と立ってる。大地の塊みたいなもんだから、そう簡単に倒れはしねェ。だが……あの集中砲火は見過ごせねェな。


アタシ自身も前に出て兵を薙ぎ払う。だが――目の前に並ぶのは分厚い盾、重装騎士の壁だ。

ガンッと拳を叩き込んでも、何重にも重ねられた鉄と覚悟がアタシの拳を受け止めやがる。

後ろから槍と矢が飛んできて、鬱陶しいことこの上ねぇ。


「クソッ、邪魔だなァ!」

俺は大地を蹴って、盾ごと数人を吹き飛ばす。それでもすぐ別の列が埋める。

兵士どもは恐怖に震えながらも、団長とやらの声に鼓舞されて動きを止めねェ。


……いいねェ。やっぱりただの烏合の衆じゃねェ。

アタシを楽しませてくれる戦場だ。


背後でテラリスの声が響く。

「よき戦士たちだ……! 王国の名は伊達ではない!」


あの巨体に容赦なく魔法を浴びせる敵。重装騎士で俺を止めようとする敵。

アタシの血も、拳も、熱を帯びていく。


「上等だ! もっと暴れさせろよ、王国の騎士団ッ!」


 テラリスが大斧を振り下ろした瞬間、大地が悲鳴を上げた。

ドゴォン、と地面が裂け、盾列を組んでいた重装騎士どもがまとめて吹き飛ぶ。鉄と肉が宙を舞い、兵の悲鳴が轟く。


「ハッハァ! やるじゃねェか、テラリス!」


アタシはその隙に背から金棒を抜き放った。ずっしりと腕に伝わる馴染んだ重み。

巨体の足元に群がる雑兵どもを狙って――横薙ぎに一閃。


ゴシャァッ!

骨が砕け、肉が潰れ、数人が血煙と共に宙を舞った。


「お前らァ!ちょっと鍛え方が足りねェんじゃねェか!」

振り回すたびに兵が吹き飛ぶ。盾を構えようが、槍を突き出そうが、まとめて粉砕してやる。


テラリスは上から重装騎士を潰し、アタシは下で雑兵を薙ぎ払う。

互いに狙いを入れ替えたことで、戦場は一気に魔導国側の道が拓けていく。


背後から鬨の声が響いた。

「七曜魔様が道を拓いたぞ! 続けぇぇぇっ!」


魔導国の兵が雪崩れ込み、崩れた王国軍の陣形へ突き進む。

鉄と炎と絶叫の奔流――戦場が、アタシたちの手で真っ赤に塗り替わっていく。


「もっと喰らえ! まだまだだろ、王国ゥッ!」


アタシの叫びと共に、金棒がまた血煙を撒き散らした。



 side:ロムレス

 巨人の斧が振り下ろされるたびに、大地が裂け、兵の列が崩れていく。

そして鬼が金棒を振るうたび、兵士たちがまとめて吹き飛ばされる。


――このままでは持たねぇ。


歯噛みしつつも、俺は冷静に戦況を見渡した。

鬼に対しては重装騎士が想定通り効果を発揮していた。奴の一撃を受けても踏みとどまり、壁となって兵を守っている。

だが巨人は違う。重装も、騎士団も、まとめて叩き潰される。奴を野放しにすれば進軍路は開かれ続ける。


「……巨人を潰せば流れは変わる」


俺は決断した。


「魔法隊! 前へ!」

温存していた魔法隊の部隊長クラスが姿を現す。恐怖に顔を青ざめさせながらも、彼らの瞳は覚悟に燃えていた。


「全員で巨人を狙え!連携魔法だ!俺の合図で放て!」


兵を守るために温存してきた切り札だ。ここで使わずしていつ使う。


「詠唱開始ッ!」


声が戦場に響き、魔法隊が次々と呪文を紡ぐ。

空気が震え、周囲の魔力が一点に収束していく。地、水、火、風――属性の異なる力が織り交ざり、やがてひとつの奔流へと変わろうとしていた。


巨人の足元に血の海が広がり、兵の悲鳴が響く。だが、俺は目を逸らさない。

あの巨体を倒さなければ、王国の未来はここで潰える。


「――撃てッ!」


俺の号令と同時に、大規模魔法が放たれた。

轟音と閃光が戦場を飲み込み、巨人の影がその中に沈んでいく。



 side:グレン

「……ちっ!」


テラリスの足元に妙な気配を感じて、アタシはすぐに悟った。

兵の列の奥、魔法隊だ。しかもただの数人じゃない――連携して一斉に詠唱してやがる!


「テラリス! 避けろ!」


叫んだ瞬間、空が裂けた。

炎と風が混じり合い、岩と水が奔流となって降り注ぐ。

地響きと共に視界が真白に染まり、戦場全体が震え上がった。


「……ぐっ……!」


巨体が揺らぐ。あのテラリスが、だ。

巨斧を支えに膝をつき、煙に包まれたその姿を見て、兵も敵も息を呑んだ。


「なかなか……やりおる……!」


テラリスの口元が吊り上がる。怒りと、ほんの少しの愉悦が混じった笑み。

だがアタシの胸の奥では煮えたぎるような苛立ちが燃えていた。


「クソッタレ……テラリスを傷つけやがって……!」


テラリスは確かに無事だ。だが、全身を焦げつかせ、血を流している。

テラリスを倒せば勝てる――王国の狙いは明らかだった。


「させるかよ……!」


アタシは金棒を握り直し、真っ直ぐに魔法隊を睨み据える。

兵を薙ぎ倒し、道を切り拓く。狙うはただ一つ――あの魔法隊だ。


「覚悟はできてんだろうなァ!!!」


咆哮を上げ、アタシは前へと飛び込んだ。


読んでくださってありがとうございます。

新キャラが登場しましたね。

この章はけっこうな数の新キャラが出てきます。

お楽しみいただければ幸いです。

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