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第二十四話 開戦、そして出陣

ちょっとキリが悪かったので短いです。

第二十四話


ヴァレリアが、ゆるやかに片手を上げる。

その仕草ひとつで、ノワールが一歩前へ進み出た。


「畏まりました」

燕尾服の裾を整え、彼女は落ち着いた声で語り始める。


「まず、王国方面について。現在、我が国は国境付近に偵察部隊を飛ばしております。鳥人の中でも速度に優れる《ハヤブサ》の一族。その者たちに加え、身体強化魔法を使える術者を同行させておりますので、王国に動きがあればすぐに把握できるでしょう」


僕たちの間にわずかな緊張が走る。王国が動く、その兆しを見逃すことはできない。


ノワールは表情を変えぬまま、次の報告へと移った。

「また、公国には既に使者を送っております。内容は――地理的に避けられぬ以上、戦の影響が及ぶのは必定。しかしながら、良き隣国である公国に余計な負担を強いることは望んでおりません。ゆえに、公国北側の山脈を越える進軍路を確保すべく、その通行許可を願い出ました。現在は返答待ちの状況でございます」


淡々とした口調に潜む意味は重い。

公国が首を縦に振れば、大陸の均衡は大きく揺らぐ。


ノワールは最後に、僕たちへと向き直った。

「七曜魔の御方々は、この場にて命ある限り待機されます。リアン様方には、当面は魔導国周辺の警備をお任せいたします。王国軍と直接刃を交えることはないよう、陛下のご配慮がございますので……ご安心ください」


その「ご安心ください」という言葉が、かえって戦の気配を濃くした気がした。

謁見の間に響くノワールの声は、ひどく静かなのに、確実に胸を締め付けてくる。


 「――以上だ。解散せよ」


ヴァレリアの一声で、重苦しい空気が一変した。

七曜魔たちは一斉に動き出す。


レアは音もなく姿を掻き消し、

グレンは大股で乱暴に扉を押し開けて出ていき、

ネレイアは液体のように床を滑りながら去り、

アルボレアは枝葉がざわめくように消えていく。

ゴルド・レグナは黄金の槍を携えたまま翼をはためかせ、

テラリスは地鳴りのような足音を響かせて歩き去り、

ルミネアは炎の羽を舞い散らせながら、光とともに宙へと昇った。


七曜魔が退室した謁見の間は、途端に広すぎるほどの静寂に包まれる。

僕たちもその場を辞そうと背を向けた――そのとき。


「リアンよ」


低く澄んだ声が、背に刺さった。ヴァレリアだ。

僕は足を止め、振り返る。


「ノワールより、旅の詳細は聞き及んでいる」

魔王の赤い瞳が、静かにこちらを射抜いていた。

「……余の右腕を救ったこと、改めて感謝する。命を繋いでくれたこと、その恩を忘れはしない」


隣に立つノワールもまた、僕らへ深々と頭を下げた。普段は涼しい顔を崩さぬ彼女が、これほどまでに礼を尽くす姿に胸を打たれる。


「仲間として当然のことをしただけです」

僕はそう答えるほかなかった。心からの本音だった。


ヴァレリアが頷くのを見届け、僕たちは揃って一礼し、謁見の間を後にした。



客室へ戻ると、ようやく肩の力を抜くことができた。

アネッサがベッドに倒れ込み、尻尾をぱたぱたと揺らす。

「はぁ~……あの場の空気、息が詰まりそうだったよ」


レオが窓際に立ち、外を見やりながら呟く。

「開戦はまだのはずなのに、あの緊張感……もう、いつ始まってもおかしくないね」


アイゼンは腕を組み、静かに頷く。

「そうだな。剣も槍も、心も磨いておかないとな」


クラリスは両手を胸にあて、ほんの少しだけ顔を伏せていた。

「……王国と、戦うのね」


その言葉に、部屋の空気が一瞬止まる。

けれど、それを誰も否定しなかった。


戦は迫っている。

もう逃げられないのだと、僕は改めて思い知らされた。



 

 それは、夕刻だった。

客室に薄い影が伸び始めたころ、城中に急を知らせる鐘の音が鳴り響いた。


「……!」

僕たちは顔を見合わせ、一斉に部屋を飛び出した。


廊下を駆け抜け、辿り着いたのは謁見の間。

そこには既に七曜魔の何人かが集まり、ヴァレリアの前で膝をついている伝令の姿があった。鳥人の若者だ。羽根は乱れ、鎧には土と血の跡がついている。


「ご報告申し上げます!」

荒い息を吐きながら、伝令は声を張り上げた。

「王国軍、国境にて大規模な動きを確認! 旗印は王国正規軍、その規模は……およそ五万! すでに進軍を開始しております!」


謁見の間に、緊張が走った。

クラリスの顔がわずかに青ざめ、アネッサが尾を逆立てる。レオは唇を噛み、アイゼンは槍の柄を強く握りしめた。


「……来やがったな」

低く呟いたのはグレンだった。炎のような気迫を纏い、腕を組む彼女の口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。


ヴァレリアは立ち上がらない。ただ玉座に腰を下ろしたまま、静かに瞳を細める。その眼差しに宿る赤い光が、戦の始まりを告げる鐘のように見えた。


「ついにだな」

僕は小さく息を呑む。

この瞬間を避けられないことは、わかっていた。けれど、実際に迫った現実の重さは、想像以上に圧し掛かってくる。


戦が始まる――。


 謁見の間に、重たい空気が流れていた。

戻ってきた伝令の報告を聞き終えた魔王は、ゆっくりと立ち上がる。その視線が僕らを含めた全員をなぞるように走った。


「王国騎士団…いよいよ動き出したか……よい。皆にも伝えよ。数で劣る我らに長期戦の余裕はない。短期決戦で、一気に片をつける」


その声を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。――短期決戦。つまり、すべてを一気に賭けるということだ。


「最初に戦場へ出るのはお前たちだ。いつでも出られるよう備えておけ」


魔王の眼差しがテラリスとグレンに向けられる。二人は深く頭を下げ、命令を受け止めていた。

そして、冷ややかな視線が僕らへと移る。


「……お前たちは正門の警備につけ。兵を導き、敵を一歩たりとも通すな」


一瞬、心臓が強く打つ音が耳に響いた。

正門――つまり、王国軍の最初の矛先を受け止める場所だ。

緊張と覚悟が、同時に押し寄せてくる。


 


 僕らは魔導国の正門前に立っていた。

門の外はまだ静まり返っているのに、空気はひりつくように重い。兵士たちの顔には緊張が張り付き、誰もが息を殺して次の瞬間を待っていた。


「……本当に始まるのね」

クラリスが胸元を押さえるように呟く。

「ここにいても心臓が痛くなるくらいだ」

アイゼンが険しい目で門を睨む。

「……僕も、少し怖いかも」

レオは杖を握りしめながら声を震わせた。

「怖くて当然だよ。戦争なんて、楽しいものじゃないもん」

アネッサが軽く肩をすくめたが、その尻尾は緊張で揺れていた。


そのときだった。地を震わすような重い足音が近づいてきた。

振り返ると、七曜魔である巨人、剛土のテラリスが悠然と歩いてくる。その肩に腰かけるのは、武装を整えたグレン。まるで二人だけで軍勢に匹敵するかのような迫力に、僕は思わず息を呑んだ。


 グレンは緊張している僕達を認めると、テラリスの肩の上から声をかける。

「なんだァお前ら?ずいぶん辛気臭い顔してんなァ!」


 その声にテラリスも同意する。

「ふむ……まぁ当然じゃの。わしですら戦争など初めてじゃ。一介の兵士であるこやつらが緊張するのも無理はない」


 テラリスの声は雷鳴のように重く響く。しかしどこか不思議な頼もしさがある。

 グレンはテラリスの肩の上から僕達を気遣って気さくに声をかける。

 

「まァ安心しろ!こんなとこまで敵なんか来させねェよ!」

グレンが見下ろしながら言い放ち、豪快に笑う。

「あたしたちだけで、この戦争を終わらせてきてやるよ」


その言葉に、背筋が粟立つ。頼もしさと同時に、あまりに人間離れした自信に――畏怖を覚えた。


「当然じゃ」

「そなたらはただ、ゆるりと待つがよい」


その瞬間、周囲の兵士たちが一斉に声を上げた。

「どうかご武運を!」

「七曜魔様、必ずご勝利を!」

「我らに勝利をお示しくださいませ!」


彼らは声を震わせながらも、敬意と期待を込めて叫んでいた。

その声援を背に、テラリスとグレンはゆっくりと前へ進んでいく。巨人の背中と、その肩で風を切るように笑う鬼の姿。頼もしさと存在感、そして恐ろしいまでの力を感じさせる光景だった。


僕らはただ、その背を目に焼き付けながら――祈るような気持ちで見送っていた。

読んでくださってありがとうございます。

第四章は群像劇を目指して執筆してみました。

なので、各エピソードの長さが今まで以上にバラバラになるかと思われます。申し訳ありませんが、お付き合い頂けると幸いです。

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