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第百一話 団結の力

第百一話


僕は聖剣を握り直し、前に出る。


仲間たちはすぐに意図を理解してくれた。

ヘルゴートに致命傷を与えるためではなく――僕が動きやすいように隙を作り続ける。


アネッサが飛び込み、拳の軌道を大きく見せてヘルゴートの注意をそらし、

レオが風で強制的に位置をずらし、

アイゼンが角度を変えて突きを入れ、防御を割らせ、

カリーナは鋭い射撃で瘴気の防御を砕き、

セラフィリアの大火力で気を逸らし、

クラリスが僕の身体能力を最大限引き出す補助魔法を重ねる。


すべてが、僕を中心に回り始めた。


(みんな……ありがとう)


ヘルゴートは苛立ちを露わにした。


「……ああもう、鬱陶しい!!」


攻撃が荒れ始め、動きが単調になる。

伸びてきた瘴気の刃を、僕は横跳びでかわし、足元を一瞬だけ見る。

氷がまだ薄く残っている。


(いける――!)


振り上げられた腕の下に潜り込み、僕は聖剣を振り抜いた。

炎を纏わせた、灼熱の斬撃。

ヘルゴートの体が大きくのけぞり、胸元まで割れ上がる。


それでも、奴は――笑った。


「2……」


再生する。

瘴気が肉を縫い合わせ、骨をつなげる。

そして、またしても余裕の笑みを浮かべた。


「意味ないって、わからないの? 次はもっと強いやつを喚べばわかる?」


だが僕は、その顔を見て確信した。


さっきの手応え。


(やっぱり……間違いない)


聖剣を構え直しながら、僕は静かに言った。


「次で決める。もう一度だけ……サポートしてほしい」


仲間たちは――迷いなく頷いた。

その視線は、全員が“勝ち筋が見えた”と信じる目になっていた。


 全員が再び“僕のためだけに”動き始めた。

攻撃を受け止め、斬撃をそらし、射線を開け、魔力の支援を送り込む。

魔法部隊も僕と仲間たちの意図を理解し、後方から補助魔法と妨害魔法を重ねてくれる。


そのすべてが――僕を、ヘルゴートへと導く「道」になっていく。


ヘルゴートは余裕の笑みを浮かべたままだ。


「意味ないって、まだわからないのかなぁ?」


瘴気の触手を振り回し、迫ってくる。

けれど仲間たちがそれを弾き、僕の進路は一度も途切れない。


僕は息を吸い、聖剣を構えた。

下から、上へ――光を纏わせながら。


「――はあっ!」


輝く奔流が駆け上がるように走り、

ヘルゴートの身体を胸元から頭上へと切り裂いた。


「3…」


余裕の笑みを浮かべながら攻撃の余波でヘルゴートは仰向けに倒れ込む。

いつものように瘴気が肉を修復しようとする――しかし。


「い、痛っ……痛い! 痛い痛い痛い!!!」


悲鳴が裂けるように響く。


肉体が再生しない。

瘴気が薄く弾かれ、繋がるはずの肉が、繋がらない。


切断面から血がドクドクと溢れ出し、地面を赤く染めていく。


ヘルゴートは初めて“死”を理解したかのように、のたうち回った。


「なんで……なんで!? なおれっ……なおれよ……!!」


僕はその様子を落ち着いて見下ろし、静かに言った。


「苦しめる趣味はないけど…… 君は命を冒涜しすぎた。

 だから――命の重さを、失う苦しみを……自分の体で知るといい」


ヘルゴートは怯え、涙を垂らしながら手を伸ばす。


「や……やだ……し、死にたく……ない……! たすけ……!」


その懇願は滑稽で、哀れで、虚しかった。

瘴気の怪物が、初めて“命乞い”という行為をしていた。


だが、僕は動じない。


仰向けのまま震える胸元に、聖剣を構え直し――

そのまま確実に心臓へ突き立てた。


ヘルゴートの身体がびくんと跳ね上がる。

息を吸おうとして吸えず、目が大きく見開かれ――涙がぽろぽろと零れ落ちる。


「……し……にたく……ない……し……に……」


震えは徐々に弱まり、声も途切れ、

やがて――完全に動かなくなった。


ただ、静寂だけがそこにあった。


しかし次の瞬間、その肉体から濃い瘴気が溢れ出す。僕たちはまた復活かと身構える――が。


「……復活、じゃ、ない……」


瘴気は形を成すことなく、空気中へ霧のように散っていき、完全に消えた。


そして瘴気が晴れたその場所には、ただ一人、白銀の髪の少女――リザが倒れていた。


ツノは消え、その肉体はヘルゴートではなく“リザ”に戻っている。

リザはゆっくりと身を起こし、こちらを見てにやりと笑う。


「よく気づいたね。ヘルゴートの肉体は瘴気で出来てるって」


僕は聖剣を構えながら答えた。


「最初に斬った時の“感触”で気づいた。カイリスやエリスと戦った時の時の……あの、瘴気を浄化する感じと同じだったんだ。だから、ヘルゴート自体は瘴気で形を取ってるから物理じゃ倒せないんだと思って」


リザはぱちぱちと手を叩いた。


「すごいね。……正直、ヘルゴートがこんな簡単に倒されるなんて思わなかったよ」


そう言いながら、じり……と後ずさる。


だが。


「――そこから一歩も動かないほうがいいよ」


レオが風魔法を展開したまま警告する。魔力の刃がいつでも飛ぶ態勢だった。


「まずはあのヘカトリスとか言う竜を止めるんだ」


少し離れた空中では、未だにヘカトリスとキリューが激しい空戦を繰り広げている。

竜の咆哮が空を震わせるほどだ。


リザは肩をすくめ、ため息をついた。


「君たちこそ立場わかってる? ここ、敵地のど真ん中なんだけど」


そして、不敵に口角を上げた。


「助けだって、すぐに来るよ?」


その瞬間――空気が震えた。


まるで隕石が落ちたような衝撃とともに、僕たちのすぐ前に大柄な男が降り立った。


リザを庇うように前へ出て、無言のまま睨みつけてくる。

圧倒的な威圧感。煌びやかな剣。

全身から溢れる魔力の圧。

そして頭には――王の証たる黒い王冠。


リザが微笑む。


「来てくれてありがと、アビス」


僕達は息を呑んだ。


悪魔族の王――アビス。

僕達が討つべき存在が、唐突に僕達の目の前へ現れたのだった。


 アビスは僕たちを一瞥し、その眼光だけで肌が粟立つほどの圧を放ちながら、まずリザへと問いかけた。


「ヘルゴートは?」


リザは肩をすくめ、軽い調子で答える。


「んー、正直あんまり役に立たなかったね。敵の数は多少減らしたけど、想定より全然少ないよ」


アビスは短く息を漏らす。


「……まあ、戦場とはそういうもんだ。何もかもが思い通りにいく戦など存在しない」


そう言ったあと、その視線が僕たちへと向けられた。


――圧が、重い。


呼吸が浅くなり、膝が震える。

これが“王”か。

理屈ではなく、本能が理解させられる。


アビスは低く、静かに告げる。


「悪いが、退かせてもらうぞ」


「逃さない……!」

レオが言い、両腕を広げて魔力を解放する。


風が唸り、渦が生まれ、竜巻そのものとなってアビスへ襲いかかった。

あの巨大ゴーレムをも揺るがした暴風だ。


しかし――


「無駄だ」


アビスはただ、片手を軽く横に払っただけだった。


次の瞬間、レオの竜巻は霧散し、風は弾け飛んで消えた。


「……っ!?」

レオが愕然と目を見開く。


アビスは振り返らないまま告げる。


「今ここでお前たちを殺すのは容易い。

 だが――俺にはまだ、やるべきことがある」


その言葉を最後に、アビスはリザの腕を掴み、立ち昇る瘴気の幕へと踏み込み――

影が揺れるように、その姿ごと掻き消えた。


残された僕たちは、しばし呆然と虚空を見つめていたが――


少し離れた場所では地響きが続いていた。


音のした方へ一斉に目を向けると、そこには――


木の竜キリューが、ヘカトリスの体を踏みつけて押さえ、その首を一本ずつ咥えてばりぼりと貪っていた。


横にはアルボレアが、いつもの柔らかな笑みを浮かべて立っている。


「ふぅ……そちらも片付いたようね」


竜同士の凄惨な戦いの跡を前に、アルボレアだけはいつも通り穏やかな雰囲気をまとっていた。


戦いは――ようやく終わったのだ。


読んでくださってありがとうございます。

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