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時計の針が19時を回りTVではニュース番組が始まっていた。
今日のトップニュースを終えて次のニュースに差し掛かるタイミングで玄関の鍵が開く音が聞こえてきた。
梶原家は公営団地で母と息子の2人暮らしだ。
「おかえり、家までどうやって帰ってきた?」純子が淳平に声を掛けた。
「ああ、新安城で普通に乗り換えてそこから愛環に乗って帰ってきた。」純平はぶっきらぼうにそう返した。
「何か食べてきた?2人分必要なら今からお弁当買いに行くし私だけだったら買い物ついでにご飯食べてこようかなって。」純子は純平のご機嫌お構いなしに自分が聞きたい事聞いた。お互い相手の機嫌なんて関係なく聞きたい事だけを聞いてそれ以外の会話は一切ない。それは純平が中学生の頃から変わらなかった。
純平は中学生の頃にイジメを受けていた。これ自体はよくある話だった。ただ純子は純平からイジメに関しての相談を受けた際「イジメをされる方にも原因がある。」と返したしまったのだ。これが2人の関係が悪化する最初の原因だった。
それ以降純平は純子に対して会話をする事がめっきり減っていった。
そして純子もそんな純平の様子を都合が良いと思っていた。
その後純平が高校を卒業して最初に就職した工場を3ヶ月で辞めた際も何一つ文句を言わなかった。
「俺はご飯いらないからどこか食べに行けば。」純平は手を洗いながら純子に冷たく返すと自室に入っていった。
TVからのしばらく暑い日が続くので熱中症対策を訴える気象予報士の声とエアコンの稼働音だけが聞こえる中で純子はエアコンの設定温度以上に涼しく感じられた。
そしてTVとエアコンの電源を切ると外出用のカバンを手に取り部屋の灯りを消すと蒸し暑い夜の街へと繰り出していったのだった。