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「大変言い難いのですがご子息様の余命は残り半年と言ったところです。」
初老の医師は俯きながら目の前の親子にそう切り出した。
目の前の親子は特別動揺する事もなくその事実を淡々と受け入れている様にみえた。
親子、母である梶原純子は髪を一つにまとめておりメイクも薄めだが年齢よりかは若くみえる。
一方の息子の純平は小柄で顔も母親によく似ている整った顔立ちではあるが覇気の無さそうな印象だった。
そこから医師は純平の容体に関して事細かに説明をしていた。
要約をすると純平は元々生まれつき身体が弱かったそして今回甲状腺がんを発症してしまいその癌が全身に転移しておりもう手の施しようがないとの事だった。
ただ純平はそんな医師の説明を聞き流していた。
彼は虚弱体質な上に発達障害でもあり高校卒業後フリーターとして25歳まで生きていた。そして半年前3歳上の従兄弟に子供が産まれて純平の劣等感は限界突破していたその頃から体調は悪化の一途を辿っていた。
そして先月病院を受診して今回に至ったという訳だ。
一方の母親の純子も息子を女手一つで育ててはきたがそこには愛はなくただ義務感で子育てをしているに過ぎなかった。その為高校卒業後フリーターを続けていた事を咎めた事も無ければ今回の病院からの呼び出しにも行く気が無かったが今回医師からどうしてもと言われたので来たに過ぎなかった。
そんな調子なので医師が丁寧に今の状況を説明しても聞く耳など持ち合わせていなかったのだ。
2人にとって長く退屈な医師の説法が終わり2人は病院を出た。
純子が「私はもう帰るけど純平は名古屋でもう少し時間潰す?」そう冷たく純平に問い掛けた。
純平は「ああ」と短く返して2人はそれぞれの方へと歩みを進めた。
純平はふと財布を取り出すと財布には1万円札が2枚入っていた。(暇だし風俗にでも行ってみるか…)純平はそんな事をぼんやり考えながら駅の方へと向かっていった。