おかしも
いつもの様になんてことない一日になるはずだった。
朝、他愛無い会話をしながら登校し、日中、授業を聞き流し、放課後、楽しく彼女と帰宅する。
そんないつものサイクルを繰り返すつもりだったあの日。
将来使うとも思えない数学の授業を聞き流しながら、ぼうっと窓の外を眺める。
広い広い一面の青が澄み渡り、暖かな日差しが眠気を誘う。
そんな普段通りの空に、銃声が響き渡った。
瞬間、窓ガラスの割れ音。女子たちの悲鳴。
一瞬のことだった。
くだらない日常は1人のイかれた人間が持ち込んだ狂気で滅茶苦茶にされてしまった。
慌てて先生が教壇から声を張り上げる。
「みんな!落ち着いて机の下に隠れて!」
騒々しい教室の中ではそんな声は届くことなく、誰も彼もが各々の命を守る事に必死になっていた。
そんな喧々轟々な中でふと、防災訓練の時のことを思い出した。
走馬灯にしてはなんとも冴えない回想の中で、彼女と楽しく話していた事を思い出した。
なんて事ない他愛無い会話だったが、ただなんとなく頭の中を通り過ぎた。
教師たちが集まって話したのか、避難指示を出し始めたが、逃げるという選択肢を提示された途端、成長途中の子供達は我先にと飛び出した。
自分の身も考えなければいけない中で、やはり彼女の事を目で探した。
見かけた彼女の側には、仲の良かったはずの女の子が床にへたり込みながら、手を伸ばしていた。
いつも仲の良かったグループの彼女たちは
「置いてこう!」
「構ってる暇ない。」
「仕方がないの…」
「もうイヤ!」
そんな事を口走りながら、振り返る事なく走り去っていった。
しょうもない同情心だったのだろう。
「つかまって!」
そう言って、城から姫を連れ去る様に抱えて走り出した。
しかし、当然のようにそんな事をして周りから遅れた俺たちには、逃げる選択肢より隠れる選択肢の方が身近だった。
結果として…しょうもない同情心は奇跡に繋がった。
全国的に起きたテロの生存者は幾らかいたが、うちの学校では2人だけだった。