第13話 検査の結果
蒼月姉妹が帝都に来てしばらく。彼女たちは久瀬の経営する医院で身体的な検査を受けている。
双子の身体的な差を計測するこれは、長幸も僕も定期的に受けているものだ。身長や座学などの目に見えやすいものから、血液などの生化学検査まで徹底的に比較される。
僕らの父、久瀬雪代の指示のもと、長幸も検査に混じって蒼月姉妹の様々な数値を計測している。
その長幸が、あらかたの検査結果が出た今日、僕の部屋へと押しかけてきた。
「やっぱり片方、視力が悪い。お前の婚約者のほうだな。眼鏡を作ったほうがいいかもしれない」
僕は読んでいた本をぱたりと閉じる。書き物机の隅に本を寄せて、部屋の入り口に立つ長幸を手招いた。
「父上や教授はなんて?」
「父上は条件をそろえるために眼鏡をさせるべきだと言っている」
長幸は僕の部屋へと入ると、部屋の隅にある座布団を目敏く見つけた。それを引っ掴んで、僕のそばに腰を下ろす。
「教授も同意してるんだが、どうやら奥方が納得していないらしい。同じ育ちで、なぜ片方だけ目が悪いのかと電報で揉めていたぞ」
僕は頬杖をつく。
教授だけが今、帝都に残って父と検査記録を見ている状況。すべての検査の結果を待たずして、蒼月姉妹は阿多へと帰っていった。
もうすぐ蒼月神社で祭祀があるらしい。大切なお勤めのようで精進潔斎に入るのだとか。蒼月教授が姉妹を帝都に引き止めようとしていたけれど、お付きの人たちに追い払われていた。婿養子って聞いていたけど、だいぶ立場が弱いみたいだ。
「電報で痴話喧嘩なんて蒼月教授も面白いことをするね」
「どこが。いい迷惑だ」
長幸が悪態をつく。
まぁ、夫婦喧嘩がどうなろうと僕には関係ないけどさ。
「眼鏡は用意しておくよ」
「おい、また勝手なことを……」
「僕のやることだ。目が悪いままなんて可哀そうじゃないか。僕の婚約者にはちゃんと、僕の顔を見て覚えてもらいたいからね」
「きざったらしいことを僕に向かって言うな」
鳥肌が立ったとでも言いたげに、長幸は自分の腕を擦った。さすがにその態度はひどくないかい?
「べつに、長幸に向かって言ったつもりはないんだけど」
僕はぼやいて立ち上がる。外は少し暑いだろうけど、部屋の隅にある衣桁から薄手のコートを掴んで袖を通した。
長幸が怪訝そうに見上げてくる。
「おい、どこに行く」
「ちょっと大学の図書館に調べ物」
ひらひらと手を振って部屋を出て行こうとしたら、長幸も立ち上がって僕の後ろを着いてきた。
「わざわざ休みの日にか? そういうのは平日のうちにやっておけば良いのに」
廊下を歩きながらもっともらしく言う長幸に、僕はやれやれと肩をすくめてみせる。
「休みだからこそだよ。時間がいっぱいあるんだから」
「それなら僕も出かけよう」
暇なの? 検査結果が出たなら、しばらく父上に付きっきりになると思っていたのに。
まぁ、あの父の側にずっといたら息が詰まりそうだしね。ちょうどいい息抜きになるならいいんたけどさ。
「ちょっと待っていろ。支度してくる」
はいはい。
待っているとも、兄弟。