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「やったね、メイくん! ほら、やっぱり堅実にレベルを上げることが、勝利への一番の近道なんだよ」
コンニャク妖怪のぷるぷるした胴体を、とどめの一太刀で真っ二つにした侍に向かって、僕はえっへんと胸を張った。ぶっちゃけ回復のアシストも必要なかったほどの完全勝利だから、僕は本当になにもしていないんだけど。
「日々の地道な努力が確実に結果に結びつくって本当にすばらしいですね、メイくん!」
「あー、まあ。否定はしませんけど、積極的な肯定もしませんよ。順当に勝てる相手に順当に勝って楽しい? レベル二十になったらレベル二十の依頼を達成できるのは当たり前じゃない?」
「もー、素直に喜べばいいのに」
コンニャク妖怪に負けてから四日後。さらに言えば、麗春祭の初日を楽しんで月蝕の泉で鬼面を見かけた日から三日後。僕とメイくんは、見事コンニャク妖怪を倒すことができた。
すぐリベンジしようとしたメイくんを引き止めて経験を積むことを推奨し、晴れてレベル二十になってから再挑戦したうえでの勝利だ。僕の提案の結果なので僕自身はもちろんうれしかったけど、どうやらメイくんはそうでもないらしい。コンニャク妖怪の戦利品をチェックしながら、ぶつぶつ文句を言っている。
「やっぱり、勝てるかどうかわからない相手に挑むから楽しいと思うんだよ。……ドロップアイテムも微妙だったな。次は、もっと強い物怪と戦おう。推奨レベル三十くらいのやつ」
「ほぼ負けるじゃん」
「ほぼ、でしょ。絶対、じゃない」
この自信は一体どこからくるんだろう。メイくんのこういうところは困ることも多いけど、純粋に尊敬もしてしまう。僕とは全然違う考え方をするから、一緒にいて楽しい。まあ、大変なことも本当に多いんだけどさ。
そんなこんなで依頼の達成報告のために、僕たちは草原のフィールドから火ノ都へ帰還した。北側はまだイベントでにぎわっているみたいだけど、今回の目的地は南側にあるので橋は渡らずにスルーする。
燦燦新聞社は、正面入り口が交差点の中央を向くという印象的なつくりの西洋建築だ。ギリシャ神殿にありそうな柱が、大きくせり出した二階のベランダを支えるように何本も立ち並んでいる。チュートリアルのときからずっとお世話になっているので、小心者の僕でもアーチ型の木造ドアを開く手が震えることはない。
「きょうも元気だ、おてんとサンサン! ようこそ、燦燦新聞社へ――あ! シュレットガルドさん、ハルキさん! お二人とも、お疲れ様です!」
広いロビーに入って真っ先に目に入るのは、中央にある大きな円形のカウンター。その中から、淡い色のスーツが似合うボブカットの女性が元気に手を振ってくれる。
この名前のないお姉さんはNPCなので、基本的には与えられた仕事とセリフをくり返すだけだ。でも新聞社で請け負った依頼の達成回数に応じて仲良くなれるシステムがあるらしく、僕とメイくんも顔と名前を覚えてもらうことができた。
「わあ、すごい! コンニャク妖怪を退治できちゃったんですか!? これはスクープになっちゃいますよ、おめでとうございます!」
手元のコンソールで僕たちが報告に来た依頼内容を確認したお姉さんは、オーバーすぎる動きでパチパチと拍手した。いつもこんなふうに全開で褒めてくれるので、うれしい反面ちょっと照れくさい。
ヒノモトの新聞社は、現実世界のように新聞を作って届けたりはしない代わりに、訪れたプレイヤーにさまざまな依頼を提供してくれる。依頼というのは、いわゆるクエストのようなもので、もっとわかりやすく言えば――ズバリ、おつかいだ。レベルや職業などで細かく難易度分けされていて、その人に合った依頼を受けることができる。
やっぱり圧倒的に多いのは物怪退治の依頼だけど、中には街の中だけで完結する簡単な買い物や、ちょっとした推理ゲームなんかもあるから、戦闘が苦手な僕みたいなタイプでも幅広く楽しむことができる。まあ、戦闘が大好きなメイくんと一緒に行動しているので、物怪退治の依頼を受けることがほとんどなんだけど。
「それでは、おまちかねの報酬ターイム! コンニャク妖怪の場合はですね――」
パーティ代表のメイくんが、僕の分もまとめて手続きをしてくれる。その間、手持ち無沙汰になる僕は、いつものようにカウンターから少し離れて新聞社の中をぐるりと見回すことにした。