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6-1

 ヒノモトオンラインをはじめて十日目にして、メイくんの連続ログイン記録がとぎれた。「きょうはヒノモトに行かない」とメイくんに学校で言われたときは「じゃあ僕もやめておこうかな」と思ったはずなのに。結局いつもの時間になったら新聞社の真ん中で突っ立っていたんだから、不思議なこともあるものだ。


 目的は特にない。メイくんがいれば必然的に物怪退治に駆け回ることになるけど、ひとりではとてもそんな気になれなかった。そもそも巫女はサポートに特化している職業なので、ソロでの戦闘は向いていないのだ。


 まるで迷子になってしまったかのような心細さを覚えながらも、僕は自分なりの楽しみ方を考えようと頭をひねる。急にうなり出した僕を心配してくれたのか、カウンターの中にいたお姉さんが、ひょこひょことこっちの様子をうかがっているのが見えた。


「そうだ、またお祭りでも見てみよう」


 麗春祭は、まだまだ続いている。以前もメイくんがログアウトしたあと、ひとりだけで楽しむことができた。会場もここから近いから、ちょうどいい。僕はお姉さんにあいさつをしてから外に出ると、そのまま一直線に橋をめざした。

 プリン妖怪を倒したあとにメイくんと食べたプリンはおいしかったな。今度は抹茶味に挑戦してみるのもいいかも。そんなことを考えていたら楽しくなってきて、歩くペースもだんだん速くなる。


「……にしても、あんなところに堂々といるもんなんだな。鬼面(おにめん)って」


 すれ違った書生の二人組の会話に、思わずぴたりと足が止まった。――鬼面。その言葉で真っ先に浮かんだのは、あの毒の泉で会った鬼面のアバターだ。そういえば、あれから一度も見掛けない。


「普通に買い物とかするんだな。びっくりしたわ」

「そりゃ、NPCじゃないからね。一般のプレイヤーが中にいるんだから、アイテムを買えなかったら不便でしょ。まあ、街にいられる時間は限られるだろうけど」

「それって、あの鬼の面の呪いってやつのせい?」

「あ、あの――!」


 毒の泉で出会った鬼が近くにいる。その事実を認識した瞬間、僕は弾かれたように振り返って二人組の背中に声をかけた。


「すみません! その鬼の面の人って、どこで見たんですか?」

「え? あ、ああ、マルキヨにいたけど……あ、知ってるかな。マルキヨ。マルヤマキヨコっていう薬局店のことなんだけど」

「でもちょっと時間がたってるから、もう移動してるかもしれないよ?」

「わかりました、ありがとうございます!」


 親切な二人組に深々とお辞儀をしてから、僕は駆け出した。橋ではなく、マルキヨがある方向へ。巫女の袴姿では動きにくいので、走りながらバンカラスタイルへチェンジする。現実世界でも、一瞬でパジャマから制服になれたら便利なのに。


「……ぜぇ、はあ。い、いない……」


 だいたい予想はしていたけど、マルキヨに鬼面をつけたアバターはいなかった。息を切らせて入ってきた僕に「麗春祭の特別セールだキヨ! 回復系アイテムがお得なんだキヨ!」とオススメしてきた着ぐるみへ「医者いらずなので!」と断ってから店を出る。

 辺りを見回しても、やっぱり目的の人物の姿はない。「間に合わなかった……」と、がっくり肩を落としたところで、ふと我に返る。


「いや、探してどうするんだ?」


 あのあと冷静になって考えてみたけど、やっぱり鬼面は毒のダメージを利用して死に戻りをしようとしていたんじゃないかと思う。メイくんにも「例えばの話なんだけど」と、事実をぼかして意見を聞いてみたところ、僕の推測と似たような考えが返ってきた。ということは、もし会えたとしても「あのときはよくも邪魔してくれたな!」と怒られる可能性のほうが高いわけで。

 だから、むしろ会わないほうがいいし、なかったことにしたほうがいいんだろう。そう思っても、なにかがどうしても引っかかる。

 だって、楽をするためにわざと死のうとしている人が、あんなさみしそうに(たたず)んでいるだろうか。



 そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか橋の上にいた。このまま進めば北側のイベント会場に出る。ちょうど特コスも着ていることだし、最初の予定どおり、お祭りを楽しむことにしよう。気持ちを切り替えて一歩を踏み出した僕だけど、すぐにある違和感に気づいた。


「なんだろう……」


 お祭りのにぎやかさとは、あきらかに違う種類の音が聞こえる。人の声だ。歓声ではなく、怒号や制止のような声。なにか事件でも起きてるんだろうか。思わず橋の真ん中で足を止めて様子をうかがっていた僕の耳元で、不意にカタンという乾いた音が響く。

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