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第五章 銀の死神 2

 いかにも防御のための城砦らしい武骨な木造の城館から現れ出たのは、ふさふさと豊かな銀髪の巻き毛を黒い長いマントの肩に垂らした宮廷貴族みたいな若い――おそらくは若いのだろう伊達男だった。


 基本的に全身黒装束なのに、その派手な髪のためか全く地味には見えない。

 マントの縁と裾には艶やかな黒い毛皮の縁取りがなされているし、磨きのよい黒皮のブーツには黄金の金具の燦めきがある。顔立ちは端正で華やかだ。黒ではなく白で装わせたら少女の憬れる夢の王子様(プリンツ)みたいなタイプだ。



 全体にボロボロっと薄汚れたハインツ隊七名がぽかんと口をあけて見つめるなか、夢の王子様はカツカツと靴音を立てて大股で近づいてきた。

「ゼントファーレンの《赤翼隊(ローテ・フリューゲル)》の方々か? お怪我はないのだな?」

 見目に相応しい柔らかなテノールで訊ねてくる。

 ハインツが鯱張って答えた。

「は、はい。副隊長のハインツと言います。あなた様は――ええと、かの《(ジルバー)死神(トート)》どので?」

 成人には些か気恥ずかしすぎる二つ名を躊躇いぎみに口にするなり、相手は声を立てて笑った。

「その二つ名を真顔で口にされるのはさすがに極まりが悪いな! ――そこの若い君、独り立ちして名を売り始めるときには、十年後のことをよーく考えるんだぞ?」と、棒立ち状態のエーミールに愛想よく笑いかけてから、改めて一同を見回す。

「お察しの通り、私がシグムンドだ。フォン・ヴェルン男爵閣下およびゼントファーレン市参事会からこの城の守備と管理を委任されている。あなたがたの女隊長殿(シェフィン)は――」


「ああ」と、演技派ハインツが項垂れる。「道中でやられてしまいました。番小屋の傍の路上で地性触手(テラ・テンタケル)に襲われたのです。お預かりしてきた囚人と、御者もやられました」

「大変な災難だったな」と、シグムンドが気の毒そうに言う。「地性触手の出現が本当であれば、違約金のことはご案じ召されるな。古街道上にいまだにそんなものが出現するとなったらこの城の管理責任に関わる。ハインツどの、ご不幸の直後に恐縮だが、明日の朝一番で現場へ案内してくれるか?」

「すぐさまご確認いただければ、我々としても幸いです」と、ハインツが落とした肩を小刻みに震わせながら答える。「われら、逃げるのに必死で、隊長殿のご遺骸さえこの目で見ておりませんから……」



 

「では、《赤翼隊(ロートフォーゲル)》の方々は城館にお泊りになるといい。クルト、彼らの面倒を見るよう奥に伝えてくれ」

「はい隊長殿」

 ハインツ隊七名が城館の内へと導かれていったあとで、シグムンドは単身で内郭を出ると、東門の傍の兵舎へと向かった。


「おいお前ら、三人供をしろ! 《沼地》の傍の番小屋まで駆けるぞ! 装備は第一級、角灯(カンテラ)をもってこい!」

 先ほど客人たちに対峙していたときとは打って変わった雑駁な口調で命じるなり、非番の一分隊が賽子を放り棄てて、

「はい隊長殿!」

 と、飛び上がるように立って返事をする。

 《銀の死神》は無造作に頷くと、豪奢なマントをばさっと脱ぎ、兵卒たちと同じ黒羅紗の短マントを羽織り、銀の巻き毛を革ひもで一本に束ねて厩舎へと向かった。

 

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