自分をないがしろにしていた人達とは縁を切ります。愛してくれる騎士団長様と幸せになります。
フェレイラは頭から水をかけられた。
「私がこの公爵家の女主人なのよ。うろうろしないでよ。目障りなのよ」
水をかけてきたのは、ブライトン公爵の愛人ミレナ。
水をかけられたのは、嫁いできたばかりのフェレイラである。
ブランドン公爵に是非にと望まれて嫁いできたフェレイラ。
公爵は30歳。フェレイラは17歳である。
黒髪に整った顔のブランドン公爵。フェレイラは金の髪の平凡な顔立ちの女性だ。
「私にはミレナと言う愛する女がいる。ミレナをこの公爵家の女主人とし、従うように」
屋敷に来た初日にそう言われた。
ミレナは市井の女。黒髪を長くして、口元に黒子があり妙に色気がある。
ブランドン公爵はお飾りの妻が欲しかったから、派閥のカレナ伯爵家の二女フェレイラを都合の良い妻として望んだのである。
フェレイラは心の底からがっかりした。
愛する夫と可愛い子、恋愛結婚が許されない貴族の娘として生まれたとしても、愛ある家庭をフェレイラは望んでいた。
それなのに……
嫁いでみれば、愛人ミレナはやりたい放題。
フェレイラとは白い結婚なのかといえばそうではなく、嫁いだその夜に、ブランドン公爵はフェレイラの寝室に押し入り、
「せっかく貰った妻だ。愛していなくても抱いてやるのだ。感謝するんだな。子が出来てもミレナの子を跡継ぎにする。お前と俺の子は育てはするが、ミレナの子と差をつけて育てる。当然だろう。カレナ伯爵に告げ口するなよ。まぁお前はカレナ伯爵家でも、虐げられていたのだからな。帰る事も出来まい」
フェレイラは震えながら、夫婦の交わりを受け入れたのであった。
カレナ伯爵家でも、酷い扱いを受けてきたフェレイラ。
何故か、両親はフェレイラを可愛がってはくれなくて。姉のレティーヌばかり可愛がって。
美しい姉と違って、平凡な容姿のフェレイラ。
フェレイラを公爵家に嫁がせる事でいくら金を貰ったんだろう。
全て姉を飾るドレスや宝石に消えていくお金。
毎日、辛い日々に泣き暮らしていたのだけれども。
とある日、変な物を見つけたのだ。
小さな赤い石のついている首飾りが廊下に落ちていた。
誰の持ち物だろう。
赤い石は不自然にキラキラと輝いていて。
でも、このまま自分の物にしたら…‥落としたのはミレナ?
届けないと。
赤い石を見続けていたら、フっと気が遠くなった。
気が付いたら、ベッドに寝かされていた。
メイドが文句を言って来た。
「目覚めましたか?あんなところで寝ていては迷惑なので、運ばせてもらいました」
メイド達もフェレイラの事を馬鹿にしているのだ。
普段、これ見よがしに、冴えない奥様だと悪口を言い、部屋の掃除もろくにしてくれない。面倒も見てくれない。酷いメイド達。
フェレイラはベッドから起き上がる。
何だか心が軽い。そして、怒りが沸いてきた。
メイドに向かって命令する。
「わたくしは、ブランドン公爵様の妻なのです。その態度は何?」
「い、いえ。だって女主人はミレナ様」
「それでもわたくしは貴族であり、公爵様の妻なのよ」
「も、申し訳ございません」
逃げるメイド。何だかとても気持ちがいい。
胸に赤い石の首飾りが光っている。
フェレイラは起き上がって部屋を出た。
ブランドン公爵とミレナがいるであろう寝室の扉をバンと開け放つ。
ベッドで裸でいちゃついていたブランドン公爵とミレナ。
ブランドン公爵は喚き散らした。
「お前なんぞ呼んでいない。それにその入り方はなんだ?私がいつこの寝室への立ち入りを許可した!」
「わたくしは貴方の妻なのです。それなのに今までの態度は何?愛人が女主人とは馬鹿にするんじゃないわよ」
公爵はベッドから素っ裸で転がり落ちて、慌てて外へ這い出て、人を呼んでいるようだ。
震えるミレナの髪を引っ張り、その顔を間近で睨みつけ、
「よくも水を引っかけてくれたわね。わたくしが妻、貴方は愛人。どういう事かしら」
震えながらもミレナは、
「こんな事をしてタダで済むと思っているの?お前なんて、騎士団へ突き出してやるわ」
「上等よ。ここにいても幸せなんてない。カレナ伯爵家に戻っても幸せなんてない。わたくしはどこへだって行くわ」
使用人達が部屋の外へ転がり出た素っ裸の主人の姿に驚きながらも、部屋に入って来てフェレイラを拘束した。
フェレイラは使用人達に部屋から連れ出された。
ブランドン公爵は、フェレイラの顔も見たくないと、フェレイラを騎士団へ突き出した。
病死にして、フェレイラを亡き者にした方が醜聞は避けられるはずである。
ただ、ブランドン公爵は態度は尊大だが、人の始末を頼む度胸がなかった。
騎士団長に金を渡して、屋敷内の騒動を内密にと頼んだ上で、罰として牢へいれるようにフェレイラの事を押し付けたのだ。
ジェルド騎士団長は黒髪に口髭のある、凄腕の騎士団長として王国で人気がある騎士団長だ。フェレイラは有名な彼の事はなんとなく知っていた。
だが、今は怒りが収まらない。
ジェレド騎士団長はため息をついた。
面倒ごとだと思われているのだろう。
「事情を説明して貰おうか」
取り調べ室でフェレイラは話を聞かれたので、怒りのまま答えた。
「あの男と愛人の方が余程、わたくしに酷い事をしたわ。愛人は真冬なのに頭から水をかけるし、ブランドン公爵はわたくしを妻扱いなんてしてくれない。実家のカレナ伯爵家でもわたくしは可愛がられず、姉ばかり両親は可愛がって。わたくしはいないものとして扱われたわ。わたくしが怒って何が悪いの?怒って当然でしょう」
「君は離縁されるだろう。牢へ入れてくれとブランドン公爵から頼まれている」
「あそこの屋敷と比べれば牢の方が何倍もマシよ。さぁ、早く牢へ入れなさいよ。さぁ」
赤い石が光っている。何も怖くない。フェレイラはどこまでも突っ走っていける。そんな気がして。
騎士団長はフェレイラを押さえつけた。
そして、首飾りを取られた。
急にフェレイラは怖くなった。
何でこんなことをしでかしたのだろう。ブランドン公爵とミレナの寝室へ押し入り、暴言を吐くだなんて。
騎士団長にも、とんだ無礼な言葉をっ。
フェレイラは泣いて謝罪した。
「わ、わたくしがどうかしておりました。ごめんなさいっ」
「この首飾りなんだが、怪しいと思ってな」
「ええ。この首飾りをしたら急に気が大きくなって」
「私が預かっていいか」
「お願いします」
頭を下げた。
自分はこれから牢に入るのだろう。
そう震えていると、ジェレド騎士団長は、
「戻るところがないと言うのなら、教会預かりにしてもらおうか」
「よろしくお願いします」
そう、教会は夫から逃げてきた女性や、身寄りのない孤児たちが身を寄せて暮らす場所だ。
そこへフェレイラは身を寄せる事にしたのだけれども。
何故か、翌日、冒険者の集うギルドの受付カウンター前に立っていた。
「わたくし、冒険者になりますわ。登録して下さいませ」
「え?あの……ちょっとっ」
困る受付嬢。
首には昨日、ジェレド騎士団長へ渡した首飾りが光っていて。
慌てたように、ジェレド騎士団長が入って来て、フェレイラの手を引いて、
「ちょっと事情が。失礼した」
フェレイラは冒険者ギルドから外に出ると、ジェレド騎士団長は困ったように、
「確かに預かったはずなんだがな。何故か君の胸元に?」
「今朝、起きたら首にかかっていたのですわ。何だかわたくしなんでもできるような気がして」
今なら、剣を片手に魔物も簡単に屠れそうな気がする。
え?わたくしは剣なんて持った事はないのよ。
誰の?なんの記憶?
首飾りを外そうとした。
外すことが出来ない。
ジェレド騎士団長は心配そうに、
「何かいわくつきの首飾りではないのか?ブランドン公爵家の歴史を調べてみよう。王宮にある図書室の貴族名鑑なら何か解るかもしれない」
「嫌ですわっーー」
騎士団長から逃げ出すフェレイラ。
え?なんで嫌なの?わたくしであってわたくしでない貴方は誰?
フェレイラは怖かった。
だが、首飾りに操られ、自分が自分でなくなるのが本当に怖かった。
でも、怖がってばかりはいられないのだ。
この首飾りのお陰でブランドン公爵から逃げることが出来た。
もうじき離婚出来るだろう。
首飾りとじっくりと向き合う事にした。
ジェレド騎士団長には少し待ってもらうように頼んで、教会に与えられた質素な自分の部屋に戻る。
小さな鏡を覗き込んで、首飾りに語り掛けた。
「貴方は誰?わたくしに何をさせたいの?」
小さな鏡に見知らぬ女性が映し出された。
赤い髪のそれはもう美しい女性の顔が。
彼女は話しかけてきた。
「わたくしは現ブランドン公爵の祖母に当たる女性です。それはもう、あの家で虐めに虐め抜かれて、夫は浮気ばかりを繰り返して。本当につらかった。耐えられなくなって家出して、冒険者になった人生でした。幸い、剣技を極めていて、腕は立ったから。わたくしと同じ、耐えている貴方を見て、わたくしはこれではいけないと思ったの。だから、貴方に乗り移って文句を孫に言って、飛び出したのだわ。迷惑だったわね」
「いえ、迷惑だなんてそんな。貴方様のお陰でわたくしはブランドン公爵から逃げ出せました。離婚になるでしょう。新しい人生を歩む覚悟も出来ました。でも、わたくしに冒険者は無理です。剣も握った事はありません」
「ごめんなさい。突っ走り過ぎたわね。わたくしは消えるわ。ただ覚えておいて欲しいの。耐えるだけが人生ではない。勇気をもって一歩踏み出すことも大切だわ」
「有難うございます。確かにそうですわね」
フェレイラは心に誓った。
言いなりになる人生なんて御免だ。
今度こそ、自分の足でしっかり立ってみせると。
数日後、ブランドン公爵家の執事が離婚届けを持ってきた。
それにサインをして、離婚は成立した。
フェレイラは身を寄せている教会で、孤児たちの面倒を見る事を願い出た。
孤児たちは皆、親を亡くしていて寂しい思いをしている。
フェレイラは孤児たちに勉強を教えてやれば、
「勉強って楽しいね。有難う。フェレイラ姉ちゃん」
「フェレイラお姉ちゃん。抱っこしてっ」
「ズルいぞ。俺だってお姉ちゃんに甘えたいっ」
礼を言う男の子。抱っこをせがむ女の子。ずるいと言って割り込んでくる男の子。
皆、まだ幼くて。そして可愛い。
「はいはい。抱っこしてあげますから。チャールズは男の子でしょ。リーナの次に抱っこね」
抱っこをせがんだチャールズという男の子はふくれっ面をして。
「リーナ、いいなぁ。早く代われよ」
「いやだもんっ」
リーナを抱っこして金の髪を撫でてやる。
とある日、ジェルド騎士団長が尋ねてきた。
「どうしても、君の両親が会いたいと言ってな」
両親はフェレイラを見るなり、
まず父が叱って来た。
「出来損ないのくせに、逃げ出すとは何事だ」
母も、
「そうよ。お陰で金を返せと言われているわ。可愛いレティーヌのドレスや宝石を、売らなくてはならないじゃないっ」
自分をブランドン公爵に売ったお金で姉レティーヌのドレスや宝石を買っていた両親。
今までなら言いなりになっていただろう。
しかし、今ならしっかりと言い返せる。
「わたくしは、もう貴方達とは関係ない所で生きています。ですからお帰り下さい」
父がにこにこしながら、
「今度は、ゼリュウ伯爵の後添えだぞ。お前が嫁げば金を沢山出すと言っている」
母もにこやかに、
「そうよ。だから戻って来て頂戴。ゼリュウ伯爵にはお前が嫁ぐと言ってあるわ」
「また、わたくしを売るのね」
そして叫んだ。
「帰って。二度と来ないで。貴方達の事は両親だと思いません。二度と会いたくありません」
父が怒りまくって、
「護衛騎士。娘を拘束しろ」
ジェルド騎士団長が前に立ちはだかってくれた。
「嫌がっているではありませんか。お帰り下さい」
母が叫ぶ。
「娘はわたくし達の物よ!わたくし達の言う通りにすればいいのよ!」
フェレイラは二人に向かって、
「わたくしにはわたくしの人生があります。お二人の言う通りにして、わたくしはブランドン公爵家に売られました。そしてとても辛い目に遭いました。今、わたくしはとても幸せ。自分の足で立って歩いているのだから。お帰り下さい。二度と関わらないでっ」
喚き散らす両親をジェルド騎士団長が連れ出してくれた。
そして、戻って来て謝ってくれた。
「どうしてもって言うから連れてきた。やはり酷いご両親だな。迷惑かけた。申し訳ない」
「いえ、助けて下さって有難うございます」
誠実な方。ジェルド騎士団長にちょっと好意を覚えた。
ジェルド騎士団長がフェレイラに向かって、
「どうか、私と付き合ってくれないだろうか。私は仕事が忙しくていまだ独身。フェレイラの事を放ってはおけない」
胸がときめく。
「有難うございます。でも、わたくしは離婚歴のある女。それでもよいのですか?」
「ああ、どうかお付き合いを」
「嬉しいですわ」
ジェルド騎士団長は紳士だった。
教会に訪ねて来ては、美味しいお菓子や綺麗な花をフェレイラにプレゼントしてくれた。
とある日、ジェルド騎士団長に聞いたことがある。
「仕事が忙しかったとおっしゃっておりましたが、好きになった女性はいなかったのですか?」
ジェルド騎士団長はうううんと唸って。
「確かに好ましいと思った女性はいた。告白して付き合った事もある。ただ、仕事が忙しくてないがしろにしてしまって。約束をすっぽかしたことが何度もある。そのうち、その令嬢とは縁が切れてしまった。婚約を両親から勧められた事もある。忙しいからとうやむやにしていたらこの年になってしまった。私は最低の男だ。やはり相手の女性にはこまめな気遣いが必要なのだな」
ジェルド騎士団長はフェレイラの手を両手で握り締めて、
「約束は忘れない。いつも頭はフェレイラの事で一杯にしておこう。だから、結婚式はいつにするか相談しよう。私の前からいなくならないでくれ。愛している。フェレイラ」
口づけされた。
誰だって間違いはある。
彼は反省しているのだ。だからジェルド騎士団長を信じてみることにした。
自分をないがしろにし、不幸な結婚を押し付けた両親。
愛人を女主人とし、自分を馬鹿にした元夫。
許さない。大嫌い。
でも、わたくしと関係なければ今はどうでもいいの……
自分を大切にしてくれる素敵なジェルド様に出会えたのだから。
フェレイラは幸せだったのだけれども。
とある日、元夫であるブランドン公爵が訪ねてきた。
「お前の事を許してやる。公爵家へ戻るがいい」
「わたくしと貴方は離婚が成立していますわ」
「毎夜毎夜、おばあ様が夢に出てくるんだ。お前の仕打ちはなんだ。あんなあばずれ女を公爵家に招き入れて、最低な孫だ。どうしてくれると。私は寝不足で寝不足で」
まぁ、首飾りの女性、未だ、祟っているのね。
フェレイラはにこやかに微笑んで、
「わたくしは戻る気はありません。ミレナさんはどうしたのです?」
「おばあ様の怒りを収める為に、追い出した。最近、散財が酷かったんだ。全く、あんな女のどこが良かったんだか。だから戻って来てくれ。おばあ様もお前が戻ってくれば怒りがおさまるだろう」
「嫌です」
「へ?」
「部屋に怒鳴り込まれた事をお忘れですか?」
「あれはおばあ様がやらせたと、夢で言っていたぞ」
「いえ、あれはわたくしの意志です。心から貴方様の事が大嫌いだったから」
「大嫌いだと?身体を交えた仲ではないのか?」
「嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌でたまりませんでしたわ」
「そこまで嫌を連発するなんて。私は上手かったはずだぞ」
「わたくしには苦痛でした。大嫌いな貴方と身体を交えて辛かったですわ。ですから、もう関わらないで下さいませ。それにわたくし、もうすぐ結婚するんですの」
ジェルド騎士団長が赤い薔薇の花束を持って、にこやかに入って来て。
「これはブランドン公爵様。フェレイラとはもうじき結婚するのです。祝って下さるでしょうね」
「お前が結婚相手???」
「ええ、知り合ったら惚れこんでしまいまして」
背後から愛し気に抱きしめてくるジェルド騎士団長。
嬉しかった。この人となら自分の理想とする家庭を築けるかもしれない。
孤児たちがブランドン公爵を囲って口々に、
「出ていけーー。お姉ちゃんを虐める奴は出ていけーー」
「来るなーーっ。もう来るなっーー」
追い立てて行く。
ブランドン公爵は叫ぶ。
「無礼だぞ。私はブランドン公爵。無礼者っーーー」
そこへ、近衛騎士が数人やってきて。
「ブランドン公爵、国王陛下がお呼びだ。横領の件で是非、聞きたいことがあると」
「へ?横領?何故ばれた?」
ジェルド騎士団長が、
「しっかりと調べさせてもらった。税収が少ないと報告しておきながら、横領していたな。証拠は挙がっている。そうだ。私の知り合いに辺境騎士団長をしている男がいてな。ブランドン公爵は歳がイっているが、顔はまぁまぁだから喜ばれるだろう。国王陛下に是非、辺境騎士団入りを申請しておこう」
ぶるぶると震えだすブランドン公爵。
地面に手を着き、頭を下げて。
「これは土下座という遠い国から伝わる、最大級の謝罪を示す形だ。あそこだけはやめてくれ。あそこ以外なら耐えるから」
「決めるのは国王陛下だ。私ではない」
フェレイラはこの男がどうなろうと関係なかった。
ただ、ただ、傍に愛しいジェルド騎士団長がいればいい。
皆に祝福されてフェレイラはジェルド騎士団長と結婚式を挙げた。
孤児たちも大喜びで、祝ってくれた。
ジェルド騎士団長とフェレイラは、結婚しても教会へ多大な寄付をし、孤児達の面倒を見続けた。
二人の子が出来て、その子達も、兄弟のように、教会の子達を慕って仲良くした。
ブランドン公爵家は爵位を返上した。
ミレナが贅沢をしてこしらえた借金の返済の為、逃げていたミレナは借金取りに捕まって強制的に娼館へ売られた。
娼館でしばらくは売れっ子として豪勢な生活をしていたが、客同士がいさかいを起こし、それに巻き込まれてあっけなく事故死した。
ブランドン公爵は辺境騎士団行きより、炭鉱行を選び強制労働に従事した。
落盤事故にあって数年後命を落とした。
フェレイラを虐めていた使用人達は紹介状も無しに行き場を失い路頭に迷った。
実家のカレナ伯爵家は姉のレティーヌが、王太子に懸想し、婚約者の公爵令嬢を怒らせたが為に潰された。
平民になった両親と姉が、一度、ジェルドと暮らす屋敷に押し掛けてきたが追い返して以来、彼らが生きているかどうかは知らない。
フェレイラは感謝をする。
愛しい旦那様と、可愛い子供達と、教会の孤児たちと幸せな毎日。
その毎日への一歩を踏み出したのは赤い石の首飾りの女性のお陰だ。
彼女はどうしているだろうか。
ブランドン公爵家はつぶれてしまった。
窓を開けて夜空を見上げた。
星がキラキラと光って、流れていくのが見えた。
流れる星に向かって感謝の祈りを捧げた。
有難うございます。赤い石の方、わたくしは今、幸せです。