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(3) 支配人部屋にて

3 支配人部屋にて


 劇場が入居するビルの三階に支配人部屋はある。支配人用のデスクと支配人用のチェア。そして、会議テーブルと会議用のチェアが四脚、豪華な置物や絵画もない殺風景な部屋だ。

 北潟は会議用のチェアに腰かけた。

「いったい、何があったんですか?」

 北潟がいら立つように声をあげる。何が起こったのかはおおむね把握していたが、自分よりも多くの情報を持つ支配人イチローの口からの説明を求めた。

「ああ、簡単に話すと、一ヶ月前に山田が襲われた件、お前も知っているようにあの件は、オフレコ。非公開だった。警察からの発表もグループ名には触れずに、二十三歳の自営業の女性が自宅前で暴行された、とだけ発表された」

 支配人イチローの話を遮るように北潟が口を開く。

「ええ、それは真央ちゃんの希望で、そうなったんですよね」

「ああ、でも、昨日、山田は自分のショータイムで、事件に触れた配信をした。それに気づいたショータイムの運営が途中で配信を切った。すると山田はツイッターに事件の内容を書き込んだ」

「さっきタクシーの中で、ショータイムとツイッターの件は理解しました」

 落ち込んだ雰囲気を送出しながら、北潟が力ない言葉を吐き出す。

「山田のツイッターは確認したか?」

 支配人イチローがいら立ちを抑えるように言葉を吐き出す。

「いえ、まだ」

「確認してみろ」

 北潟はバックの中からスマートフォンを取り出して、ツイッターマークのアプリを開いた。山田とはお互いにフォローしあっている。北潟は自分がフォローしているアカウントから山田のアイコンと名前を探した。

「あれっ?」と、北潟が声をあげる。「なに、これ!」と、北潟が続けて声をあげる。「どうして?」と、言ったあとに北潟が声を失う。

「お前はブロックされてるみたいだ。ほら、これを見ろ」

 支配人イチローはA4サイズ二枚分の紙を北潟の座る会議テーブルの上に投げた。内容は山田が配信したツイートだ。北潟は二枚の用紙に目を通した。そこには、山田が男二人に襲われたことと、今回の事件にメンバーが関与していることが、書かれていた。

「これって」

 北潟が何かを話そうとするのを支配人イチローはさえぎるように、「次はこれだ」と言いながら同じようにA4サイズの用紙を北潟の前へ投げた。

「これは?」と、言いながら北潟は用紙を拾い上げた。

「ネット民の犯人捜しだ」

 支配人イチローは腕組みをしながら、天井を見上げた。

北潟は用紙に目を落とした。

「やだっ、なにこれ!」

 北潟の悲鳴にも似た声が、支配人部屋に響く。左利きの北潟の利き手に握られた用紙に書かれていたのは、

“山田を襲わせたのは北潟と多尾”

“多尾の借りている部屋から北潟の彼氏登場、山田をボコりそこねて終了”

“北潟の彼氏は犯人のひとり。ボーリング大会では運営にたのみこんで同じ組に”

“マリアちゃんの穴は厄介みんなの穴”

といった罵詈雑言。

「なんなんですかこれは、私がなにをしたっていうんですか!」

「俺に言われても困る」

 北潟のヒステリックな質問に、支配人イチローは間髪入れずに答えた。

「あやたんは、多尾綾香は、何か言ってるんですか?」

「多尾とは一時間前に話した。多尾もおどろいていた」

「あやたんは、ネットの中でなんて言われているんですか?」

 北潟が前のめりに支配人イチローの顔をにらみつける。支配人イチローは、苦虫をつぶしたような表情で北潟の視線に答える。

「見たいか?」

 支配人イチローはデスクの引き出しから用紙を二枚取り出して、北潟の胸元へ突き付けた。北潟は「あっ、はい」と言って用紙を利き手と逆の手で受け取った。

“あやたんは犯人と同棲しています”

“あやたん、男を雇って山田とのハメ撮り写真撮影で小遣い稼ぎ”

“あやたんの部屋から犯人でてきたって、やばくね?”

“黒メンバー決定!北潟とあやたんのツートップ”

「他は、他のメンバーはなんて言われているんですか?」

 北潟は空いている隣の椅子に用紙を投げて、支配人イチローにつかみかかる勢いで尋ねる。

「いまのところネットの中で名前のあがっているのは、北潟と多尾の二人だ」

 支配人イチローはチェアから立ち上がった。「そんな」と、北潟がなげく。

「わたし、あの事件に関しては何もしていませんよ。支配人だって警察だって知っていますよね。あやたんだって、何もしていないって警察だって認めてたじゃないですか」

 北潟の声がいつもよりも五デシベル大きくなる。

「ああ、そうだ。でも今までのことがあるから、ネットの中の奴らは騒いでいる!」

「いままでのこと?」

 北潟は支配人イチローの言葉を復唱して、狭い支配人部屋で遠くを見つめた。


つづく


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