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2-4、自分達で解決出来るなら、こちらを巻き込まないで欲しいのですが



白矢凪(しろやなぎ)さんはいきなり異世界召喚されたんでしょ。大変だったんじゃない?」

「そうだよ! すっごい大変だったんだから!」



 白矢凪さんは、グラスをテーブルにゴンと音を立てて置いた。



「いきなり知らない所に連れて来られてさぁ! 知らない人ばかりでさぁ! 私だって頑張ったもん! そこでイケメン達にチヤホヤしてもらっちゃったら、そりゃ勘違いしちゃうでしょ!?」

「まー、そりゃそうだよねぇ……」



 勿論、調子に乗りすぎた白矢凪さんも悪い。

 

 けれど、未成年の少女の周りをイケメンで取り囲んで、蝶よ花よと持て囃して、欲しい物を何でも与えられてしまったら、天狗になってしまうのも無理は無いと思う。

 

 相手は、高校を卒業したばかりの子供の域を脱していない少女なのだ。

 昨今では成人と呼ばれる年齢だとはいえ、それだけでそれに相応しい振る舞いが出来るかと言われれば、話は別だろう。

 元よりそういう環境で生まれ育ち、その為の教育を与えられている異世界の王侯貴族の子供と一緒にしてはいけない。



「礼儀とか知らないし! 駄目だったら教えてよ!!」

「うんうん、そうだよね。白矢凪さん、普通の女の子だもんねぇ……」

「しかも魅了の力があるとか知らなかったもん! てっきり私の魅力かと思ってたよ! モテ期じゃん、ケイコクの美女じゃん、ダッキじゃんって思ってたし!」

「妲己は悪女だから、ちょっと喩えとしては駄目かもなぁ……」


 

 結果的には、そう間違ってはなかったかもしれないけども。


 そう、仮にも国の為に召喚された聖女を処刑するまでに至ったのは、その魅了の力の所為だ。

 

 王太子を始めとした多くの人々を誑かし、知らずとはいえ、意のままに操った。

 たとえ白矢凪さんにそんなつもりがなかろうとも、国を転覆させかねない危険人物だと思われてもおかしくはない。


 というか頭が痛い話ではあるのだが、その魅了の力を授けたのは当のアルバータ神なのだ。

 

 供述によれば「知らない人ばっかりだろうし、皆に好かれれば聖女としての活動もやりやすくなるし、あわよくば結婚してこちらの世界に残るとか言ってくれるかもしれないと思った」という事だが、余計な揉め事の種を増やしてどうするんだと声を大にして言いたい。



「ていうか、ミルちーが聖女になっちゃうってどういう事なの!? あっちの世界の人だって、聖女になれるんじゃん! 私要らなかったじゃん! 何の為に召喚されたの!? ありえない!!」



 そして、白矢凪さんが断罪を受けたきっかけは彼女の言う通り、マーチェス王太子の婚約者だった公爵令嬢ミルちーこと、ミルリアが聖女として覚醒した事だった。

 

 所謂、婚約破棄ものの定番だ。


 マーチェスに「聖女と結婚する」と婚約破棄されたミルリアは、あらぬ冤罪をかけられて牢の中で処刑の時を待っていた。

 それを哀れに思った神が、彼女に聖女の力を授けた。

 ミルリアは聖女の力で人々の魅了を解き、人々の心を操る悪の魔女として白矢凪さんを断罪、処刑に至ったという訳である。



 ……改めて言いたい。

 アルバータ神は、本当に何で異世界召喚をしたんだよ!!


 最初からミルリアに聖女の力を授けていたならば、それで話は済んでいたじゃないか。どうして、その場のテンションで異世界召喚になんか手を出してしまうんだ。

 自分達の世界で解決可能ならこちらを巻き込まないでくれ、頼むから。

 

 心からそう叫びたい今日この頃である。

 


「しかも私別にマーたんにミルちーを虐めろとか言ってないし! 牢屋に入れるなんて聞いてなかったし! 何でそれが私のせいになる訳!? おかしくない!?」



 ゴンゴンとグラスをテーブルに打ち付けながら、不遇を声高に叫ぶ白矢凪さん。


 ……うーん、多分女に簡単に誑かされた愚かな王太子っていう醜聞を少しでも和らげる為に、全ての罪を白矢凪さんに被せようとしたんだろうなぁとは思うんだけど。


 けれど、こればかりは「そうだよねぇ」と同意してあげる事は出来なかった。




「……でも、君は止められた筈だよね?」




 そう指摘すれば、白矢凪さんは息を呑んだ。




「君は、ミルリアが何もやってない事を知っていた筈だ。ミルリアは礼儀のなってない君に苦言を呈しただけで、危害なんて加えてない。魅了されていたマーチェス王太子は君の言う事ならば、素直に聞き入れた筈だ。君がちゃんと訴えていたら、少なくとも彼女が牢屋に入れられる事は無かっただろう」




 もし、それが真っ当な手順を踏んだ婚約解消だったなら。

 もし、ミルリアに冤罪をかけなかったら。

 もし、冤罪をかけられたミルリアを助ける事が出来ていたならば。


 白矢凪さんも『悪の魔女』とまでは呼ばれなかったかもしれないし、処刑ではなくもっと穏便な罰で済んだかもしれない。


 しかし、白矢凪さんは敢えてそうしなかった。

 誰よりもミルリアの無実を知っていたのに、彼女が処される事を黙認した。



 ──それは、何故か。




「その方が都合が良かったんだろう? だって、そうすれば──マーチェスが君のものになるんだから」





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