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ケース3裏 side 勇者タツヤ2 勇者達の献身は届かない



「……どうにかして、この世界に残らせようとしているって事か?」



 リョウタの言葉に、ミオはこくりと頷く。



 そう言われてみれば、それぞれ思い当たる事があった。


 リョウタはとある王国の騎士団に熱心に勧誘を受けていたし、アヤハも違う国の魔法研究所に声を掛けられているらしい。

 かく言う俺も、最初に召喚された国の王女様が妙に距離が近いというか、特に用も無いのに度々呼び付けてくるのを思い出した。

 

 どれもに共通しているのが、その団体の中でも地位が高く、尚且つ見目の良い人間が率先して勧誘して来るという事。

 この世界に残って欲しいと強く訴えて来る事。

 そして、こちらに好意を抱いているようなアピールをほんのりしてくるという事だった。



「え、何これ。偶然、なのかな」

「……どうだろ。一人二人までならまだしも、四人全員が同じ状況ってちょっと怪しくない?」

「うーん。こうなると、勧誘先の国がバラバラなのが逆に気になってくるな」

「……裏で何か話し合ってるかもしれないって事か?」



 ポツリと零した言葉に、全員が黙り込む。


 全ては、可能性の話だ。

 何も気付いていない頃だったら、ただの考えすぎで済ませてしまったかもしれない。

 けれどミオの懸念を聞いた後だと、どうにも何らかの思惑があるように感じてならなかった。



 勇者パーティーである俺達が持つ世界を救う為の力はどれも貴重かつ強力で、どの国も喉から手が出る程に欲しがるものだというのは理解出来る。


 ……理解は出来るが、まるで戦利品を山分けしているかのような扱いに、何となくモヤモヤとしたものが心の中に渦巻いた。




「……念の為に確認しておくけど」




 リーダーとして一応確認しておかねばならないと、そう前置きをする。




「この中で、この世界に残りたいと考えている奴はいるか?」




 そう尋ねると、三人はそれぞれ目配せをし合ってから答えた。




「私はさっき言った通り。結婚なんてまだ考えられないし……帰って、小さい頃から夢だった看護師になりたいの」




 そう答えたのは、ミオだ。




「あたしも。実はね、ついこないだ弟が生まれたばっかなんだ。すっごいちっちゃくて、すっごい可愛くて。……ケイちゃん、大きくなったかな。…………会いたいなぁ」




 それに同意したのは、アヤハ。




「オレもちゃんと戻って部活を……サッカーを続けたい。折角レギュラーになれたんだ。本当は今直ぐにでも帰りたい!」




 更に続いたリョウタに、俺は頷いた。




「俺もだ。元の世界に残してきた大切なものが沢山ある。それを全て捨ててまで、ここに残りたいとは思えない。……それに」

「それに?」

「ずっとモヤモヤしてるんだ」




 勝手に連れて来られて、あれだけ辛い思いをして、痛い思いをして。

 それでも世界の為に、家に帰るためにと踏ん張っているのに、この世界の人々は俺達の「帰りたい」という意志を尊重しようとしてはくれない。

 

 例えそういう意図がなかろうとも、何度断っても「この世界に残って欲しい」と口にするのはそういう事だ。



 

「こちらの事情は無視するのに、自分達の事情だけを押し付けてくるような世界で一生を過ごしたくない」


 


 彼らは俺達を『勇者』としてしか見ない。

 そう確信してしまう程までに、この世界の人達に不信感を抱いてしまっている。


 頷き合った四人の気持ちは一つだった。


 絶対に魔王を倒して、元の世界に帰るんだ。

 そう決意を新たに、旅を続けた。







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