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ケース2裏 side アルバータ神1 始まりは聖女

ケース2裏は全編ざまあ的要素が含まれている可能性があります。

苦手な方はご注意ください。


***






 ──どうしてこんな事になってしまったんだろう。



 壊れかけた世界で、私はそう呟いた。


 


***




 ──始まりは、聖女だ。



 世界に生まれた瘴気。

 人間の体や心を蝕むそれが広がれば、このままでは人の住めない土地になってしまう。


 そんな人々の嘆きを受けて、異世界から浄化の力を持つ聖女を召喚した事から、全ての不幸が始まった。



 最初は、上手くいっていたのだ。


 瘴気を浄化するには、浄化の力を持つ聖女や聖人と呼ばれる存在を生み出す必要がある。

 しかし、そういった素質を持つ人間は数少ない。適性を持つ者はいても、その才能を限界まで使いこなせる者が中々居ないのだ。


『異世界の人間は特異な力を持ちやすい』という前評判に違わず、召喚した聖女は浄化に関して天賦の才能を持っていた。

 更に私が授けた加護のおかげで周囲との関係も良好であり、このまま上手くいけばこちらの世界で誰かと結ばれてこの世界に永住するだろう。


 そんな期待を抱いてしまう程度には、上手くいっていた筈だった。




 しかし、聖女は私を裏切った。

 与えた加護を悪用して、人々を誑かし始めたのだ。



 

 まるで自分が女王であるかのように、好き勝手に振る舞う聖女。

 彼女と親しく付き合っていた王族を始めとする王侯貴族は、彼女に傅き、その我儘を叶えるためになりふり構わなくなっていく。

 

 私だって、何度も途中で軌道修正をしようと試みたのだ。

 しかし、彼女がこの世界の異分子だからか、何をどう干渉しても上手くはいかない。


 ……異世界の聖女は確かに能力が高いが、使い勝手が悪すぎる。

 

 思い通りにならない聖女に、そしてどんどん滅茶苦茶にされていく私の箱庭の現状に、沸々と湧き上がって来たのは紛れもない怒りだ。

 


 折角聖女として引き立ててやったのに。

 加護まで与えてやったのに。



 期待をしていた分だけ、失望も大きい。

 とうとう公爵令嬢を冤罪にかけるという事件まで起こってしまい、私は彼女を切り捨てる決断を下した。




「ミルリア、あなたに力を授けよう。この国に蔓延る闇を祓い、異世界の聖女──いや、悪の魔女を打ち倒すのだ」




 牢の中で処刑を待つだけだった公爵令嬢ミルリアへ、聖女の力を授ける。

 異世界の聖女より力は弱いが、多分何とかなるだろう。最初からこうしておけば良かった。



 新たな聖女となったミルリアの働きで、人々は正気を取り戻した。

 多くの人を惑わした悪の魔女は囚われて、処刑される事になる。


 


「……ねえ、神様どうして?」




 処刑される間際、魔女はそう言った。

 長くよく手入れをされていた髪は短くざんばらに切られ、拷問でもされたのかあちこちに傷を作っている。


 でも、可哀想とは思わなかった。

 彼女はそれだけの事をしたのだから。

 


「私は頑張ったじゃない。知らない場所で、知らない人達に囲まれて、聖女として頑張ったじゃない。どうして殺されなきゃいけないの? 全部神様がくれた『誰とでも仲良くなれる力』の所為じゃない!」

「貴様が聖女として相応しい振る舞いさえすれば、こんな事にはならなかった」

「知らないよ! こっちはただの女子大生だよ? 私はどうすれば良かったの? 教えてくれれば良かったじゃない!」

「……やはり愚かだな。人選を間違えたか」



 この後に及んで、まだ誰かの所為にするのか。

 最期くらい、聖女らしく凛とした佇まいでいればいいのに。


 往生際が悪い魔女にため息を吐けば、彼女は「はは」と乾いた笑いを浮かべた。




「……あなたも、私をゴミみたいに捨てるのね」




 この娘は何を言ってるんだろう。

 私は不思議に思った。




使(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)、『聖女』として大切にしてやっただろう?」




 私の可愛い子達を穢れに触れさせたくないからこそ、召喚した聖女だ。

 余計な事をせずに、ただ忠実に聖女として働いていたら、ずっと大切にしてやったのに。


 そう呟けば、人間扱いすらしてくれてなかったんだ、と魔女は泣いた。

 



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