表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/35

2−7、因果応報って言葉があるでしょう?神様だってうちの子達が一番可愛いんです



「神田くん、ご苦労様。助かったよ」



 浄化作業を無事に終えた私達に、物部さんが満足げに頷いた。



「僕達じゃここまで早く浄化は出来なかったよ。やっぱり神田くん、鎮魂課の方が合ってるんじゃないの? うちに来なよ」

「丁重にお断りさせて頂きます。……これだけで、もうヘロヘロの状態ですし」



 元々そこまで穢れに耐性がある訳でもないし、先程の浄化作業だけでも既に一杯一杯だ。

 正直疲れたし、ちょっと休みたい。

 

 

「それに、どちらかといえば、事務仕事の手伝い要員が欲しいだけでしょう」



 ジトリと見つめれば、物部さんはバレたか、と悪びれもせずに肩を竦めた。

 そして、その視線は隣に居た新堂くんに向けられる。



「やあ、新堂くん、久し振りだね。元気にやってるようで何よりだよ」

「お久し振りです! その節はお世話になりました!」



 墜ち神だったのだから当然ではあるのだが、白矢凪(しろやなぎ)さんと同じように、新堂くんも以前鎮魂課のお世話になっている。



「君もやっぱり異対課が良いの? 君ならいつでも大歓迎なのに」



 新堂くんは魔王を倒す勇者だった為、魔を滅する力を持っていた。しかも一度墜ち神になったという事で、穢れへの耐性も相当に高い。

 恐らく彼にとって、鎮魂課は天職だろう。


 しかし、それでも彼は首を縦には振らなかった。



「お言葉は嬉しいですが……。俺が異対課の皆に助けてもらったように、同じような目に遭った人達を助けてあげたいんです」



 異世界転生や召喚されて苦しんでいる人を、異世界で理不尽な目に遭っている人達を救い出してあげたい。

 新堂くんはそんな思いで、異世界対策課への配属を願ったのだ。



「まあ、でも今日みたいなお手伝いなら、大丈夫ですよ! 仕事が無い時ならいつでも手伝えるんで、声かけて下さい!」

「えー、神田くん、何この子……。凄い良い子なんだけど」

「新堂くん、そんな事言ってると本当に呼ばれるからね……」



 物欲しげにこちらを見る物部さんに、僕は頭が痛かった。

 

 きっと、これはまた直ぐに名指しでヘルプに呼ばれてしまうだろう。

 新堂くんのバディである香山に果てしなく文句を言われるような気がするが、何て説明すれば良いんだろう……。




「ところで……白矢凪さんはこれからどうなるんですか?」




 こめかみを抑えた私を尻目に、新堂くんは物部さんにそう尋ねた。



「そうだねぇ、もう少しだけ浄化してから、希望があれば何処かの課に配属になるかな」

「彼女は『聖女』ですからね……。多分権能は『浄化』とか『守護』とかそっち系になる気がしますよね」

「うーん、彼女の役目は穢れを祓う事だったんでしょ? そう考えると、『浄化』の可能性が高いかなぁ」


 

 彼女に特に希望が無いのであれば、彼女の能力や経歴を考えて鎮魂課か異世界対策課のどちらかに振り分けられるか、現代に近い神だから総務課や会計課での事務作業をお願いする事になるかの二択だろう。


 物部さんが『こちらにも旨みがある』と言ったのは、まさにこの事だ。

 異世界召喚に関係した神の浄化を手伝い、面識を作る事で、課に引き入れる可能性を上げる。


 ……そうですよ、私は神であると同時に管理職でもある。課のプラスになるならば、そういう下心だって抱きます。

 神員(じんいん)はいつでも募集中なんです。狡いとか言わない。善意もあるから許して。



「……まあ、何処を希望するかは決まったようなものだと思うけどね」

「でしょうねぇ……」



 そう頷いて、物部さんと共に新堂くんを見やった。

 新堂くんは何も自覚はないようで、不思議そうに首を傾げている。

  

 新堂くんは、魔王を倒す旅の間に出会す女性を次々に惚れさせても気付かない無自覚ハーレム勇者だったからなぁ……。

 ……白矢凪さんも苦労しそうだ。絶対告白しても「今何か言った?」って有耶無耶になりそう。



 


『……またいつか、会えますか……?』



 別れ際、期待と決意を秘めた目で新堂くんにそう問い掛けた彼女を思い出して、エールを送る。



 頑張れ、白矢凪さん。

 君の想いが届く日は、とても遠いような気がする。本当に頑張れ。




***



 

「ところで、向こうの異世界ってどうなったんですか?」




 異対課の事務所に戻る道すがら、新堂くんがそう尋ねた。

 その質問は、恐らく確認のようなものだったのだろう。私は苦笑して答える。




「……(⚫︎)(⚫︎)、滅んではないよ」



 

 なまじ、白矢凪さんが聖女として大きな力を持っていたからだろうか。




『私じゃない! 私は悪くない! 何で、何で───ッ!!!』




 白矢凪さんの命が刈り取られたその瞬間、断末魔と共にその場に大きな瘴気を齎した。

 

 それがまた、一般市民も見物が出来る公開処刑だった事も良くなかったのだろう。

 また、元々の聖女としての才能の差もあるのだろう。

 

 王都の中心で生まれたそれは、聖女として覚醒したばかりであるミルリアでは抑えきれない規模で広がり、王都を飲み込んだ。貴族や一般市民も関係なく、瘴気に侵されてしまったのだ。


 墜ち神と化した白矢凪さんをこちらで引き取ったから、多少マシにはなっただろうが……それでも少なくない瘴気は残ったままだ。……それをミルリアがどうにか出来れば良いのだけれど。



 

「そもそもの発端も改善する気はないみたいだしねぇ。……アルバータ神もまずそっちをどうにか止めれば良いのに」




 そもそもの発端──どうして国に瘴気が生まれたのか。 

 それは、戦争に使う兵器として扱う為に、魔獣を使った非道な実験を行ったからだ。

 

 実験で痛み、苦しみ、恨みを抱いた魔獣の死骸が瘴気を生む。

 研究所の周囲から広がった瘴気が、徐々に国中に広がっていったのだ。



 しかし、聖女が召喚され、瘴気を浄化してもらえるのを良い事に、彼らは研究を止めようとしなかった。

 アルバータ神も自分の世界の人間が可愛いのか、はたまたまだ楽観視しているのか、それを諌めようとはしていない。

 

 王都に急速に広まった瘴気と、魔獣から生み出される瘴気。

 そのどちらもを抑えるには、正直ミルリアでは荷が重いだろう。

 ──その結果がどうなるか。


 想像には難くないが、私達が知った事ではない。

 私達だって自分の世界の人間の方が可愛いし、守らねばならないのだから。




「因果応報ですよ。……滅びるべくして滅びるものもあるんです」




 珍しくあからさまに嫌悪感を表して吐き捨てた新堂くんの瞳に、チラリと黒い闇のようなものが映ったような気がした。



 うーん、とっても闇〜〜!!!

 ちょっと魔王味もある〜〜〜!!!



 確かに穢れ耐性は強いかもしれないけれど、あまり無理はさせない方が良いかもしれない。


 きっと直ぐに来るであろう鎮魂課のヘルプ要請をどうやって断ろうと考えながら、今日の仕事終わりに呑みに誘う事を心に決めた。




 ……勿論、見守くんも誘うよ! 多分拗ねるだろうからね!!!






 



次回投稿日は月曜日を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ