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2−6、青春ですね、私には眩しすぎて辛いです



「俺は、魔王を倒す為の勇者として召喚されました。魔王を倒す旅に出て、沢山戦って……やっと魔王を倒した。でも、それでおしまいじゃなかったんです」

「……何が、あったの……?」



 恐る恐る問い掛けた白矢凪(しろやなぎ)さんに、新堂くんは困ったような笑みを浮かべた。




「魔王を倒した後、城に帰って……そのまま処刑されちゃいました!」

「しょっ……」

「魔王を倒すような化け物を放っておく事は出来ないんですって! あはは、困りますよねぇ」



 いや、あははじゃない。

 そんな爽やかに笑って言うべき事ではない。


 それでも「ちょっと失敗しちゃいました」くらいの軽いノリで頭を掻いた新堂くんに、白矢凪さんは目を白黒とさせている。気持ちはとても良く分かる。



「皆の為に頑張ったのになぁ、とか色々考えてたら、そのままうっかり墜ち神になっちゃいまして。白矢凪さんと同じです! 奇遇ですね!」



 奇遇ですね! ……じゃないんだよなぁ〜!!

 

 いつも明るい新堂くんだけど、あまりに光属性が過ぎて逆に闇が垣間見える時がある気がするのは気の所為だろうか。

 光が強ければ、闇もまた濃い的な……。もしかしたら、以前墜ち神になった影響がここに出てるのかもしれない。知らんけど。



「それで、なまじ勇者として力を付けちゃったもんだから、そのまま魔王になりかねない危険な存在だと見做されて、そのまま封印されちゃいそうになりまして。そこを神田さん達……異対課の皆に助けてもらったんですよ」



 新堂くんは、そうやって私を見やった。

 その嬉しげな視線に、肩を竦める。



「本当は処刑される前に助けてあげられれば良かったんだけど……ごめんね」

「いえいえ、そこはしょーがないですよ! それよりも、あのままじゃこっちに帰ってくる事さえも出来なかったでしょうし、ほんっとーに感謝してます!」

 


 そうにこやかに礼を言って、白矢凪さんに視線を戻した。

 白矢凪さんは、びくりと肩を振るわせる。



「俺も、君と同じように墜ち神になった事がある。だからこそ……同じように助けてあげたいと思ってるよ」

「え……」

「辛かったよね。ムカついたよね。自分の心の中が滅茶苦茶で、吐き出しても吐き出しても、恨みや憎しみが尽きる事が無く湧き上がってくる。分かるよ、俺もそうだった。……でもさ、いくら過去を恨んでももう戻れないんだ。──だったら」



 新堂くんは、黒いモヤに包まれた彼女の手を取った。



「幸せになろう!」

「……え」

「過去ばかりを見るのを止めて、未来を見るんだ。明日へ歩き出すんだ。恨みや憎しみを忘れてしまうくらいに、楽しいものや嬉しい気持ちになれるものを探すんだよ。そうやって笑えば、何をあんなに拘ってたんだろうって、過去の自分が馬鹿らしくなるよ」



 ね、そうしようよ。

 まるで向日葵のような笑みを浮かべる新堂くんに、白矢凪さんはポカンと口を開ける。

 何かを言いたげに口を開けたり閉めたりして、チラリと私の方を見た。 




「でも、私は……私には、そんな資格は……」




 ミルリアの事を言っているのだろう。

 罪悪感を滲ませて俯く彼女に、首を横に振った。




「確かに君は間違った選択をしたかもしれない。でも、それでずっと苦しめだなんて言うつもりはないよ」



 

 そもそも、あちらの世界の王族が全ての罪を白矢凪さんに被せた事で、プラスマイナスゼロだろう。


 確かに、白矢凪さんはその振る舞いで周囲に混乱を撒き散らし、自分の望みの為に冤罪をかけられたミルリアを見過ごした。

 しかし、それは元はと言えば、アルバータ神が白矢凪さんに過分な力を与えたせいで起こった混乱だ。


 更に、向こうの王族・貴族は本来自分達が負うべき罪も全て白矢凪さんに被せ、ミルリアもそれを良しとして彼女を処刑した。

 冤罪をかけたという意味では、どっちもどっちだ。

 その時点で、彼らは等しく皆加害者として、同じ舞台に立っている。



 ……というか、私としては一番アルバータ神の責任を追求したいんだよなぁ。


 アルバータ神がそもそも召喚なんて真似はせずに自分達で解決しようとしていたら、白矢凪さんもミルリア達も誰一人傷付く事は無かった。

 自分で混乱の種を撒き散らかしておいて、その責任を巻き込まれた白矢凪さん一人に押し付けるのは、ちょっと違うと思うのだ。本当に反省してほしい。




「でももし、少しでもその結果を後悔する気持ちがあるのなら……同じように苦しんだり、困ってる人を見掛けたら、手を差し伸べてやって欲しいかな」

「手を……?」

「別に無理に何かをしてやれとは言わないし、困ってる人を全員救って欲しいとも言わない。……神様でも難しい事だからね」



 

 いくら救いたいと思っても、どうしても掌から溢れ落ちていってしまうものはある。

 だからこそ、私達は新堂くんも白矢凪さんも、完全な意味では救ってあげる事は出来なかった。

 ……それを悔やむ事もあるけれど、でも悔やんでばかりではいられない。前を向くしかないのだ。




「君が味わった痛みや苦しみを教訓に、誰かに優しくしてあげてほしい。そして、その優しさは、きっといつか誰かを救う。……私は、そう信じているよ」




 そう微笑み掛ければ、白矢凪さんは気が抜けたように肩の力を抜き、自分の右手へと視線を向けた。


 白矢凪さんの右手は、新堂くんが握っている。 

 繋がれた手を見て、彼女の目に光が灯ったような気がした。




「きっと白矢凪さんなら、出来ますって!」




 まるで歯磨き粉のコマーシャルか何かの如く白い歯を煌めかせて、新堂くんが力強く言い切った。

 次の瞬間、彼女に纏わり付いていた穢れが雲散霧消し、一気に血色の良くなったその顔にポッと赤みが差す。




「……うん。……うんッ!」




 ……何か、凄い場面に出会しちゃったような気がする。

 泣きそうな顔で微笑んだ白矢凪さんと、それに頷いた新堂くんを見つめ、私は一人蚊帳の外のような気分になっていた。


 まさか、人が恋に落ちる瞬間を目撃してしまうとは。

 いや、さっきからイケメンムーブしかしてなかったから、落ちちゃうのも無理はないと思うんだけど。


 白矢凪さんは頬を赤らめながらキラキラとした目で新堂くんを見つめている。

 新堂くんは気付いてなさそうだけど、完全に恋する乙女の目だ。

 ……見ていて微笑ましいけど、ちょっとだけ居心地が悪い。

 


 甘酸っぱ〜! 急に少女漫画〜〜!!

 まあ、いいけどね! 無事解決したようで、何よりだけどね!!



 それでも何だか据わりが悪くて、衝動的に手元のコップを呷った。

 ここでしか呑めない特別製の御神酒だ。この機会に楽しむ他無いし、呑まなきゃやっていられない。



 ───眩しすぎて色々と辛いよ、チクショウ!!!

 





 

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