1-1、初めまして、課長の神田です
新連載です。
よろしくお願いします!
──私は、神だ。
名を神田という。
適当な名付けだと笑う事勿れ。
我が国の神は『八百万の神』と呼ばれる程沢山存在するし、名前の流行り廃りというものもある。
天照大御神レベルのネームバリューがある大神もいれば、私のようにごく普通の人間と変わらないような名前の神々もいるのだ。
実際のところ、神々ですら全部で何柱くらい存在するのかを把握しているかどうかは怪しいものだ。
何故なら、我が国では神々は案外気軽に誕生する。神格化する敷居が低いのだ。
日本は様々なものに神が宿る国である。
物を大切に扱えば付喪神が生まれるし、人間が死後に祀られた結果、新たな神が生まれる可能性だってある。
今この瞬間にも、何処ぞで何かしらの神が爆誕している可能性すらあるのだ。
そんな調子で生まれた神の名前が若干適当になっても、致し方ない事である。そう思いたい。
……話を戻そう。
そんな適当な名付けをされた私だが、現在とても困っている。
神だって万能ではないのだ。そりゃあ、困る事もある。
「神田課長……異世界転生が起こりました」
長い髪をポニーテールにしたスーツ姿の女性神──見守くんが沈痛な面持ちで話し掛けてくる。
ちなみに、スーツ姿なのは「その方が仕事している気分が出る」と神々の間で好評だからだ。
日本人は形から入るのが好きな民族であり、神々もまた同じなのである。
……現実逃避をしている場合ではない。今は仕事に集中しなければ。
「状況は?」
「被害状況は『借りパク』、相手は数年前に物語が元となって神格化した神です」
『借りパク』とは、初犯かつ被害者が二人までに限定されている時に使われる呼称である。
若い神でそれならば、まだやりようはある。
私は質問を重ねた。
「物語、ね……。乙女ゲーム? 漫画? 小説?」
「小説です。作者は鬼小折まゆり、『菩提樹のプリンセス』という名の人気作です」
「ああ、『リンプリ』ね。……とうとう来ちゃったかぁ……」
「……近年稀に見る大ヒット作でしたもんね……」
異世界転生や召喚をされそうな人気のある創作物に敏感になってしまうのは、最早職業病のようなものだ。
つい数ヶ月前に読了した『リンプリ』の物語を頭に思い描きながら、見守くんに指示を出す。
「直ぐに水鏡通信を繋いでくれる?」
直ぐにでもその付喪神を呼び出して、話をしなければならない。
「既に招喚を要請しています。第二面談室も確保済みです」
「流石、見守くん」
指示をする前にこの動き。
流石は出来る課長補佐見守、略して『さすミカ』である。
「直ぐに向かおう。……行こう、見守くん」
「はい、室長」
私と見守くんは、足早に第二通信室へと向かった。
私の名前は、神田。
『常世管理局、異世界対策課課長』という肩書きを持つ、ごく普通の神の一柱である。
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