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中尾徹の場合5&平等院美保の場合1

1/14 平等院美保視点の内容後半が古い物をアップしてしまっていたので、大幅に内容を改訂してあります。

 動力船で二日がかりで、メレディトに到着した。

 レイキア工国最大の工業都市で、採掘資源の集積と製錬、武器防具の製造などに留まらない鍛冶その他の製造業でもレイキアの心臓とも言える都市なのだけれど、ゼンフト大鉱脈の西に広がるエルフ達の領土、ミシュヌ大森林の木材資源巡って争いも絶えなかった為、結構な昔から首都を交易や農業や統治に便利なミズガルドに移したんだとか。


 そんな、レイキア国民にとっての一般常識を、旅の途中でオゴロフさんや付き添いの兵士さん達に教わり、到着後は早速メレディトの統治府へ向かった。もちろん、レイグモ王子と面会する為だった。


 山の中腹から山裾へと傾斜地にドワーフ達に築かれた歴史ある工業都市の建物は、首都ミズガルドのそれに比べて、一段か二段くらいは天井が低めの物が多く、重厚な雰囲気と、都市のあちこちから上がっている煙の数々と響きわたる鎚の音などがさらにそれらしい雰囲気を醸し出していた。


 そんな異国情緒というか異世界情緒に真っ先に飛びつきそうな先輩は、メレディトが近付くにつれ警戒心を露わにしていた。

「いるね」

「何が、って、デスゲームの参加者ですか?」

「そう。西大陸随一の都市でもあるから、何人も居ておかしくは無いんだけど、五人前後くらいの集団が少なくとも一つはある」

「それでも、ミズガルドよりは少ないんじゃ?」

「まあね。だけど、西のエルフの領土から入り込んでるのもいるかも知れないんだし、油断は禁物だよ」

「そりゃそうですけど、どちらかと言えば、レイグモ王子とアラシェさんの件を先ず片付けてしまいたいですね」

「無事やり遂げられれば、かなり手厚いサポート受けられるぽいしね。期待してるよ、トオル君!」

「プレッシャーかけないで下さいよ。二人と会って話してみるまで、何とも言えません」

「わかってるよ~」


 わかってなさそうな顔でにまにま笑ってる先輩が少し憎たらしく感じた。まぁいつも通りと言えばいつも通りなのだけれど。


 メレディトの統治府までは斜面に沿って移動するエレベーターみたいのが用意されてた事もあって、一時間もかからずに到着。

 応接室らしき部屋に通されてしばし休憩していると、やがてオゴロフさんがそれらしき人を連れて戻ってきた。

「皆さん、お待たせしました。こちらがレイキア工国第二王子レイグモ殿下です」

「レイグモ・ダイ・レイキアです。よろしく」


 ラダーグ王の面影は見受けられるけど、人間族との間に生まれたハーフ・ドワーフという事もあってか、背ははっきりと父親より頭一つ分は高かった。

 というか、のっけから自分を敵視するような眼差しで見てきたので、ちょっと怖かった。


「殿下」

「ああ、すまない。皆さん、座って下さい」


 その一言で皆が着席し、メイドさん達がお茶とかを給仕して下がると、王子は付き添いで入ってきた兵士の皆さんも退出させた。かなり渋ってたけど、いつもの事らしく諦めた表情をしていた。


「それで、ええと、君か。アラシェとの事を聞かせてやってほしいと、父上から手紙を受け取ったのだが」

「まあ、そうです」

「はあ。一生の伴侶くらいは好きに決めさせてくれよな。兄上と自分のどちらが王になったって、公務に忙殺されるんだろうから。

 で、何を聞きたいんだ?あきらめるつもりがあるかっていうなら、そんなつもりは無いぞ?」

「ええと、彼女とはもう、将来を誓った仲なのですか?」

「・・・いいや。悔しいが、まだだ」

「ぶっちゃけて聞きますね。相思相愛、なんですか?」


 ぐ、と反射的に何か言い掛けたのを堪えた様子で、一息ついてから、ふてくされたようにつぶやいた。


「まだ、だ・・・・」

「ええと、怒らないで聞いて下さいね?」

「質問による」

「片思い、じゃないですよね?」

「嫌われてはいない。悪くは思われてはいない、と思う」

「それ、友達までならって関係なんじゃ?」


 先輩が横から口を出してきて、レイグモ王子にぎろりと睨みつけられて怒鳴られた。


「ふ、ふざけるな!アラシェと会った事も無い癖に、知った風な事を!」

「すみませんね。でも、女子の一人として、そういうの、良くある話なので。ええ、とても、ありふれてますね」

「ぐ、ぐぅ・・・」

「せめて王子じゃなければねぇ、とか言われちゃってたりしませんか?」

「それは・・・」

「言われてるんですね。じゃあもうふられてるのにつきまとってるストーカー一歩手前かストーカーそのものじゃないですか?」


 だんだん涙目になってきてる王子が可哀想で、助け船を出した。


「あの~、でも私の為に王子を辞めたりしないでね、とかも言われてたりします?」

「なぜ分かったのだ?そなたらは読心のスキルでも持っているのか!?」

「持ってません。自分達の内の誰も。それはとにかく、あなたは、彼女が別の誰かを選んだら、受け入れられますか?」

「死ぬ」

「え?」

「死んでやる」

「うわ、つきあってくれないとやだやだやーだー、他の誰かとつきあうなんて、いーやーだー!ぼくちゃんと付き合ってくれないと死んじゃうんだからー!って、最悪のお子ちゃまじゃん。サイアク」


 先輩の態度と口調が一気に氷点下まで落ちてしまった。オゴロフさんも眉間に深い皺を寄せながら、深いため息をついていた。

 うん、これは、お父さん心配するよね。間違いでもあっちゃ困るから、出来るだけの手配はしようとするわ。と納得出来てしまった。


 竜頭と星も困惑しながら何かを言おうとしてたけど、油に火を注ぐというか、死体蹴り風味になりかねないので、慌てて話を切り上げる方向に倒した。

 

「じゃあ、アラシェさん側の話も聞きに行きますが、最後に一つだけ聞かせて下さい」

「なんだ?」


 アラシェさんと話す前に、最低限、何を知っておくべきか、少し悩んだ。

 王になるつもりはあるのか?

 アラシェさんが行方をくらましてしまったら?

 二人が一緒になる事で戦争が起きてしまったら、その重みに耐えられるのか?

 他にもいくつか考えられたけど、たぶん、口先だけの答えが帰ってくる気がしたので止めた。なので、これを選んだ。


「あなたと一生過ごさなくちゃいけなくなるくらいなら、死ぬ方を選ぶと彼女が言ったら、あなたはどうするんですか?」

「アラシェは、そんな事は言わない・・・」

「でも、あなたは似たような事、言ってますよね?」

「それは、でも・・・!」

「もし彼女が本当に嫌で命を絶ってしまった時、あなたは後を追えるのでしょうか?」


 なんとなく追えない気はしたけど、言わないままに席を立って、部屋から出た。星達もついてきたけど、王子は静かなままだった。

 少しの間を置いてオゴロフさんも出てきたので、アラシェさんの居所にまで案内してもらう事になった。



☆★☆

(平等院美保視点)


 異世界転移もデスゲームも、何それふざけんな今すぐ元の世界に戻せ!って、普通なら、なるだろうね。

 でも、私は驚きはしたものの、前向きに捉える事が出来た。元の世界でなら絶対叶えられない願いが叶えられるかも知れないチャンスが生まれたから。

 もちろん、道のりが険しいのはわかってる。

 平等の女神様の力はかなり応用が効くけれど、初日の出だしで襲ってきた連中が、最初からこちらを殺しにかかってきてたら、たぶん殺られてた。痛いのはもちろん嫌だし、自分を刺したり切ったりするのに慣れたくもないし。


 それでも、出だしで三枚のメダルを手に入れられたのは大きかった。

 三枚のメダルは、拡大、酒、転換。

 拡大のレベル1の加護スキル:拡大は、レベル1につき対象の大きさを10%拡大する、というもの。使いどころが難しそう。

 酒の加護スキル:酒造は、水を元に、任意の酒を醸造というより想像するというもの。水以外の材料はスキップできるので便利といえば便利なのか?ドワーフはみんな酒好きだっていうし。

 そして転換の神ウィッジスの加護スキル:転換は、対象の資質なり指向性を転換できるという、自分にとっては正に天からの贈り物で至上の加護スキルになるかも知れなかった。質量保存の法則的な縛りはあるみたいだけど、平等の神の加護スキルとのシナジー効果が望めるかも知れない!転換できる何かの一例を挙げるなら、敵意と好意とかね!夢が広がる!わくわくだよっ!制限の一例としては、例えば無関心を転換しても関心にしかならないし、それは恋や愛には転換できないらしい。でも、自分としては、根底の条件が変えられば、たぶんそれで十分だった。


 二日目は、冒険者ギルドで冒険者登録して、常設依頼の鉱石掘りと、坑道に現れるモンスター狩りに行ってみることにした。

「まだ早いんじゃないの?」

「何言ってるのよ、巧。先行されればされるほど追いつけなくなって、為すすべもなく殺されてもいいの?」

「良くは、無いけどさ・・・」

「私が戦って、尽君が掘る。巧は警戒して危なくなれば鍛冶場を展開して仲間を保護。いいわね?」


 口答えしてきた巧を言い負かし、冒険者ギルドでも売ってた普通品質の鉱石をいくらか購入して、巧に胸当てと盾を作ってもらった。

 ギルドで、初心者向けで、かつ魔物はあまり出てこなくて、なるべくなら鉱石はほぼ枯れてて人が多すぎないところを紹介してもらった。巧のも尽君のも、あまり見せびらかすのは不味い類の加護スキルだしね。


 メレディトの坑道は、ええと、日本で言うなら大都市の地下鉄駅?しかもいくつかの鉄道会社の駅が混在してるような入り組んでるのをもっと複雑にした感じ。

 ほとんどの坑道にはA-828みたいにナンバリングされてて、ドワーフが開発した魔道具でかんたんナビもしてもらえるらしい。ただ、浅層、中層、深層の三分類でカバーされてるのは浅層と、中層の半ば(浅層側)までなので、深入りはしないようにと重ねて注意された。


 目的地まで、トロッコの様な乗り物と徒歩で一時間くらいかけて移動し、周囲を見て回って敵となる魔物が見あたらないことを確認してから、尽君に採掘を始めてもらった。

「先ずは加護スキルとか使わずに掘ってみて」

「了解」


 採掘の神様の加護で与えられたツルハシは、最硬を誇り、どんな岩盤や鉱石に当たっても欠けたり曲がったりしないそうな。さらに加護スキルを使えば望む鉱物などを掘り当てることも出来るらしいのだけど、例えば金の鉱脈ではないところで金を堀り出そうとしても、全MPを消費して1グラムも採れるかどうかになるそうな。

 ツルハシは、まるで豆腐にでも振るわれているかの様に、固い坑道の壁面に突き立ち、ただの岩の破片めいた物と、何かが入り交じってる鉱石めいた物とが、いくつもこぼれ落ちた。

「鑑定してみて、どう?」

「3/4以上は鉱物資源が含まれてないただの岩。でも残りの1/4くらいは、半分が銅で、半分は鉄が含まれてる感じ」

「悪くないのかな。鑑定にもMP使うんだから、とりあえず疲れるまでそのまま掘り続けてみて、ある程度量が貯まったら、巧が製錬してインゴット化してみて」

「わかった」


 尽君が休憩してる間にツルハシを借りて同じ様に掘ろうとしてみたけど、カキィン!と甲高い音だけして跳ね返されて、何も掘り出せなかった。巧が試しても同じだったので、やはり神様の加護が効いているのだろう。

 寂れて人が来ない方でも、甲高い採掘音とかを響かせてれば何かは招き寄せてしまう訳で。コボルトというらしい小型犬人種とか、ゴブリンがちょいちょいやってきたので、経験値の為に三人で狩るようにした。

 数時間採掘と狩りのルーティンを繰り返してると、尽君と巧のレベルが上がった。尽君は採掘スピードを上げる為に素早さを、巧は力を上げてもらった。製錬したインゴットは、塵積もな重さに達しつつあったから。

 レベルが上がってから、だんだんと坑道の奥の方へと進み、何度か魔物達を倒して周囲に敵の気配が無くなってから、尽君に試してもらった。

「ここで普通に(・・・)掘れる最高の素材を、掘ろうとしてみて」

「普通ねぇ。まあ、試してみるよ」


 尽君はたぶんまだ半信半疑な表情でツルハシを坑道の壁に振り下ろしたけど、効果は目に見えて違った。半分は占めていた、ただの岩がほぼ無くなり、鉄鉱石らしき物が95%は占めていた。

「すごいじゃない!」

「すごいのは自分じゃなくて、神様とその加護スキルですけどね」

「そうだとしてもよ。このままMPが半分以下になるくらいまで掘ってもらえる?

 巧は、ある程度インゴットが貯まったら、チェインメイルに必要な鎖の輪っかを量産していって。細かいところは神様がオートでやってくれるんでしょ?」


 尽君が言うには、ツルハシを一回打ち込む毎に1MPかかるんじゃなくて、10分くらいで1MP費やされる感じらしい。

 私が拡大の加護スキルを有効化して、試しに鉱石のサイズを拡大してみたら、出来た。10%くらい大きくなった。当然の様に、インゴットの大きさまで拡大出来た。

 さらに尽君に拡大のメダル渡してみたら、なんとなく、どこ掘れば何が掘れそうという感覚が広がっただけでなく、掘り出される鉱石のサイズや、消費されるMPの燃費まで良くなった感じがするとの事だった。

 

「もっと奥行けばもっと掘れる気がする」

「でも、あまり奥に行くと駆け出し冒険者には手に負えない魔物が出るかもって、受付のおじさん言ってなかったっけ?」

「残りMPをもうちょっと行った先でってのはありかな。二人のレベルも上げたいし。巧も尽君も、鍛冶や採掘のスキルが上がった感じはしないんでしょ?」

「だね」

「メダル貸してもらって、加護レベル上げないとダメぽい」

「となると、数作ってスキル経験値貯めて、って感じじゃないから、資源の無駄遣いはしないで済みそうね。商売やるなら別だろうけど、私達にはそんな暇無いし」

「委託販売とかは?」

「どこの誰とも知れない初心者が作った平凡な装備を誰が買ってくれるのよ?インゴットなら需要はいくらでもあるかもだけど」


 そんな感じに雑談を挟みつつ、屑魔石が燃料のランタンを掲げながら、あと1、2回戦闘と採掘したら帰ろうかと話していた時だった。


 前方からかすかに、人が言い争うような話し声が聞こえてきた。

「どうする?」

「ん~、しばらく一本道だし、戦ってるような音はしないし、横を通り過ぎさせてもらえばいいんじゃない?」

「引き返して別の道だとまた時間かかりそうだしね」


 そんな言葉を交わしつつ、そろそろと進んでいると、前方の話し声がだんだんと近付いてきていた。


「だからっ、私は戻らないって言ってるでしょう?!」

「しかし、ドワーフの王子の一人に言い寄られて面倒な事になっているのでしょう?ならば、いったん都にお戻り下さるようにと、女王様が仰せです」

「面倒な事にはなりかけてるかもだけど、私にそういうつもりは無いって断ってるもの。彼だってわきまえてくれるわ」

「どうだか。ドワーフは頑固者が多いですからね」


 なんだか、面倒な人達が近付いてきた?と思って相談しようにも、その人達の姿が先に見えてしまった。

 目が遭ってしまい、日本人的に、なんとなく会釈してしまった。

「どうも、こんにちは~?」

 片方の、耳が尖ってる女の子が挨拶してきた。見かけの年は自分たちと同じくらいだろうか。

「どうも、こんにちはです。この先に魔物とか居ました?」

「んー、たぶん居ないかな。見かけたのは倒しちゃったから」

「ありがとうございます。それじゃ、行こっか」


 巧と尽君に声をかけたけど、二人とも、前方から来た二人組に見とれて反応が鈍かった。いや、挨拶してきてくれた子もとてもかわいいし、もう片方はクールビューティー系とでも言うの?長い耳の、エルフなんだろうな。でも、こちらをはっきりと睨みつけるような視線で見つめて、通り過ぎようとした私に問いかけてきた。


「見かけない姿の者達ですね。どこから来たのですか?」

「どこって・・・とても遠く?」

「どの国から?」

「ミシェラ、どうしたの?失礼じゃない」

「いえ、もしかすると・・・。失礼ですが、教えて頂けますか?」


 このミシェラってエルフのお姉さん?は、小ずるい事に受け答えしてた私ではなく、後ろにいた男子二人に尋ねた。

「どの国って」

「日本って言ったってわからない、よね?」

「ニホン・・・?聞いた事の無い国ですね。どこに」

「さあ、もう行くよ!無駄にする時間なんて無いんだからね!」

「え、あ、ああ。そうだね」

「すみません、それじゃ失礼します」


 私が男子二人の背中をぐいぐいと押して強引に進ませても、二人は名残惜しそうに背後の美人達を振り返っていた。


 二人組からだいぶ離れた辺りで、採掘を再開させながら、私は巧と尽君に注意した。

「あのさ、自分たちが異世界から来ました!とか触れ回ったりしたらダメだからね」

「・・・それは、用心の為?」

「ドワーフ達にあなた達二人の加護スキルが知れ渡ったら間違い無く囲い込まれるわ。保護はしてもらえたとしても、最終的にはメダル獲得競争には負けて殺される未来しか無いのに、そうなりたいの?」


 同じ話を宿屋とかでもしておいたのに、二人にはまだまだ危機感が足りない。今もまだ完全には納得いってない風に視線を交わしてた。

「でも、あの二人は、ドワーフじゃなかったし」

「エルフと、もう一人は耳が長いというより尖ってるくらいだったから、ハーフ・エルフっていうのかな?」

「だから、何?お近づきになりたかったって?」

「そこまでは言わないけどさ」

「でも、現地の人達にある程度溶け込んで、助けてもらえる誰かを見つけるのも必要じゃないの?ぼくや尽とかは、生産系でもあるんだし」

「だとしてもね。あの二人が話してた内容聞こえてたでしょう?ドワーフとエルフは仲良しって訳じゃ無さそうだし、ドワーフにとって有益な存在なら、エルフにとって有害な存在だと知れたら?排除されるんじゃないの?」


 私は、ふと思いついて、坑道に散らばってる何でもない石くれ(尽君が採掘したけど鉱物資源を含んでないと放置された物)をいくつも拾い集めて、背後へと振り向き様に放り投げてみた。

 石くれはばらばらと坑道に転がって、特に何も起きなかった。


「うーん、勘が外れたかなぁ」

「勘て・・・」

「急にどうしたの?」

「ん~、宿に帰ったら教えるよ。インゴットの数もそれなりになってきたから、今掘ったのはそのまま持ち帰ろうか」

「そのままだとかさばって余計に重いのに?」

「あのさ。どう見ても初心者冒険者で、坑道に入る時に鍛冶道具とか製錬機材とか何も持ってなかった奴らが、いきなり高品質なインゴット持ち帰って売りさばき始めたら、何かしら勘ぐられるんじゃない?」

「まあ、可能性としては、あるか」

「でも、何も知らない人が見たら、インゴットはインゴットじゃないの?」

「品質と買い取り価格から確かめましょ。もちろん、坑道から離れた鍛冶屋とかからね。普通に製錬したインゴット、複製したインゴット、拡大したインゴット、拡大して複製したインゴットとか、どれくらい価格が変わるのか知っておかないと」

「複製した物が本当に消えないのか、一日二日は手元に置いて確かめておきたいけどね」

「神様に聞いて、品質は落ちるけど消えないって答えもらってるなら、それで大丈夫だと思うけどね」

「冒険者ギルドで常時買い取りもしてるらしいから、そこにある程度卸して、ポイントと小金稼ぎするのもありだけど」

「尽君の鑑定スキルもあるから、ぼったくられはしないだろうけど、詮索は受けるかもね」

「それはどこに卸そうとある程度は受けるんじゃ?今後品質が上がったり希少な鉱物のインゴット持ち込めばなおさらだろうし」

「そうね。そこら辺も、戻りながら相談しましょう」


 そして宿泊先の安らぎの金床亭といういかにもドワーフが店主な宿屋に戻ると、一階の食堂で、さっきのエルフとハーフ・エルフの二人組が、誰かに、というか顔見知りに絡まれていた。

「伊加利君・・・?」

「始業式、来てなかったのに、巻き込まれたんだ?」

「えっと、鍛冶屋君に、堀井君だっけ?それともう一人は知らない、かな。まあ、ご覧の通りだよ」


 エルフ女性の足下に土下座していたデブもとい元クラスメイトが顔を上げて、止める前に声をかけてしまった巧と尽君の方を向き、当然、私まで見つかってしまった。二人の、印象の悪くない知り合いという事で、自分も名乗っておく事にした。

「平等院美保よ。鍛冶屋巧の幼なじみ」

「お、幼なじみ属性ですと!?そんな物が現実に存在して」

「ただの近所で育った長年知り合いなだけの存在だから、変な属性付けないで。ていうか、あなた今、何してたの?」

「何って、ミシェラたんにつきあって下さいってお願いしてたところですが?」

「はあ~。あのね、こんなきれいな人が、あなたなんかの相手してくれる訳無いじゃないの」

「まあ、最初はとりつく島もなかったけれど、ちゃんと条件は勝ち取りましたとも!」

「変な条件じゃないでしょうね?」

「なんで会ったばかりの他人からとやかく言われないといけないのかわからないけど、火の大神の加護を受けた相手を倒せたら、結婚考えてくれるって、ぷげらぁぁっ!?」


 気が付いたら伊加利の顔面を蹴飛ばしてたけど、私は悪くないよね?


「あんたねぇ、何考えてるのよ!」

「いや、ミシェラたんと一緒になれる方法を一生懸命考えて、相手にも納得してもらえたのに、なんで蹴られるんだよ!?」

「その様子だともう神々の大戦については話しちゃったって事だよね。殺し合いしてるんだよ?今さっきだって、問答無用で殺されてたかも知れないのわかってるの?そんな身の上なのに、相手に結婚もちかけるって正気なの?!」

「いつ殺されるかわからないから、だよ。数百人なんて殺せるなんて思わないし。でも、たった一つの願いを叶える為に戦うなら、なんとか」

「美保、落ち着きなよ」

「伊加利君、だいじょうぶ?平等院さん、気にくわないところもあるかもだけど、彼は味方に出来るんじゃないかな?」


 巧に伊加利から引き離されて、尽君は伊加利を助け起こしてとんでもない事を言い出した。

 頭ごなしに否定するのも角が立つので、深呼吸を一つ挟んでから尋ねてみた。


「どうだか。鈍くさそうなそいつが戦力になりそうにも思えないけど、鑑定で何か分かったの?」

「鑑定スキルですとっ!?堀井君やりますな!」

「ごめんね、一応、声かける前に使わせてもらって、この場では言わないでおくけど、少なくともぼくや巧よりは前衛向きだと思えたよ」

「ふ~ん。巧や尽君は、こいつを信頼できる訳?」

「少なくとも、ぼく達を襲ってきた連中と比べものにならないくらいは」

「だね。そんなに会った回数が多い訳でもないし、今は特殊な環境下だけど、人柄が激変したって訳でも無さそうだし」

「そうそう。このエルフの女の人とかにも、加護スキル使ってどうにかしようっていうんじゃなくて、ちゃんと正面から話し合ってるんだし」


 この一言は、私に刺さった。確かに、そう出来るんなら、その方がいいに決まってる。だけどもう、私は決めてるんだ。この想いを貫くって。それに、相手は四人だ。それも身体スペックを含めほぼ最高峰の。対してこちらは生産職が二人で、両方とも全く戦闘向きじゃない。だとしたら、もう一人くらいは、彼らを倒して、中尾先輩をゲットするまでの間の手助けにしても良いかと思えた。巧にも尽君にも人柄は保証されてるみたいだし。

 私はそう考えを巡らせてみてから、伊加利に提案した。


「最終的にどうするかどうなるかはわからないけど、さしあたって火の大神の加護を受けている相手を倒すまでは共闘するって線でいい?」

「えーと、俺がソロで立ち向かおうとするよりは勝率高まるだろうから文句は無いけど、ミシェラたんとの結婚の為にも、火の大神の加護受けてるプレイヤーのキルは頂きますぞ?」

「取れるものならどうぞ。っていうか、誰がその加護を受けてるのかってくらいの見当はつけて言ってるんでしょうね?」

「え、っと、いや、まだ、だけど・・・」


 大きなため息が自然に漏れた。ミシェラというエルフの女性も伊加利を凍えるような視線で見据えた。

 ただ、もう組むとは決めたのだから、今後の動きを決めないといけなかった。


「とりあえず、ここで込み入った話はできないから、食事だけ済ませたら、仕方ないから私たちの部屋のどっちか、ってあなた部屋は?」

「え、いえ、取ってませんけど」

「じゃあ、巧と尽君と同じ部屋に泊まりなさい。私は別の部屋取るから」

「あの、横からすみません。私たちエルフにも大きく関わる話ですので、同席させて頂けませんか?ビョウドゥインさんは私とアラシェ様の部屋に付き人部屋がありますから、もしよろしければそこで」

「名字は長いのでミホでいいですよ。う~ん、もしあのグループの誰かだったら、やっぱり助けは多い方が助かるか。じゃあ、お世話になりますが、過去にいろいろあったんですか?」

「そうですね。エルフの森の少なからぬ範囲を焼かれてしまった事が何度か・・・」

「うわぁ、それは指名手配したくもなりますね」

「お察し頂きありがとうございます。では、お嬢様、先に部屋に皆さんをご案内さしあげて下さい。私は食事などの手配をしてきますので」


 そんな風に、私達のグループには一人のオタデブが加わり、エルフ達とも関わる事になったのだった。



2023/1/14 平等院美保視点の内容を大幅改訂

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