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中尾徹の場合4

週末で、続きも書けてきてるので、昼と夜に一個ずつ投稿してみます。

評価ブクマ等まだの方はぜひお願いしまーす!

 広大な王宮の中をしばし歩かされたどり着いたのは、こじんまりとした応接室?だった。こじんまりとは言っても、大人が十人以上は余裕でくつろげるくらいの広さはあったし、王宮付きなのだろうメイドさんの中には人間族のも混じっていた。


「しばしこちらでお待ち下さい。国王陛下をお呼びして参りますので」


 そう言い残してオゴロフさんがいなくなってから一時間ほどが経過していた。お茶やお茶菓子のお世話をしてくれるメイドさん達を追い出せないので、仲間内での内緒話も出来ないし、見かけ上自分達だけになれても盗聴の仕掛けくらいは余裕でありそうだった。


 先輩はメイドさん達に積極的に話しかけて、レイキア工国という国や国土、周辺諸国の情勢といった、王宮で働く人達にとっては常識に過ぎないだろう知識を世間話という体で、自分や竜頭や星にも聞こえるように展開してくれてたので、待ち時間は全く無駄になってなかった。

 まず、西大陸と大雑把に呼ばれてるこの大陸は、南北に歪んだ形で伸びた楕円形をしているらしく、レイキアはその北半分のさらに東半分くらいを支配しているらしい。その北半分の中央にはゼンフト大鉱脈と呼ばれる山脈が南北に走っていて、その西側はエルフ達が治めるミシュヌ大森林が広がっているそうな。


「え、じゃあやっぱり、ドワーフとエルフの仲って悪いの?」


 という先輩の直球な質問には、メイドさん達が顔を見合わせた上でうなずいた。

「ゼンフト大鉱脈の中央付近には、レイキア工国第二の都市で、資源の掘削と精錬や加工などの中心となっているメレディトがあります」

「つまり、そこで使う木々を求めて?」

「それもありましたが、すでに過去の話となっています。これ以上は、私どもの口からは・・・」

「わかりました。ありがとうございます、助かりました!」


 そんな一区切りがついたところで、ドアがノックされてオゴロフさんと、その後ろから王冠を頭に載せたドワーフの壮年というか老年?男性が入ってきた。

 真っ白な長髪も髭も複雑に編まれてて、深紅のマントや衣装は数え切れないくらいの、金銀宝石の凝った細工物に飾りたてられてて、背こそ自分達よりはっきり低いものの普通のドワーフよりははっきり高く、苦み走った彫りの深い顔立ちにも瞳からも威厳が感じられた。


 思わず、先輩につられるように立ち上がってお辞儀をしていた。

「よい。神々に選ばれた者達よ。座ってくれ」


 先輩がまた一礼してから座ったので、自分達もまた同じようにした。

「現国王のラダーグ・エイ・レイキア十三世だ。わざわざ足を運んでもらっておいてすまないが、最初にはっきりと伝えておく。レイキア工国は、どの候補者にも、特別に肩入れはできない」

「それは、例えば火の大神の加護を受けた者でも、でしょうか?」

 先輩の一声に、自分も竜頭も声を上げそうになったが何とかこらえた。国王はそんな反応に目を留めながら、穏やかに答えた。

「そうだな。もし火の大神の加護を受けし者にそなた達が声を届けられるのであれば、少なくともレイキアにいる間は隠し通す事を勧めておくのだな」

「理由を伺っても?」


 竜頭の声は少しだけだけど震えていた。納得が言ってない表情もしていた。普段クールに振る舞っていても、いざとなると内心が表情に出やすいのは、マウンド上でも変わらない竜頭の悪癖だった。


「この国と隣国との関係については知っているか?」

「エルフ達と、山脈を挟んで隣り合っていて、あまり仲が良くないというくらいまでは」

「そうだな。そして、エルフ達は、はっきりと、神々の大戦の駒に選ばれた者達を狩り出そうとする事を覚えておくといい」

「それは、なぜ?」

「もしかして、過去に何かあったのですか?」

「そうだ。太古の昔から、ドワーフとエルフは反目しあっていた。西大陸の南側には広い砂漠が広がり、今は魔物くらいしか住んでおらんが、往古には肥沃な森林が広がっていたという」

「えーと、過去の大戦の候補者が、やらかした、とか?」

「ああ。レイキア工国の過去の王もまた、利用しようとした。エルフ達もまた対抗するように候補者達を探し出して対抗しようとして、彼らの愛する森林を深く傷つけ、少なからぬ部分が喪われた。

 以来、彼らは神々の大戦に関して、拒絶反応を起こすようになった。樹木などに関する神の加護を受けた者でも、その者を狙って敵対する候補が来たらまた同じ事が行われるとな」

「彼らの領域に近付かなければ大丈夫なんですか?」

「力や立場をひけらかしていなければな。彼らとて公然と候補者達を狩り尽くす様な真似は出来ない。ただ、彼らの領域に迷い込んだ者に関しては容赦されないと聞いている」


 竜頭の顔が青ざめていたので、背中を何度か優しく叩いて励ましておいた。先輩は、そんな自分達の姿を横目で見つつ、質問を重ねた。


「慎重に行動するというのはわかりました。けれど、例えば彼らが鑑定スキルを持ってたり、その為の魔道具みたいのを使ったら、神々の大戦の駒だってばれてしまうんですか?」

「ああ。だから、彼らの領域には近付かない事をお勧めする」

「わかりやすいじゃないか。良かったな、竜頭!はっはっは」


 星の反応はもうゲロってるような物だったが、突っ込みは確証を与えるようなものだったのでスルーしておいた。


「さて、ここまで話しておいて何だが、我から私的な頼み事をしたいと考えておる。もし受けてもらえるなら、それなりに有用な褒美を授けよう」

「エルフ絡みですか?」

「直接的には絡まないが、絡む可能性もある」

「内容と報酬次第ですかね」

「ちょっ、先輩!何を勝手に!?」

「落ち着いて、|アキラ。昨日から今日にかけて、私達はもう捕捉されてる可能性があるの。猪狩がドワーフさん達に捕まった時に、監視の目はドワーフさん達の物かと思ってたけど、違ったみたいなのよ。で、そんな私達がドワーフの王宮にお呼ばれしてのこのこ出て行ったら、他の候補者達とは格が違う要注意人物になってると思わない?」


 竜頭の表情から血の気が更に引いていったので、自分は先輩を咎めた。


「脅かしすぎです、先輩」

「ごめんね。でも、命がかかってるんだから、目を背けちゃダメでしょ。という訳で、先ずは依頼内容から教えてもらえませんか?」

「・・・我の二人の息子が王位継承者として競っているが、どちらにも決まりかねているという話は聞いているか?」

「街の噂程度には」

「長男のダハーツの気性は荒く工芸にあまり向いておらんが、乱世の王として求められる資質はダハーツの方が備えておるだろうな。

 次男のレイグモの気性はおとなしく工芸にも長けているものの、王としての覇気は欠けておる」

「でも、自分で作った物で資格が決められるのなら」

「そうだな。だが、レイグモは我の妃のうちで、唯一人間の母親から生まれた。これまでも混血の王は何人もいたからその事自体は負い目にならないが、混血の王は、ドワーフの女性を正妃に迎えねばならない」


 ここで王の視線が自分を正面から捉えたので、なんとなく話の方向性が見えた気がした。


「もしかして、エルフの女性と?」

「正確には、エルフの現女王の数多くいる夫のうち、唯一残っていた人間の夫との間に生まれたハーフ・エルフの娘だ。王位継承権は末席とはいえ、女王に連なる者だ。こちらとしても、あちらと無用な諍いの種を生む関係は断っておきたい」

「でも、当人同士が望んでいるなら・・・」

「我も、女王の直接の血縁で無ければ、口を挟もうとはしなかっただろう。だが、もしエルフの女王との間に、新たな(いくさ)が起きかねないとなればな・・・」

「待ってくれ。その話が、どう俺達に絡むんだ?当人を説得してあきらめさせろっていうなら、別に俺達じゃなくても」


 竜頭の抗議に対して、オゴロフさんが咳払いして、俺に向かって言った。


「どの神から加護を受けられているかは探りませんし、聞き出そうとはしません。が、あなたのご助力があれば、幾百千の無用な犠牲が避けられるかも知れないのです。どうか、お力添え頂けないでしょうか?」

「我からも、頼む」


 オゴロフさんと王様から揃って頭を下げられてしまった俺は、思わず天を(実際には天井を)仰いでしまった。


<どうするの?>


――神様らしいアドバイスなんてありますか?


<まずは、あなたらしい答えを返してあげれば?>


――それもそうでしたね


 俺は頭を下げたままの二人に応えた。


「ええと、まずは頭を上げて下さい。お願いですから」


 二人は面を上げたけど、頭は下げたままだった。くそっ、ドワーフって頑固なんだっけか?とか内心ぼやいてから早口で続けた。


「無理矢理ってのは、自分はやりたくないです。特に、相思相愛な状態にある二人を引き裂くようなのは・・・」


 王様は、姿勢を元に戻すと、部屋の外に向かって声をかけた。


「御礼の品を持て!」


 そして運び込まれたのは四枚のマントと、紐を留めるブローチだった。


「いやあの御礼の品と言われても、依頼を受けないのであれば」

「これは、敵対的な魔法やスキルの大半を防いでくれるマントです。ミスリルを縫い込んでありますから、矢や剣などに対する防御性能も高い逸品です」

「鑑定や気配察知とかも防げるんですか?」

「もちろんです。ただ、相手が相当の高位の者であれば防げない可能性は生まれますが、普通に身体にまとわりつかせて動かないでいるだけでも、魔物の類でもやりすごす事ができるでしょう」

「ちょ、先輩?」

「それで、このブローチは?」

「レイキア国王の保護を受けている者の証となります。つまり、あなた方を監視している者達への牽制以上の抑止効果はもちろん、レイキア国内で最大限の保護や融通を受けられるようになります」

「依頼に失敗した場合は、没収?」

「レイキア工国の密使や隠密などに使われる物ですから、あなた方が道半ばで倒れられた場合などは回収させて頂きますが、そうでない限りはそのままお使い下さい」

「じゃあ、成功した場合は?」

「先輩!何を勝手に!?」

「トオルはちょっと黙ってて。最悪、王宮から出てすぐに付け狙われて、遠距離からあっさり暗殺されるかも知れないんだよ?」

「ぐっ・・・」

「トオルのポリシーは立派だし、尊重してあげたいよ。でもね、それって、トオルにとって、竜頭や星の命や身の安全よりも、尊重すべき事なの?」

「・・・・・その言い方は、卑怯ですよ」

「でも、事実でしょう?」


 自分は、答えられなかったので、王様が先輩の質問に答えた。


「成果が確認されて、しばらく観察してもその状態が元に戻らないようであれば、おそらくそちらが望むだけの褒美を渡せるだろう」

「お金とか、魔法の武器防具とかでも?」

「国宝級の物でなければ、都合はつけられよう」

「だってさ。トオル。ドラクエとかのRPGで、木の棒と布の服でスタートするのと、ラスボスにだって挑戦できるような装備をもらってスタートするの、みんなの生存率とか今後の成長効率が、断然違ってくるんじゃないかな?」

「それは、そうなんでしょうけど・・・」

「徹。俺はお前の判断に任せる」

「そうだぞ!お前は俺が守ってやるって!心配するな!」

「二人ともありがとうな」

「それで、どうするの?」

「・・・・・依頼を受けるかどうかは、当人達と会って話してみてから決めても、いいですか?」

「とりかかってみてもらえるなら、それでも構わない」

「ありがとうございます。それでいくつか聞いておきたいのですが、もしその次男の方が、ハーフ・エルフのお姫様?と一緒になると決めた場合、彼は王位継承権争いから自動的に脱落する事になるのですか?」

「いや、揉めはするだろうが、そうはならない。当人がそう望まない限りは」

「なるほど。あと、王子達の仲は、悪いんですか?」

「いいや、性格の違いからか、逆にお互いを認め合っているような仲だ。そりが合わない部分はあるだろうが、決して剣呑な関係ではない」

「じゃあ、もしも次男のレイグモ王子がハーフ・エルフのお姫様と一緒になると決めて結婚して、王位継承権争いから離脱すると決めても、それは認められるのでしょうか?」

「当人達に、その覚悟があるなら、な。我が聞いている限りでは、ハーフ・エルフの娘、アラシェはレイグモと気安い仲ではあるが、生涯の相手としては面倒事が積み重なり過ぎそうで断りたいと本人にも伝えてるそうだが」

「微妙ですね・・・」

「えっと、じゃあさ。そのアラシェさんが、別の相手を好きになれば、レイグモさんも諦めるんじゃないの?」

「結果が伴えば、課程は問わない」

「じゃ、それで決まりでいいよね、トオル?」

「勝手に決めないで下さいよ。彼女の本当の気持ちだってわからないのに」

「でもさ、猪狩の気持ちは無視したよね?」

「でも、それは・・・」

「私の為とか、これからの面倒事を避ける為とか、いろんな理由で判断してくれたと思ってるよ。なら、これも同じじゃないの?」

「自分とか身近な人の為と、そうでない人の為ってのは、同じに出来ないですよ」

「そうするに十分な理由さえ出来れば良いのか?」

「一概にそうとも・・・」

「もしエルフの女王とのいざこざから何か一つが悪い方向に転がれば、その余波で死ぬのは十や百の位では済まないだろう。

 だが、縁も薄いか皆無な他人がいくら死のうが知った事ではないというのも、頷ける道理でもある。そうだな?」

「そこまでは言ってませんが」

「神々の大戦の参加者は、元居た世界から強制的に連れてこられて参加を強要される。負ければ死だ。そんな世界と人々に慈悲の心を持てと迫るのも無理筋なのも分かる。

 だからこそ、そちらにとっての利を積み重ねよう。先ほどのマントとブローチは手付け金の様な物に過ぎぬ。レイグモの居るメレディトへは王家の持つ移動手段で護衛付きで送り届ける。

 そして成果次第で、絶対に報いる。レベルに応じたダンジョンを貸し切りにしても良い。そちらにもガイドなり護衛を付けるのも望みのままだ。世界でも随一の性能を持つドワーフの匠作の武器防具も提供しよう」

「ちょ、ちょっと待って下さい・・・!」

「さらに、だ。王家の総力を上げ、首都ミズガルドでも、メレディトやそれ以外の都市や町や村でも、そなた達の同胞を捜し出し、探れる限りの情報も収集しよう。これは、そなた達の今後の戦いにおいて、絶対的な有利(アドバンテージ)として機能する筈だが、いかがか?」

「・・・・・・それは、ズルじゃないですか」

「神々の大戦だぞ?最終的に一人しか生き残れないのだぞ?そなたはそなたの近しい者達と最後まで戦い抜くと決めておるのではないのか?ならば、得られる限りの利を最大限に活かさずにどうする?」


 卑怯だと感じた。大人のずるさというか、ぐうの音も出ない正論で固められて、答えられなかった。

 答えられないでいる自分に、竜頭が助け船を出してくれた。


「行ってみて、決めればいいだろ?お互いが相思相愛なら無理って決めたっていいんだ。俺だって、お前と訳の分からない力で無理矢理別れさせられるとなったら、全力で抗がうさ」

「同感だな!トオルがためらいを感じるってのも、らしくて好きだぞ、俺は!惚れ直した!」

(あきら)比由馬(ぴゅうま)・・・。ありがとう、二人とも。王様、とりあえず行って二人の様子を見て、話も聞いてみて、それからどうするか決めたいと思います」

「わかった、それで良い。護衛も送迎も付けよう。首尾次第で、その後の報酬の内容も変わるのでな」


 そうして、自分達四人は、王家専用船着き場から、首都ミズカルドとメレディトをつなぐラクマフ川を王家の動力船を出してもらって、第二王子レイグモとそのお相手と見なされているアラシェさんに会いに行く事になったのだった。


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