鍛冶屋巧の場合1
今日二個目の投稿です。
平等院美保。
彼女が、ぼく、鍛冶屋 巧の小学校二年生以来の幼なじみで、円上高校二学期の始業式で異世界の主神を決めるデスゲームに巻き込まれて、ついさっき、彼女に乱暴しようとしてた野球部員の一人に、お腹を剣で突き刺された。正確には、彼女を引き離そうとして介入したぼくを庇って、刺されてしまった。
「みほおおぉぉぉ!」
ぼくは思わず叫んでいたけど、
「黙れやゴミが」
と彼女を刺した奴の仲間の一人に腹を蹴られた。呼吸が止まった。苦しかった。痛かった。自分の親友の堀田尽もまた、すぐ近くでもう一人別の野球部員にぼこられて丸まって呻いてた。
誰も、助けてくれない。
異世界転移なんてファンタジーな出来事が起きても、都合良く助けなんて現れないみたいだ。
それでも美保の方を何とか見たら、彼女は自分のお腹に出来た傷口に手を当てると、ぽそりと言った。
「私のお腹にだけ傷口が出来てるのは、平等じゃない」
「ぐっ、えっ!?」
美保を刺した奴が、唐突にお腹を抑えて地面に転がった。だけでなく、お腹から血を流してのたうち回ってた。
「み、ほ・・・?」
美保は、仲間が倒されたのに気が付いたもう二人の片方を見て言った。
「私が傷ついて、あなたが傷ついてないのは、平等じゃないわ」
さっきとは違って、もう一人は腹から血を流して地面に倒れ込みはしなかったけど、美保は傷口に当てていた手を離した。その制服も手を血に染まっていたけど、その制服に空いた穴からはもう血がしたたり落ちて無いように見えた。
「平等院、お前、何しやがった!?」
「加護スキルって奴だろ!殴り倒して気絶させれば、後はヤリ放題だ、ぜっ、てぇぇぇ!?」
最後の奴、尽をぼこってた奴が美保に駆け寄って、殴り倒した。けれども、殴った奴もその一瞬後には同じように頬に何かがめり込んで地面に打ち倒された。
「痛いわね。この痛みを味わうべき奴が味わってないのは不平等じゃない?」
すると、もう一人の、何が起こってるのかわからず混乱してる奴が、手のひらに炎の玉を出現させた。
「これでも食らえ!ファイアボー」
「ファイアボール」
火魔法のスキルは取ってない筈の美保が先に炎の玉を投げつけ、美保に炎の玉を投げつけようとしてた奴は顔に炎の玉を食らって火踊りを始めた。
絶叫しつつ、言葉にならない言葉をわめきちらしながら、やがて顔を地面に押しつけて炎を消そうとしたけれど、残念。ドワーフの都市だし、最低でも石畳なんだよね・・・。
美保は、自分を刺した相手が持ってた剣を拾い上げると、血を流してのたうち回ってたのと、火だるまになって転げ回ってたのに、さくさくとトドメを刺していった。
あっさりと仲間が殺されて、残り一人になった奴は、美保を指さして非難した。
「お、おまっ、お前ぇ!俺達はお前達を殺すつもりは無かったんだぞ!それを」
「嘘だよ。私だけは性欲処理の為に生かしてやるけど、野郎二人は要らないから処刑な、って言ってたじゃん」
「そ、そんなの、言葉の綾だろ!」
「見苦しいし、聞き苦しいよ。異世界に来てまで言い訳しか口にしないんだね。自分から何か行動起こすのも怖くて、誰かの尻馬に乗る事しか出来ない。そんなんだから、万年補欠だったんですよ。松江先輩?」
「うるせぇっ!お前なんかが俺に説教できる立場かよ?」
「ほんのついさっきまで一方的に襲いかかってきて、陵辱してやるだの性奴隷にしてやるだのそれをありがたく思えだの、当たり前に拒絶したら何を思い上がってやがるんだとか、俺の肉棒で身体に思い知らせてやるとか、まぁ好き放題言ってましたよね。有り体に言って、人間のクズでしょ」
「ざけんな!人をクズ呼ばわりする奴がクズに決まってんだろが!」
「小学生かよ。もういいよ。終わって?拒否権は無いよ」
「そう言われておとなしく終わる奴がいるかってんだよ!俺は野球部の中でも足が早い方だったんだ。お前らに追いつかれるもんかよ!?」
そして逃げ出した松江いう生徒は、唐突にくるぶし辺りを押さえて転んだ。というか、
「け、腱が、腱を切りやがったな!?」
ふと脇を見ると、自分のアキレス腱から剣の刃を引いた美保がいたけれど、そこにはもう傷跡すら無かった。
いや、当人も痛い思いはしてるだろうけど、彼女に加護を与えた平等の女神の加護スキル、反則だろ!?
「さて、覚悟はいいですか、松江先輩?」
「ざ、ざっけんな人殺しが!おい、神様なんだろ!何とかしろや!?ザッ」
「もう死んで?」
美保は、自分の右胸に剣を突き刺した。背中から剣先が飛び出して、すぐに抜いて傷も消えたけど、痛みが無い訳じゃない、筈。
ぐふっ!、みたいな声が二組聞こえて、倒れてる松江先輩が右胸を押さえて呼吸もできないような状態に陥ってた。
「Mっ気は無いつもりなんだけど、あんまり慣れたくないかな」
美保は口元についた血を袖で拭い、呼吸を整えつつ松江先輩に近づき、喉に剣を突き刺してトドメを刺した。
先に殺された二人の死体と同様、松江先輩の死体も薄れて消えて行き、加護のメダルと財布と血の染みだけが地面に残された。
「さて、と。メダルはあんまり期待できないだろうけど、二人とも大丈夫?」
美保は三枚のメダルと三つの財布を拾い集めて戻ってきた。
「美保こそ、大丈夫なのか?」
「平等の神様の加護スキルのお陰で、なんとかね。苦労した甲斐あって、メダルも三枚手に入ったし!」
「・・・本当に、勝ち抜くつもりなのか?」
「最終的な勝者になるのはむずかしいかも知れなくとも、少なくとも、中尾先輩はゲットしてみせるよ!」
メダルを手にぐっとガッツポーズしてみせた美保の姿に、思わずため息をついてしまった。
「何よ、文句あるの?」
「中尾先輩達は、女性に興味関心無いだろ。無理矢理どうにかするつもりなのか?」
「全部が全部を無理強いするつもりは無いけどね。デスゲームでしょ?一人しか勝ち残れないんでしょ?なら、なんだってありだよね!」
「何度も告白やアプローチして完璧に断られ続けてるんだろ?ストーカーが過ぎて危うく野球部のマネージャーから追放されるところを改心したって事で残してもらったんじゃなかったのか?」
「改心してたよ?つきまといとかも止めてたし。でも、それはあの後普通の人生が元の世界で続いてたらの話でしょ。このまま行けば死ぬか殺される運命しか待ってないんだから、私はもう何もためらわないよ!」
「はぁ・・・」
「巧は鍛冶、尽君は採掘の神様から加護をもらったけど、どう考えても直接的に戦闘向きじゃない。幸先良く三枚ゲット出来たから、最悪でも最初の一ヶ月はしのげるよ」
「美保の言う事を聞いて、美保のやりたい事に協力するなら、だろ?」
「もちろん!そのために組む事を許してあげたんだからね!役に立ってもらうよ!?」
悪い子では無かった筈なのに。
新たにゲットしたメダルの加護スキルの内容でも検分してる美保の姿は、自分が見知ってきた幼なじみの女の子の姿とだいぶ重ならなくなってきた。
それでも、この異世界デスゲームに巻き込まれて、積極的に誰も殺したくない自分としては、美保を放っておける筈も無かった。正直、美保の目的に協力したくは無い。だけど、それが彼女が生き残る為の活力となるなら、助力するしかない。ぼくも、尽も、どう考えても大量虐殺してまで生き残る為に足掻けるタイプじゃないし。
メダルの検分を終えた美保は、財布の中身をざっと確かめて言った。
「巧は鍛冶道具は、その加護スキルで鍛冶に必要な空間を生み出せてそこに一通り揃ってて、尽はどこでもなんでも掘れるツルハシがあるから、装備もお金もそこまで必要無いよね。だから、最初の鍛冶に必要な素材を買って、それから初級武器防具を作れる様になればいいかな。メダルは基本的に私が預かっておくけど、生産活動とかで必要な時は貸し出しもするから」
美保はまた平等の女神スクリーエの加護スキルを使って、ぼこぼこにされてた筈のぼくと尽の怪我をきれいさっぱり消し去ってくれた。うん。反則スキルずるい。でも、そのお陰で助かったのも事実。
「情報とお金とメダルとか集めながら、中尾先輩達探すよ!」
「すぐに接触するの?危ないんじゃない?」
「エースピッチャーの竜頭先輩は火の大神、抑えのエースの星先輩は投擲の神、そこまでは星先輩が大声で暴露してくれてたけど、中尾先輩は不明。たぶん三人と一緒にいるだろう櫟先輩のもね。うん。下手に近づいたら、私が真っ先に櫟先輩に消されるだろうね」
「でも、平等の神様の加護スキルなら?」
「それでも良くて相討ちかな。向こうも私がどこかで近付いてきて、櫟先輩を排除しようとする事は予測できてるだろうし。だから、二人とも役に立ってもらうよ!」
「どうやって?」
「もちろん、二人の加護スキルと生産能力を活かしてだよ!ここは、ドワーフ達の王国なんだし!」
瞳をきらめかして決心した美保の笑顔から目をそらせない自分に気づいて、ぼくはまたそっとためいきをつくのだった。