中尾徹の場合2
今日は出だしでもあるので、夜にも短めのをアップする予定です。
その後は、一日一つずつ上げていく予定です。
「背の低い男性が多い?」
「ごつくて、髭面というか、顎髭伸ばしてるのが多いな!」
「ドワーフだよ。ファンタジー世界のテンプレの一つ。鉱山でレアな鉱石掘り出したりとか、そんな鉱物資源を元に高性能な武器防具やお宝を生み出したりする、主に鍛冶屋向け種族、かな」
「櫟先輩の嗜好はあまり好きになれないけれど、いてくれて助かりました」
自分もそうだけど、竜頭も星も、あまりゲームやアニメやマンガとかの類に明るい方じゃなかったし。
「適材適所ってやつだから気にしないでいいよ~」
手をひらひらとさせて、にししと笑いながら、武器屋もまた先輩が見つけてくれた。
金属製のごつい剣や斧や槍や盾や鎧や兜なんかが、所狭しと壁や棚に陳列されてて、店舗の奥には店番なのだろう、若めのドワーフの青年?らしき人物がいた。まだ髭はあまり伸びてなくて、喉が隠れるかどうかといった長さだった。顔のいかつさもまだ無くて、表情の柔らかさからも自分達と同じくらいの年頃なのかなと思ったりした。
店をぐるりと巡ってみて、イメージしてたような棒が無いので、彼に話しかけてみた。
「あの、戦闘にも使える棒を探してるんですが、置いてませんか?」
「棒?薪みたいな枝のではなく?」
「ええと、棍棒というか、棍って言って伝わるのかな?」
少林寺拳法とか中国映画に出てくるようなのをイメージしていろいろ説明してみたがうまく伝わらず、
「ちょっと待ってて。爺ちゃんに聞いてみるから」
店番の彼は、奥の扉からどこかに行くと、やがて一人の老ドワーフ(真っ白な髭の長さはくるぶしくらいまであったし、顔中に刻まれた皺の多さが年輪を感じさせた)を連れて戻ってきた。
お爺さんは自分をじろじろと眺めた後、問いかけてきた。
「棒が欲しいとな。しかしその体つきでは重い物は振れまい?」
「ええと、丈夫な素材であれば、木製でもいいかなって思ってたんですが、お門違いでしたでしょうか?」
「戦い慣れた風体には見えんし、何と戦うつもりなのだ?」
「ちょっと説明しにくい理由で、自分たちの同胞と、になるのかな。元、が付くかもですが」
お爺さんは、連れの三人の体格なども見て取ると、
「自分よりも何倍も大きな魔物を相手にするのでなければ、総鉄製の金棒などはおそらく過剰だな。ちょっと待っておれ」
待つ間に、先輩は店番の彼から世間話でこの都市や国に関していろいろ聞き出していたが、ほどなく戻ってきたお爺さんは数本の武器を手にしていた。
一つは鉄製の六角棒みたいなので、自分の身長くらいの長さがあって、最初にそれを渡された。
「持って、振れるか試してみろ」
「はい、って、重っ!?」
「大丈夫か、とおるっ?」
持ちきれずに取り落としそうになったのを、星がフォローしてくれたので、足の甲に落とさずに済んだ。両手で握って持ち上げるのがやっとで、ベンチプレスの重り付きな感じで、武器としては扱えなさそうだった。
「ありがとう、比由真。これは、自分には無理そうですね」
「そうか。では次はこれだ」
お爺さんは、ひょいと片手で六角棒を取り上げると、半分くらいの長さの金棒を渡してきた。
「さっきのより・・・、重いっ!?」
鬼ヶ島の鬼なら片手でぶんぶんふりまわしてそうな、とげとげがびっしりついた金棒は、両手でもまともに持ち上げられもしなかった。
「貧弱じゃのう。戦うのには向いてないのではないか?」
「向いてないかも知れなくても、戦わなくちゃならないんです。長さは、この金棒よりちょっと長いくらいで、この金棒の半分、いや2/3くらいの重さの金棒って作れませんか?太さは、頑丈ささえあれば特にいらないので」
「特注になるぞ?安くはない買い物になってもいいのか?」
「金貨5枚から10枚くらいに抑えてもらえるとうれしいな~、ってやっぱり無理ですかね?」
ドワーフのお爺さんは長い長い顎髭をしごきながら、俺の周りをぐるぐると回りながら、腕や足の筋肉をぎゅっと掴んで、鍛えてはおるようじゃな、とかつぶやいてたけど、やがて店番の若いドワーフに言いつけた。
「井戸の水を汲みに行く時、水桶を担ぐ為の棒があるだろう。あれ持ってこい」
「ええ~、あれ無いと不便なんだけど」
「木材屋とかから切れっ端をもらえば代わりくらい作れるだろ。お前の小遣いにしろ。わしが手がけるには安過ぎる」
「ん~、それなら、ま、いっか!」
若いドワーフは外に駆け出すとすぐに戻ってきた。自分の身長くらいの長さの真っ直ぐな棒は、理想的な長さに見えた。
「手にとって、振り回してみろ」
お爺さんに言われて、昔見たカンフー映画の真似をしてびゅんびゅん振り回してみたけど、すぐに止められた。
「町中の喧嘩になら十分じゃろうが、殺し合いするには不十分じゃな。棒の両先端部分を鉄板と錨で補強してやれ」
若い彼は、店のカウンターでさくさくと工作を進め、握りの部分に革を巻いてくれたり、重さのバランスを取ってくれたりして、十五分くらいで、水桶を運ぶだけの棒を立派な武器に仕立てあげてくれた。
「ありがとう。ええと、名前は?自分は、トオルだよ」
「俺か?俺はオーナ。トールか。いい名前だな。気に入ったから、代金は金貨5枚でいいぞ!」
「助かるよ。重ねて、ありがとう。お爺さんも」
「ふん。駆け出しは死にやすいからな。死ななかったらまた顔を出せ」
「そうさせてもらいます」
「あー、そしたら、こういうのってあります?もしくは作れます?」
先輩は、流星錘という、金属製の重りに縄をつけただけの武器を星用に格安で作ってもらい、その作業中にまたお勧めの宿やら、食堂、この町で注意すべきことなどをさらに聞き出していた。
お世話になった武器屋(オーロの誇りという看板の店名は、たぶんあのお爺さんの名前なのだろうと推測できた)を後にすると、教わった宿屋へととりあえず向かいながら、町の様子を眺めて回った。
「ドワーフの都市とは言っても、ドワーフは半分くらいか?」
「人間が残りの1/4くらい、残りが他の種族だけど」
「エルフはほとんど見かけないね。定番通り、仲悪いのかな」
「どうして定番だと、エルフとドワーフの仲悪いんですか?」
「そりゃあ、ドワーフは鍛冶の為とかに木を切るから。森と共に生きるエルフにとっては目の敵にされるのが自然な流れって奴よ。
ま、レイキア工国はお家騒動の真っ最中らしいけど、表通りで噂するのは不用心らしいから、宿で部屋取ってから作戦会議しようか」
武器屋で紹介してもらった金床の囁き亭って宿屋で二部屋取るか一部屋取るかでも少し揉めたけど、安全面でも経費面でも一部屋しかないという結論に至った。けれど、
「自制して下さいね、先輩」
「我慢だ。我慢できなかった時は、わかってるよな?」
「もし許容ライン越えてきたら、即座に叩きだしますからね?」
「わかってるって。このイチカ様を見くびらないで」
「どうだか」
「これまでが、なぁ・・・」
「うんうん」
「反省はするが後悔はしていない!」
男三人がダメだこりゃと顔を見合わせため息をついたけれど、ため息つかれた相手は気にせずに場を仕切り始めた。
「で、さ。そんな些細な事より、この異世界の主神を決めるっていうデスゲームに、どう臨むか、だよ」
「どう、とは?」
「勝ちにいくか、いかないか、だよ。その方針次第で、全てが変わるじゃん」
「勝ちにいくなら、強制転移させられた円上高校の生徒や教師達ほぼ全員が、敵になるし、殺し合いの対象になる、か」
「俺は、殺さないぞ!少なくとも、トオルと、おまけでアキラもだ」
「まぁ、俺もそんな感じだよ」
「自分もだよ」
「ナチュラルに除外された私だけど、そこは今更なんでいったん脇に置いておくとして」
「そういえば先輩、ナチュラルに二人に混じってたからスルーしてましたけど、どうして」
「それも後回しにしておこ。少なくとも私からあなた達三人に危害を加える事なんてあり得ないから。動機なんてここにいるみんなが知ってる通り、あなた達三人がこの一大危機をどう乗り切るか、可能な限り最後まで、一番近くで、見届けたいだけ!」
「まあ、そりゃそうなんでしょうけど、いざとなったら、自分達の矛先は先輩にも向きますよ?」
「一ヶ月の間に一枚も増やせなかったら、ランダム対戦に強制的に巻き込まれるしね。いいよ。そんな覚悟はとうに済ませてるし」
櫟先輩の瞳はきらきらと輝いたままだった。飄々としてつかみ所が無くてさばさばしてて、そのまま他人とか知り合いとしてくらいなら理想的な存在だったのだろうけど、なぁ・・・。
「話を戻すよ。三人とも、このデスゲーム、勝ちにいくの、いかないの、どっち?」
「俺は、トオル次第だっ!トオルが勝ちにいくのなら、全力で支える!誰だって敵に回して打ち倒してみせるっ!だけど、もし誰も手にかけるなっていうなら、それはそれで、トオルらしさでも、あるだろうからな。受け入れる。まぁ既に一人手にかけてるようなもんだけどな」
「先に言われちまったけど、俺も星と同じかな。俺個人の希望としては、勝ち残りたい。最後の二人まで勝ち残って、最後の一人の座を徹に譲りたい」
星と竜頭の真剣な眼差しと真心を向けられて、心が揺り動かされた。
二学期の始業式。校長の挨拶前に唐突に現れ、デスゲームの開催を宣言した全身白タイツのっぺらぼう姿の主神とやらが、その場にいた全員に味わわせてくれた苦痛は幻痛じゃなかった。実際には数分に満たないだろう、あらゆる死に方の痛みを再体験したいとは思えなかった。
神様との面談と、抽選会場とこの異世界への転移、その直後の襲撃と撃退、そして襲撃犯の死体が消えていき、神様の加護メダルと所持金とアイテムのみがその場に残された事などからも、全てが冗談や夢の類で済まされるものではない事もわかっていた。
恋の女神様から加護を得るとか、訳の分からない状況ではあるものの、この二人を自分の我が儘で死なせたくはないというのは正直な心境だった。
「自分は、勝ちにいきたいっていうか、負けたくない。殺されたくないし、竜頭や星にも死んでほしくない。殺されるなんて想像したくない」
「私は?」
「二人のついでくらいになら、やっぱり殺されてほしくないとは思ってますよ」
「ありがと。それじゃ、大方針として、勝ち残りを目指すって事でいいかな?」
三人ともがうなずいたのを見て、櫟先輩は続けた。
「じゃ、とりあえず必要になるのは、情報収集とレベル上げ。それから襲ってきた相手を倒してメダルを奪う事。最低ラインは、ランダム対戦に巻き込まれない為の、一人当たり月一枚以上だけど、先頭集団が突っ走る事を考えるのなら、そして最終的な勝ち残りを考慮するなら、大きく引き離されるのは望ましくないだろうね」
「先頭集団て、そんなのいるのか?」
「メニュー画面開いてみ?そこのダッシュボードに獲得メダル数とか、レベル、所持金額ごととかでランキングも表示されてるから」
気づいてなかった自分もメニュー画面の開き方などを遅蒔きながらも教わり、ランキングや大陸別掲示板などの存在を見つけて、その内容に驚いた。
「げ、もう十枚以上メダル集めた奴いるのかよ!?」
「この陰宮っての、誰だ?」
「さあ?」
「とあるクラスのいじめられっ子だよ。クラスメイト達に囲われて、レイキアの出口から出て行ったの見たけど、囲おうとした連中が逆に食われたんだろね」
なんかそんな奴がいると聞いた事あるような気もしたけど、特に何も行動起こしてこなかった自分が気になったのは、別の事だった。
「つまり、そいつが得た神様の加護がやばいって事?」
「おそらくは、ね。囲おうとした連中が皆殺しにあったみたいで詳しい話は掲示板にもあがってきてないよ」
「記憶に残ってない、印象の薄かった奴にも要注意って事か。やっかいだな」
「いざとなったら俺が敵を全員ぶっ飛ばしてやるぜ!」
「拳とか武器が当たれば、ね。当たっても無効化されちゃう相手もいるから、そこは頭の片隅に残しておくように!」
「おうっ!」
「それでね、メダル枚数も、レベルも、あまり引き離されるときつくなるし、生活費含めてお金も稼がなきゃいけない。つまり、優先順位を決めて、時間配分してかきゃいけないけど、どうする?」
「メダル枚数の方が競争になるんじゃないのか?」
「いや、レベル差がついてたら、枚数は後からでも逆転できるんじゃ?」
「どっちもじゃダメなのか?」
「ダメって事は無いよ。こういう異世界転移とか転生ものの鉄板で、冒険者ギルドで登録とかあるし。そこで依頼を受けながら、経験値とお金貯めて、その間に襲われたら撃退してメダルもゲット!が一番美味しいと思う」
先輩の提案は合理的に聞こえた。けど・・・
「えーと、こういうの、なんて言うんだっけ?」
「異世界行ったら本気出す、とか、アニメかなんかのタイトルで聞いた事あるような・・・」
星が真顔で先輩の両肩をがしっと掴み、何度も無言でうんうんとうなずいた。
「ちょっ、止めなよ!私は単なる趣味とかの一環の知識として、たまたま知ってただけで、待ち望んでなんかいなかったんだからね!」
「強調しなくてもいいですよ」
「頼りになります!いや頼らせて頂きます!さすが、すてきな先輩!」
「その哀れむような視線と、投げやりな賞賛を止めろおぉぉっ!」
とまぁ、そんなおバカなやりとりなんかを挟みつつ、対応策を相談していった。学生服は目立つから売ってお金にしてしまおうとか、そのお金で武器防具買い足して、冒険者ギルドに登録しようとか。
誰も反対しないような話題がしばし続いてから、竜頭が先輩に問いかけた。
「それで、自分の能力は、いつ活かすんですか?」
「火の大神の加護を受けてて、たぶん、炎の温度や出力調整を思うままに出来てしまう加護スキルについて?」
「そうそう。今日寄った武器屋の人とか、ドワーフだけど、信頼出来そうだったし、そこから伝手を頼ってとか」
「まだ、もう少し様子見して情報集めてからのが無難だよ。このレイキア工国の工王様の跡継ぎで内乱が起きるかも知れないって噂、お店で教えてもらったでしょう?」
「工王になるには、血筋だけでなく、自らの作品・技能で、工王としての資格を証明しなくてはならないけれど、二人いる息子のどちらもまだ合格点に達せないでいる、でしたっけ?」
「そんなところに、超便利な加護スキル持ちが現れたら、スゴい争奪戦が起きる事くらいは、予測つくよね?」
「それは、そうですけど・・・」
「火の大神の加護を受けてるってだけでも、なんかすごいんじゃね?って、めちゃくちゃ期待されそうだし」
「ドワーフって、エルフほどじゃないけど、人間よりずっと長寿だったりするから、神々の主神を決める500年ごとの大戦についても、記録や記憶が引き継がれてるかも知れないしね」
「てことは、煒はあれだね。脳ある鷹は、爪を隠すだっけ?」
「でも、活かさないのも、もったいない感じがするんだよな。うまくやれば、すごいリードを序盤から稼いで、そのままぶっちぎれるかも知れないし」
「その可能性があるのは否定しないけどね。大神は他に六柱いて、そのどれもが、火の大神と同等の力を持っていると用心しておくべきだよ」
「陰宮だって、そこまで強くない神様の加護でも、あれだけ戦えて結果残せてるのかも知れないし、油断は禁物だ!」
「わかったよ。だけど、普段から使って練習してないと、いざって時にも使えないかも知れないだろ」
「それは、街の外でモンスターとかと戦う時に、人目が無ければだね。ダンジョンとかが狙い目なんだろうけど」
「それも冒険者ギルドとかで聞けるのかな」
そんな風にいくらでも話すべき事は出てきて、宿の一階の食堂で夕食を済ませ(豪快な盛りつけのポトフ?ぽい料理で、でかいソーセージもじゃがいもみたいな野菜も美味しかった)、明日は朝一から動きだそうという事で、早めに休む事にした。
寝る前に全体の統計を確かめてみたら、初日だけで五十人以上が死んでいた。そのうちの一人は櫟先輩が殺した相手だったけど、特に感傷は沸き起こらなかった。
誰かを積極的に殺したいとは、今でも思わない。けれど、他の誰かの為に、自分の大切な誰かや自分を犠牲に差し出したいとも思えない。それだけだと繰り返しているうちに、いつしか眠りに落ちていた。
特に悪夢の類を見る事も無く、翌朝、誰よりも先に起きて警戒してくれてたらしい先輩が起こしてくれた。
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