第1話 武器屋のはずが道具屋に転生してました。
「ほほう。そうか、ではお前には武器屋の才を与えよう。本当に勇者じゃなくてもいいのじゃな?」
オレの名前はアイビー。
生まれる前の記憶を持っているヤツはまれにいるらしいけど、母親の腹の中よりも以前の記憶を持っているのはオレくらいだろう。
天界で神から啓示を受ける前の記憶だってある。
「あれは、、ち、、確か、ち、、恥球だ」そう。
そんな名前の世界だった。
どんな世界だったか?
そこまでは思い出せないが、恥球なんて名前なんだからきっとろくな世界じゃなかっただろう。
例えば、海には露出狂たちが集まってみたり、街には時々――全裸の男たちがかっ歩する世界とか――きっとそんなんだ。
それに比べてこの世界、モーグリードでは魔法に剣に錬金にさらには時々ダンジョンが出現する世界。
上級ランクは別として、趣味でたしなむ程度なら死ぬまでやりたい事は尽きない世界と言えるだろう。
全裸で歩き回るとか――ホント意味が分からない。
オレが武器屋を選んだのにも理由がある。
武器屋って、すべての武器を装備できるんだぜ。
伝説級の武器だって装備はできる。
オートギアってスキルなんだけど、製作や修理をするわけだから一応はすべての武器を装備できなくちゃ話にならない。
もちろん、装備できるというだけだから戦士と武器屋の攻撃力を比較できないし、魔剣士や勇者のように魔力を込めないと使えない武器の特殊効果を発動する場合には、ダンジョンに眠るマテリアルを錬成して――
「おい!アイビー!! 聞いてるか?!」
え? ああ、そうだった。
オレは店番をしている最中にまた昔の記憶について思い出していたのか。
沈黙は金なりって言葉があるけど店って言うのは開けている事に意味がある。
「はいはい 聞いてましたよ――それで注文は何でしたっけ?」
「聖水30個だ。砦の街にデーモンが出たって話を知っているか?
壊滅させられた砦の街によ。
よほどの怨念があったのかアンデットが出るらしくてな。
ギルドから依頼が出ているのさ。
という訳で聖水がたりないなら教会まで仕入れに行ってこいや」
「聖水狩りですか?無茶言わないでください。大体そんなに沢山は持てないでしょ?
武器屋で聖なるナイフとか、買ってくださいよ」
「ありゃ~ 微量だが魔力が必要になるだろう??脳筋戦士のワシには無理だ」
「じゃぁ マテリアルを使えばいいじゃないですか?」
「ゴーストを狩りに行くのにマテリアルなんて使ってたら赤字だろ。がはは」
そう――マテリアルは高いのだ。
「聖水は一人10個まで、他にもほしい人達がいるんです。もしも、文句があるのならこの建物を管理しているギルドマスターのクレマスさんと交渉をしてください。
彼が首を縦に振るのなら30個でもお譲りしましょう」
「ク、、クレマスだと。なら10個でいい」
「毎度あり、1個で20ルピーですから・・2個で40・・60・・は!そうか。
20の法則だ。
10個で100ルピーになります」
「がははは、ありがとよ。ところで預けていた武器は出来ているのか?」
「へいへい。仕上がってますよ。スチールアックスですね。修理をしたら耐久値が+5も上がりましたよ。よかったですね」
「それは助かるぜ。なあ――お前さ。武器屋のほうが向いてるんじゃねぇか?」
「ええ。まあ、でも道具屋じゃなければ夢が果たせないのです」
「ギルド内に道具屋があるのは便利だからいいけどよ。じゃぁな あんがとよ」
アイビーが住む、小国は東の国と仲が悪くなり緊迫した状態が続いていた。
そんな中で東の国の領土である砦の街にデーモンが現れたのだ。
人の皮を被った悪魔、悪魔の中の悪魔族と呼ばれるデーモンは知性を持っているとアイビーは聞いたことがある。
どんなことがあったらアンデットが出没するほどの怨念が溜まってしまったのかはわからないが東の国で処理するべき依頼がこの国にまで来ているとはどういうことなのか?
「聖水――仕入れておいた方がよさそうだな」
道具屋のオレには夢がある。
この世の中には一度だけ天界へ行くことが出来るアイテム
「天馬の手綱」があるらしい。
道具屋じゃなければ手に入らないだろうアイテム。
オレはそのアイテムを使って
「オレは――オレは! 天界へ行って武器屋と道具屋を間違えた神様に文句を言ってやるんだ!」
ピピピピ!! ピピピピ!!
住居スペースの方から音がなる。
緑色に淡く光る石が音を発しているようだ。
「精霊石のチャッピーか。ギルドからの連絡かな?」
「おはようございます。ギルドマスターのクレマス様より伝言。
・・・朝の朝礼に集まるように・・・
続いてランク報告。・・・アイビー、道具屋ランクA、80点・・・
今日の運勢は 善い行いをすれば良いことがあるでしょう・・ピピピピ!!」
朝礼か。
オレの店はギルド内にある。
ここのギルドは大きくて道具屋のほかにも錬金屋に武器屋に居酒屋に、、色々だ。
朝礼は冒険者たちが困らないようにギルドの依頼に合わせて必要になりそうな物資の情報をもらうことが出来る会議みたいなもの。
まあ、俺は道具屋を一人でやっているのでその間は店をしめなければいけないのだけれど。
確りと戸締りをして朝礼に向かった。
だけどまさか朝礼でそんな話を聞くなんて、、。