宇宙海賊やろう! ごじゅういち
ということで長い間、お付き合いいただきありがとうございました
やっと終わりになります
ピッタリ「ごじゅう」にならなかったのは失敗だったなあ
ニイボリ星区三丁目一番地を巡る<メリクリウス・カゴハラ>の夜の面で、<メアリー・テラコッタ>は<オクタビウス・ワン>を待っていた。
ランデブーをすると、すぐに<オクタビウス・ワン>を格納庫へと下ろし、宇宙空間にロボットアーム一本で保持していた船室とのドッキングがなされた。
その作業と並行して、<オクタビウス・ワン>が出かけている間に、右の装甲ハッチ裏側へドッキングしていた<オクタビウス・ツー>ごと格納庫を閉めてしまえば、もうここには用事が無かった。
三番地を巡る<カゴハラ>までは約一時間の道のりだ。その静止軌道を回る中継ステーションに辿り着いたら<メアリー・テラコッタ>にはドック入りが待っていた。
先週の「不幸な事故」で負った第四近接防御の修理に取り掛かるのだ。
閉鎖系のドックに入るなんていう贅沢は<メアリー・テラコッタ>にとって久しぶりの出来事であった。
何かしらで損傷を負った時も、荷役用のガントリークレーンを備えた岸壁で済ましてしまう事が多いからだ。
理由は単純だ。
ひとつは、そんなところに入ったら、いざという時に閉じ込められる危険があるからだ。
忘れてはいけない<メアリー・テラコッタ>は銀河をまたにかけて活躍する宇宙海賊船である。なるべくなら他人から恨み辛みは買わない方が良いと分かってはいるが、長く活動してきたからこそ、彼女を狙う組織のひとつやふたつは存在するのだった。
ドックに入渠している間に、そいつらに襲撃されると考えると、おちおち腰を落ち着けていられないのだった。
もうひとつは、もっと単純だ。閉鎖系ドックを借りるとなると、先立つ物が必要となる。それも結構な額だ。そんな出費を繰り返せるほど彼女の金庫が潤沢なら、補給長レディ・ユミルが眉間にしわを寄せる回数はもっと減らせることになるだろう。
何事にも節約志向の補給長レディ・ユミルは、このドック入りのついでに、年に一回行わなければならない検査(通称:船検)まで済ましてしまおうと考えていた。
副長アキテーヌや、機関長パリザーも同意見であった。<メアリー・テラコッタ>の四つある主缶の内、四番目にあたる「キジ」と名付けた縮退炉の圧力殻の点検時期も迫っていたので、コレも終わらせてしまおうと考えていた。
他の分隊も似たり寄ったりだ。砲雷長レタリックは第三主砲の右砲の分解整備を考えていたし、船務長ロウリーも時期が来ていたアンテナ類交換を、前倒しして一気に済ませてしまおうと考えていた。
なにしろ普段なら襲撃に怯えて完璧な整備なぞ望むことができない船である。宇宙海賊船という銀河で珍しい種別の船である宿命といったところだが、今回はグンマ宇宙軍が守ってくれるようなものだ。これまで先延ばしにしていた修理や整備を一気に片付けるチャンスであった。
そして<カゴハラ>の中継ステーションに着くまでに、もうひとつ大きな仕事があった。
「陸戦隊フレッド、船長公室へ」
ナナカの声で船内放送があった。
今日で約束の一ヶ月目であった。仮採用の最終日でもある。この日に、フレッドを本採用にするかしないかの裁定をすることになっていた。
ダンゾーの個室に間借りしていたフレッドは、荷物の整理をしながらこの船内放送を耳にした。
(来る物が来た)
先ほど麦茶を飲んだはずなのに、また喉が渇いて来た。
一ヶ月間、彼女なりに精一杯仕事をしてきた。戦闘配置にも慣れたし、本物の戦闘も一回だけだが経験した。
まあ失敗もしたが、グンマ宇宙軍の大尉が褒めてくれるような成功もしていた。
聞けば<メアリー・テラコッタ>で乗組員の本採用を決めるのは、レイジー・フェローと呼ばれる「大幹部」たちの合議のようだ。
船長のキャプテン・コクーンにはどう思われているだろうか?
副長のアキテーヌが必要としている人物だろうか?
先任伍長のジャックは自分をどう評価しただろうか?
そして、生活を共にした陸戦隊隊長のダンゾーは、フレッドのことをどうみんなに話すだろうか?
会議には四人に加えて、補給長のレディ・ユミルも加わるようだ。人を雇うにしろ解雇にするにしろ、金の話しが絡んでくるのだから、当たり前と言えば当たり前の話しだ。
「よし」
荷物をまとめた段ボールの蓋を閉め、気合を入れてフレッドは立ち上がった。
自分の姿を見おろす。<メアリー・テラコッタ>に乗ってから着ている戦闘服である。自分が恥ずかしい格好をしていないか、背中の方まで入念にチェックした。
ダンゾーの個室は、船長公室の隣に位置した。気密扉を開けたらすぐに裁定の場に着くと言って過言ではないのだ。
気持ちを引き締めたフレッドは、気密扉を開いて通路へと出た。
「おはよ!」
「おはようございます」
「はよ~ん」
「見える! 見えるぞよ。キミの後ろによからぬモノが。これは誓約の腕輪。これを購入すれば、間違いなく本採用…」
「若いもんを変な道に勧誘するな」
「おはよう」
「おーっす」
「はわわ?」
通路一杯の海賊どもに目を回したフレッドから変な声が出た。
「みなさん、どうされたんですか?」
「どうって…」
乗り込んでから色々と教えてくれたリーブスと、陸戦隊として一緒に配置に就いた事のあるホームズが顔を見合わせていた。
「おまえさんが本採用されるように、一緒に船長室に詰めかけてやろうと思ってな」
ニカッと白い歯を剥いて親指を立てる様子は、一か月前と変わらなかった。
「り、陸戦隊のみなさんは分かるんですが…」
「そりゃあ女の子が増えるんだったら、協力しますよ」
やはり顔の上半分を銀色の髪の毛で覆った飛行長アリウムが、軽薄な笑みを口元に浮かべて言った。服装はいつものオレンジ色のパイロットスーツに戻っていた。
彼の隣で女操縦士のステイサムが呆れた顔をしていた。
「せっかくの希望者じゃない」
周囲にハートマークを振りまいているような声は、第四分隊のオハナだ。横に居るマサは、相変わらず不愛想に腕組みをしていた。彼には一回命を助けられたようなものなので、居てくれるだけで安心感を得る事が出来た。
「なんちゃね。半分とはいえ、そなたはシンダルん血に繋がる者ばい。こがん寂しか場所で身ひとつで放り出すほど、我ゃ薄情じゃなかとです」
船務長ロウリーは、やはりオシャレをして顔を出していた。
紺色のマーメイドドレスである。膝丈のところで切り替えがあって、柔らかそうなフレアになっているという、これまたフレッドが見た事のない物だ。いったい彼女は何着の服を<メアリー・テラコッタ>に持ち込んでいるのだろうか。
「君の見せた判断はとても良かった。素晴らしい人材をとらないなんてもったいない」
これは艦橋の責任者である航海長のダンカンだ。おそらくグンマ宇宙軍との演習の時にフレッドが見せた判断力の事を褒めてくれているのだろう。簡易宇宙服姿が多い中で、彼はカッターシャツにロングパンツという、まるで地上で生活しているような服装であった。
横に立つ、薄汚れた白いツナギ姿の機関長パリザーが頷いているのも、同じ理由であるだろう。あの時、船橋で当直に立っていたのは、この二人であった。
「第一分隊としても、残ってもらいたいところだな」
アフリカ系宇宙人の砲雷長レタリックまでいた。
通路でやんややんやと騒いでいると、船長公室の扉が開かれた。開けたのは黒い女性用スーツ姿のダンゾーである。
スーツ姿なので、いつもの自動拳銃と太刀を提げているようには見えなかったが、なにか武器は隠し持っていそうな雰囲気であった。
「…フレッド」
一瞬だけ言葉に詰まったように見えたのは、通路に詰めかけている人数の多さに驚いたからであろうか。彼女に呼ばれてフレッドは船長公室へと足を進めた。
通路に詰めかけた海賊どもが、まず彼女を通そうとモーゼの奇跡の如く左右に分かれ、それから一緒に入室しようと後ろについて歩き出した。
「おっと。リーブス」
フレッドだけを通したダンゾーは、副官のような役回りをいつもしているリーブスへ声をかけた。どうやら関係者以外入室禁止と言いたいようだ。そして船内でこういった人員整理などが必要になった場合は、陸戦隊が仕切ることになっていた。
「ようそろ隊長」
わざとらしい海賊式の敬礼をしたリーブスは、列の先頭に立って振り返った。
「どうやら、お許しが出たようなんで、みんなで押しかけようぜ!」
「おお!」
「それはありがとうございます」
「いくよ~ん」
「見える! 見えるぞよ。隊長の後ろによからぬモノが。これは誓約の腕輪。これを購入すれば、間違いなく…」
「隊長にチョン切られないようにな」
「それでは、お邪魔します」
「話しがわかる!」
「あ、こら」
ダンゾーが止める間もなく、集団は船長公室に雪崩れ込んだ。
「あらあら」
「おーっと?」
すでに大テーブルに着いていた副長アキテーヌと先任伍長ジャックが声をあげた。それとなく腰の武器に手がかかっていたのは、乗員の反乱と思ったのかもしれない。
「おい、お前ら。静かにしろ」
目ざとくリーブスがそれに気が付き、海賊どもの整理を始めた。
「どうしたの?」
二人と同じく席に着いていた補給長レディ・ユミルが当然のように訊いた。
「見学者って奴ですよ」
リーブスがある一定以上の線から船長公室に踏み込まないように、両腕を広げて群衆を押しとどめた。
「あらあら」
話しが分からない顔のまま集団に呑み込まれていたフレッドを見つけると、レディ・ユミルは楽しそうに言った。
「だいぶ人気じゃない」
「はあ、そのようです」
ダンゾーとリーブスと二人がかりで助け出されるようにして集団から切り離されたフレッドが、恥ずかしそうに後ろ頭を掻いた。
「よし、フレッド。ココに」
ダンゾーが下座にあたる席へフレッドを誘導してくれた。詰めかけた見学者たちとは一メートルほどしか離れていない席だ。
いつもの食事時は上座のコクーンから見て左右の二列に椅子が並べられているが、わざわざ船長の席と向かいになるように置かれた椅子だった。
フレッドから見て、左に副長アキテーヌと、先任伍長ジャック。右に補給長レディ・ユミルと、陸戦隊隊長のダンゾーが座っていた。後ろの見学者を除き、あと室内には隅の止まり木にカラアゲと、船長席の横に中央コンピュータのアバターであるナナカが立っていた。
「見学を認めるんですね?」
ナナカがアキテーヌに確認した。アキテーヌは余裕たっぷりの声で答えた。
「ここで追い出したら、反乱になりかねないよ。それに開かれた船長室ってのが、宇宙海賊ってやつでしょ?」
「了解しました。それでは…」
ナナカは頷くと「コホン」とわざとらしく咳ばらいをした。
「砲雷長、船務長、機関長、航海長、飛行長、船長公室」
どうやら役職の者が入室した時に上げる宣言を行ってよいかどうか迷っていたようだ。
「ちなみにブリッジの方は大丈夫だろうね?」
いま現在はR舷のはずだから、本来ならば補給長であるレディ・ユミルが当番長としてブリッジに詰めていなければならないはずだ。
ちょうどアキテーヌとはテーブルを挟んで座っていたレディ・ユミルは大丈夫と頷いた。
「レイノルズが舵を取っているはずだから」
「セントラル・コントロールんタイラーが詰めとるばい」
これは見学者の集団に混じったロウリーである。タイラーは彼女が率いる第二分隊で通信士を務めている男だ。それとロウリーはいつの間にか椅子に座っていた。どうやらアリウムが室内の椅子を彼女のために運んだようだ。
「機関運転室はマルコムか。第四分隊は?」
アキテーヌは自分がいつも詰めている機関部の配置を思い出してから、レディ・ユミルへ話をもう一度振った。
「マサさんとオハナちゃんが来ちゃってるってことは、先生が頑張っているんじゃないかな」
「飛行科は…」
ジロリとアリウムへ視線を走らせた。それを受けて彼はいつもの軽薄な笑みのまま答えた。
「どうせ<オクタビウス・ワン>も<ツー>も、いまは格納庫でしょ。班長の整備を受けているから大丈夫だよ~」
本当ならば、何かあった時のために操縦士は待機していなければならない。まあ飛行科に所属する操縦士は、アリウムとステイサムの二人だけでは無いのだが。
その軽薄な表情に何か言ってやろうとしたのか、アキテーヌが口を開いたところで、船長私室と繋がる気密扉が開いた。
「船長、船長公室」
ナナカの宣言で、着席していた四人が立った。慌ててフレッドも席を立つ。集団の中で椅子に座るロウリーは、手にした扇を優雅に揺らしているだけだった。
船長公室に入って来たコクーンは、チラッと詰めかけている集団を見たが、動揺した素振りも見せずに上座へと座った。
彼の着席にあわせて他の者も席へと着いた。
「さてと」
テーブルの上で指を組んだコクーンは、対面に座るフレッドを鋭い眼差しで見た。
「今回は海賊見習いのフレッドを、本採用にするか、それか解雇にするかの会議なんだが…」
「フレッドを是非とも本採用にしてあげて下さい!」
「いい人材ですよ!」
「まさに逸材! お買い得!」
「見える! 見えるぞよ。船長の後ろによからぬモノが。これは誓約の腕輪…」
「そろそろ怒られろ、おまえ」
「まあ、見捨てることんないちゃね」
「フレッド! フレッド!」
たちまち騒ぎ出した見学者たちを見て、コクーンはあからさまに溜息をついた。それを受けて怖い顔をしたダンゾーが立ち上がりかけたところで、リーブスが大声を上げた。
「こらこら! 見学者は静かに!」
たちまち静かになった見学者を睨みつけてから、ダンゾーは浮かした腰を椅子へ戻した。
「まず本人の意思はどうなんだ? フレッド?」
「はい」
フレッドは気を呑まれないように真っすぐとコクーンを見た。
「この船にお世話になって、一ヶ月でも色々な事が学べました。でも、まだまだ足りません。もっと私に宇宙で生きる方法を教えてください」
言い切ったフレッドは、軽い興奮状態になっていた。まあ、こんな衆人注視の場所で自分の主張をしたのだから当たり前と言えばそうなのだが。まだ胸の中に残っている熱を抜くように、鼻から息を噴いた。
とたんにコクーンだけでなく、アキテーヌからダンゾーまでそっぽを向いた。それぞれの肩が震えているような気がするので、もしかしたら何かを我慢していたのかもしれない。
「よし、フレッド。その言葉に二言は無いな?」
声をピンポン玉のように撥ねさせながらコクーンは訊いた。
「じゃあ…」
「早合点するな」
声に冷徹な物を取り戻してコクーンは言った。
「決めるのは、みんなの意見を聞いてからだ。副長。君はどう思う?」
「…ウチはいつでも人手不足ですから、新規の乗組員は歓迎よ。ただし怪我をするウッカリ者はいらないけどね」
話しを振られたアキテーヌの返事が遅れたのは、どうやら呼吸を整えていたからのようだ。
「それなら大丈夫!」
見学者の中から声が飛んだ。陸戦隊のホームズだった。
「それどころか陸戦隊のナーブラを助けたじゃないか。そんな大手柄を立てる人材は、他にいないぜ」
「その点についてだが…」
コクーンは立ち上がると、フレッドに頭を下げた。
「このフネの責任者として、君に礼を言うのが遅れたことを許してくれ」
「いえいえ」
慌てて立ったフレッドは、両手を振った。
「ナーブラを助けてくれて、本当にありがとう」
船長として、一人の乗組員を失った後だからか、その声はとても悲し気に聞こえた。後ろに詰めかけていた連中も自然に黙りこくってしまった。
「だが、人助けをしたから本採用っていうわけにはいかない」
コクーンがきっぱりと言うと、すぐに後ろが騒ぎ出した。
「ええーっ!」
「そこは融通をきかせろよ」
「なんちゃね」
「いかん! いかんぞよ。船長の後ろによからぬモノが。これは誓約の腕輪。これを購入すれば、間違いなく…」
「をう! 売りつけてやれ!」
「石頭!」
「おいーっ」
再びダンゾーが立ち上がりかけると、ピタリとヤジが止んだ。
「それとこれとは別の話しだ。うっかり適性のない者を入れて大事故なんて起きたら、ひとり助けられた代わりに全滅なんていう話しになるからな」
コクーンが言う通りだとフレッドも納得する事が出来た。
「はい。わかりました」
「それじゃあ続きをやろうか」
コクーンが着席し、フレッドも座った。
「さてと、みんなの意見だったな。結局、副長はどっちなんだ?」
コクーンの質問に、アキテーヌは両手を開いてみせた。
「どちらとも。言ったでしょ。人手は欲しいけど、怪我をする人はいらない」
「よし、次。事務長は?」
コクーンに問われて補給長レディ・ユミルは肩を竦めた。
「私も副長の意見に同じね。仕事はいっぱいあるけど、こなす人がいないもの。人手が増えるのは歓迎。それが仕事の出来る人なら大歓迎。保険適用の怪我をして仕事を増やす人ならお断り」
「そうか」
腕組みをしたコクーンは、頷いてから先任伍長ジャックへ視線をやった。
「伍長はどうだ?」
「仕事が出来る出来ないは、仕込み方だ。ウチに来てから有能になったクズもいれば、有能だからと仲間に入れた一週間後に、下らないポカして死んだ奴もいる。俺は本人の意思を尊重してやってもいいと思うがね」
ジャックはコクーンに向けていた顔をフレッドに振り返ると、ニヤリとしながらウインクをしてくれた。
「ねえさんは?」
「…」
ダンゾーはゆっくりと腕組みをした。最初はコクーンに、それからフレッドへ睨みつけるような視線を送った。
「宇宙海賊の素質はある。…と思う」
「そうか」
コクーンはレイジー・フェローだけでなく、詰めかけた一同まで見回すと、何度も頷いた。
「とすると反対が無くて、中立が二人。賛成が二人ってトコか」
言葉を区切ったコクーンは、フレッドに向かってニッと笑った。
「よろしくな、フレッド」
「それじゃあ…」
フレッドが実感を得る前に、ワッとみんなが押し寄せて来てもみくちゃにされた。
「おめでとう!」
「お祝いしなきゃ!」
「えがった~」
「見える! 見えるぞよ。キミの後ろによからぬモノが。これは誓約の腕輪。これを購入すれば、この先、間違いなく…」
「いいかげん諦めろよ」
「めでたい!」
「おー!」
抱き着かれる、肩は抱かれる、喜ばれる、髪の毛は掻きまわされる、胸は揉まれる、背中は叩かれる、うれし泣きに泣かれる、群衆の向こうへダンゾーに連行されたアリウムは正座させられる等など、色々な事がほぼ同時に起きた。
「みんな、みんな。ちょっと時間をくれ」
リーブスが嬉しい大騒ぎの中心となったフレッドを、溺者を渦の中心から引き上げるように救出した。
リーブスの大声で、みんなが笑顔のままでフレッドを囲んで止まった。
「え~」
わざとらしい咳払いをしながら、彼は真新しいガンベルトと、そのホルスターに入った真新しい小型のビームガンを取り出した。
「無事に海賊見習いとなったフレッドにゃ、こいつが必要だろ? 陸戦隊の全員から本採用の祝いとして、そしてナーブラを助けてくれたお礼として、こいつを贈らせてもらうぜ。受け取ってくれ」
それは前にコクーンから借りたビームガンと同じタイプの物であった。小柄で掌の大きさが小さなフレッドでも十分に取り回しが出来る小型の物であった。
「あ、ありがとうございます」
頬を赤く染めていたフレッドは、両手で贈り物を受け取った。
「さっそく巻いてみてくれや」
「こんな感じですか?」
サッと戦闘服の腰に巻いてお披露目をした。
「お~」
「いっぱしの海賊だなあ」
「いいんじゃないかな」
「似合う! 似合うぞよ。確かに女海賊といった姿だが、ちょっと足りないモノが。これは誓約の腕輪。これを購入すれば…」
「まず、お前がつけてみせろよ」
「かっこいい!」
「大丈夫、太鼓判!」
ダンゾーの自動拳銃や、コクーンの大型ビームガンに迫力では一歩どころか十歩ぐらい足りない武装であるが、戦闘服にガンベルトを巻いたフレッドは、形だけは宇宙海賊の仲間入りを果たしたと言ってよかった。
「じゃあ、俺からもいいか?」
他の人よりも頭一つ分も身長が高いレタリックが前に出た。
さすがに日系地上人の平均的な女の子の身長しかないフレッドが対峙すると、トーテムポールを見上げるような角度を向かないといけなくなる。
レタリックは、五〇センチも無い短めの剣を差し出した。
白い鞘には金で彫金されており、実際にそれを振るって戦うというよりも、部下たちへ目標を指示する時に使用するような物であった。
フレッドはソレを見たことがあった。
「ホーサムのだ。あいつが就いていた砲座の近くで見つかった物だ。フィッツロイが見つけて、俺に預けてくれた」
「…」
戦死した仲間の名前を聞いて、お祭り騒ぎが一転して、海賊どもは静かになった。
「あいつの形見として、君に使って欲しい」
「私が受け取っていいんですか?」
「ああ。君が受け取らないなら、オークションにかけて売っ払うことにする」
どちらでもいいぞと柔和に微笑んだレタリックの目が言っていた。
「リーブスに教わったところ、海賊は近接戦闘用と銃火器の二種類持つのが基本だそうですね」
横向きに差し出された鞘入りの剣を左手で受け取った。
さっそく抜いてみる。当たり前の話しだが鞘よりも小振りな刀身である。鍔といい、刀身自体にも彫金がされていて、実戦用でないことは間違いない。でも、それでいいのかもしれない。陸戦隊長のダンゾーとは比べるまでもないが、他の女海賊と比べたって小柄な体である。体格的に恵まれないのなら、わざわざ近接戦闘を仕掛けることも無いだろう。剣を提げていれば喧嘩を売って来る相手が減る程度の効果を期待すればいいのだから。
「ありがとうございます」
鞘に納め、帯でガンベルトの左側へと提げた。
これで左右に武装をして、よりいっそう宇宙海賊っぽくなった。
「さて、そんなフレッドの配属だが…」
いつの間にかに、フレッドの背後に立っていたコクーンが、引き締めた表情で宣言するように告げた。
「正式な見習いとして、とりあえず全部の部署へ、順番についてもらう」
「はい」
「そこで色々な仕事を覚えて、最終的に自分にあった部署を見つけたら、見習いの肩書を外してやる」
「ようそろ」
リーブスからも教わっていなかったが、フレッドは海賊式の敬礼をしてこたえた。
「では、まず最初に、第五分隊への配属を命じる」
言った直後に、イタズラが成功した小学生男子のようなニヤニヤ笑いへと相好を崩した。
「ようそろ…、って。ええ~」
フレッドは部屋の隅で正座させられている第五分隊分隊長、つまり飛行長のアリウムを振り返った。
そんな姿勢からアリウムはウインクを飛ばした。
「よろしくフレッド。色々な事を手取り足取り腰取り教えてあげるからね」
「反省が足らないようだな?」
彼の脳天に、ダンゾーが腰から外した太刀が鞘ごと落ちて、その場にいたフレッド以外の者が大爆笑した。
こうして後に『黄金の魔女』と銀河中にその名を轟かした女海賊アルフレッドの伝説は始まったとかいないとか。
「命の危機の前に貞操の危機が~」
おしまい。
解説の続き
岸壁で:宇宙桟橋と同じように宇宙船が丸ごと入れる大きなエアシールドの中にある施設を想定している
彼女を狙う組織:まず船だから女性形ね。そして宇宙海賊をやっていて、そんなしがらみが一切無いのも変なので、こういうことにした。けど、具体的に誰に恨まれているかは考えていなかったりする
(通称:船検):車検のノリで。この語句はミニスカ宇宙海賊からお借りしました
背中の方まで入念に:戦闘服が支給された時に言われた「ケツチャックに気をつけろ」ってやつ
武器は隠し持っていそうな…:スーツを着ていてもそこは宇宙海賊。しかも陸戦隊の隊長である。いつもの自動拳銃をショルダーホルスターに入れて吊っているのかも。身長が高いし胸もあるので、懐に銃を仕込んでいても目立たないであろう
ナナカの宣言:もちろん序列順に並べている
レイノルズ:今回出番が無かった水雷長の名前である。ロウリーの護衛として登場していたリウイの上司だ
マルコム:通路で途方に暮れていたリーブスをからかった応急長である
先生:おそらく衛生長のサドのことかな。一人で頑張っているって、もしかして食堂の準備を一人にやらせているってことかな
飛行科に所属する操縦士:アリウムが<オクタビウス・ワン>の艇長でステイサムが<オクタビウス・ツー>の操縦士だから、あと<オクタビウス・ワン>の操縦士と砲手<オクタビウス・ツー>の艇長と砲手がいるはずだ
何かを我慢:だって新米の女海賊が鼻息荒く宣言したんだよ。面白いとかの前に「かわいい」がきたんじゃないかな
「反対が無くて、中立が二人。賛成が二人」:リーブスの予想がいい方向に外れた。まあ人助けをしたということもあるしね
アリウムは正座:どさくさに紛れて胸なんか揉むからだよ
「無事に海賊見習いとなった」:そう。まだこれでも、やっと海賊の見習いになったところで、正社員(?)ではないのだ
陸戦隊からの贈り物:いちおう強調しておきますが、新品ですからね
「見習いとして、とりあえず全部の部署へ、順番に…」:ということで、もしかして続編が書けたら陸戦隊以外の部署を転々として修業する話しになると思います
『黄金の魔女』:まあフロシキは大きく広げておきますか
「命の危機の前に貞操の危機が~」:いや、いちおう忘れているかもしれないから強調しておきますが、アリウムは男とはいえエルフであるから、いつものスケベな態度はそう装っているだけのはず。はずなんだよ…。いや。もしかしたら五年に一回ってヤツかも…。フレッド危うし!




