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宇宙海賊やろう!  作者: 池田 和美
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宇宙海賊やろう! ごじゅう

 葬儀は続きます



 ニイボリ星区三丁目にいる<メアリー・テラコッタ>は、いま内惑星系の一番内側を巡っている<メリクリウス・カゴハラ>の夜の面にいた。

 空気を抜いた格納庫の装甲ハッチがゆっくりと開き、ロボットアームが掴んだ<オクタビウス・ワン>を滑らかに持ち上げて行った。

 ショックを全く与えない速さでロボットアームの指が開き、<オクタビウス・ワン>は自由になった。

 ホーサムの棺を載せた<オクタビウス・ワン>は、丁寧な加速で<メアリー・テラコッタ>を離れて行った。これから棺を<カゴハラ>の母星である<ニイボリ・スリー>へと葬るのである。

 いわゆる恒星葬だ。

 農民は埋められ土に還る。漁民は流され水に還る。それと同じ事だ。宇宙海賊は宇宙に還るのだ。

 もちろん普通ならば、恒星へ異物を投棄する事は許可されない事が多い。生命体の寿命とは比較にならないほどの時間を輝き続ける恒星だが、わざわざ寿命を短くするような事をするようなことをしないで済むなら、それに越したことは無い。さらに遺族などの感情を無視して理屈だけ言えば、せっかくの有機物を無駄にすることはないだろう。惑星上で正しい処理をすれば、その惑星の緑化の手助けになるのだ。

 またテロリストや反体制派、敵性星間国家が、そういった物に紛れて恒星を破壊する工作を企むかもしれない。それを防ぐという、純軍事的な意味合いもあった。

 今回、コクーンが希望したホーサムの恒星葬の許可が下りたのは、荒木提督の力添えがあったからだ。

 宇宙海賊船<メアリー・テラコッタ>を発進した<オクタビウス・ワン>には、正規の乗員三人と、喪主であるキャプテン・コクーン、そして彼が所属していた第一分隊を代表としてアフリカ系宇宙人である砲雷長レタリックが乗り込んだ。

 船室を外した<オクタビウス・ワン>には操縦室しか乗る所が無いので、五人も乗ればいっぱいなのである。

 前方に並んだ操縦席には、正装をしたパイロットが配置に就き、<オクタビウス・ワン>艇長でもある飛行長アリウムが中央の席で指揮を執った。

「右舷五度、仰角三度に針路変更」

 いつものおちゃらけた態度を忘れたようにアリウムが細かく針路の指示を重ねていく。その指示を忠実に守って左前に座った操縦士が<オクタビウス・ワン>を航行させていった。

 なにせ恒星直上である。太陽風が吹き上げ、プロミネンスやコロナなど、<オクタビウス・ワン>の姿勢を崩して呑み込もうとする荒波のような宇宙気象条件なのだ。

「当て舵、左四度のところ」

「ようそろ」

 艦載水雷艇とはいえ<オクタビウス・ワン>には様々なセンサー類が備えられている。その情報は全て艇長席のアリウムのコンソールに表示され、彼は恒星の大気であるコロナにある薄い個所を縫うように指示を出し続けていた。

 やがて操縦席の舷窓は<ニイボリ・スリー>の湧き立つ恒星表面で埋め尽くされた。

「艦長」

 静かな声でアリウムがコクーンに告げた。

「そろそろよろしいのではないでしょうか」

「うむ」

 重々しく頷いたコクーンは、シートベルトを外すと立ち上がった。艦載水雷艇である<オクタビウス・ワン>には人工重力を発生させるほどの慣性制御装置は搭載されていないので、フワフワと室内に体が浮かび上がった。

 同じように予備席に座っていたレタリックも立ち上がると、エアロックの方へと宙を飛んで行った。操縦席との扉を開けっ放しにして、甲板へ出るための扉に設けられた窓に、食いつくように取りついた。

「艦長。こちらです」

 操縦室前方で並列になっているふたつの前席は、基本的に同じになるように機器がレイアウトされていた。その右の砲手役である海賊が、自分のコンソールを示した。

 普通なら甲板に載せた大型ミサイルを発射する時は、両脇から生えた操縦桿やスラストレバーに設けられたボタンによって行うように設定されている。だが、今はコンソールのタッチパネルの真ん中に、発射用のスイッチが表示されていた。

 あとは誰かが指を置くだけで、甲板の架台に載せた物は<オクタビウス・ワン>から落とされるはずだ。

「ホーサム。次に生まれて来るときは、海賊なんかにゃなるなよ」

 コクーンが別れの言葉と共にタッチパネルに触れた。圧搾空気の力で架台が九十度外側に持ち上がり、上に固定していた棺との接続を切った。

 あとは<ニイボリ・スリー>の重力に落ちていくだけである。

「RIPの放出を目視で確認」

 エアロックの扉から架台が正常に作動するのを確認していたレタリックが報告した。

 重力に引かれて、白いカプセルが<オクタビウス・ワン>を追い抜くようにして<ニイボリ・スリー>の恒星面へと落ちていく。コクーンは最期まで見ずに予備席へと戻った。

「さあ、帰ろうか」




 解説の続き


<メリクリウス・カゴハラ>の夜の面にいた:もちろん日陰に居ないと暑くてたまらないからだ

荒波のような宇宙気象条件:フレアが発生したら全機能が失われて<ニイボリ・スリー>への墜落の危険だってある。だから普段はふざけているアリウムも真剣になっている

両脇から生えた:サイドスティック式の操縦桿とスラストレバーである。操縦席中央に操縦桿が生えている方式は座席占有体積が減少するので宇宙服を着た操縦者が座りにくいと思って、こう設定しました

「次に生まれて来るときは…」:キャプテン・コクーンが日本風の文化で育った証明である。これがキリスト教やイスラム教だと天国や地獄へ行ったきりとなる

RIP:西洋の墓石によく刻まれている文句。もとはラテン語で「安らかに眠れ」という意味。転じてここでは棺のことを差す語句として使用されている

最期まで見ず:ちょっと薄情かもしれないが、コクーンには乗組員の安全を考えるという仕事があるので、こんな危険な場所から一刻も早く<オクタビウス・ワン>を避難させなければならなかった

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