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宇宙海賊やろう!  作者: 池田 和美
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宇宙海賊やろう! ご

 もう一人の主人公である女の子登場

 本当はキャプテン・コクーンだけで話を進めようと思っていたけれど、余分な説明する相手が欲しくなって、追加したキャラクター…


 の、はずが、コッチがメインの主人公みたいになっちゃった



 幼いころから自分は普通の子供とは違う事は自覚していた。

 この星を渡る程の交流が発達した時代に、混血児が珍しいなんて言う事は無いはずだった。同じクラスにも、肌の白い子供から黒や赤い子供まで、いろんな「個性」を持った子がいた。

 私だって、他の子よりは色白で色素が薄いと言うだけで、他の子とは違うところが無いはずだった。

 たった一点を除いて。

「あなたの目って…」

 保育園で仲良くなった女の子に告げられたのが、はっきりと自覚した瞬間だった。

「あなたの目って、ハチミツ色は綺麗だけど、形が気持ち悪いわ」

 子供というのは残酷なことを平気で口にしたりする。例えば、髪の毛が慎ましやかな老人に対して平気で「ハゲ」と言ったりする。

 それと同じ感覚だったのだろう、私の瞳が他と違うことを指摘してきた。

 確かに彼女の言うとおりだった。色は日系人に見られないようなハチミツ色と表現するしかない明るい色をしており、自分でもお気に入りだった。

 だけど、その色をしている瞳(?)を気に入る人はあまりいないのではないかと思える。形は丸いが、その中に瞳孔や虹彩などはいっさい無い。あるのは小さな六角形が積み重なったような模様をした臓器だ。蜂の巣を連想してもらえば分かるだろう。あれと同じ見た目をした構造が、びっしりと本来は瞳の中にあるべき物の代わりに詰まっているのだ。

「そんな目で、どういう風に見えているの?」

 これは小学校に上がったばかりの頃、担任の女教師に訊かれた時の言葉だ。

 そんな事を言われても、自分の視界以外の物を見たことが無いので、表現のしようがない。複数の映像が見えているわけでは無く、一つの物しか見る事が出来ない。

 保育園に上がった当初は、私の視力に不安を感じた母が、眼科の先生の所へよく連れて行った。

 だが、どんな視力検査を受けても「正常」の二文字しか結果は出なかった。視力だけで言うと、眼鏡が必要なほどではないが少々近眼気味という程度であった。

 ただ動体視力に関しては逆に、訓練されたスポーツ選手並みにあるのではないかという所見だった。

 私の瞳の模様は「いちおう先天的な多瞳孔症の一種」ということになった。眼底検査をする器械で眼球の中を覗くと、中身は普通の地球系地上人と同じ構造をしているのだそうだ。

 先天的な物で視力に問題が無ければ治療のしようが無い。見た目が気に入らないのであれば、カラーコンタクトなどで隠せばいいのだろうが、生憎と私の家にそんな経済的余裕は無かった。

「昔はこれでも山登りをしたのよ」

 母はそう言って寂しく微笑むのだ。私を産んだせいなのか、体の線は細く、いつも顔色が優れなかった。

「難産だったけど、私の処に来てくれてありがとう」

 十歳の誕生日に母から贈られた言葉だ。誕生日を祝うケーキすら買えなくて、いつものお茶碗に盛ったゴハンに立てた一本のロウソク越しだった。

 この頃から母の片腕が動かなくなっていた。

 体の弱い母がまともに働けるわけもなく、収入のほとんどが役所から支給される生活支援金であった。わずかな額しか表示されない家の銀行口座の内、大部分が母の通院費に消えた。

 中学生になった頃から、私も働いて家計を助ける努力をした。本当はロボットが行う牛乳配達を中学生からバイトできるのは、金銭の有難さを知るための教育プログラムの一環だとか。私以外の子は、みんな配達着の下にお洒落をしてきていた。早朝の配達員なんて見ている人なんていないのに、女の子たちは隙を作らないのだ。

 そんな中で毎日同じ服を着ていく惨めさみたいな物を味わった。

 高校に上がらずに就職しようと考えていた私を止めたのは、床に着くことが多くなっていた母だった。

 大学は無理だとしても、受験や入学に必要なお金を、私のバイト代に少し足して毎月積み立てていてくれたのだ。

 受験すると言っても進学校に入れるわけがない。私にとって受験問題自体は簡単だったが、大学受験を考えて入るような高校は、みな入学試験を受けるだけでも相当のお金が必要だったのだ。

 私が受けたような、いわゆる底辺校ならば、生活支援金需給家庭の子供は入学金だけでなく授業料も免除されるのだ。

 必要なのは制服や教科書の代金だけ。制服は卒業生のお古を再利用する制度を利用すれば、袖や丈の直す代金だけで済む。教科書が高かったが、それだけなら少ない貯えでもなんとかなった。

 受験も難なく乗り越え、入学も決まって制服が届いた頃。母が亡くなった。

 親戚と呼べる者が一切いない母であったが、自分の体が年々弱っており、長く生きられないことを悟っていたのだろう。もし万が一の時があったらと、町の民生委員に私の身の振り方を頼んであった。

 父はいなかった。というか会ったことが無かった。

 幼いころから、父は離婚して私たち二人を捨てたのだろうなぐらいの事は覚っており、あまり母とは父の話しをしたことが無かった。

 一度だけ、まだ歩けた頃の母と一緒に買い物へ街に出かけた時の事。途中の街頭広告に、政府が推し進める生活用水の国際的な取り決めに成果があったみたいなニュースが流れた時に、母が立ち止まったことがあった。

「あれがパパなのよ」

 当時、小学生低学年か、まだ保育園に通っていた私に指差してくれたのは、首都惑星<マエバシ>で立派な政治家や財界の要人に囲まれて微笑んでいたお大尽だった。

 金色の髪に、瞳の無い目は、大きくなってからエルフの特徴だと知った。

 そのエルフのお大尽は、横に同じ容姿をした女性と一緒にカメラのリクエストに応えて微笑みの角度を変えていた。

 私と母が住む薄汚れた世界とは違う、煌びやかな世界。

 母の葬式は近所の人たちが協力して行ってくれた。お墓は立派な物など用意できるわけもなく、公営墓地の集団納骨堂へ収めた。

 母に私の事を頼まれていた民生委員は、私に孤児院を紹介してくれた。複数候補があった中で高校に一番近い場所を選んだ。学校にはやはり行かずに就職する事も考えたのだが、母の遺志に応えて高校ぐらいは卒業しようと思ったからだ。教会に付属していたそこの孤児院も、高校を卒業するまでは居させてくれるということだった。

 高校でも私は一人ぼっちだった。

 クラスメイトとは、かろうじて親交ができた。が、みんなが遊びに行こうと相談し始めると、お金が無い私にはついて行くことができなかった。なにせ食事すら日に三度食べない日があるほどだ。

 確かに母の通院費という重い負担が消えたのだから、前よりは経済状態は改善していた。が、三年後にはどこかに部屋を借りて一人暮らしをすることが決まっているのだ。貯蓄をしないと必要な物を揃えられる自信が無かった。

 貧しいながら順調な高校生活。そんな単調な毎日が、ある日一変した。

 教室に一人いた私を襲って、自分の性欲を満たそうとした不届き者が現れたのだ。まあ底辺校なので、こういうことも起きるだろうと気を付けてはいたのだが、私も毎日の平凡な暮らしを繰り返して油断していたのかもしれない。

 向こうもガリガリの痩せっぽちの女だから簡単に抑え込めると思ったのだろう。三人がかりで手足を掴まれて押し倒された。命の危険すら感じた時に、それは起こった。

 体に乗るようにして私を押さえつけた大柄な男子生徒を振り飛ばし、片手だけ相手の首の骨を折ってしまったのだ。

 それまでそんな怪力が出せるなんて自分でも知らなかった。でも、おそらく人生初めての「必死の抵抗」という事をした結果、首があらぬ方向に曲がった不届き者たちが、床に倒れてビクビクと痙攣していた。

 当然、警察沙汰になった。相手の保護者は私を傷害罪で告訴するなど息まいていたようだが、私についた国選弁護人は一笑に付していた。

 なにせ私が無軌道に暴力を振るったのではないのだ。最初に暴行を働こうとした男たちの方がよっぽど罪が重いはずだ。

 現在の発達した医学でも、脳幹に損傷を受けると回復に一〇年はかかるらしい。その間は半身不随で不自由な生活をしなければならない。本当は直接言ってやりたかったが、ざまあみろとはこういうことだと思った。

 やる気が一切感じない極めて事務的な人だったが、私についた国選弁護人は最低限以上の仕事をしてくれた。

 家庭裁判所でも、会議室のような場所で裁判官立ち合いの元、向こうとこちらの弁護士と、私を含めた四人で、今後の身の振り方をどうしようかと相談するように、私の審判は下された。

 一年間の保護観察処分。ほとんど無罪放免の内容だ。

 ただ高校に登校しても、それまでと同じように教室に入ることはできなかった。男四人の首を折るような女は、安心して教室に置いておけないということなのだろう。

 だが家庭裁判所でも焦点になった私のバカ(ちから)は、あの時にしか発現していなかった。「火事場のバカ力」とも言うし、本当に生命の危機の時にしか発動しないのだろう。いちおう警察の取り調べの時に体力測定のような物をさせられたが、被害者の言う片手でポキリは再現されなかった。

 結局「押さえつけられた加害者が、逃れようとして暴れたため、被害者たちが壁などにぶつかり、その時の衝撃で怪我を負った」ということになった。

 これで事件よりも事故の要素が強い裁定となり、審判が軽くて済んだと弁護士は教えてくれた。

 相手の保護者たちが傷害罪で告訴すると騒いでいたのも、弁護士が「そちらには最低でも婦女暴行罪の疑いがある」と黙らせてくれた。

 だが民事裁判となると別だ。最低でも私が関わったせいで重い麻痺症状の体になった事は変わらない。そして民事には国選弁護士はつかない。だが家庭裁判所で国選弁護士として私を担当してくれた人が「なんでしたらお安く受けますよ」と申し出てくれた。

 どう考えても安すぎる値段を提示してくれたのは、私の身の上を憐れんだのか、それとも義憤なのかは分からない。

 一億だ、いや一〇億だと騒ぎ立てる向こうに理路整然と対応してくれて、お互いの妥協点を探し、最後は三桁の金額でおさまることになった。

 だが、それで私のグンマ銀行にある預金残高は空になった。もう一グンマ・ドルどころか、一グンマ・セントも残らなかった。

 ふと父を訊ねてみようと思ったのは、その時だった。

 口座に残高が無い高校生なんて、本当に地位も財産も無い存在だからこそ、何をしても許されるような気がしたのだ。

 不幸中の幸いで、何かあっても私は身軽であった。財産と言ったって、わずかな服と、学校の制服、それと授業で使う教科書やノート端末ぐらいのものだ。携帯端末すら税金の徴収に必要だからと、地方自治体が乞食(ロード・サバイバー)にすらタダで配った物を使用していた。

 あと一つ大事な物があった。幼い頃に母の帰りが遅い時に寂しくて泣いていた時に、近所のオバサンがくれたマスコット人形。今ではこのコだけが私の家族と言えた。

 思い立った時には、私はあの日に母が指差していたエルフが何者かを端末で検索していた。

 幸い国際的な生活用水ナントカなんていう特殊なニュースで助かった。これがよくある美術品の貸し借りなどだったら検索しきれない程の情報量だった。

 あのエルフは、ここ<カゴハラ>に居住しているのではなく、首都惑星<マエバシ>に屋敷があると知った。だが別荘が意外と近くにあることを知り、まずはそこを訊ねてみることにした。

 私が世話になっている教会の孤児院どころか、私が生活している範囲全てを収められるような広い土地に高い壁がめぐらされていた。

 ここが、あのエルフの家。しかも別荘なのだから目眩がしたほどだ。

 もちろん防犯のために二十四時間の機械警備が成されている。壁が高く、いくら活動的な格好を選択してきた私でも乗り越える事は不可能だと思った。

 そして驚いたことに、人間の警備員まで常駐していた。

 表と裏と二つある門に、民間の警備会社の制服を着た老人たちが、昼夜交代で詰めていた。おそらくお孫さんたちに渡すお小遣いに色をつけたい人が雇われていたのだろう。私が彼らに話しかけると、調子よくつきあってくれた。もちろん父の事を知ろうと思ってだが、まず母の名前を出してみた。

 すると老警備員の一人が、母の名前を憶えていてくれた。彼によると母はここへ住み込みの使用人として勤めていたが、ある日を境に姿を消したそうだ。

 表だって話すことは憚れるが、色多い事で有名な主人に何かされたのではないかというのが当時の噂だったようだ。

 他にも数名の使用人をお手付きにして、金で解決した前科があるそうだ。

 この別荘はここ数年使用していないから、会いたいなら首都惑星へ行かないと無理だろうと、別の老警備員は言った。

 この<カゴハラ>から首都惑星<マエバシ>までは定期旅客船が運行していることは知っていた。もちろん料金次第で直行便などもあるが、私に分相応な料金設定の旅客船だと、中核惑星<タカサキ>まで七つの植民星を経由、中核惑星<タカサキ>で乗り換えてさらに四つの植民星を渡らないといけない。全部で四〇光年強の長旅だ。

 おそらく宇宙気流や異常重力波などが無くても全行程で三ヶ月以上かかる長旅だ。もちろん日銭を稼ぐので精一杯の私には無理な話だ。

 せめて首都惑星<マエバシ>行きの宇宙船を見てやろうと、電車(ハイパーチューブ)の駅に足を向けた。

 私が暮らしていた星都<カゴハラ・シティ>は気候が穏やかな中緯度の大陸沿岸部に建設された都市だったが、静止衛星軌道まで繋がっている軌道エレベータを持つ中継ステーションは、もちろん赤道上にあった。

 軌道エレベータに乗れば、宇宙船の発着する中継ステーションまでは苦労せずに上がることができる。交通費で口座がマイナスになったが、次のバイト代で十分に賄えるはずだった。

 直接この目で見る宇宙は、驚きの光景だった。

 なによりも存在感のある星々。宇宙港狭しとばかりに行き交う宇宙船。そして母星のギラギラとした光。地上とは違った雰囲気を纏った月。みんな初体験の物だった。

 いや本当だったら中学校の修学旅行で訪れていたはずの場所だ。あの時もお金の問題で私だけ不参加だった。

 中継ステーションの市街地の端にある公園で、宇宙を眺めていた私に、お巡りさんが声をかけてきたのはその時だった。

 悪い事は何もしていないのに、警察署まで来るようにと、半ば強引に連れて行こうとするお巡りさんに、私はまた「必死の抵抗」をしてしまった。

 結果、私の肩を掴んでいた婦人警官の右肘があらぬ方向へねじ曲がり、対応しよう警棒を抜いた男性警官も、両腕に骨が入っていない様にねじくれてしまった。

 無線で応援を呼ぶお巡りさんを見て、私は逃げ出した。お巡りさんに声をかけられるまでは、本当に何もしていなかったのに、今は確実に犯罪者だ。

 表通りには防犯カメラがあることは知っていた。市民生活のプライバシーを守れとかいう団体のおかげで数は減らされていたが、広い通りを走っていたらいずれ捕まるのは分かっていた。

 だから裏通りを走った。

 走って、走って、走り抜いたところで、息が続かなくなって立ち止まった。角を何回曲がったのかも覚えておらず、自分がいまドコに居るのかさえも分からなかった。

 端末を使えば地上行の軌道エレベータまでの道順は分かるはずだったが、入れておいたポケットは空になっていた。

 おそらく、お巡りさんと公園で揉めた時に落としたのだろう。

 これで私の迷子が決定した。

 途方に暮れていたところに、再びお巡りさんたちの気配。防犯カメラに映っていなくても、ある程度は犯人が選ぶ逃亡経路を予想できるという話しは、学校で世間話のついでに聞いた事がある情報だった。

 私は周囲を見回した。どうやら大きな店の裏口にあたる場所にいるようだ。道には冷蔵コンテナを積んだトラックが駐車しており、荷物の積み込みか、積み下ろしをしているようだった。

 店の中に隠れるという選択もあったが、トラックならば他の場所へ運んでくれると思い、冷蔵コンテナの中へ潜むことにした。

 手近にあった保存ボックスの中身を床へぶちまけ、体を折って中へ隠れた。

 耳を澄ませていると、居丈高な声が聞こえてきた。どうやらお巡りさんが私の画像を見せて、このトラックの荷物を扱っている人たちに心当たりが無いか聞いているようだ。

 誰かが近づいてきたような気配もしたけど、私が見つかる事は無かった。

 しばらくすると静かになった。きっと、お巡りさんも荷物を積んでいる人も居なくなったのだろう。

 もういいだろうと私は保存ボックスから出ようとした。が、それはできなかった。

 どうやら私が隠れた保存ボックスの上に、別の荷物が置かれてしまったようだ。中から押しても蓋は開かなかった。

 仕方がないので、次の動きがあるまで保存ボックスの中にいることにした。


 いつの間にか眠ってしまったようだ。


 冷蔵コンテナの冷気は保存ボックス内部へ余計に入り込まず、自分自身の体温でちょうど昼寝に良い温度になっていたのだ。

 そういえば明日のバイトに間に合うように帰らなければ。もうお巡りさんにも捕まらないぐらい移動もしただろうし。

 そう考えて保存ボックスの蓋を中から押し開けると、今度は無事に動いた。

 まさかそこが氷点下の食糧庫だとは思わなかった。

 壁と天井の境目にあるダクトは、室温を維持するためにコンコンと冷気を吐き出していた。

 今日の私は、一般的なトレーナーにジーンズ、スニーカといった年相応で活動的な服装を選んでいた。だからどんどん体温が奪われていった。

 体を縮こませると、ここから出ようと扉の所へと歩み寄った。

 そこで絶望した。なにせ食糧庫の扉は内側からは開かないようになっていた。どこにも開けるためのレバーなどが見当たらなかった。

「電話で…」

 端末から消防や(捕まるかもしれないけど)警察に電話しようと思い立ったが、どこかで落としてそれっきりだった。

 室内を振り返る。古くから置いてあるらしい保存ボックスはもちろん、いま運び込まれた物にも霜が降り始めていた。

 どんどんと奪われる体温。惑星丸ごと一つ使い放題の<カゴハラ>では、そんな極端に雪が降るような土地に都市を建設はしていなかった。雪が降っても一年に一度か二度で、降られたら珍しい体験という認識である。

 よって、こんな薄着で氷点下にさらされる事自体が初めての経験に近かった。

「出して!」

 高い声を上げて拳で扉を殴りつけるが、食糧庫であるから冷気を逃がさないように、防音どころか気密は完璧であった。あの「バカ力」が出ているのかどうかは分からなかった。

 あっと言う間に体の芯まで熱を奪われ、絶望の表情のまま照明を見上げた。

 いつかは死ぬ時がやってくるものだと頭では理解していたが、まさかこんな場所で凍死の危機にさらされるとは思ってもみなかった。

 少しはマシになるかと、保存ボックスに戻って膝を抱える。しかし一回開いてしまった保存ボックスは、それほど断熱効果を発揮してくれなかった。

 さらに空腹もやってきて、意識が朦朧としてきた。何度か保存ボックスに入ったり出たりを繰り返していたような気がする。

 脳裏に今まで自分が経験してきた過去の風景がよぎる。走馬灯というやつだ。お巡りさんから逃げ回っていた事。教室にひとりぼっちで座っていた自分。そして暖かなお母さんの腕の中…。

「も、もうダメかも…」

 寒さで朦朧とした意識で、それだけをやっと口にした。思い浮かべた優しい母親の顔に、銀色の髪をして赤い瞳をした見知らぬ女の面影が重なった。




多瞳孔症:本当にある眼科の症状。先天的な物ならば問題が発生しないことが多いが、事故などの後天的な物だと失明の危険すらある

ゴハンに立てた一本のロウソク:泣きながら食べるのはクリスマスのオムスビか…

母が亡くなった:死因はやはりハーフエルフを産んだことによる衰弱であろう

国際的な取り決め:その内容を頭の悪い和美が設定しているわけがない

脳幹に損傷を受けると:現代では治療不能であろう。さすがに星を渡る頃には治療法が確立していると考えた

グンマ・ドル:■村知江子「いちグンマ・ドルは、いちドルに換算すると考えやすいでしょう」

<カゴハラ><タカサキ><マエバシ>:高崎線の籠原駅から、高崎駅で両毛線に乗り換えて前橋駅まで行くのと同じにしてみました

ハイパーチューブ:真空にした地下のチューブの中を音速で飛んでいく公共交通機関のつもり。この時代には惑星上で一般的な乗り物とする

中継ステーション:当たり前だが中継ステーションは赤道上の静止軌道にある。そこと地上を軌道エレベータで結んでいるが、居住に適している場所とは言い難いので、もっと温暖な土地に建設した都市との間をハイパーチューブが結んでいるものとした

修学旅行:行先は<タカサキ>あたりか?

内側から開かないように…:本来ならば開けられるようにした方がよいのかも。ただ無重力で荷崩れした物がレバーに乗り、重力が戻った時に勝手に開いてしまう事があるのかもしれない

見知らぬ女:後の方で出てきます


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