宇宙海賊やろう! よんじゅうはち
なにやら裏で動きがあるようですよ
「こんな物か」
ノート型端末で情報を集めていた彼は、軽いテンポで弾いていた指を止めた。
演習に実弾が混ざるように手配したのは、彼の策略であった。第一六駆逐戦隊の岡田司令が、軍人…、というより大人として基本的な報告・連絡・相談(いわゆるホウ・レン・ソウ)をないがしろにしているところにつけいって、第一六駆逐隊の対宇宙戦艦ミサイルの弾頭交換が終わっていないことを上層部に連絡させなかったのだ。
各駆逐艦の艦長が自ら問い合わせて来た通信文などを握りつぶすなどしなければならなかったが、まあ、いつもやっている仕事に比べれば些細な手間であった。
とはいえ彼も<メアリー・テラコッタ>に被害が及ぶとは思ってもみなかった。実弾頭で標的が破壊され、さらにその余波で他の駆逐艦が発射した対宇宙戦艦ミサイルが破壊されれば十分だったのである。
結果は、発射された六四発中、四四発が再使用不可能なほど破壊された。一六発が修理をすれば再使用可能で、無傷なのはたったの四発…、駆逐艦一隻分である。
これで<カゴハラ>に駐留する宇宙軍の戦力は、大幅に低下したはずだ。
さらに傭船である<メアリー・テラコッタ>が小破し、「DD〇九〇」は主機を<メアリー・テラコッタ>に撃ち抜かれて大破判定というオマケまでついた。
あのままキャプテン・コクーンと荒木提督との交渉が決裂し、さらなる損害を重ねられたら、彼のもう一方の主人からの評価は爆発的に上昇していたのだろうが、ここには直接通信に介入できる程の設備も装備も揃っていなかった。
「まあ、こんな物か」
欲張り過ぎてもいけないと自戒し、ノート端末を畳んだ。
これから忙しくなるはずだ。グンマ宇宙軍将校としての仕事はもちろん、もうひとつの仕事の方でもだ。
と、ノックも無しにバーンと扉が開かれた。
靴音を立てて室内に十数人の男たちが駈け込んで来た。
「な、なんですか! あなたたちは!」
座っていた席ごと半円形に包囲された形の彼が、少々裏返った声を上げた。ピタリと据えられた銃口は揺るぎもしていなかった。
彼を取り囲んでいるのは、グンマ宇宙軍海兵隊が採用している迷彩服を着た男たちだった。手にしたヒートライフルも、グンマ宇宙軍で制式採用されているタイプである。
「両手を上げる気も無いか?」
包囲している男たちの後ろから声がした。
上級将校用の白い制服を着て胸に飾緒をつけた男が、半円形の包囲を割るように現れた。
「両手を上げる?」
なぜそれをしなければならないというように彼が言い返すと、現れた将校は余裕たっぷりに室内を見回した。
「まあ。まさか、こんなところから艦隊司令部の情報が外に漏れていたなんて、誰も思わないだろうしなあ」
そこは<カゴハラ>中継ステーション内にある、グンマ宇宙軍が司令部として使用している建物であった。しかも荒木提督の執務室に付属する形で存在する前室である。
司令部首脳が演習のために旗艦<オブチユウコ>へ乗組んでいる関係上、司令部の建物には事務作業をする者ぐらいしか留守番はいないはずだった。
「あ、あなたはいったい、ダレなんです?」
彼が問いただすと、訊かれた上級将校は、自分の姿を情け無さそうに見おろした。
「まあ、アレだ。俺はグンマ宇宙軍に存在していないはずの男ってヤツだよ。そう言えば、だいたい分かるだろ?」
「グンマ宇宙軍情報部二課…」
彼が呟いた言葉を肯定も否定もせずに、上級将校は自嘲の笑みを浮かべた。
「で、だ。熊沢少尉。抵抗して撃ち殺されるのもよし、全てをゲロッて今更ながら『お国のため』に尽くすのもよし。どちらにする?」
執務室前室の机に置いたノート端末の前で、司令部付の少尉である熊沢は凍り付いた。情報部の男がこう言うからには、彼が生存していてもいなくても、今後の捜査に支障がないぐらいに証拠やら何やらが出そろっているのだろう。
一瞬だけ、腰に提げたビームガンを抜き打ちにする誘惑にかられたが、すでに彼を包囲して狙いを定めている十数人の男たちよりも早くトリガーを絞る自信までは湧いてこなかった。
「私は、なんの容疑で逮捕されるんです?」
早まった相手に撃たれないように、反対側の手でゆっくりとホルスターからビームガンを抜いて…、いや取り出して机の上に置きながら熊沢少尉は訊ねた。
「ま、色々だね。とりあえず、提督が秘蔵していたピム酒を盗み飲みした罪かな?」
普段なら笑えないその冗談を聞いて、熊沢少尉は腹を抱えて笑い出した。
解説の続き
端末で情報を:キャプテン・コクーンと荒木提督の通信も横から見ていたのだろう
彼の策略だった:起こるべくして起こる事故だったではあるが、ミサイルに実弾が混ざっているなんていうことが、ただの連絡不足ではあまりにもお粗末。裏で仕掛けた黒幕がちゃんといましたよ
対宇宙戦艦ミサイルが破壊されれば十分:これで敵性勢力の宇宙戦艦が攻めて来やすくなった。対抗する手段が無くなったも同じだからである
迷彩服を着た男たち:憲兵隊か海兵隊か、それとも情報部の子飼いなのかは不明
存在していない男:スパイらしいでしょ
情報部二課:クラッシャージョウに出て来るバード中佐の登場シーンが好きなので、お借りしました
ピム酒を盗み飲み:だから最初の方でピム酒が出てこなかったのか、という説明。スパイなんてやる人物が世間知らずだとちょっと変だものね




