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宇宙海賊やろう!  作者: 池田 和美
43/51

宇宙海賊やろう! よんじゅうさん

 さてミサイルが爆発して<メアリー・テラコッタ>に損害は?



 ヘルメットの中に「ピー」という耳鳴りのような音がしていた。

 フレッドは信じられないような面持ちのまま「NO SIGNAL」とだけ表示するモニターを見つめていた。

 爆発の衝撃はすさまじく、部屋ごとバーテンダーの扱うシェイカーに放り込まれたのではないかというほど揺さぶられた。

 元々の体重が軽かったおかげか、しっかりと手摺を握っていたせいか、フレッドは爆発前と変わらずに、砲側指揮装置の横に立っていた。

 両手で挟みこむようにコンソールに踏ん張ったダンゾーも無様な姿を晒さずに立ったままである。

 他の海賊はどうだろうと首を巡らせると、反対側のコンソールにしがみついてリーブスは立っていたが、他の者たちはみんな床に転がっていた。ある者はボンベを両手で抱えるようにしていたり、ある者は数本のボンベの下敷きになっていたりした。

 だがボンベの下敷きになっている者ですら、痛みに声を上げるでもなく、ゆっくりと這い出そうと動いているので、大した怪我をしたわけではなさそうだ。

「!」

 突然、フレッドは丸い砲座の出入口に取りつくと、「ハ」の字になっているロックを勢いよく両手で掴んで下へと下げた。

 いつもはバネ仕掛けで浮き上がって来るハッチがなぜか貼りついたままだ。フレッドは、最初は右手一本で、すぐに両手で真ん中の取手を掴むと、両足を壁に突っ張るようにして力任せにハッチを引き開けた。

 途端に全員が自分の指先すら見えないような霧に包まれた。そして、その霧を照らすように赤い光の明滅が始まった。



「被害状況の確認を!」

 防御指令室(ディフェンス・コントロール)の中央にある副長席に座っていたアキテーヌが声を上げた。彼女の前にあるのは船内の状況を示す応急監視制御盤と呼ばれる大きなコンソールだ。簡単な船内略図に重ねて色々なランプが取り付けられており、一目で<メアリー・テラコッタ>の状態が分かるようになっていた。もう少し詳しく説明すると、船内の主なポンプや通風機の運転状況や、主要な弁類の開閉状況、各種タンクの状態などが表示されるのだ。

 もちろん副長席にある通常サイズのコンソールにもホログラムとして同じ情報が表示されているが、ディフェンス・コントロールに詰めている全員が情報を共有しやすいこちらのコンソールで指揮をした方が間違いないのである。

 すでに後部にある吸排気システムのポンプやダンパーが自動で作動していた。どうやら後部船艙甲板で何事かが起きたようである。



 陸戦隊の全員が自分の指先すら見えないような霧に包まれていた。そして、その霧を照らすように赤い光が明滅していた。部屋の隅にある警告灯が点滅を開始していた。

 簡易宇宙服のスピーカに、ナナカの声が響き渡った。

「警告! 急激な減圧を確認! 有害宇宙線を観測! 当該区域は宇宙空間に曝露(ばくろ)しています。必要な装備を持たない乗組員は避難してください」

「なんだ?」

 リーブスが、わけがわからず声を上げると、その声に反応したのか、ダンゾーが動いた。

 室内の霧が全て砲座の出入り口へと吸われていくのだ。掃除機で床にぶちまけた小麦粉を掃除するなんていうレベルを遥かに超えた速度である。

 その流れ出す霧の中で、開けたハッチへ半身突っ込んでいるフレッドが見えたのだ。

 一歩だけ遅れてリーブスもフレッドの横に駆け寄った。

 砲座を覗き込むと、そこには瞬きもしない星空が見えた。全面透明装甲で覆われた砲座ならば見慣れた景色であるが、今は少し違った。

 まずポンポン砲の操作部が見当たらなかった。それに目標を指示するモニターはひしゃげてケーブルの先にぶら下がり、流れ出ていく霧に(なび)いていた。

 そして座席すら原型をとどめておらず、そこに座っていたはずのナーブラは、シートベルトの残骸のような切れ端と、宇宙服の背中にある生命維持装置のある取手を両手で掴んでくれるフレッドの細い腕で、かろうじて宇宙空間へ飛び出すことを免れていた。

「うわああああ」

 共通回線に雑音交じりの悲鳴が聞こえて来た。声からナーブラの物だという事がわかった。いままで聞こえなかったのはミサイルの弾頭が爆発して発生した電波の擾乱(じょうらん)と、薄いながらも室内と砲座を隔てるハッチが電波を遮断していたからであろう。

「落ちる! 落ちるぅ!」

 宇宙空間には上下は無いが、感覚的にいまは<メアリー・テラコッタ>から投げ出されるというよりも、落ちると表現した方がより近い物があった。

「まってろ! いま助けるぞ!」

 リーブスが声をかけ、ダンゾーと一緒にナーブラの腕を掴んだ。これでかろうじてナーブラの「転落」を防いでいたフレッドと合わせて三人がかりで彼を引き上げることができるはずだ。

 だがナーブラを宇宙空間へと放り出すことを防いだシートベルトが、今度は邪魔になった。引き上げようにも彼の体に絡まっていて邪魔をするのだ。

「たいちょう!」

 歯を食いしばった声でフレッドが呼びかける。この細い身体でナーブラを支えるのに限界が近づきつつあるのだろう。

「まってろ」

 一言断ると、ダンゾーは掴んでいたナーブラの右腕を一旦手放した。

「うわあああ」

 途端に不安定になった彼が悲鳴を上げる。それに構わずダンゾーは腰の太刀を抜いた。

「ふん!」

 狭い砲座の残骸の中へ振り回すわけにはいかない。鋭い突きの一閃で、シートベルトの金具を破壊し、ナーブラの体を自由にした。だが、それは彼の体がさらに外へと放り出されやすくなった事も意味した。

「ひいいいい」

 情けない声を上げてナーブラが自由な右腕を振り回した。

「暴れるな。ちゃんと掴んでいるから」

 左腕を掴んでいるリーブスが彼を怒鳴りつけた。彼の動きが鈍った隙に、太刀を納めたダンゾーは再び右腕を取った。

「せーの!」

 声をあわせて三人は彼の体を砲座から引き上げた。



「第五分隊よし!」

 各分隊で担当している部署のチェックが行われていた。持ち場ごとにチェックが終わると、まず担当の班長へ報告が上がり、班長が分隊長へ報告。すべての班長からの報告が揃ったところで各分隊長から船長であるコクーンと、同時に回線を繋いでいる副長アキテーヌへと報告される。第五分隊、つまり艦載水雷艇の運用が仕事の飛行科は、さすがに復命が早かった。

「第四分隊よし!」

 補給長レディ・ユミルの席の内線が鳴ってすぐに報告が上がる。所帯が小さい第四分隊ならではの速さだ。いつも第五分隊と一、二を争う速さだ。

 ふたつの分隊の報告から少し遅れて船務長ロウリーの席で内線が鳴った。

「艦橋よし!」

「第二分隊よし!」

 受話器を取り上げないスピーカモードで受信した船務長ロウリーが報告を上げた。

「マストんアンテナ数本ん灼かれたばってん、すでに予備に切り替え完了」

 至近での爆発を受け、プラズマの熱や電子的な暴力により<メアリー・テラコッタ>各所に備えられたセンサー類やアンテナ類はダメージを負った。だが戦闘艦ならばよくあることなので、そういった物の予備は十分に用意されているのだ。マストの先にあるようなアンテナの交換は、さすがに宇宙服を着て外に出て行わなければならないので、戦闘中には無理だが、代用のアンテナがすぐに装甲の隙間から起き上がって仕事を始めていた。

「第三分隊よし!」

 防御区画の奥深くにあるために、滅多にダメージを受けない第三分隊…、機関科であるが、なにせチェック項目が多いので、どうしても最後になりやすかった。

 しかしそこからも問題がないという報告があったので、一安心といったところであろう。コクーンは難しい顔をして、座高も高い砲雷長レタリックの背中を見た。

 第一分隊からの復命が遅れていたからだ。



「第四近接防御! 復命はっ!」

 命令回線を通じて高圧的な声が聞こえて来た。至近距離でのミサイルの爆発を受けて、各持ち場の点検を求めているのだろう。本来ならば指揮装置担当のダンゾーが答えなければならないが、彼女はいまフレッドと一緒にナーブラの救助で文字通り手が一杯であった。

 命令回線で返答するにはコンソールのボタンを押して回線を切り替えないとこちらの言葉が届かない。

 爆発の衝撃で床に転がっていた陸戦隊のひとりが指揮装置に飛びつくと、通話ボタンを押し込んだ。

「こちら第四近接防御。砲座大破! 怪我人ひとり!」

 確認したわけではないが三人がかりで空気が流れ出る砲座からナーブラを引き上げたのである。少しでも海賊として宇宙で生活していれば簡単に想像できる事であった。

「第四近接防御大破了解。救援は必要か?」

「現在調査中」

「了解。脱出は後部廊室を臨時エアロックとして使用せよ」

「後部廊室を臨時エアロックとして使用。ようそろ」

「以上」

 そこで命令回線からの通話は終わった。



「左舷機関砲! 復命は!」

 同じように高圧的に命令回線からの通信をフィッツロイは受け取っていた。爆発の瞬間、次のマガジンを手に取るためにしゃがんでいた彼の装甲服に特に異常は無いようだ。

 もし装甲宇宙服にダメージがあったら、左胸に取りつけた端末が警告を発してくれるはずである。

「左舷機関砲!」

「こ、こちら左舷機関砲…」

 放心した声でフィッツロイは答えた。

「ホーサムがいません…」

「なに?」

「左舷機関砲、砲手が見当たりません」

「飛ばされたのか?」

「た、たぶん…」

「いま補充員を向かわせる。それまでに機関砲が使い物になるか点検せよ!」

「は、はあ…」

「しっかりしろ! 飛ばされたヤツは救助を頼んでみる。以上!」

 しかし爆発まで威勢よく機関砲を撃っていたホーサムが無事に救助されないことをフィッツロイは覚っていた。

 彼がミサイルに向けて振り上げていた三〇ミリ機関砲のグリップを、装甲服に包まれたままの両腕がまだ握りしめていたからだ。

 そして肘から先の腕も体も、どこにも見当たらなかった。



「誰か閉めろ」

 まだ空気が漏れている砲座の扉を、頭を振って示したリーブスに反応して、他の陸戦隊員が動いた。とっくに部屋の給気口も排気口もダンパーが働いて閉鎖され、あとは室内に残る空気しかない。もちろん全員が真面目に簡易宇宙服を身に着けていたので、たとえ室内が真空になろうとも、すぐにどうなるというわけではなかったが。

 薄いハッチを閉めただけで空気の流出は止まった。同時に部屋の隅にある警告灯は赤の点滅から黄色の点滅に表示を変化させた。

「第四近接防御室内は低圧状態です。必要な装備を持たない乗組員は、安全な場所まで脱出してください。低レベルですが宇宙線が観測されました。被曝の恐れがあるので、必要な装備を持たない乗組員は、安全な場所まで脱出してください」

 ナナカの声で行われるインフォメーションが、簡易宇宙服の中で変化していた。

「ううう」

 床に寝かしたナーブラは悲鳴を上げすぎて疲れたのか、呻き声しか出していなかった。すかさずダンゾーがナーブラの宇宙服の左腕ポケットに入っている端末を操作し、彼のコンディションをチェックした。

 赤枠に入った大きな文字で「BLEED」と表示された。英語の成績も平均点だったフレッドでも、これが「重傷」を意味することぐらい分かった。

 見れば彼の左足が膝でない位置で、しかもありえない角度で外側へ曲がっているではないか。砲座を破壊したプラズマの波か、ミサイルの破片か、はたまた砲座の残骸がぶち当たって足をへし折ったことは一目瞭然だ。頑丈そうな標準宇宙服でこうだったのだから、簡易宇宙服ではたまったものではなかったろう。

 気が付くと呻き声すら途絶えていた。返事が無くなったのは怪我が酷くて意識を失ったせいだと思われた。

「サド先生の所に!」

 ダンゾーが隊長らしく声を上げた。

「リーブス! ここに残って応急班と連絡しろ。レッドミルは扉の操作。残りはみんなでナーブラを抱えて行くぞ」

「ようそろ」

 返事は人数分重なった。マチェットを腰から提げた簡易宇宙服が、隣の階段がある部屋との扉に取りついた。まず壁面にあるパネルを操作して、向こうの部屋の気圧を下げなければならない。

 こちらの部屋の気圧を上げてもいいが、砲座以外にもダメージを負っていて、どこかに穴が開いているかもしれないのだ。少しでも空気が漏れる可能性がある部屋は切り捨てて、確実に安全な場所をエアロックとして使用しなければならない。そうでないと宇宙船の中にいくら空気があってもキリが無くなってしまうのだ。

「しっかりして下さい!」

 フレッドはナーブラのヘルメットに、自分のヘルメットを押し付けて声をかけた。こうすれば電波を使用しなくても、直接振動が伝わって声が届くのだ。

 顔面を保護する透明なヘルメットのシールド越しに見えるナーブラは、汗をびっしょり搔いて寝ているようにも見えた。突発的な光を浴びた時に失明しないように色がついているシールド越しでは、それ以上は分からなかった。

「どうだ?」

 ヘルメットの中が見えたはずのフレッドに、ダンゾーが様子を聞いた。

「意識がありません。一番ヤバイ状態です」

 小学校の頃から真面目に、年一回行われる避難訓練の際に消防士が行う救急救命の講座を受けてはいた。それで人工呼吸や心臓マッサージなどのやり方ぐらいは知っていたが、こんな宇宙服を着た者にはどうしていいか知らなかった。

「レッドミル!」

 ダンゾーが声を上げるが、壁のパネルを操作しているレッドミルは手を横に振った。

「まだ向こうの空気が抜けてません」

 専門のエアロックでさえ空気の出し入れには時間がかかるものなのだ。だが重傷のナーブラがその時間を待てるとは思えなかった。

「バカヤロー! こうやるんだ!」

 ダンゾーは扉に取りつくと、まだ減圧が済んでいない隣との扉に取りついて、レバーをガシャンと下げた。

「ふんぬ」

 ダンゾーが両手でレバーを引っ張ると、減圧が始まっていたとはいえ、まだまだ気圧差があるはずの扉を強引に開いた。

 最初はゆっくりだったが、気圧差でバンと勢いよく開く。途端にまた視界が真っ白になった。ラッタルのある部屋に満ちていた空気に含まれていた水蒸気が、急激な減圧で一気に雲になったのだ。火事場の煙のような勢いで水蒸気の塊が吹きこんできた。

 レッドミルは先に扉をくぐってラッタルを駆け上がって行った。

「いくぞ!」

「おう!」

 ダンゾーが声をかけると、ナーブラの手足を抱えて持ち上げた陸戦隊の男たちが、声を揃えてこたえた。

 残るように言われたリーブスが扉を閉めた。

 ラッタルは第四近接防御がある船艙甲板と、ひとつ上の居住甲板の間に気密扉が設けられていた。普段から閉めないことになっているのか、その上下方向の気密扉は開いたままだった。

 狭くて急な角度のラッタルを使い、陸戦隊の全員でナーブラの体を居住甲板へと引き上げた。

 先に入っていたレッドミルが第四近接防御との気密扉が閉められたのを確認すると、居住甲板の側にあるパネルを操作して、室内に空気の充填を始めた。

 先ほどよりも気圧が失われていないので、かかる時間もそれほどでも無いはずである。

「あああ、まどろっこしい!」

 しかし加圧が始まったばかりだというのに、ダンゾーが居住甲板との間を仕切っている気密扉へ手をかけた。

「ここはまずいですよ」

 レッドミルが悲鳴のような声を上げた。

「通路の扉は開けっ放しになっているはずです。いま開けたら警務室どころか、医務室まで空気が抜けちまう」

「緊急事態だ」

 レッドミルの訴えをバッサリと一言で切り捨てると、ダンゾーは再び強引に気密扉に手をかけた。

「あけ! コンチクショウ!」

 ダンゾーが床と気密扉に体当たりするように踏ん張って、行先を塞いでいるように設けられた気密扉を強引に開いた。

 あとは再び同じ事の繰り返しだ。こちらへ向こうから雲となった水蒸気が一気に噴き込んで来た。

「急げ!」

 ダンゾーの声で、視界がほとんど無い中を、全員で担ぎ上げたナーブラを運び出した。

 居住区の減圧はさすがに見過ごせなかったのか、共通回線に警報が流れた。三段階に重なる不協和音の後にナナカの声で案内が始まった。通路の各所にある警告灯が黄色く点滅を始めた。

「居住区に大規模な減圧が発生。各隔壁を閉鎖してください」

 雲が晴れて来た通路の吸気口や排気口のダンパーが一斉に作動するのが見えた。だが通路を区画ごとに仕切っている気密扉の閉鎖は人の手に寄らなければならない。現に今も、通路に出たところにある警務室から、ヘルメットを被っていない陸戦隊のホームズが飛び出して来た。

 タラップのある部屋から飛び込んできたのが、同じ陸戦隊の面々と気が付くと、なにか叫んでいたが、全員がヘルメットを被っていたので聞き取ることができなかった。

 半ば無視して彼の前を駆け抜け、さらに奥の医務室を目指す。やはり気密扉を閉めようとしていたのか、通路を事務室の方から慌てて走って来た白地に黄色の簡易宇宙服姿の男に、陸戦隊全員でタックルをするような勢いで、ぶつかっていった。

「すまんグラフトン。急いでいるんだ」

 壁際に弾き飛ばした簡易宇宙服姿の男に、ダンゾーが言葉だけで謝った。



「かーかー」

 鳴きながら円を描くようにセントラル・コントロール内を飛んでいたカラアゲが、スタンドではなく船長席の背もたれへ降りて来た。

「結果、第四近接防御大破。重傷者一名。細かい破損を無視すると、ウチが被った被害はこの程度かと思われます」

 各部から集められた情報をナナカが整理してくれた。

「よし。戦闘航行は続けられるな?」

 斜め後ろに立つナナカに半分だけ振り返ったコクーンが訊いた。

「はい。全力発揮が可能です」

 ナナカは自信たっぷりに頷いた。

「船務長。こいつをカマしてくれたヤツはマークできているな?」

「できとぉばい。おおよそ後方仰角八九度、左舷仰角一〇度ば動力航行で逃走中。相手は第一六駆逐戦隊ん<ハマカゼ>と思わるっと」

「目標呼称を(エネミィ)に変更。他のグンマ宇宙軍も攻撃してくると思って準備しろ」

「ようそろ」

 船務長ロウリーだけでなく砲雷長レタリックも声を揃えて頷いた。

「四発目のミサイルがデコイに追いつきます」

 レーダーホログラムを見続けている船務士が報告を上げた。

「船務長、船を敵の右舷につけろ。砲雷長、敵の機関だけ撃ち抜いて足を止めろ」

「ようそろ。船ば敵に向くっと」

「ようそろ。主砲、射撃準備」

 コクーンの命令を受けた各科長が、自分の職権において出せる命令に変換して、各部署へと発令する。

 それに満足したのか、コクーンはひじ掛けの受話器を改めて耳に当てた。手元を見ずに短縮ボタンを押し込んだ。

「船長だ」

「こちらブリッジ。航海長です」

 すでにこれからの方針を伝えたというのにブリッジに何の用だろうとセントラル・コントロールに居た海賊どもが考える前に、コクーンは口を開いていた。

「黒い旗を揚げろ」

 その一言で、さっとセントラル・コントロールの全員が緊張した。黒い旗とはもちろん海賊旗(ジョリー・ロジャー)である。自分の宇宙船に揚げっぱなしにしている宇宙海賊もいるが、<メアリー・テラコッタ>では本気の時しか揚げない旗なのだ。

 信号旗の掲揚はブリッジを統括している航海長の管轄である。

「くわ?」

 室内に走った緊張にカラアゲが声を上げて首を捻っていた。

「アップトリム一杯。両舷全速!」

 船務長ロウリーが同じ航海長ダンカンに繋げた受話器へ厳しい声をかけた。

 相手が加速して離れつつあるので、大雑把な方角だけ合わせて加速し、後になって細かい針路調整をした方が追い込みやすいのだ。

 コクーンは受話器を戻すことなく、別の通話ボタンを押して回線を繋ぎ変えた。選んだ通話先は警務室。陸戦隊の詰め所だ。どんな時でも必ず連絡役でひとりは陸戦隊員がいるはずである。

「警務室、船長だ。白兵戦用意。そうだ殴り込(カチコ)みだ」




 解説の続き(段落ごとにまとめてみました)


突然、フレッドは…:彼女が異常に気がつけたのはコンソールの表示が「NO SIGNAL」だったから

ハッチが…貼りついたまま:気圧差からだ

霧:突然に真空と一気圧の室内が繋がったことによる断熱膨張で空気中の水分が凝結したのである


ダンパーが自動で作動:フレッドがハッチを開いた事により安全装置が働いたのである


有害宇宙線を…:色んなスペースオペラで意外と無視されている要素。宇宙空間は真空も恐いが、様々な放射線の被曝の方がもっと怖い。なにせ現在の大気圏内を高高度で飛行する国際線の旅客機の乗組員ですら宇宙線による被曝で健康被害がある程だ。もちろん簡易宇宙服を着ていれば大丈夫という設定

この細い身体で…:気圧差のあるハッチを開けたり、宇宙服を着た男を捕まえたり、本当なら無理なはず。そこは主人公補正で…じゃダメだろうから、火事場のバカ力があるように設定した。学生時代に暴漢を倒したり、お巡りさんが重傷を負ったりしていたのは、もちろん伏線


※※※


廊室:艦船で通路の役割をする部屋の事


※※※


ダンゾーは…レバーをガシャンと…:もちろん定められている安全手順違反であるが、いちおう彼女はレイジーフェローなので手順を無視してもいい権利があるとしておく

一気に雲に:さきほどフレッドがハッチを開けた時と同じである。ただ真空ではないので十秒以下で平均化されて視界は戻ったはずだ

気密扉を強引に…:廊室から居住区への扉は押して開けることになる。気圧差で物凄い力がかかっているのに押し開けるなんて、さすが陸戦隊隊長。他にも液体金属のボンベを二つ持ったりと、彼女も力持ちなのは表現して来たつもり

雲が晴れて来た通路:この雲も十秒以内に晴れたはず

「すまんグラフトン」:おそらく体格で判断したのだろう


ナナカの報告:左舷三〇ミリ機関砲の被害がまだ確認されていないことが分かる

白兵戦用意:やっぱり海賊船にはコレがないとね


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