宇宙海賊やろう! さんじゅうなな
さて来週の演習内容は?
フレッドたちが飲み物を愉しんでいた頃、同じ二階の会議室では、来週の対宇宙戦艦襲撃演習の話し合いが進められていた。
前回はひとつの会議室であったが、今回は同じ階にある三つ全てを使っての会議である。別の会議室へはスクリーンで映像を共有して同じ説明を何度もしないで済むようにされた。
これだけ会議の規模が大きくなったのは、もちろん参加人数が多いからである。
まず昨日までの演習が採点された。
一週間の演習で赤軍は全滅する事、毎日一回で合計五回。やられ役とはいえ判定は及第点ギリギリである。それでも落第点とされなかったのは、最終日に成功した襲撃のお陰である。
臨時水雷戦隊の各駆逐戦隊は、満点はもらえなかったが、ほぼ良という判定であった。命令されて進出迎撃した時の機動戦に瑕疵は無く、減点となる問題行動もなかったためだ。
旗艦を務めた重巡洋艦<キタノシゲオ>は、最終日に受けた襲撃で中破の裁定をくらっていた。受けたブラスターの攻撃は二発程度ということだが、相対的な位置から考えると、攻撃を受けたのは機関部という事にされたのだ。もちろん本当にブラスターに艦の主要部を撃たれたら二発の攻撃でも被害は甚大だったはずである。
それまで失点をしていなかったが、やはりこの最終日に受けた襲撃で大きく減点をくらい、及第点ギリギリということになった。
もちろん損害を受けなかった<メアリー・テラコッタ>には減点は無かった。それどころか反撃に手間取った<キタノシゲオ>と違って、有能な判断の元、即座に<ユキカゼ>に反撃して撃沈判定をくらわせたという事で、加点があったほどだ。
もちろん、その「有能な判断」という物を行ったのは、当時ブリッジに詰めていたフレッドである。
彼女は、会議室での岡田大佐の様子を観察しており、ただ演習で「ヤラレ役」を演じる人物では無いと見て取っていた。
彼は初日から基本通りの襲撃を繰り返し、防衛側の青軍に「敵よりも多数の艦艇を差し向けて迎撃する事は有効である」という教育をした。
そして最終日に、その教育が活かされる事になった。あからさまな囮として天頂と天底から襲撃させた駆逐艦一隻ずつの部隊(バルーンダミーで四隻に見せかけてはいた)にすら、青軍の指揮を取っていた高橋大佐は、各一個駆逐戦隊を差し向けてしまうという戦力集中の原則を破ってしまった。
これで目標である巡洋艦勢を守るのは、あと一個駆逐戦隊である。それを誘き出すのが<ニイボリ・スリー>側から出現した三個目の囮であった。
岡田大佐自身が座乗する<ユキカゼ>は、丸裸になった目標を襲撃するために、航路の中を静かに進み、そして飛び石を伝うように大型貨物船の影を利用した。
最終的に襲撃は相手を撃沈する事が叶わず、中途半端な結果となったが、岡田大佐自身は満足していたそうである。
そして岡田大佐の手の内を洞察して読み切ったフレッドは<メアリー・テラコッタ>へ出向していた堀江大尉から手放しで褒められたのであった。
本人は、提督の執務室で作り笑顔でロウリーの話し相手をしていたため、まさかそんなことになっているとは露とも思ってもいなかったが。
宇宙海賊の見習いのそのまた見習いの株が、当人のあずかり知らないところで爆上がりした後に、来週の演習内容が発表された。
やはり提督は、進攻して来る宇宙戦艦に対する襲撃演習を行いたいようだ。
だが、本格的な演習は無理との判断が為された。それだけ駆逐戦隊の練度が低いと判断されたのだ。
よって、まず第一歩。水雷戦隊で宇宙戦艦に対する襲撃行動から始めることになった。
中継ステーションより出港した青軍、赤軍は、三番地の軌道上で<カゴハラ>とは真反対の宙域で分離、軌道に対して接線に当たる仮想航路を赤軍が天頂方向へ移動して、標的を準備する。全ての準備が終わったところで、赤軍は今来た道を戻るようにして三番地の軌道へと降下。重巡洋艦<キタノシゲオ>を旗艦とした臨時水雷戦隊がそれを襲撃するという筋書きだ。
惑星<カゴハラ>とは<ニイボリ・スリー>を挟んだ星系の反対側である。なぜそこで演習が行われる事になったのかというと、中継ステーションの管制局から「航路に関する安全の申し入れ」があったからだ。
今も昔も「安全第一」という言葉がある。つまり「戦争ごっこをするのは構わないが、民間船のいないところでやってくれ」と正式な抗議を受けたのだった。
もう少し説明すると、許可を得ずに<ユキカゼ>が大型コンテナ船を盾に利用したことが問題視されたのだ。一歩間違えば衝突事故を引き起こしていた可能性があるといえばある。駐留するグンマ宇宙軍が守るべき民間船を危険にさらしては本末転倒であるということだ。
今回は、士気高揚も兼ねて実際に対戦艦ミサイルを発射する事が演習に盛り込まれた。
宇宙戦艦を模した標的に対して各駆逐艦四発のミサイルを発射、その後ブラスターによる追撃をする。そうして模擬攻撃が終わったのち、針路を変更した駆逐戦隊は、宇宙戦艦の護衛たる軽巡洋艦へもブラスターによる攻撃を加えて宙域から離脱する事になる。
もちろんブラスターによる攻撃は、同軸に設けられた照準用レーザーを照射して発射するフリだけである。護衛の軽巡洋艦とは<メアリー・テラコッタ>のことだ。
標的の曳航をしながらの射撃訓練であるから<メアリー・テラコッタ>は碌に回避運動もできない。今回は完全に的の役だ。
さて、演習する駆逐艦はミサイルを発射したら、あとは命中判定が出ていい点が取れるように祈っていればいい。だが飛んで行ったミサイルをどうするかという問題がある。
実戦ならば宇宙戦艦に命中するなり迎撃されるなりして、爆発して失われるミサイルであるが、今回は演習の模擬弾頭である。
命中判定のために信管が作動するが、爆発するのはずっと威力の低い閃光弾である。よってミサイルの本体は(隣のミサイルと衝突する事故など)よっぽど運が悪くない限り無傷で残るはずだ。
燃料さえ詰め替えて、実弾頭に挿げ替えれば再利用は十分可能だ。
グンマ宇宙軍の台所事情からしても、ぜひそうしたいところである。
そうすると発射したミサイルを誰かが拾いにいかなければならなくなる。四隻で組んだ駆逐戦隊が四個あり、一隻当たりが四発のミサイルを搭載しているから四の三乗で、ミサイルの総計は六四発である。
当たり前の話しだが、宇宙空間では最初に与えられた運動が慣性のままに継続する。六四発ものミサイルが、内惑星宙域を好き勝手に飛んでいたら、民間船と衝突事故を起こす可能性だってゼロではない。
よって発射されたミサイルを回収しなければならない。これを<カゴハラ>駐留のグンマ宇宙軍は、補助艦艇総出で行うことになりそうなのだ。
ミサイル揚収船などの専用船も、もちろん揃えてはいるが、六四隻も数は無い。足りない分は艦載水雷艇まで引っ張り出して補うことになった。
会議の増えた参加者というのは、これらの船艇の責任者である。
もちろん燃料がミサイルに残っていたりすると、うかつに触れただけで静電気が発生して燃料に引火し、爆発しかねない。専門のミサイル揚収船はもちろん、牽引ビームのあるタグボートなどなら直接接触しないので、安全に捕まえることも可能だ。その他の船艇はミサイルを追跡し、そういった安全に回収できる作業船が来るまで事故の無いように見張るのが仕事だ。
先に襲撃座標を予想し、そこを囲むように球形に船艇を配置しなければならない。まあ、今回は素直にまっすぐ飛ぶ標的に対する襲撃演習であるから、予想はしやすかった。
それでも惑星<カゴハラ>丸々一つほどの大きさをした球になる予定である。
それらの回収班は演習が始まる二時間前には出港して配置につくことや、回収したミサイルはどの座標でミサイル整備を担当する工作船に受け渡すのかなど、細かく打ち合わせがなされた。
解説の続き
照準用レーザー:果たしてブラスターに相手との距離を測る必要があるのかというもっともな疑問もある。まあ無反動砲のスポッティングライフルのような使い方なのかもしれない。本気の射撃をする前に、まずレーザーを照射してちゃんと当たるかどうか確認するみたいな使い方。それか純粋に演習専用か?ただ宇宙空間ではレーダーが使えない状況で、外形が同じだが大きさが違う宇宙船に並ばれると、光学的に距離が分からなくなるはずだから、そういう時に使用するとか




