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宇宙海賊やろう!  作者: 池田 和美
36/51

宇宙海賊やろう! さんじゅうろく

 本採用されそうにないと聞いたフレッドは落ち込んじゃいます



「不景気な顔をしているな」

 グンマ宇宙軍の荒木提督ご用足しのリムジンに座ったコクーンは、斜め前に座ったフレッドの顔を見て言った。

 演習が終わった翌日の土曜日である。来週から対宇宙戦艦襲撃訓練を行いたい荒木提督は、休日返上で各艦の艦長と、宇宙海賊船<メアリー・テラコッタ>のキャプテン・コクーンに召集をかけたのだ。

 船長が出かける時は、必ず陸戦隊の隊長であるダンゾーが護衛につく。そして、隊長預かりの身であるフレッドも前回と同じように一緒について来なければならなくなった。

 今回はこの三人に加えて、さらに二人の海賊が中継ステーションに上陸する事にした。

 赤と黒という<メアリー・テラコッタ>とお揃いの色をしたショルダーオフのフレアドレスを身に着けた船務長ロウリーと、白地に赤色の簡易宇宙服姿の水雷士リウイである。

 ロウリーは、さすがに右手の指輪型ビームガンに替えが無いのか、いつもと同じ物を嵌めていたが、その他はドレ一つとして同じ物を身に着けていなかった。

 まずドレスが凄かった。肩が丸出しどころか、胸の盛り上がりが始まるところまで、白い肌を惜しげもなく晒していた。下に固いコルセットを巻いているのか、それとも脂肪に見せかけてあれは全て筋肉なのか、豊かな部分は垂れ下がる素振りすら無かった。

 固そうな黒い生地できた胴のまわりには、まるで恒星を包んでいるプロミネンスのごとく赤くて向こうが透けるぐらい薄い素材で、フレアが取り付けられていた。

 下半身のスカート部分も同じ素材で作られているので、たっぷりとしたフレアに包まれているのに、長くて形の良い足も丸見えである。胴を包む黒い部分がレオタードのようになっていなければ、何も隠す手段が無いことになる。

 脇から直接生やしたフレアの一部が、肘の辺りから先を覆ってはいるが、これまた薄い素材であるから、白くて華奢な腕が余すところなく見えた。もちろん腕を上げても、上腕辺りに垂れ下がる無粋な脂肪(プルプル)など存在しない。

 長い金髪を、まるで渦巻のように纏め上げ、ヘアピンで模型のように小さな羽根帽子を留めていた。その帽子もドレスに合わせて黒い素材を、薄く赤い生地で包むような形であった。

 足元はキラキラと光る赤い岩塩を削り出して作ったミドルヒールである。

 いったい、そのお洒落だけで幾らかけているのか考えたくも無くなる派手さであった。

 横のコクーンは、いつもの通り黒い簡易宇宙服の上にキャプテンコートである。その反対側に、戦闘服が肌と同一化しているダンゾーが座り、コクーンに顔色を覗かれたフレッドは、その隣、ロウリーの向かい側である。

 ロウリーの護衛役であるリウイは、茶色の髪を伸ばした青年である。同系色をした瞳を持つ目の周りにはアイシャドウを入れてお化粧して、顎に生やした髭は短く刈ってあった。

 彼はロウリーがドレスの胴体とお揃いに用意した、黒革に金チェーンのバッグを持たされていた。両腰の二挺ビームガンは相変わらずである。

 四人でリムジン後部に向かい合って座っているので、リウイは車内に設けられたギャレーの横に座っていた。キラキラした目で並ぶ酒の小瓶を見つめているが、勝手に手に取らないぐらいの分別はあるようだ。

 この五人で<メアリー・テラコッタ>から<オクタビウス・ワン>で宇宙桟橋に降り立った。

 だが、いつもは明るく振る舞うフレッドだけが、調子を崩したように塞ぎこんでいる様子であった。

 他の四人も<メアリー・テラコッタ>にいる時点から気がついてはいたが、船内では他に目があったし、<オクタビウス・ワン>は操縦桿を握る飛行長アリウムが、余計な茶々を入れるので、微妙な話をする空気では無かったのだ。

「いえ…、そのう…」

 話しを振られたフレッドが重い口を開いた。両腰には、以前と同じく借りた小型のビームガンにショック・バトンを提げていた。

「まあ、そうだな」

 フレッドが一言も口にしていないのに、コクーンは頷いた。

「そういうことだ」

 どうやらフレッドの言いたいことは顔に書いてあったようだ。

「私、宇宙で生きる方法を教えてくださいと言いました」

 ちょっと必死な様子でフレッドは訴えた。

「それを言われると辛いんだが…」

 助けを求めるようにコクーンは向かい側、フレッドの隣に座るダンゾーを見た。彼女は不機嫌そうに車窓を眺めていた。

「だがな」

 コクーンはちょっと身を乗り出した。安いタクシー(イエローキャブ)ならば頭同士がぶつかるような事をしても、十分な空間がリムジンには確保されていた。

「自分の口座も調べないほど、脇の甘い奴はいらない」

「は?」

 果たして本当に自分が考えている事が伝わっていたのか、ちょっと意外なコクーンの指摘に、フレッドは虚をつかれた顔になった。

「どうだ?」

 コクーンはチラリと横に座るロウリーへ視線をやった。ロウリーは万事承知とばかりに、ドレスの胸元から銀色のカードを取り出した。

 黄色い円と赤い三角形が表面に表示されていた。素人のフレッドには、それが何を意味するホログラムか分からないが、カード自体がなにかの電子機器であることは間違いないだろう。

「…」

 ロウリーは静かに人差し指を唇に当てた。

「そうか。そういうことか」

 口座と言われてポケットを漁って端末を出そうとしたフレッドを、コクーンは手で制した。

「おっと、こんな場所で繋ぐなよ。ウチの船はクラッカーに何度もちょっかいかけられているのは知っているよな。そいつに枝をつけられかねん」

「えっと…」

「帰ってからなら大丈夫だ」

 ドコが安全なのか訊く前に答えがあった。

「あれだよ、あれ」

 車内の前の方、フレッドの背後からリウイが話しかけてきた。

「海賊に手を出して、火傷しない奴はいないってヤツだ」

 リウイの言葉にダンゾーが何度も頷いた。

「ここから降りる時なんだが…」

 ちょうどいいとばかりに、前へ乗り出したままコクーンはダンゾーとリウイへ視線を送った。リウイはそれだけで指で円を作ってOKの合図を返し、面白くなさそうに車窓を見ていたダンゾーも大きく頷いた。

「昨日あたりから、不審な(もん)ん集まってきとぉようばい」

 銀色のカードを胸の谷間へと戻しながら、ロウリーが何でもない事のように言った。

「不審者?」

 ひとり話しが分からないフレッドはキョトンとした。

「たぶん同業者か、似たような者じゃなかかて思わるっと」

「どうぎょうしゃ?」

 まだピントが来ていないフレッドに対して、ロウリーは声に出さずに口の動きだけで教えてくれた。確実にロウリーの唇が「宇宙海賊」と動いていた。

「なんでまた?」

 悲鳴のような声が出かけ、慌てて両手で口を塞いだフレッドが、その格好のまま訊いた。

「そりゃ、宇宙一イイ男と、イイ女が揃っているんだから、物見遊山でやってくるに決まってるだろ」

 リウイの説明にひとつも頷けるところは無かった。

「宇宙一んよか女は我として、よか男とは誰ん事ばい?」

「そらキャプテン・コクーンでしょ」

 お世辞というより頭から信じ込んでいるといった態でリウイが言った。

 フレッドは遠慮気味に目の前と、横を見比べた。

 お洒落という事ならばダンゾーに勝ち目は無いが、顔の造形やらスタイルでは負けていないのではないだろうか。そんな考えも顔に浮かんでいたらしく、ダンゾーが軽くフレッドの足を小突き、ロウリーが面白くなさそうに指輪を反対の手で弄んだ。

「いいかフレッド」

 わざわざフレッドを指差したコクーンは、いつもの態度で忠告するように言った。

「今日は笑顔でいろ」

「えがお?」

「そうだ」

「命令ですか?」

「そうとって構わない」

 もうちょっと説明が欲しいなと思っていると、コクーンの横のロウリーが妖艶に微笑んだ。

「笑顔は最高ん無表情やけん」

「はあ」

 フレッドは端末を取り出すと、自分の顔を映してみた。コクーンが言ったとおりに不景気な表情であったことは認めよう。そのまま「イー」とか「ウー」とか言いながら、どんな笑顔でいるか百面相をしてみる。

 なんとかまともに見える笑顔を見つけて端末をしまうと、向かいの二人が身を捩っていた。

「?」

 どうやら笑い出さないように我慢していたようだ。見れば隣に座るダンゾーの肩まで細かく震えていた。

「どうしたんですか?」

「…なんでもない」

「着きますぜ」

 無理に笑いをこらえたコクーンの言葉が、真剣なリウイの声にかき消された。途端にぬるかった車内の空気が、耳が痛くなるほどピーンと張りつめた。

「フレッド。おまえはロウリーの横を守れ」

「は、はい」

 コクーンの指示に、背筋が伸びた。座席の間からリウイが顔を出す。

「おまえが右、私が左」

 短くダンゾーが指示すると、リウイが黙って頷いて腰のビームガンに触れた。もちろん不用意にホルスターから抜くことはしないが、確実に戦闘態勢であった。

 車窓を見るとグンマ宇宙軍の司令部前に停車するところだった。

「船務長のバッグ、預かってくれ」

 リウイが黒革のバッグをフレッドへ押し付けた。

 リムジンが停車すると、運転席から回った儀仗隊姿をしたグンマ宇宙軍の海兵隊員が、扉を開いてくれた。サッと身軽に外へ飛び出たダンゾーとリウイが、周囲へ鋭い視線を走らせた。

 いつものとおり荒木提督が利用していると思っていた軍人たちが、こちらへ向けて敬礼をしている。二人は武器に手をかけたまま外を確認すると、後に続く者のために一歩踏み出した。

「そいぎんた行こうか」

 ロウリーに声をかけられ、フレッドは前の二人に続いて外へ降りた。前回と違って何かを警戒していることが分かったので、喉が渇いてきた。

 もちろんフレッドも武器を抜くことはしなかった。ただ下車するときにロウリーのフレアがリムジンのアチコチに引っかかりそうだったので、手伝わなければならなかった。

 最後に降りたコクーンまで、さりげなく武器へ手をかけていた。周囲を見回して軍人しか視界に入らないとなると、やっと溜息のような物を漏らした。

「ちょっと考えすぎだったか」

「用心に越したことはなかとです」

 ロウリーがいつもの外れたイントネーションで言った。

 そのまま五人は司令部の建物の中へと入った。中は相変わらず忙しい地方自治体の事務所のような喧騒であった。しかし、慌てたように奥の階段から飾り緒つきの将校が出迎えにやってきた。前回の会議の時に席を案内してくれた少尉であった。

 軍隊式の敬礼ではなく、とても丁寧に頭を下げた。

「ようこそいらっしゃいました暗黒湾岸卿(レディ・ダークネス・ガルフ)

 途端にロウリーの眉がキリキリと寄せられた。手を伸ばすとフレッドの手元にある黒革のバッグを指先だけで開き、中から扇を取り出した。

「お名前はなんて申した?」

「は。熊沢であります」

「熊沢さん。我や、ここじゃ<メアリー・テラコッタ>ん船務長ばい。そん呼び方はやめてくれん?」

「しかしレディをお出迎えしないわけにはいきません。そうでないと私が提督から、グンマ宇宙軍が無作法と思われるだろうと、怒られてしまいますから」

「ふうん」

 なにか言いたそうに複眼の目を細めたロウリーであったが、顔の半分を開いた扇に隠すと、何も言わずにコクーンを振り返った。もちろん複眼のエルフには必要のない動作である。しかし長い間、地球系宇宙人と暮らして来たので、そうやらないと連れに自分が何に対して注意を向けているか伝わらないと経験して知っているのだ。

 コクーンは黙ったまま頷いた。

「そがんことと、ようわかった。無礼は許そう。呼び方だけは譲れんがね」

「なんとお呼びしましたら?」

「ウチん船ではロウリーちゅう名前で通っとぉと。よってロウリーて呼んでくれん」

「かしこまりましたレディ・ロウリー。もし会議に出席なさらないのであれば、別に部屋をご用意しておりますが。お待ちの間、お飲み物などいかがですか?」

「ふむ」

 パタパタと扇を揺らしてロウリーは、コクーンとフレッドを見比べるように顔を動かした。

「そいぎんた、そちらに参ろう。一緒にこん子たちもね」

「はい。提督の執務室を自由にするように言いつかっております」

 再び一礼した熊沢少尉は、先に立って歩き始めた。

「リウイ、フレッド。船務長のカバーに入れ。俺には、ねえさんがいるから大丈夫だ」

「ようそろ」

 リウイと一緒にフレッドは答え、ロウリーの後ろについた。ロウリーは不満そうに振り返った。

「あら。我ん話し相手になっとくれ」

 たしかに前後に並んだら話しづらいであろう。フレッドは慌ててロウリーの右横に並んだ。

「じゃあ会議は俺たちで出ているから、船務長はゆっくりしていろ」

「これでは、なんのために出て来たんか、よう分からんね」

 ロウリーが苦笑のような物を浮かべた。

 海賊五人に熊沢少尉を加えた六人は、そのまま階段で二階へと上がった。

「じゃ、あとで」

 会議室前の廊下で、二手に分かれた。コクーンたちは前回と同じ会議室、残りの三人は突き当りの両開きの扉の方へと案内された。

「最近どがんな調子?」

 ロウリーが見事にドレスのフレアを捌きながらフレッドに訊ねた。

「どう、とは?」

「昨日ん演習では、良か知恵ば出して、褒められたそうやんか。うもうウチに残れそうと?」

「それが…」

 フレッドが答える前に扉へと辿り着いた。特に触れていないのに扉が勝手に開くと、中から数名の高級将校が出て来た。

 廊下に立っていたドレス姿の美人に驚き、慌てて道を開け、一礼した。

「こんドレスは間違いやったかしら?」

「お似合いですけど?」

 後悔しているような言葉に、フレッドは本心から彼女のお洒落を褒めた。

「あいがとう」

 複眼の目を細めて喜んでくれた。

 開けっ放しとなった扉をくぐると、向こう側は前室となっており、すぐに同じような両開きの扉があった。

 フレッドが訪れるのは初めてであるが、ロウリーとリウイは<カゴハラ>到着直後に訪れた司令官執務室である。

 まるで飾り物の人形のように、軍服へゴテゴテに徽章をつけた海兵隊員が、ヒートライフルを肩に立っていた。三人を案内してきた熊沢少尉が目で合図しただけで、奥の扉を開いてくれた。

「ようこそ、レディ・ロウリー」

 荒木提督は一週間前と何ら変わらない様子で出迎えてくれた。周囲にまだ二人ほど高級将校が控えているが、全員が執務室の中ほどで立ち話をしていたようだ。

「今日のお召し物は、まるで炎のように煌びやかですな。とても良くお似合いで」

 さすがに亀の甲よりは年の功であろうか。提督ともなれば他国のやんごとなき方々が出席するパーティにも顔を出さなければならないであろうから、ロウリーを出迎える様子はとても板についていた。

「今日は、チビッコギャングはどうしたんです?」

「もう席についとぉ頃ばい」

「おやおや。てっきりオレは、レディはチビッコギャングが粗相をしないように、お守りについてきなさったのかと」

 提督の軽口が気に入ったのか、ロウリーは扇を揺らしながら微笑んだ。

「あれも、まあ一人前とは言えんが、お尻ん殻ぐらいは取れた。よろしゅう頼むね」

 そのままロウリーは頭を下げるのではなく、ひょこっと屈伸のようなカテーシーを決めてみせた。

「ええ。まあ当てにはしてますがね。それでは仕事がありますので、この部屋は自由に使ってください」

 胸に手を当てて答えた提督は、案内してきた熊沢少尉へ振り返った。

「熊沢。オレの客に失礼が無いようにな」

「はっ」

 熊沢少尉は、まるで定規で測ったかのように一礼して答えた。

 それを半ば無視するように荒木提督は歩き出し、後ろを高級将校たちが追った。

 提督が部屋から出て行くまで見送ったロウリーは、彼の姿が見えなくなると同時に、フレッドを振り返った。

「そなたと背比べすっとも面白かかもしれんね」

「は?」

 言っている意味が分からずフレッドがキョトンとすると、リウイがさりげなく前に出て来た。

「背比べよりも、あそこのソファの座り心地を試しませんか」

「それもそうやなあ」

 ゆったりと歩き出したロウリーにあっけを取られていると、素早くリウイがフレッドに耳打ちをしてくれた。

「ほら船務長もヘソ曲がりだから、自分から椅子に座りたいなんて言わないんだ」

「へそまがり…」

「聞こえとぉばい」

「うへ」

 リウイはイタズラが見つかった小学生のように首を竦めた。

 三人掛けのソファにロウリーが行ったので、慌ててフレッドは彼女のドレスがみっともないように裾を捌く手伝いのために駆け寄った。

 見かけの割に体重が軽いのか、ソファへそんなに沈む込むことはないようだ。

「こちらに」

 ドレスのフレアをまとめて前の方へ流してから、向かいに当たる一人用のソファに座ろうとしたら、ロウリーの横を扇で指定された。

「あ、はい」

 高校の「作法」の授業で覚えた知識だと、そこは二番目に偉い人が座る場所のはずである。もちろん一番の所にロウリーが腰かけているのは理解できるが、自分がそこを指定される理由が分からなかった。確実にリウイの方が海賊として先輩であるし、また年齢だって彼の方が上だ。

 しかも彼はソファへ座る気配が無い。どうやら背もたれ越しにロウリーの横へ立ったままでいるようだ。

「あ~」

 彼と指定された位置を見比べていると、またリウイが素早く耳打ちをしてくれた。

「俺は気にすんな。いざって時に座ってたら、ワンテンポ遅れるだろ」

「いざって…」

 フレッドは執務室内を見回した。室内に居るのは海賊三人に、案内してくれた将校がひとりである。しかも宇宙軍の司令部と言えば、敵の襲撃から一番遠い存在であるはずだ。

 だがリウイはウインクを決めて、フレッドに合わせて屈んでいた背筋をのばした。

「それでは、失礼します」

 ちょこんとロウリーの隣に腰を下ろした。

 先週の会議に出席した時にダンゾーが「まだ敵じゃないだけだ」と言っていたことを思い出した。

 自然と今ある戦力を考えてしまう。自分が持っている小型ビームガンは、目盛りが最低に合わせてあるから、脅しにぐらいにしか使えないはずだ。電撃を相手の体へ流し込むショック・バトンの方が頼りになるが、フレッドは剣道など習ったことが無いので、素手よりはマシというレベルだ。

 船務長ロウリーが右の中指に嵌めている指輪がビームガンであることを知ってはいたが、飛行長アリウムが言ったことを信じるならば、小さすぎてどこへ当たるか分からないらしい。これまた当てにはできなそうだ。

 ということは、二挺ビームガンが勇ましいリウイが最大の戦力であることに間違いないようだ。その彼が座ることもせずに警戒してくれるのは、なんとも心強かった。

「あん窓は立派やなあ」

 ロウリーが物憂げに執務室から外を眺められる窓を褒めた。

「そうですか? 普通の窓のはずですけど」

 熊沢少尉は窓へ歩み寄ると、まるで毎日掃除機をかけている絨毯のように、表のきれいな芝を見おろした。

 雑居ビルのような建物であるから、そういう芝とかも建物の付属品というより、道路を豪華に見せるパーツといった方が正しいような配置だ。

 いざという時に戦車が走り回れるように広めに作られた道路の向かい側は、やはりこちらと同じような貧相な建物である。何に使われているのかは、看板などが掲げられていないので分からなかった。

「ふうん、普通の窓ねえ」

 リウイが窓へ近づくと、素早く周囲へ視線をやった。そして右手の人差し指だけで窓の表面を撫でて、何事か調べていた。

 そのまま外へ背中を向けないようにしてソファの所へ帰って来た。

「こがん色気んなか場所だもん、趣味ん悪か人はおらんじゃろう?」

「まあ、いたとしても一人ぐらいですかね」

「?」

 二人のやり取りが分からなくて、フレッドは熊沢少尉と一緒になって首を傾げた。

「では、お飲み物を用意いたします。しばらく、お待ちになって下さい」

「あ、ちかっと待ってくれん」

 ロウリーが扇を揺らしながら熊沢少尉の足を止めた。

「なんでしょうか?」

 ロウリーはチラリとフレッドへ顔を向けてから、扇ぐ手を止めずに言った。

「昼間からアルコールもおかしかじゃろう。甘か物ん欲しか」

「かしこまりました」

 熊沢少尉は頭を下げると部屋を出て行った。

 彼を見送っていたリウイは、扉が閉まったとみるや、足にかける体重を移動させるような感じでフレッドの方へ体を寄せると、素早く囁いた。

「外に見張りが一人」

「え…」

「これ。リアクションばせじぃ」

 ロウリーに叱られた。

「相手に、こちらがどこまで情報ば得とぅとか覚らせなかとも大事な事ばい」

「あ、はい」

 なにか言いたそうなフレッドの前で、ロウリーはまた胸元から銀色のカードを取り出した。やはりフレッドには分からない図形が表示されていた。

「…ね」

 フレッドが表示を読み取って理解しただろうとばかりに、指で挟んだカードを揺らすと、ふたたび膨らみの間へと沈めていく。

(ええと。リムジンの時とそんなに変わっていなかったから、ここも盗聴されているってことでいいのかな?)

 フレッドは、コクーンに笑顔でいろと言われたが、困り笑いのような表情しか浮かべることができなかった。




 解説の続き


無粋な脂肪なんて存在しない:うらやましい

護衛役のリウイ:初めて上陸した時も彼がロウリーの護衛役を務めていた

自分の口座も…:コクーンがこう言った理由は後の章で出てきます

枝:盗聴する回線のこと。攻殻機動隊で使っていてかっこいい語句なので借りてみました

不審者:後の章で出てきます

笑い出さないように…:フレッドを卑下する意味ではなく、あまりに可愛いので吹き出しそうになったのだ

「フレッド。おまえはロウリーの横を守れ」:後の章を読むと、この意味がまるで逆なのが分かってもらえると思います

目を細めたロウリー:複眼ですが瞼はあるという設定です。やはり視覚を担当する感覚器を保護する物が必要でしょう

何事か調べていた:窓の材質を確認していたものとする

「見張りが一人」:これは同業者から派遣されてきたもの


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