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宇宙海賊やろう!  作者: 池田 和美
35/51

宇宙海賊やろう! さんじゅうご

 さて演習が一段落しましたよ



「お? なんだか機嫌が良さそうじゃねえか」

 当直が終わり、待機状態となったリーブスは、自分の着る簡易宇宙服のリフレッシュをするために第四近接防御から荷物を抱えて居住甲板へと上がって来た。

 タラップを上がり気密扉をくぐれば通常直で配置に就く警務室の前である。物のついでに首を突っ込んだら、鼻高々な態度のフレッドを見ることができたのだ。

「えへへ」

 照れて後ろ髪を掻きながらフレッドは表情を緩くした。

「褒められちゃって」

「ああ、伍長から訊いたぜ。なんでも宇宙軍の大尉どのが、ベタ褒めだったらしいじゃねえか」

「いや、まいったなあ」

 照れ笑いが止まらないフレッドを見て、警務室の中の雰囲気はとても和やかになっていた。いつも仏頂面で端のソファに座っているダンゾーですら、気持ち目元が緩んでいるような気がした。

「これで、私の本採用も間違いないですか?」

 フレッドの問いかけに、リーブスは「あ」と驚き、そして遠慮がちにダンゾーの顔を窺った。

 いま和んでいたはずの表情がキリリと締まっていた。

「ちょいフレッド」

 リーブスは抱えていた自分の簡易宇宙服のヘルメットをフレッドへ押し付けた。

「簡易宇宙服のリフレッシュの仕方を教えてやる」

「は?」

 フレッドは、すでに何回か自分の簡易宇宙服のリフレッシュを行っていた。一回目はダンゾーに、あとはリーブス本人から繰り返し教わったばかりである。

「いいから」

 眉を顰めて首をしゃくって「ついてこい」とばかりのジェスチャーである。

「は、はあ」

 意味が分からずフレッドは、ダンゾーへ頭を下げた。

「それではリーブスに、簡易宇宙服の事を教わりに行ってきます」

「…うむ」

 いつもの不愛想な返事が返って来た。

 シャワールームの隣にある洗濯室へ通路から入って右側にはドラム式洗濯乾燥機が並んでいた。その反対が宇宙服などをリフレッシュさせる機械が置いてあるスペースであった。

 巨大な自走式本棚のような機械へ、ハンガーにかけた簡易宇宙服を吊るし、大きなハンドルで機械を移動させて挟み込んでスイッチを入れるだけである。

 あとは洗浄から内装に沈着した二酸化炭素除去剤の更新まで全自動である。

 いまもリーブスは備え付けのハンガーへ、簡易宇宙服を上下別々に吊るし終えたところだ。ヘルメットを任せられたフレッドは、中に詰め込まれた手袋を取り出した。

 挟み込む機械本体に手の形をした箇所があり、そこへ丁寧に左右とも嵌めていく。ヘルメットは首を守る部分を全部引き出して、スカートを広げてしゃがむ時の要領で広げて、スタンドとして棚に用意されている突起部分へ置くだけだ。

 リーブスの簡易宇宙服をセットし終えた二人は通路へと下がって、大きなハンドルを回した。簡易宇宙服をかけた空間へハンドルのついた機械が移動して、挟み込まれるようにして閉じる。スイッチを入れたら三〇分から一時間ほどでリフレッシュは終わるはずだ。

 ゴウンゴウンと機械が動き出したところで、フレッドはリーブスを見上げた。なにせ相手は大男である。首が痛くなるような角度で見上げなければならない。

「で? なんの話しがあるんです?」

 さすがにダンゾーがいる警務室では出来ない話をするために連れてきたことぐらいはフレッドにだって分かった。

「おまえさんの本採用の事だ」

 行き止まりの通路を塞ぐように立っていたリーブスは、半分だけ下がって本題を切り出した。下がってくれたことにより、フレッドは閉塞感を得ずに済んだ。

「宇宙軍の大尉が認めるぐらいですから、本採用も確実でしょ?」

 浮ついた声で訊ねると、リーブスは冷たい声を出した。

「無理じゃねえかな」

「え?」

 キョトンとしたフレッドは、ハチミツ色をした目を一回大きく瞬かせた。

「フレッド。おまえの本採用は、まず無理だって言ったんだ」

「えっ?」

 失礼になるかもと分かっていても、何度も聞き直してしまった。

「だって、うちゅう…」

「それが何だって言うんだ?」

 ちょっと厳しい声でリーブスが言った。

「もちろん宇宙軍の大尉がベタ褒めするヤツを『人材としてどうよ』と訊かれたら、大抵のヤツは二重丸をつけるだろうよ。でも、ウチの船は宇宙海賊船なんだぜ」

「まだ足りないってことですか?」

 しょぼんとした声が出てしまった。

「違う違う」

 大慌てでリーブスが手を横に振った。

「実力のある奴が仲間になることは大歓迎さ。だがなフレッド。ウチに乗組むんにゃ、それだけじゃダメなんだ」

「だめ?」

「ああ」

 腕組みしたリーブスは、周囲をチラッと確認してから言葉を続けた。

「まず、仮採用を本採用に決めるのは、誰だと思う?」

「え? キャプテン・コクーンじゃないんですか?」

「んー、まあ半分正解か? 本採用にするしないはレイジー・フェローと補給長の五人で相談して決めるんだ」

「へー、意外と民主的ですね」

 前にも感じたが、宇宙海賊船だから全て親玉のキャプテン・コクーンが独裁的にアレコレを勝手に決めているのかと思えば、そうではないようだ。意外と多数決を取ることが多いように思えた。

「レイジー・フェロー覚えているよな?」

 教えてくれたのはリーブスである。

「はい。船長と副長、それに伍長と隊長の四人と、いまは私です」

「もちろん、おまえさんにゃ発言権が無いのは理解できるよな? それに補給長が加わるのは奇数にするためだ」

「人件費に関して、色々と大変だからじゃないですか?」

「んー、まあ、そうとも言う」

 フレッドの指摘にリーブスの目が泳いだ。その視線が周囲を一周してからフレッドの顔へ戻って来た。

「フレッド、おまえにゃまだ行ける場所がある。いや、行けるじゃ変だな。帰れる場所だな」

「え、だって、私が天涯孤独なのを知ってますよね?」

 キャプテン・コクーンに身の上話をした時に、リーブスも同席したはずである。

「本当にそうか?」

 顰めた眉毛の向こうから鋭い眼光で睨まれた。

「なんとかっていうエルフのお大尽が、おまえさんの親父さんなんだろ? (ウチ)から下りたらソコが引き取りたいって話はどうなった?」

「あ…」

 フレッドには兄弟がいなく、唯一の家族は高校入学と同時に亡くなった母親だけであった。その後、孤児院で暮らしており、なんやかんやで<メアリー・テラコッタ>に仮採用される事になった顛末は、リーブスも聞いていた。

 フレッドは、彼女の父親は星間国家グンマの首都惑星<マエバシ>に暮らすエルフの貴族であるだろうと、母親から聞いていた。その話を受けて、同じエルフである船務長ロウリーが、その貴族に連絡を取ってくれた。

 その結果としてフレッドには、彼女を自分の子であると認知するかもしれないなどの話しが、コクーン経由でもたらされていた。

 陸戦隊では隊長以外の役職は決まっていないが、なんとなく副官のような立場にいるリーブスの耳にも、そういう話しは入っていた。

「わざわざ、こんなヤクザな商売をしなくったって、フレッド。おまえさんにゃ、帰れる場所がある。俺は分からんが、少なくともエルフの親父さんのトコに行きゃあ、板一枚外に出たら三秒で死ぬなんて心配はしなくて済むだろ?」

「…」

 フレッドは押し黙ってしまった。

「考えてもみろ、お貴族さまのご令嬢だぜ。お菓子も食べ放題、昼間までダラダラ寝てても誰も文句は言わない。で、夜になりゃあオシャレなドレスを着てパーティだろ。俺たちが一生口に入れられないような、うまい(もん)食って、うまい酒を飲んで、ニコニコ笑ってるのが仕事だ。宇宙海賊なんてヤクザな商売より楽できるぜ。そんな女の子を、わざわざ不幸の道へ連れ込もうなんざ、ウチの船長も考えちゃいねえさ」

 リーブスの指が一本立てられた。

「これで五人中一人が反対。副長は、いつも人手が足りないって言ってる。でも副長が欲しいのは頭が悪くても度胸のある奴だ。差別かもしんねえが、女じゃねえ。まあ特に反対はしねえが、賛成もしねえだろ。中立が一人」

 左手の人差し指が立てられた。

 フレッドはいつも朗らかに笑う副長アキテーヌの髭だらけの顔を思い出した。確かにリーブスの言う通りかもしれない。

「ジャックは、まあ来るものは拒まずって態度だ。だから副長と同じさ。反対はしねえが、賛成もしねえ。これで中立が二人」

 リーブスの左中指が立てられた。これで右が一本、左が二本である。

「隊長は、きっと反対するぜ」

「え」

 断言されてフレッドは、よろめくぐらい驚いた。

「女の身で宇宙海賊やる大変さを一番分かっているからな」

「それを言ったら副長だって女では?」

「まあ、そうだが。ウチの隊長は、ほら白兵戦(カケアイ)する部署だろ。俺もたいがい一緒に居るが、副長よりもっと大変な思いをしてきたはずだ」

「じゃあ、なんで隊長は宇宙海賊なんか…」

 フレッドの言葉が尻つぼみになった。ダンゾーが毎夜、船長私室に通っている事を彼女は知っていた。

「な。反対しそうだろ? それに隊長は船長の意見にいつも賛成だからな」

 これで指が二本ずつ立てられた。賛成と反対ではなく、中立と反対が二票ずつではフレッドの採用は厳しいだろう。

「補給長も、たぶん反対だぜ」

 一縷の望みを粉砕するかのようにリーブスは言った。

「補給長もなんやかんやで船長の意見に賛成するからなぁ。まあ、無理も無いが」

 手を降ろしたリーブスは、ちょっと寂しそうに言った。

「ウチの船を下りても、まあ覚えた事は無駄にはならねえと思うぜ。他の船に客として乗る時だってカテゴリーとか閉塞とか知っていた方がなにかと便利だし。運悪く遭難した時だって、まあ、知らないよりは知ってた方が生き残れる可能性が高い。それに…」

 ニヤリと不敵な笑いに(かお)を変えたリーブスは、ずいっと一歩前に出た。

「豪華客船に俺たちが仕事でカチコんだら、乗っていたのがおまえさんだった、なんて面白そうじゃないか」

「そんな…」

 なんと言っていいのか分からずにフレッドが絶句していると、リーブスはイタズラっ子のような顔で言った。

「意外と銀河(せかい)は狭いもんだぜ。そん時はよろしくな」




 解説の続き


すでに何回か…:前の方に書きましたが、簡易宇宙服のリフレッシュは一週間に一度という設定。つまりフレッドが<メアリー・テラコッタ>に乗組んで、それだけ時間が経ったということ

簡易宇宙服のリフレッシュ:こちらは洗濯と違ってタダ。なにせ業務に関わる物だからだ

リーブスにも、そういう話は…:「伍長は草の伸びる音を聞き分ける」という言葉があるそうだ。下士官になるには耳が良くなければならないという意味。もちろん聴力ということではなく、敵味方の情勢などの裏情報についてである。宇宙海賊だってリーブスのようなまとめ役ならそのぐらいの情報収集は朝飯前であろう


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