表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙海賊やろう!  作者: 池田 和美
PR
32/51

宇宙海賊やろう! さんじゅうに

 さてグンマ宇宙軍の演習は無事に終わるのでしょうか



 今日が駆逐艦での襲撃が最終日という金曜日、通常直のままに警務室にいたフレッドに呼び出しがかかった。

 わざわざブリッジからキャプテン・コクーン直々のご指名であった。

「とりあえず簡易宇宙服は着ていけ」

 世話好きのリーブスが色々と教えてくれた。

「それとヘルメットと手袋も忘れずにな。いつ戦闘配置がかかるか分からねえからよ」

 この一週間近く、<メアリー・テラコッタ>に乗組んでいる普通の海賊どもは、宇宙軍の演習に参加しているという事を忘れそうになるほどに平和であった。毎日の戦闘訓練以外で戦闘配置の号令がかかることも無く、通常直のままに生活していたからだ。

 だが、いつもと違う配置へと赴くのなら話しは別だった。

「戦闘配置がかかったら、ブリッジから砲座まで走るんですか?」

 フレッドが抱いた当然の疑問に、少し吹き出しながらリーブスは教えてくれた。

「そりゃないと思うぜ。わざわざキャプテン・コクーンが呼び出したんだから、戦闘配置がかかっても、そばで見てろってことじゃないかな」

「わかりました」

「それと、呼び出されてその場所に行った時は『フレッド入ります』って大きな声を出すんだぞ。そうじゃないとお偉いさんが、来たことに気づかない時があるからな」

「ようそろ」

 最近やっと慣れた返事で返すと、リーブスは笑顔で親指を立ててくれた。

「よし、その調子だぞフレッド」

 通常直は警務室に居るというのはフレッドの配置である。座り心地の良さそうな専用ソファがあるダンゾーはいいが、他に椅子は二つしかない。

 片方はいつ来るかわからないお客さん用として、残りの一つを占領するのは当直の陸戦隊隊員に悪いので、警務室で立っていなければならなかった。まあ単純に自重トレーニングの一環とも言えた。とは言え午後には疲れてお客さん用の椅子に座ってしまうのだが。

 さすがに毎日のように警務室と第四近接防御の間を往復していたので、誰にも教わらずに自分の簡易宇宙服の置いてある場所に辿り着けた。

 現在の当直はB舷である。ということで砲手のナーブラが第四近接防御の区画にいた。どうやらやることが無いので、スクワットをしていたようで床に汗で水たまりができていた。

「おっす」

 頭に巻いた黄色いタオルから湯気が上がっているような錯覚をフレッドが得ていると、ナーブラは親し気に手を挙げて挨拶してくれた。

「おはようございます」

 挨拶もそこそこに簡易宇宙服を身に着ける。他の乗組員は武装をしているので、着替える時には一回ガンベルトなどを外さなければならないが、フレッドは身軽だ。グンマ宇宙軍の会議に参加した時に借りた武器は、当日に返却済みである。

 端末を左腕のポケットへ入れ、簡易宇宙服の上は、前を閉めずに冬物のジャケットのように袖を通すだけにする。それからキャビネットへ行き、ヘルメットと手袋を回収した。

「どこかに用事かい?」

 ナーブラが気安く訊いて来た。挨拶の間は止めていたスクワットを再開していた。

「ブリッジに呼び出されて」

「あー、ちょいまち」

 言い捨てて行こうとするフレッドを呼び止めると、またスクワットを止めたナーブラは自分のお尻を指差した。

「ヘルメットは腰にあるフックで、お尻の上に引っ掛けて持ち運んだ方が、両手が空いて楽だぜ」

「ふっく?」

 言われて自分の体を振り返ると、簡易宇宙服には腰の高さにベルト通しのような物が一つついていた。

 そこへ上下逆さにしたヘルメットの顎紐を通すと、確かに両手に何も持たなくてよくなる。

「ありがとうございます」

「いいってことよ」

 自分が知らない事を教えて貰ったので、素直に礼を言うとナーブラは再びスクワットに戻った。

「それじゃあ、行ってきます」

「ブリッジに入る時には、大きな声で『入ります』って言うんだぞ」

「ようそろ」

 同じことを言われても苦にはならない。なにせ見た目は強面だが気のいい男たちである。会話していても裏があるとか考えなくていいので楽だ。

 簡易宇宙服を着たフレッドは、タラップで短艇甲板まで上がり、そこから横に移動した。格納庫脇の狭い通路だけはちょっと通るのが大変だったが、通路を走っても誰の邪魔にならないところがよかった。これが居住甲板だと、誰かとぶつかる可能性が高かった。

 同じ間隔で設けてある隔壁の気密扉を、陸上競技にあるハードルの要領で飛んでくぐりながら、ブリッジ真下の格納スペースへと辿り着く。そこからは急な傾斜の梯子のようなタラップしかない。

 壁に書かれた「物を置くな」の文字を読みつつ、フレッドは左舷のタラップで船橋甲板へと上がった。

 船橋後室を抜けてそのまま左舷の気密扉へと辿り着いた。

「アルフレッドはいります!」

 気密扉を開けながら大声を上げた。しかし薄暗いブリッジで振り返る者は誰もいなかった。

 中央後部に設けられた船長席にはキャプテンコートを着たままのコクーンが座り、その両脇には数人の簡易宇宙服姿の乗組員が立っていた。

 現在の当直はB舷なので、おそらく当番長を務めているのは機関長パリザーのはずである。同じ舷に航海長ダンカンが配置されているのは、操舵の事に詳しくないパリザーをサポートするためだとリーブスが教えてくれた。

 船長席の後ろには頂部が丁字をしたスタンドが立ててあり、宇宙カラスであるカラアゲの止まり木となっていた。

 ブリッジにいたほとんどの海賊どもに無視されるような感じであったが、彼だけは面倒くさそうに半分だけ振り返ってくれた。

 船長席に歩み寄ると、フレッドの記憶通り髪を虹色に染めたパリザーと伊達男のダンカンが並んで立ち、席のやや後ろに<メアリー・テラコッタ>中央コンピュータのアバターであるナナカが立っていた。

「くわああああ」

 止まり木のカラアゲは暇そうに大きい欠伸をしてみせた。

「おはようございます」

 まずは船長に挨拶をと頭を下げると、今度は周辺にいた全員が反応を示してくれた。

「オッス!」

「おはよう」

「はよはよ」

「見える! 見えるぞよ。キミの後ろに…」

「仕事中にそれはやめろって言われているよなあ」

「おはようございます」

「おはよ!」

「くわっ」

 カラアゲも含めたブリッジ要員の大半が挨拶を終えたところで、フレッドは違和感に気が付いた。今日はレーダー関係のコンソール近くに、見慣れない軍服姿の人物が立っているのだ。

 レーダー画面からの明るさで首元が照らされている。そのせいで顔の大半が陰になっているが、審判官として乗り込んでいるグンマ宇宙軍の堀江大尉であった。それとカラアゲの止まり木の傍に、剃った頭に黒ベレーを乗せて、筋肉ムキムキの体を戦闘服で包んだ男がヒートライフルを肩にかけて立っていた。

陸戦隊のひとりであるホームズである。

 近接防御と警務室以外で陸戦隊を見るのは初めてであった。だが説明されなくても彼が何のために居るのかはすぐに分かった。いちおう雇用主であるグンマ宇宙軍の大尉とは言え、余所者は余所者である。彼が何かしでかさないように睨みを利かせているのであろう。

「よし、フレッド。よくきた」

 挨拶が一段落したところでコクーンが声をかけてきた。彼が座る船長席の背もたれへとカラアゲが飛んで来ると、偉そうに胸を張って見下すような視線を送って来た。

「お呼びに与り参上しつかまつった」

「は?」

「いえ、冗談です」

 笑ってごまかしたが、ただなんと答えていいか分からなかっただけだ。

「そこの予備席を使え」

 見ると船長席の左後ろに予備席が用意されていた。同じぐらい船長席から離れた右側の床にはハッチがあって、ステンシルで何か書かれているから、同じ物が床に収納されているのだろう。

「ヘルメットは背もたれの後ろに置いておくんだ」

「ようそろ」

 腰から外したヘルメットを、予備席の背にある棚へと置き、フレッドはチョコンと席に座った。

「たまには違う部署もいいもんだろ?」

「クワクワクワクワ」

 カラアゲがコクーンの真似をするように鳴いた。

「は、はあ」

 なんのために呼び出されたのか分からないフレッドは困惑するばかりだ。

「さて、いまウチの船が駆逐艦に狙われているのは分かっているな?」

「はい」

 なにせ会議に参加していた身である。コクーンも確認のために訊いたのであって、忘れていたわけではあるまい。演習の内容はまだ頭の中に入っていた。

 敵役である第一六駆逐隊は、一日一回は中継ステーションの駐泊地へ模擬襲撃を行う事になっているはずである。そして活動的に動くことが指示された駆逐隊とは違い、宇宙巡洋艦と宇宙海賊船には特に移動などの指示はでていない。つまり宇宙巡洋艦と宇宙海賊船は漂泊宙域において「的」の役割という事だ。

「どこから来ると思う?」

「は?」

 フレッドがキョトンとすると、コクーンは船長席のコンソールパネルを弾いて、球形のホログラムを呼び出した。惑星<カゴハラ>を中心とする現在の様子である。

 周囲を民間船が動いているのまで分かる画面だ。銀河国際法で星系内を航行する宇宙船は、個別識別装置(トランスポンダ)のスイッチを入れていなければならない。それにより船名はおろか現在取っている針路、これからの変針予定、積み荷の種類や、積載量などの簡単な情報を得ることができた。

 軍艦にもトランスポンダは搭載されており、平時には民間船と同じように運用されなければならないが、もちろん実戦や演習ではその限りではない。ここに私がいますよと宣伝しながら、かくれんぼをする者がいないのと同じで、わざわざ敵に自分の居場所を教えるバカはいないからだ。

 貿易港として栄えている惑星らしく、煌びやかな豪華客船から、腹にいっぱい液体炭化水素を詰め込んだタンカーまで、様々な民間船が入港を控えて減速したり、安全なワープ可能域を求めて星系外へ向けて加速していたりしていた。

 その<カゴハラ>宙域に一本のピンが立っていた。こうして宇宙スケールで眺めると糸よりも細い線になるが、あれが<カゴハラ>の赤道から立ち上がっている軌道エレベータである。

 ピンの頭に見えるのが中継ステーションになる。

 中継ステーションの管制局が権限を持つのは<カゴハラ>の衛星軌道より内側であり、他は無管制で航行しているはずであるが、とんでもない位置に居る宇宙船は一隻も無かった。

 これは<カゴハラ>の自転と同じ方向に(つまり東に向かって)航行した方がより経済的だからである。

(惑星の東西南北は、人類発祥の星である地球に揃えて設定される事になっていた。つまり自転の方向によって東がまず定まり、そこから残りの方角が決められた)

 中継ステーションへ入港する場合、自転と同じく西から接近すると減速が少なくて済むし、逆に飛び出して行く場合も、東へ飛び出した方がその分余分な加速をしなくてよいからだ。

 よって自然と入港する宇宙船は一本の棒のように並んで、その列が中継ステーションへ至り、そこから出港していく宇宙船が反対側へ一本の棒のように並んでいるという形を取ることになった。

 そして、もう一つ<カゴハラ>にはニイボリ星区三丁目四番地という特殊な事情もあった。

 球形に内惑星系がアステロイドゾーンに包まれているこの星系では、どちらの方向から接近しても小惑星とのニアミスや、弾丸のように小さなスペースデブリとの衝突という危険を冒さなければならなくなる。

 だが同じニイボリ星区三丁目四番地にある二つの大きな小惑星<マルス・カゴハラ・レッド>と<マルス・カゴハラ・ブルー>に挟まれた空間だけは、両小惑星の引力で細かなスペースデブリはどちらかの小惑星地表へと落下しており、何もない綺麗な航路として使用可能なのであった。

 また、そのアステロイドゾーンに開いた間隙へ至るまで、ひとつ外側の軌道を巡るガスジャイアント<ユピテル・カゴハラ>の重力を推進力の足しに出来るというオマケもあった。

 よって重力傾斜の少ない外宇宙から<ユピテル・カゴハラ>の重力ブレーキ軌道を通り、二つの小惑星の間隙を通過し<カゴハラ>へ至る「入国する宇宙船」の列と、<カゴハラ>から二つの小惑星の間隙を通過し<ユピテル・カゴハラ>の重力カタパルト軌道を通り、重力傾斜の少ない外宇宙へと至る「出国する宇宙船」の列が、特に誰かに航路として定められていなくても、行儀よく並ぶことになるのであった。

(もちろん惑星ごとの公転や自転によって刻々とその「航路」は変化し続ける)

 コクーンがコンソールに呼び出したのは、その航路の様子であった。もちろん<メアリー・テラコッタ>のレーダーだけでは捉えられる情報量ではない。事故を未然に防ぐ目的で中継ステーションが積極的に発信している物である。

 星系内部には航法レーダーを搭載して宙域を監視する無人の灯台艇(フローティング・ビーコン)などが配置されており、その情報を中継ステーションが一括で処理した後に、周辺を航行する宇宙船へインフォメーションとして流しているのだ。

「これじゃあ、わかりにくいか」

 さっとホログラムを撫でると球形の一部、中継ステーション周辺宙域がアップになり、現在演習のため臨時の水雷戦隊を編成している<カゴハラ>駐留艦隊の様子が分かりやすくなった。

 静止衛星軌道上の漂泊宙域とはいえ、なにも好き勝手に宇宙船が浮かんでいるわけでは無い。漂泊地に指定されている宙域は、中継ステーションを中心にタマネギのごとく立体的な数枚の層に分けられて、種別ごとに各宇宙船へ割り振られていた。

 その中でも一番外側の層が宇宙軍関係に割り当てられた宙域である。一朝なにかあった時にはすぐに出航できるよう鈍重な民間船が邪魔にならないために、また何らかの勢力からの襲撃があった時は民間船の盾になるための配置だ。

 その次に中継ステーションから遠くに漂泊するのは、爆発物などの危険物を大量に積載した貨物船である。

 例えば炭化水素(せきゆ)は、いまだに簡易なエネルギー源として活用されていた。地球上では油田として岩盤を掘削しなければならなかった炭化水素の採集であるが、宇宙ではそれが海として地表を覆っている星が複数存在した。

 産出星から液体として汲み上げて各消費星へ運ぶタンカーは、宇宙戦艦よりも巨大であった。言うまでも無いが炭化水素は可燃物である。宇宙には空気が存在しないが、危険物はなるべく人々が生活している場所から遠ざけておくことに間違いはないはずだ。

 逆に中継ステーションに一番近い層は、星系内だけの運航をしている貨客船などであった。もともと小型船が多いカテゴリーだし、乗客の便を考えたら当然の事である。

 そうやって宇宙船の種類ごとに、どこに漂泊するかを中継ステーションの管理局が指定しているのである。

 さらに言えば豪華客船には割り振られた層は無い。それらは全て中継ステーションへ直接着岸するからである。

 仮想敵である第一六駆逐戦隊の襲撃を、いまかいまかと待っている臨時水雷戦隊は、八隻の駆逐艦がそれぞれ頂点に位置するように立方陣を組んでいた。残りの四隻は恒星ニイボリ・スリーに向かって正方形を描くように立方体の外側にいた。

 旗艦である重巡洋艦<キタノシゲオ>は、立方陣の中心に居た。

「面白い陣形ですね」

 これが生まれて初めて見る本物の宇宙艦隊であるフレッドは、興味深そうに椅子から乗り出して画像を覗き込んだ。

「これは立方陣といって、周囲を警戒する時に組む陣形だ」

「そうなんですか?」

「一隻の船のレーダーだと、精度はそんなに出ないんだ。いま<ニイボリ・スリー>の傍に駆逐艦が現れたとしても、一隻だと発見も難しい」

「へえ」

「なにせ電波が届くまで六分、そこから対象物に反射して返って来るのがまた六分。つまりレーダーじゃ、どんなに頑張っても一二分前の情報しか得られないんだ。しかも恒星という雑音の中に居る事になる」

「じゃあレーダーを使うだけ無駄ってことですか?」

「それが無駄にはならない」

 コクーンは薄暗いブリッジでゆっくりと頭を横に振った。

「複数のレーダーから得られるデータを一括で処理する事ができれば、それは同じ直径のレーダーと同じ精度を出せるんだ。そしてレーダーってやつは、デカけりゃデカイほど精度が上がる」

「ふくすうの?」

 コクーンが言っている意味が分からずに、フレッドは首を捻った。

「つまり十キロの間を置いて配置されたレーダーの情報を、タイムラグなしで処理することができたら、それはひとつの直径十キロをしたレーダーと同じってことだ。もちろん配置するレーダーが多ければ多いほど、さらに精度は上がっていく」

「えーと、つまり」

 フレッドは八隻の駆逐艦で形作る立方体へ視線を戻した。

「一辺が…」

「この場合は十キロだな」

「一辺が十キロのレーダーで太陽の方向を見ているってことですか?」

「違う」

 コクーンは手を振って否定した。

「それなら恒星に向けて正方形を形作れば事足りる」

 コクーンの指が立方陣の外で正方形を形作っている四隻の駆逐艦を指差した。

「立方体ということは…」

「全部を見ている?」

「そう正解だ。立方体すべての面で、全ての方向を走査できる。これが立方陣だ」

「へえ」

「もちろんどちらの面に対してもレーダーの電波は光速を超えて届かないから、タイムラグが生じる。が、一隻のレーダーで監視するよりかは精度が上がっているはずだ」

 そこで一旦、堀江大尉の方へ視線をやったコクーンは、ちょっと楽しそうに付け加えた。

「…たぶん小石ぐらいの物体も見えているんじゃないか?」

「レーダーの電波が届くのに時間がかかるんだったら、データを集める時にも時間がかかるんですか?」

「そこはデータリンクという物がある。こういった情報をやり取りするための専用の回線だ。宇宙軍の船には必ず積んであると言っていい。今回ウチもグンマ宇宙軍と契約するのにあたって、限定的だがデータリンクを覗き見るぐらいの権限を貰った。こいつは超光速通信(ハイパーウェーブ)で情報をやり取りするから、そこにはタイムラグは生じないんだ」

 データリンクにハッキングをかけているなど、おくびにも出さずにコクーンは言った。

「つまり<カゴハラ>や、<ルナ・カゴハラ>という邪魔者の向こう側は見る事はできないが、最高の体勢でグンマ宇宙軍は敵軍を待ち構えているという事だ」

 コクーンが説明する言葉が届いているのだろう、レーダーコンソールの方に居る堀江大尉が胸を張っていた。

「で、今日はどこから来ると思う?」

 コクーンは再び同じことを口にした。

「昨日までは、どちらから来たんですか?」

 当然の質問をフレッドがすると、コクーンは何でもない事のように周辺宙域のホログラムを横にどかし、新たなホログラムをコンソールに呼び出した。

 今度は<ニイボリ・スリー>を中心とした内惑星軌道図である。外周を細かな光点が包んでいるが、あれが四番地のアステロイドゾーンであろう。内側に三つの輪が描かれているのが、一番地から三番地の惑星軌道であるようだ。

 そこにはもちろん各惑星の位置が示されていた。<カゴハラ>の内側にある二つの地球型惑星<メリクリウス・カゴハラ>と<ビーナス・カゴハラ>である。

 母星<ニイボリ・スリー>のハビタブルゾーンから少し内側へずれてしまっているために、<ビーナス・カゴハラ>には液体の水が存在せず、居住に適さない惑星となっていた。だが地下には相当量の資源が眠っている事が確認されており、熱にさらされない極点の地下に基地が設けられていた。

 もっと<ニイボリ・スリー>に近い<メリクリウス・カゴハラ>に至っては、ただの岩の塊である。太陽風に一年中、昼夜を問わずに晒されているため、表面が削られてツルツルの鏡面になっているほどだ。

 いちおう<ニイボリ・スリー>の観測や恒星環境下における実験を行う複数の研究施設があるが、これもまた地下施設となっていた。

 そんなフレッドが幼いころから親しんできた惑星の軌道図に<カゴハラ>のちょうど反対側から赤い矢印が伸びはじめた。真ん中にある<ニイボリ・スリー>の赤道上空を通過すると、そのまま真っすぐに<カゴハラ>の昼の面に浮いた中継ステーションへ向けて伸びてきた。

 だが<カゴハラ>に辿り着く遥か手前で大きなバツ印に行く手を遮られた。

「月曜日が巡行軌道、火曜日が極軌道…」

 いったん赤い矢印が消されると、また同じ場所から赤い矢印が伸び、今度は<ニイボリ・スリー>の北極上空を通過して<カゴハラ>へ向けて伸びてきた。だがほとんど同じ位置に現れたバツ印に再び行く手を遮られた。

「水曜日が二手に分かれて巡行軌道と極軌道…」

 また赤い矢印が消された。同じように<カゴハラ>とは反対方向から赤い矢印が伸び<ニイボリ・スリー>の近くで二つに分かれた。片方が赤道上空を、もう片方が南極上空を通過して<カゴハラ>へと伸びてきた。だが二度あることは三度あるとばかりに、またバツ印に行く手を遮られた。

「木曜日も二手に分かれたが、ちょっと毛色が違ったな」

 赤い矢印が消されて、再び四番地の軌道から伸び始めた。だが今度は最初から二本であった。片方が<ニイボリ・スリー>の向こう側から<カゴハラ>へと至る、今までと同じような経路で、もう片方はなんと<カゴハラ>の軌道の真上からまっすぐに天頂方向からおりてくる矢印であった。

 恒星<ニイボリ・スリー>からならば一時間かかる距離であるが、軌道円の接線上をまっすぐ降下して来るとなると一時間半ぐらいかかる。

 九十度違う角度から攻めたという着眼点はいいが、立方陣を取っている臨時水雷戦隊は誤魔化されなかったようだ。同時に<カゴハラ>へ到達するために、最初に現れた天頂側の組へまず一個戦隊、四隻の駆逐艦を向かわせ、後から現れた恒星側の組を捕捉すると、慌てずに立方陣を解いて麾下の部隊に迎撃させていた。

 やはり数は力なのだ。

「さて、どこから来ると思う?」

 コクーンは、知りたい情報は全部教えたぞとフレッドへ三度問うた。

「う~ん、そうですねえ。私だったら…」




 解説の続き


個別識別装置:現行でも船舶や航空機は似たような装置を使用している

東西南北:慣習的に自転の方向で東西南北が決まる事とした。だって宇宙船が初めて着陸した時に、どの向きだったかを基準にして決めたら大変だもの

四番地という特殊な事情:もしかして<カゴハラ>から見る夜空って星がいっぱい見えるのかしら

「たぶん小石ぐらいの…」堀江大尉が聞いている事を意識しての発言。おそらくもっと細かい物まで見えているとコクーンは把握しているが、そこまで知っていると身内でない大尉にはバレないように誤魔化したのである

<メリクリウス・カゴハラ>:メリクリウスは水星の事。ビーナスは金星。こうして地球のある太陽系になぞらえて命名していると設定した。もし居住可能惑星が第四惑星だった場合は<メリクリウス>の内側を回る惑星は<バルカン>という名前がつけられる


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ