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宇宙海賊やろう!  作者: 池田 和美
30/51

宇宙海賊やろう! さんじゅう

 宇宙軍の会議の様子です



 軍の会議と訊いて、難しい作戦などを、星間座標を上げて検討する。とフレッドはイメージをしていたが、まったく違った。

 まず昨日の編隊航行の採点が発表された。満点をもらった部隊は一つも無かった。

 それから来週には襲撃訓練に移るので、駆逐戦隊ごとに第二惑星<ビーナス・カゴハラ>の軌道上で自主練習を繰り返しておくようにとの通達があった。

 そして会議も後半に差し掛かり、来週行われる演習の説明が始まろうとしたところで、三人の駆逐艦長が会議室に走り込んで来たのだ。

 それぞれが連れてきていた部下(カバンもち)と一緒になって、走って来たせいなのか、それとも遅刻が原因の冷や汗なのか、どちらか分からぬ物で顔や額はびっしょりと濡れていた。

「遅いぞ」

「も、もうしわけありませんでした!」

 先任幕僚の叱責に、おそらく三人の中で一番先任の駆逐艦長が、姿勢を正して謝罪した。

「君は?」

 荒木提督が静かに訊ねた。怒っているのかと思えばそうではないようだ。彼の目元が脂下がっていた。どうやら趣味が悪いことに、このシチュエーションを愉しんでいるようだ。

「はっ。第一六駆逐戦隊<ハマカゼ>艦長の曽根崎であります」

 実は駆逐艦の艦名というのは公式の物ではない。なにせグンマ宇宙軍だけでも様々な艦型を合わせて一〇〇〇隻を超える数の駆逐艦が就役しているのだ。

 感覚として惑星の大気圏のみで運用される戦闘機に一機ずつ名前がついていないのと同じである。数が多いので船体識別符(ハルナンバー)と呼ばれる英数字によってつけた番号が正式な名前であった。

 ちなみに<ハマカゼ>のハルナンバーは「DD〇九〇」であった。この内「DD」は汎用駆逐艦に割り当てられる英字で、数字は就役順に割り振られる物である。ただ全体の数字が大きくなったので、上二桁の数字は省略されていた。

 第一六駆逐戦隊に所属する駆逐艦は「DD〇八八」が嚮導駆逐艦で、残りの三隻が「DD〇八六」「DD〇九〇」「DD〇九一」であった。

 だが味気のない番号だけでは自分の乗っている駆逐艦への愛着が湧かないとして、非公式に艦名が名付けられることがあった。

 第一六駆逐戦隊の場合、地球上で初めて核兵器が使用された時代の連合艦隊にちなんで嚮導駆逐艦を<ユキカゼ>残りの三隻を<イソカゼ><ハマカゼ><タニカゼ>と名付けていた。

 なおグンマ宇宙軍内だけで<ユキカゼ>を集めると一個水雷戦隊ができるほどである。銀河全体では日系宇宙人の入植した星の数を考えると、相当な数があるとしか言う事が出来ない。かつての殊勲艦にあやかろうとするのは、いつの時代でも同じである。

「ソネザキくんね。覚えておこう」

 荒木提督は、額に浮いた汗を拭けずにいる少佐の肩章をつけたまだ若い将校に微笑みかけ、空いている席を指差した。

「まあ、座り給え」

「し、しつれいします!」

 ちなみに第一六駆逐戦隊の嚮導駆逐艦<ユキカゼ>艦長、つまり戦隊司令という立場である岡田大佐は、時間に遅刻せずに席についていた。会議冒頭に配下の艦長たちの欠席を問いただされると「戦隊司令の自分が聞いておけば、会議へ参加しなくてもよいと思った」だそうである。

 三人の駆逐艦長と随行の三人、合計六人は手近な席に腰かけた。つまりコクーンやフレッドのすぐ横である。本来ならば第一六駆逐戦隊の責任者である岡田大佐の辺りに座るのが正しい席次であろうが、いまさらガタガタと会議室の中を移動してさらに不興を買うのを避けたのであろう。

「座って貰ってなんだが、もう今回の演習評価等の伝達は終わってしまっている。詳細は岡田大佐から聞き給え」

 先任幕僚が冷たい感じで言い放った。さらに三人の駆逐艦長は恐縮して肩身を狭くした。フレッドは実際に人が肩幅を狭めてシュンとするのを始めて見た。

 先任幕僚は、あまり委縮させても良くないと思ったのか、すっぱりと口調を変えて会議室全体を見回した。

「我が艦隊は、来週の演習に向けて、臨時の水雷戦隊を編成する。旗艦は重巡洋艦<キタノシゲオ>が務め、司令官代理としてそのまま<キタノシゲオ>の艦長、高橋ヤヨイ大佐が指揮を執れ。第七と第二九、そして第三一駆逐戦隊が青軍として<キタノシゲオ>の指揮下に入れ。第一六駆逐隊は赤軍として、中継ステーションを襲撃する役をやってもらう」

 部下が遅刻したのだから文句はあるまいなと言いたげに、先任幕僚は岡田大佐をギョロリと睨んだ。

 高橋大佐と岡田大佐は階級こそ同じであるが、どうやら高橋大佐の方が上であるようだ。他の駆逐戦隊の戦隊司令も大佐クラスの階級のはずであるが、命令権は高橋大佐へ与えられるようだ。

 それはハンモックナンバーと呼ばれる士官学校時代の成績によるものなのか、実際に艦長職に就いての実績なのかは<メアリー・テラコッタ>の海賊たちには分からなかった。

 ただ、これだけ言えるのは、ここに座っている大佐クラスの誰もが戦隊司令どころか艦長としても若すぎるというところか。若干、岡田大佐の方が年上に見えなくも無いが、軍人とはいえ女の高橋大佐がアンチエイジングに励んでいるのかもしれない。さらに言えばファンデーションの気配すらさせないダンゾーやフレッドと違って、彼女はしっかりと化粧をしていた。以上の事から、もしかしたら高橋大佐が大佐クラスでは一番年上の可能性もあった。

「来週月曜日より金曜日まで、第一六駆逐戦隊は一つ外の惑星軌道である四番地へ進出、そこから自由に中継ステーションに停泊する巡洋艦を模擬攻撃せよ」

「よろしいですか?」

 岡田大佐が九十度に右肘を曲げて挙手した。

「なにか?」

「襲撃自体は自分が計画、実行して構わないと?」

「もちろんだ。自由裁量でやってよろしい」

 先任幕僚が何か言う前に、荒木提督が楽しそうに言った。

 荒木提督の明るい声で会議場の空気が緩んだと思ったのか、先任幕僚は恐い声を出した。

「審判官は日曜日から司令部より派遣する。その後の行動は、中継ステーションへの模擬襲撃が終了するまで自由だ。最低限、一日一回は襲撃を実行する事。全滅の判定を受けたら、もう一度四番地への軌道からやりなおしだ」

「はい」

 岡田大佐が声を張った返事をした。そのまま先任幕僚の首が高橋大佐へと向けられた。

「もちろん臨時水雷戦隊は索敵からやってもらう。索敵し、敵味方を判別、そして迎撃態勢をいかにとるか、見させてもらうぞ」

「了解であります」

 司令部にも女性将校は幾人かいたが、艦長職となると高橋大佐ぐらいしか会議室には居なかった。

 背筋を伸ばして座った高橋大佐は、恫喝するように睨みつけて来る先任幕僚の視線を跳ね返すかのようにはっきりと答えた。

「それでは解散。各部隊のすり合わせなど会議室を使用する予定がある者はここではなく<アカギ>か<ハルナ>を使うように」

 先任幕僚の言葉で一息に空気が緩んだ。荒木提督が席を立つと同時に(コクーン以外の)一堂も起立して敬礼をした。

 普段ならばここで艦隊司令が答礼後に退出して会議が終了となるが、荒木提督は高橋大佐とコクーンに向けてチョイチョイと指だけで手招きをした。

「はあ」

 あからさまな溜息をついたコクーンは、面倒臭そうに席を立った。荒木提督の方へと歩き出すと、自然と軍人たちが道を開ける。もちろんダンゾーも、そしてフレッドも後に続いた。

 荒木提督まであと十歩というところで、コクーンは足を止めた。

 第一六駆逐戦隊の岡田大佐の横である。

 彼もまた他の同僚と同じようにコクーンへ道を譲るようにテーブルに寄っていたが、その彼へコクーンは小さな声をかけた。

「伝令には気を付けろ」

「は?」

 言われた意味が分からないのか、岡田大佐はポカンとした。その反応を確認せずにコクーンは、さきに高橋大佐を傍に寄せた荒木提督の所へ足を進めた。

 荒木提督の傍には高橋大佐と、もう一人、同じ徽章を付けた壮年の男子将校が立っていた。黒い髪を角刈りにして、生やした髭も四角く清潔に刈っていた。

 若い将校ばかりの<カゴハラ>駐留軍の中では、上から数えた方が早い年齢であろうが、コクーンとは十歳も離れていないだろう。

「よくぞ居眠りしなかったもんだ」

 近づいて来たコクーンへ、まるでダラダラと説明だけ長い古文教師が、自分の授業を我慢して聞いていた生徒へ向ける嫌味のような事を口にした。

「そんなことするわけにはいかないだろ」

 後ろから聞いているフレッドがハラハラするぐらいの口調でコクーンが荒木提督へ言い返した。なにせ「猛将」である。相手が怒ったらどうしようとか考えないのだろうかとフレッドは心配になった。

 しかし猛将とは名ばかりとばかりに、荒木提督は柔和な笑みを浮かべた。

「高橋くんは、すでに顔見知りだったな」

 どうやらコクーンと同級の者たちを紹介するつもりのようだ。いくら新品巡洋艦の新米艦長とはいえ、一隻の責任者である。宇宙海賊船の親玉であるキャプテン・コクーンと同じ立場であると言って間違いないだろう。高橋大佐は目礼で挨拶した。

「こっちは重巡洋艦<オブチユウコ>艦長の近藤大佐」

 荒木提督は壮年の男性将校を紹介した。

 その艦名は、軍事情報に疎いフレッドも知っているほどであった。たった一隻で敵の艦隊へ殴り込みを行った地元の武勲艦であるから、当たり前と言っては当たり前なのだが。

「近藤です、よろしく船長」

 髭の男は明るく右手を差し出した。コクーンがつまらなそうに握手を交わした。

 ついでにといった感じで、そのままコクーンは高橋大佐とも握手を交わした。

 握手が終わった後で、コクーンは思い出したように近藤大佐を見た。

「たしか、以前は副長を?」

「そうです、覚えていてくれましたか。まあ、やっと出世出来て自分の長旗を揚げることができましたよ」

 ニッと髭に囲まれた口元だけで笑った。

「そちらの二人は紹介してくれないのか?」

 荒木提督がイタズラを考え付いた小学生のような顔になってコクーンに訊いた。

「…。<メアリー・テラコッタ>陸戦隊から、隊長のダンゾーと、見習いのアルフレッド」

 とてもつまらなそうにコクーンは背後の二人を荒木提督に紹介した。

「やあ、お噂はかねがね」

 まずダンゾーと握手しながら荒木提督は言った。

「一人で豪華客船<アムネジア〇八(まるはち)>を潰したっていう噂は本当かな?」

「楽な仕事じゃなかった」

 荒木提督と二人の大佐と握手を交わしてダンゾーはそれだけ言った。

「アルフレッドです。え、えっとフレッドって呼ばれてます。あ、あの、提督にお会いできて光栄です」

 フレッドがぎこちなく荒木提督と握手を交わした。やはり若い女から喜ばれると彼も嬉しいのか、顔がさらにほころんだ。

「見習いか。信じられないかもしれないが、自分も最初はそこからだった。道は長いけど頑張れよ」

「誰にでも最初はあるから、失敗を恐れずにね」

 二人の大佐もフレッドと握手を交わしてくれ、声をかけてくれた。

「で?」

 なんで呼び寄せたと目で訊くと、握手を終えた荒木提督は別の方向を見ていた。視線を追って振り返ると、会議室に集まっていた軍人たちは、荒木提督が雑談を始めたと解釈したようだ。それぞれ次の行動に取り掛かっており、そのまま立ち話をする者もいれば、何人かでグループを作って部屋を出て行く者もいた。

「おいチビッコギャング。なにをさっき吹き込んだ?」

 楽しそうに荒木提督が訊いた。

「さっき?」

「岡田にだよ。なにか面白い事を囁いたんじゃないのかね?」

「俺はただ『伝令に気を付けろ』って言っただけだ」

 その場にいる全員の視線が、会議室の扉近くに集まった第一六駆逐戦隊の面々へと注がれた。どうやら岡田大佐は、部下たちを静かに怒っているようだ。大人のクセにしょぼんとしていた三人の駆逐艦長が、さらにうな垂れて岡田大佐の話しを聞いていた。

「たしかに、伝令には気を付けた方が良さそうだな」

 それでも戦隊内部の統率まで口を出す気が無いのか、荒木提督は見ているだけだった。

「で? そろそろ帰って、ピム酒かっくらってベッドへ引っくり返りたいんだが?」

 コクーンが訊ねると荒木提督はやっと二人の艦長と一人の船長の方へと向いた。

「来週は、襲撃訓練を行う」

「ちゃんと起きて聞いてたぞ」

「最後まで黙って聞け。その次の週の話しだ。オレは行動中の戦艦に対する襲撃訓練を駆逐戦隊(ブリキども)にやらせようと思う」

「はやくないか?」

 さすがに艦隊司令に意見をする艦長は少ないが、遠慮のない海賊船船長ならひとりいた。

「あんな機械任せで編隊航行するような連中だぜ。駆逐戦隊同士で機動戦の練習をした方がよっぽど…」

 コクーンはセリフの途中で言葉を呑み込んだ。身長差から荒木提督の顔を下から覗き込むことになる。彼は相変わらず曖昧な微笑みで立っているだけだった。

 いや、右の瞼がピクリと痙攣したような感じの、ウインクとは言えないサインを送ってきていた。

「想定は宇宙戦艦一隻に、露払いの巡洋艦が一隻といったところだ」

「まて」

 提督と二人の艦長の顔を見比べてからコクーンは言った。

「その宇宙戦艦が無いから苦労しているんじゃないのか?」

「失礼な。ちゃんとあるぞ」

 含み笑いをしながら荒木提督はコクーンへ顔を近づけた。

「我が艦隊にだって訓練支援船に、曳航式ダミーぐらい載せているぞ」

「…」

 なんだよ標的かよと言いたげにコクーンは口を閉じた。

「だが訓練支援船だと出力が低い。標的を曳航すると速度が出なくてな」

「嫌な予感が収まらないんだが?」

「大出力機関を持つ巡洋艦で曳航した方が、より実践的になると思わんか?」

 コクーンは溜息をつき、まず近藤大佐を見て、次に高橋大佐を見た。

「演習全体を評価判定する審判官が<オブチユウコ>に乗って、<キタノシゲオ>が旗艦を務めると、標的を引っ張る船はいなくなるってことか?」

 コクーンの言葉に、荒木提督はニッと笑った。どうやら当たったようだ。

「まあ、まだプランだが頭に入れておいてくれ。もちろん…」

 荒木提督は人差し指を立てた。

「演習の相手をする契約書にも、標的の曳航は記されているがね」




 解説の続き


船体識別符:現行のアメリカ海軍の物を参考にしました。駆逐艦がDD、重巡洋艦がCA、軽巡洋艦がCL。戦艦はBBとなります

嚮導駆逐艦:駆逐艦の中でリーダー役をこう呼びます。アメリカ海軍で船体識別符がDLだった時期もありますが、この話では嚮導駆逐艦と一般の駆逐艦との間には、性能に差が無く同じ艦種を使用していると設定したため、同じ記号であるDDがついています

連合艦隊にちなんで:帝国海軍の第十六駆逐隊と言えば、不沈艦「雪風」が所属したことで有名

ハンモックナンバー:旧海軍では士官学校時代に成績が良いと何かにつけて優遇されるような制度だった。まあ平和な時は便利なシステムだよね。けどキスカ撤収の木村提督のように成績が悪くても現場で才能を発揮するタイプもいるし、人の才能を判断するって難しいよね

<アカギ>か<ハルナ>:旧軍の巡洋戦艦の名前が会議室についている。というより、いま居る会議室が<ミョウギ>だから、群馬三山だな

「一人で…潰した…」:どんな武勇伝なんだろうか。頭の悪い和美がそこまで詳しく設定しているわけがない

ブリキども:かつて駆逐艦が歴史上に登場した時に、本当にブリキ製だった。そのせいで洋の東西を問わずに第一次世界大戦の頃まではブリキと呼ばれていた

言葉を呑み込んだ:この会議すら何者かに盗聴されている可能性に気が付いて、余分な事を言わないようにしたのだろう。どのように部下を評価し、どのように外敵に対応しようかと考えているかなど、知られないほうが良いからだ


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