宇宙海賊やろう! にじゅうなな
バツゲーム終わります
フレッドが<メアリー・テラコッタ>に乗組んで一週間。それまでにやっとバツゲームを終えることができた。
配置が決まっている第五分隊の人たちなどは見つけやすかったが、まさか副長のアキテーヌを捕まえるのに、こんなに時間がかかるとは思ってもみなかった。
彼女の仕事は多岐にわたり、通路を一定間隔で区切っている気密扉の気密試験から、各部屋の吸気口や排気口からの気流測定、船内の環境測定など様々だったのだ。
最後の手段として、朝食で船長公室に現れた時に、尾行する事で右舷エアロック横の装甲板と内装の間に潜る直前で捕まえることができた。
ちなみにそんな点検口すら存在するのが怪しい場所へ潜り込もうとしていた理由は、慣性制御装置による人工重力が、装甲板の外に漏れていないかの計測のためだった。
これをおろそかにすると、いざステルス状態で敵から身を隠そうとした時に、漏れた重力波を敵に探知される恐れがあるのだ。
やっと船内配置図の写真を新しく撮り終えたフレッドであったが、前途は多難であった。
毎週水曜日の午前中は、食堂に畳を敷いて「陸戦隊隊長による女子の護身術講座」が開かれていた。
まあノリは半分ほど学校生活における部活のような物だったが、いざ白兵戦が始まると、やはり女は色んな意味で狙われるので、全員が真剣に取り組んでいた。
よって年単位でフレッドとは経験が違う女海賊たちに、手首の一捻りだけで床に転がされて、急所を抑え込まれるという事になった。
ダンゾーなんかは「怪我をさせない自信がないどころか、怪我をさせる自信しかない」と腕を組んで見ているだけだったし、こんな時まで薄桃色のレオタードでお洒落を欠かさないロウリーには「精進してくれん」と変なイントネーションの日本語で励まされた。
だが、そこで<メアリー・テラコッタ>に乗組んでいる他の女海賊と顔見知りになることができた。全部あわせてやっと一ダースほどしか人数がいなかったのは、やはり宇宙海賊なんていうヤクザな商売は、どちらかというと男の領分だからだろうか。
まず、あれだけOLのような思考のレディ・ユミルが、海賊船で補給長をやっていることが不思議であった。
彼女の事務能力や決断力ならば、惑星に下りても、ベンチャー企業のひとつやふたつ軽く切り回せると思えたからだ。しかも物品が壊れたり無駄に消耗されたりすると、腕まくりをして担当部署へ乗り込んでいくほどだ。物を壊すばかりの宇宙海賊とは対極の思考である。まあ、だからこそ<メアリー・テラコッタ>に必要な人材なのかもしれないが。
逆にダンゾーなんかは、他に似合う仕事を想像しにくい女であった。いつも仏頂面で不愛想だからかもしれない。
もしダンゾーが転職を決意したとしても、どこかの星間国家の宇宙軍将校とか、民間軍事会社の実行部隊隊長などしか思い浮かばなかった。
あと男にはもちろん、女にも人気が高いのは第四分隊のオハナであった。いつもキラキラな笑顔が眩しくて、売店で売り子をしているか、食堂で配膳を手伝ったり、「大幹部」たちの会食では給仕係をしていたりする。
なぜこんなイイ女が宇宙海賊船に乗り組んでいるのか、これまた不思議なくらいだ。惑星上で同じ給仕のような職業に就けば、まあお給料は減ってしまうだろうが、遥かに安全で、こんな護身術など無縁な生活が送れるはずだ。
他には飛行科のステイサムとは年齢が近いこともあって仲良くなることができた。しかも彼女はずっと<メアリー・テラコッタ>に乗組んでいるとかで、同年代のお洒落や、動画に登場するアクターなどを話題にしたお喋りに飢えていた。
これが、同じ話題をレディ・ユミルに振っても、お洒落の話題だと「原価が…」とか変な方向へ話しが行くし、アクターの話題だと「私の若い時は…」と一世代や二世代もずれた人物しか話題にできなかったりする。ダンゾーに至っては、どちらの話題を振っても「知らん」の一言が返ってきそうだったので、口にすらできなかった。
一汗搔いた後に、食堂を片付けて通常営業できるように戻す。オハナは慌て気味にシャワーを浴びて、いつもの仲居のような服に着替えると、昼食の用意を手伝い始めた。
ちなみにオハナの無重力状態で色々と問題が起こりそうな茶衣着の下は、Tシャツに簡易宇宙服の下半身を身に着けていた。サロペットのような簡易宇宙服を着ていれば、まあ下から覗かれても恥ずかしさは、あまり感じる事はないだろう。
ステイサムも付き合いで、汗を流すのにシャワーで済ますと言うので、フレッドも初日に使った以来のシャワールームを使うことにした。
ちなみに本当ならばステイサムは右舷のシャワールームを使用すべき立場なんだそうだ。詳しく話を聞くと彼女は<オクタビウス・ツー>で操縦士を務めているとか。もし軍人ならば中尉でもおかしくはない身分だそうだ。(これはリーブスが後から教えてくれた)
自分よりも三つも年下なのに将校待遇とは、あまりの差に対抗心も生まれない。それどころか宇宙海賊の先輩として色々と相談に乗ってくれる強い味方であった。
いちおう陸戦隊隊長ダンゾーの「預かり」という立場なので、本当ならば色々な事をダンゾーから教わるはずなのだが、なにしろダンゾーが無口なので、自分が知らない事が何かを知らないという、素人丸出しの事しかできなかった。
陸戦隊のみんなといる時は、お喋り(と余計な一言)が多いリーブスが、兄貴役という形で色々と教えてくれるが、相手が男だと聞きにくい話題もあった。そこをステイサムと話すことでカバーすることができた。
同じように副長のアキテーヌやレディ・ユミルも一緒になって左舷のシャワールームで汗を流した。まとまっていた方が敵(痴漢)から身を守りやすいという理由のようだ。
もちろん「戦闘員」どころか「見習いの見習い」であるところのフレッドは、一番後にシャワーを浴びることになる。こういうところも学校の部活めいて、困窮した生活であまり部活動を愉しんでこなかった彼女には新鮮であった。
まあ結局、覗こうとした某がダンゾーに、文字通りの吊し上げを喰らっていたが。
痴漢と言えば、宇宙桟橋から荷物を運ぶのも飛行科の仕事であった。
たまに変な時間に「第四種戦闘配備」や「第五種戦闘配備」という、フレッドが教わっていない号令がかかる時があった。それらは全て格納庫に着いた荷物の引き取りであった。
まず「第四種戦闘配備」がかかった場合は、格納庫から倉庫まで一列になってバケツリレーの要領で、荷物を運ぶことになる。物品は食料の時もあれば、雑貨の時もあった。
もうひとつの「第五種戦闘配備」となると、開けっ放しだった格納庫の装甲扉が閉められ、わざわざ着艦した「オクタビウス・ツー」から、手荷物が格納庫の床へ荷物がおろされた後だった。分隊ごとに寄り分けられて山になっている荷物の所へ行き、自分宛ての荷物を受け取る。たいていは海賊どもが通販で購入した物品であった。
フレッドも、それまで世話になっていた孤児院からの荷物を、その「第五戦闘配備」で受け取った。ただの段ボール箱に二つだけの、ちょっと寂しい荷物であった。
中身は、フレッドの私物である衣料や、勉強道具であった。
孤児院で同じ釜の飯を食べた仲間からの寄せ書きも入れられていた。それを見て、夜中に一人で泣いたのは秘密だ。
それと服の間に隠すように園長先生からの手紙が入っていた。
解説の続き
副長の仕事:実際の船の副長も、本当に変な仕事が多かったりする。船の端っこのマンホールから底に防毒マスクをつけて潜ってビルジポンプの点検したりもする。船長が外渉すべてをやるのに対して、船内の事は全部やるような感じ。機械だけじゃなくて乗組員の点呼も副長の仕事だったりするから大変だ
護身術講座:ここでは柔道みたいな格闘技を想定している。競技としての柔道ではなく、もっと実践的な格闘術じゃないかな。水曜日の午前中なのは、ダンゾーが午後から半休に入るからかな。もちろん男たちも誰かが講師となってこういう講座を行っているはずだ
男の領分:けっして性差別のつもりではございません。こんなヤクザな商売をする女性は少ないかなって思っただけです
ダンゾーの転職:本人に訊いて「お嫁さん」とか言われたらどうしよう
覗こうとした某:言わずものがな
園長先生からの手紙:内容は当たり障りのない物で、社会に出るにあたっての人生訓みたいなものと設定した




