宇宙海賊やろう! にじゅうろく
さてフレッドのバツゲームを終わらせましょう
という口実で、宇宙海賊船<メアリー・テラコッタ>のおおまかな船内案内をいたします
フレッドに課せられたバツゲームであるが、その呼称に反して、これほど船の構造や人員の配置を覚えるのに適したゲームは無かった。なにせ写真に収めるためには、被写体がドコの配置で何をやっているのかを調べて、直接その場所へ行かなければならないからだ。
宇宙海賊船<メアリー・テラコッタ>は、四階建ての建物と表現するのが一番分かりやすい構造をしていた。
ラグビーボールのような紡錘形を縦割りして、半分から上を「最上甲板」と呼ぶ。下半分は「船底」だ。最上甲板と船底を分けるラインは惑星上の海洋で使用する艦船にあやかって「喫水線」と呼ばれていた。あまり重要ではないが、いちおう人工重力がそのラインで切り替わるので、船外作業の時には色々な目安になるのだ。
その最上甲板に、建物で言えばペントハウスのように「船橋」が飛び出している。ブリッジがあるからここを「船橋甲板」と呼ぶ。ただ次元抵抗がかかるワープ時や、戦闘など危険な時は一段下の甲板までブリッジ全体が隠顕式に収納されるようだ。
ブリッジでの主な仕事は、平常時には船の中枢としての役割はもちろん、操船がここで行われる。「大幹部」のいずれかが当番長として立ち、操舵員へ号令をかけて進路を決めるのだ。まあフレッドが乗組んでから漂泊しっぱなしなので、彼女自身は操船をどのようにしているのかは、まだ知らなかったが。
他船との信号のやり取りもブリッジの仕事だ。民間船などは宇宙軍艦艇に対して船尾旗を半旗にする「船の敬礼」で挨拶をしてくることがある。もちろん、答礼をしないことは失礼に当たるから、信号を見張る信号員も気が抜けない仕事だ。
グンマ宇宙軍の使用している漂泊宙域に<メアリー・テラコッタ>も漂泊しているので、宇宙軍艦艇と同列に扱われ、半旗を掲げる船があった。
まあ銀河国際法に則っておらず、船首旗と船尾旗を掲揚していない<メアリー・テラコッタ>では、正式な答礼のしようが無いのだが。もちろんまるっきり無視というわけにもいかないので国際信号旗の「R」を掲揚して答えはする。これは「信号受信」を意味する国際信号だ。
船橋甲板の下は「短艇甲板」または「上甲板」と呼ばれていた。ブリッジが収納されるスペースの後ろに、艦載水雷艇を扱う「格納庫」が設けられているからである。
漂泊中の今は、艦載水雷艇の<オクタビウス・ワン>も<オクタビウス・ツー>も中継ステーションの宇宙桟橋との間を行ったり来たり忙しいので、外舷に設けた係船桁に繋いでいる事の方が多く、背中の装甲ハッチは開けっ放しになっていた。
逆にブリッジよりも前には、六〇センチ連装ブラスターが装備されていた。<メアリー・テラコッタ>の主砲である。短砲身の連装砲は戦闘用の装甲が施していない民間船や、装甲は二の次で機動性を重視している宇宙駆逐艦を相手するには、十分な威力を持っていた。同じ主砲は船底の真ん中と、最上甲板最後部にも装備されていた。
ブリッジの前の物が第一主砲、船底の物が第二主砲、船尾の物が第三主砲である。砲室は最上甲板や船底から顔を出しているが、砲塔と言うだけあって、ブラスターの動力部は円筒形で、最上甲板や船底を抜けて次の甲板まで伸びているのである。
格納庫の後ろには「航空管制室」「上部後方見張所」「近接防御射撃指揮所」などの設備が続き、球形のポンポン砲の砲座へと行き着く。ポンポン砲は船体の上下左右ではなく、右舷上下、左舷上下と断面を正方形に例えたら角にあたる部分に装備されていた。
右舷のポンポン砲で上の物が「一番近接防御」下の物が「三番近接防御」左舷の上の物が「二番近接防御」で、下の物が戦闘配置時にフレッドが就く「四番近接防御」である。
またポンポン砲が横列のつくっている箇所の喫水線には、三〇ミリ機関砲が装備されていた。これは大げさな砲座が設けられているのではなく、大型エアロックに起倒式の砲座がボルトで取り付けられており、撃つときは宇宙空間に曝露したままで扱うという武器になっている。左右両舷一門ずつで合計二門である。もちろん射手を防御する物は全くないので、腕前よりも度胸が試される持ち場だ。
ここは第一分隊の配置であるが、通常直以外では装甲宇宙服で持ち場に就かなければならない。だが人数分の装甲宇宙服が用意できないので、陸戦隊と違って同じ装甲宇宙服を使いまわすことになっていた。
もちろん装備しているからには効果があるという評価である。近接防御で弾幕を張る時に、惑星上の海洋で使用される艦艇にも、同じように人力で扱う機関砲が装備されているが、それよりも効果があるとされていた。
なにせ宇宙空間である。大気や重力の邪魔を受けないので、機関砲の砲弾は初速のまま真っすぐに目標へ飛んでいく。もちろん視認にも限界があるので、ポンポン砲と同じ射撃装置から情報支援を受ける照準装置がついていた。
宇宙海賊船<メアリー・テラコッタ>と同じイサリオン級軽巡洋艦のたくさんあるバリエーションの中には、艦隊の主力たる宇宙戦艦を接近する敵の駆逐艦や大型ミサイルから守ることに特化した近接防御型もある。そういう艦ともなると、艦首から艦尾までハリネズミのようにビッシリと機関砲を装備していたりした。
なにせ起倒式の砲座は装甲の隙間へ簡単にボルト締めできる代物である。後日に増備した同型艦も多い。ただ<メアリー・テラコッタ>では原型のままの両舷一門ずつであった。
理由は簡単である、予算不足だ。まあ、今まで宇宙海賊船として活動してきて、特に不便を感じなかったのだから、二門もあれば十分なのかもしれなかった。
ポンポン砲の列の後ろに第三主砲があり、その後ろからは巨大なメインノズルがついている。
短艇甲板の下は「応急甲板」または「中甲板」と呼ばれていた。戦闘で損害を受けた時に復旧のために働く応急班が待機している甲板であるからだ。
このレベルの甲板には、前方より主要各部屋の他に細かい部屋を複数挟みながら、光波から電磁波まで考えうるあらゆるパッシブセンサー類を納めた「センサー室」、フレッドが閉じ込められた食糧庫もある「倉庫区画」、宇宙船が光よりも速く航行するために必要なワープ機関を納めた「ワープ機関室」、そして「中央コンピュータ室」と続いた。
フレッドは、バツゲームのため第二分隊で電子整備を仕事とする電整士のホイテッカーを探して、ロウリーの許可を得て入ったのが、中央コンピュータ室にお邪魔した最初であった。
他と同じ規格の気密扉をフレッドが開けると、上下ピンク色のフリースに着替えて髪も結んでいないナナカが、まるで就職三年目のOLが借りているアパートの一室のような空間で、ハートのクッションへ俯せになってファッション誌のページをめくっていた。
齧っているお煎餅をポロリと落としてからナナカが悲鳴を上げたので、慌ててフレッドは一旦通路へと戻り、扉をノックするはめになった。
「どうぞ」
許可を得て再び中央コンピュータ室へ入ると、いつもの銀色に似た色合いの服を着て、髪をツインテールにしたナナカがそこに立っていた。
「人の部屋に入る時は、ノックするのがエチケットですよ」
まず、ちょっと怒った表情でそう注意された。が、あくまでナナカは中央コンピュータのアバターであり「人」ではないはずであった。
ちなみに先ほどのくつろいだ様子がウソのように、室内は殺風景な風景となっていた。ピンク色の壁紙に合うような家具で揃えた室内は、全てがホログラムだったという事だろう。
溶液に浸された巨大な脳髄。そういう外見をしているはずの中央コンピュータであるが、室内にはその脳髄を納めた容器が鎮座している空間との間に隔壁がある。あとは直接アクセスするためのコンソールが一つだけの狭い空間だ。
その四畳半程度の空間に、さっきの映像を見る者がいないのに投影していたとなると、よほどの暇なのか、もしかしたらフレッドに自分も乗組員の一人として扱ってほしいというパフォーマンスだったのかもしれない。
中央コンピュータ室の後ろには「中央指揮所」がある。戦闘時にコクーンが指揮を執る場所である。まあ漂泊しっぱなしで、ここはあまり使用されていなかった。<カゴハラ>から、たまにクラッカーが電子攻撃をしてくる時には、ここで船務長ロウリーが指揮を執っていたりした。
各種レーダーやセンサーの情報もここに集中するので、乗組員の中でも担当や当直の者以外は立ち入り禁止である。フレッドも入室するのにあたってロウリーから許可を得る必要があった。
セントラル・コントロールとは小部屋や厚い隔壁を挟んで後方にあるのが「防御指揮所」である。通常配置や警戒配置の時は同じ部屋が「機関運転室」と呼ばれることもある。<メアリー・テラコッタ>に四つずつある縮退炉…、主缶と主機や補機、そしてワープ機関を制御する巨大な制御盤が鎮座する部屋だ。
まるで古い鉄道の転轍機作動桿のようなフレッドの身長ほどのレバーやら、各種バルブなどの操作機器や、デジタルからアナログまで様々な計器が、室内には並んでいた。
また、それに向かい合って<メアリー・テラコッタ>の船内図を貼りだしたような大きな操作盤もある。こちらは戦闘時に各所から損害が報告された時に、様々な対応するために使う物である。
宇宙船で被害の対応を怠ると、大げさな事を言えばピストルの開けた小さな穴ひとつで、船内全ての空気が抜けてしまうかもしれないのだ。もちろんそうなったら全滅である。
そういう事の無いように、各種のライフラインや消火機器の作動具合などが表示されるようになっていた。
ここの主は副長のアキテーヌのはずであるが、通常配置の時にこの部屋で出会うことは無かった。
副長としての業務は多岐にわたり、おちおちと自分の席を温めている暇など無いのである。フレッドのバツゲームで一番苦労したのも彼女であった。
ディフェンス・コントロールの後ろから「主缶室」「主機室」と続き、最後はやはりメインノズルで終わる。
応急甲板の下は「居住甲板」または「下甲板」と呼ばれていた。もちろん居住区があるからだ。
前からミサイル発射管を三本備えた「前部ミサイル発射管室」、真水タンクを含む循環系システムの「生産室」、そして海賊ども全員分の居住区へと続く。「戦闘員」は四人部屋「幹部」は二人部屋が宛がわられ、「大幹部」ともなると個室を使う事が許される。中でも船長室は一番広く、食事の度に「大幹部」たちが集合して色々な話し合いが行われていた。
その会議室にも使用される部屋は、厳密に言うと「船長公室」であり、そこから奥へ「船長私室」へと繋がる気密扉がある。
毎夜、ダンゾーはそちらの船長私室で寝ているようで、ダンゾーにあてがわれた個室をフレッドは一人で使用する事が出来た。ちなみに船長私室がどうなっているのかフレッドは覗きもできていなかった。
同じ構造の広い部屋がもう一組あり、現在は使用されていなかった。本来は艦隊司令が使用する「司令官公室」と、「司令官私室」である。
元はイサリオン級軽巡洋艦である<メアリー・テラコッタ>の軍艦としての名残であるといえる設備だ。今では豪華な内装を施してあり「高級船室」として使用される事がある。
腐っても宇宙海賊船なので、ある一定以上の身分を持った人質を取った時などに、客室として使用するのだ。また船内に客人を迎えてパーティなどを催す時の会場ともなるらしい。
他の個室には二種類のグレードがあるようだ。
片方はフレッドが使用させてもらっているグレードの高い方の個室で、専用の風呂とトイレがついている。もう片方のグレードが低い方の個室は風呂とトイレはついておらず、それらは共用の物を使用する事になるようだ。
ちなみにグレードの高い個室は二部屋あり、副長アキテーヌ、陸戦隊隊長ダンゾーに割り当てられていた。
低い方の個室は八部屋、二人部屋が一〇部屋、そして四人部屋が二四部屋である。もちろん全てのベッドが埋まっているわけでは無く、また男女は別になるように部屋が割り当てられていた。
居住区の真ん中には食堂やシャワー室、医務室などが揃っており、乗組員の生活の中心でもあった。風呂場は左右舷それぞれにヒノキ製の湯船が用意されているのは、やはり日系宇宙人の割合が多いからだろうか。日系宇宙人以外の地球系宇宙人や、他星系宇宙人もそれに馴染んでいるのが、フレッドから見て滑稽であった。
居住区の一番後ろには、通常直にフレッドが就く警務室がある。色々と教えてくれるリーブスの言では「暇な部署」らしいが、けっこう人の出入りが多かった。
それだけ船内で犯罪が多いのかと言えばそうではなく、仕事上の悩みから始まって、身体的な事や家族のことなど、なんでも相談事がある者はここを訪ねて、愚痴を漏らして行くのだ。
そういう時は相手が男だったらダンゾーとフレッドが船内の巡回に赴き、女だった場合は逆になることもある。
だが相談相手がダンゾーでは不安なようで、たいてい相談事のある女はサドを連れてきていたりした。
居住区の後ろには慣性制御装置や予備発電機などを納めた「補機室」そして前部とおなじ三本の発射管を備えた「後部ミサイル発射管室」で終わる。後部ミサイル発射管がメインノズルの間から撃ちだせるように配置されている事は言わず物がなだ。
居住甲板の下が「船艙甲板」である。口の悪い海賊だと「地下室」とか言う者もいた。
船艙甲板には前から、大きな汚水タンクと雑排水タンクを備えた「ビルジタンク室」、フレッドが<彼女>を怒らせてしまった循環系システムの「処理室」と続き、「下部前方見張所」「第二砲塔」「下部後方見張所」と、慣性制御装置で無重力が保たれた部署が続く。これは各部屋の装備が上下逆になっているからの処置である。宇宙空間には上下が無いので、下方への見張りや武装が全くないのは問題であるが、惑星上などでは重力の影響を受けて配置に就けなくなる可能性がある。そのための処置だが、いざ慣性制御装置が壊れた場合に備えて、各部署の担当は安全帯の装備は必須であった。
下部後方見張所の後方でポンポン砲の列へと至り、そのさらに後ろには地表で使用するための装甲車を納めた「下部格納庫」がある。
他にも各甲板にはトイレやら物置やら細かい部屋が複数存在するが、おおむね<メアリー・テラコッタ>は以上のような構造をしていた。
解説の続き
バツゲーム:船内を探索して歩かせて、この船はどうなっているか覚えさせるためのゲームである。同じような事を戦艦大和でもやっていたらしい
「船の敬礼」:実際に現行の艦船でも行われている慣習。長らく日本の商船は護衛艦にやらなかったが、最近の対海賊対策に敬意を表してやるようになった
三〇ミリ機関砲:通常直の場合は船内エアロック近くで、いつでも装甲宇宙服を着て出られるように待機しているのだろう
「主缶室」「主機室」と続き…:現在の戦闘艦のように主缶と主機を交互に配置する「シフト配置」にしないのかという、もっともな意見もある。ただ艦船と違って宇宙船は「浸水」することが無いから気にしなくてもいいかも。生存性を考慮するより、余分な細工により発生する余分な質量を嫌ったから、という設定じゃダメ?
船内で犯罪が多いのか:逆に全員が武装しているから平和なのかも




