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宇宙海賊やろう!  作者: 池田 和美
22/51

宇宙海賊やろう! にじゅうに

 ということで、フレッドにはバツゲームが決定しました。さて、何をやらされるのか



 世話好きなリーブスの言葉によると、毎日一四〇〇(ヒトヨンマルマル)時前後に「総員戦闘配置」がかかり、三〇分から一時間ほど戦闘訓練をすることが日課になっているらしい。戦闘訓練が終わると、いつもはお茶を楽しみながら反省会をするのだそうだ。

 戦闘訓練は武器などが故障していないかのチェックも兼ねているそうだ。だから毎日欠かさず行うらしい。

 お茶会が終了すれば、舷の交代である。しかも公休だったS舷が当直に復帰し、代わりにA舷が公休に入った。変な時間に交代の時間を迎えるが、これは宇宙海賊船<メアリー・テラコッタ>だけの慣習であるらしい。他の軍艦などでは朝礼の時間に交代する事が多いそうだ。

 本来ならば反省会の時間に、ダンゾーへ連れられてフレッドはまた一つ上の階にある医務室のあたりへやってきた。

 医務室や売店、シャワールームに並んで、広い空間があった。

 いまは数種類のフィットネスマシーンが並べられ、反省会を早めに切り上げたと思われる運動着姿の男たちが汗を流していた。とても汗臭い空間だが、部屋の入口にある表示は「食堂」であった。

 横にある厨房とは金属地のカウンターで繋がっており、通路から見て一番奥の壁には天井との隅に白木で作られた小さな神棚が飾ってあった。

 造花らしいヒイラギの枝に挟まれた白いトックリを、ちょうどマサが下ろしている所である。その様子を、横で不安そうに見ている軍服姿の少女がいた。

「ほら」

 ダンゾーは<彼女>を見つけると、フレッドの背中を押した。フレッドも慌てて<彼女>のところへと駆け寄った。

「?」

 突然<彼女>がまた怯えだした様子だったので、適当な椅子を踏み台にしていたマサが不思議そうに振り返った。

「すみませんでした。あなたの嫌がることをしてしまって」

 逃げられる前にフレッドは深々と頭を下げた。

「なんだ君だったのか」

 白トックリの中身をクイッと自分の胃袋へ空けたマサは、踏み台にしていた椅子に座って仏頂面をフレッドに向けた。いつも提げている源蔵徳利から新しいピム酒を、白トックリへと丁寧に注ぎ込みはじめた。

 作業自体は難しいことは無いが、一滴たりとも零してはならないという気迫は、鬼気迫るものがあった。

 白トックリの大きさはフレッドの手でも隠すことができそうな小さな物で、あっという間に一杯となった。

 源蔵徳利の栓を確認してから椅子から退くと、白トックリの方をフレッドに差し出した。

「では君がやれ」

 どうやらお神酒を供える役目を譲ってくれたようだ。

「はい」

 ここで汚名を雪ごうと、白トックリを両手で受け取ったフレッドは、椅子に上がるとヒイラギに挟まれた空所にそれを納めた。

 どこにも異常はない。それどころか椅子から降りると、<彼女>が微笑んですらいた。

 一旦、それぞれのトレーニングを止めてまで見守っていた男たちが、拍手までしてくれた。

「あははは」

 身長さえ届けば誰でも出来るような事を褒められて、フレッドは照れてしまった。一緒になって拍手をしていた<彼女>は、もう含むところは無いとばかりに頷いていた。

「ほほう。よほど気に入られたんだな。君は」

「?」

 マサの感心した声にフレッドは振り返った。

「たいてい椅子が倒れたり何だりで、無事に神棚へお神酒を供えられるヤツは限られているんだ」

「ええーっ」

 じゃあ失敗することが前提だったのかと、フレッドは仰け反ってしまった。

「気にするな。<彼女>がどこまで君を許したのか試しただけだ」

 トレーニングマシーンが再びガッチャガッチャと動き出した食堂で、マサは隅に片付けられていた椅子やテーブルの山へ、踏み台にした椅子を重ねた。

「それよりも、待っているぞ」

 マサは通路で腕組みしているダンゾーを肩越しに親指で指差した。

「あ」

 これからバツゲームとやらをやらなければならないことを思い出したフレッドは、厨房へ戻るらしいマサへ一礼すると、慌ててダンゾーの横へと戻った。

「お待ちぃ~」

 すると通路をオレンジ色のパイロットスーツを着た女がやってきた。

 やはり<メアリー・テラコッタ>の大部分がそうであるように、彼女も日系宇宙人であるようだ。そして年の頃はフレッドとそんなに変わらないように見えた。

 肩ほどまでに伸ばした黒髪を、まるで校則で決められているように二つのお下げに纏めていた。目つきは鋭い方だが、笑うと細くなって愛嬌が感じられる顔だ。

 どこかの高校の制服を着ていたら、そのまま生徒と間違えることができる外見である。

 ただ肉付きがあまり良くないのに比べて身長が高いのは、長い間低重力空間で過ごした結果現れる身体的特徴と言えた。

 若い乗組員が揃っている印象の<メアリー・テラコッタ>であるが、フレッドと並んで最年少グループになるのではないだろうか。

 もちろん他の海賊どもと同じで武装をしている。彼女は腰に小型ビームガンを納めたガンベルトを巻き、反対側には輪にしたロープを提げていた。

 武装うんぬんを語る前に、実力となるとフレッドとは天と地ほどの開きがあるようだ。なにせパイロットスーツの肩に乗った肩章には三本もの金線が入っていた。

 飛行長のアリウムが四本であるから、それに次いで数が多い。そしてフレッドは基礎知識として、こういう線は多いほど偉いということを知っていた。

 つまり最低でも操縦士であることは間違いないだろう。飛行機の操縦どころか、ダンゾーに怒られて泣いてしまったフレッドとは大きく違っているようだ。

「言われた物を持って来たよ、たいちょ」

 女パイロットが持ってきたのは、一眼スチールと呼ばれる本格的なカメラであった。搭載艇が偵察任務など任された時に、操縦室の舷窓から対象を撮影するために使用したりするのだ。

 どうやらフレッドの気が付かない内に、ダンゾーは第五分隊と連絡を取っていたようだ。

「おはよ」

「おはようございます」

 女パイロットがニッコリと笑って挨拶をしてくれた。フレッドは、たとえ相手が同い年としても宇宙海賊として先輩であることに留意しながら頭を下げた。

「新入りのアルフレッドっていいます。フレッドって呼んでください」

「私はステイサムね」

 ニッコリからのバッチリのウインク。ちょっと頬の辺りにソバカスが散っていたが、彼女にとっても似合う表情であった。

「<オクタビウス・ツー>の操縦士をやってます。港にいる間だったら、何度も会うかもね」

 どうやらダンゾーとは違って明るい性格の様だ。

「ええとフレッドは何歳?」

「こんど誕生日が来て十八歳になります」

「あ、じゃあ私の三個も上だ」

「えっ」

 身長などから同い年と思っていたが、やはり宇宙人の特徴である高身長に騙されていたようだ。

 まあステイサムは明るい雰囲気を持っている割には大人びてもいて、どう見ても十五歳には見えないのではあるが。

 ダンゾーは、ステイサムが持ってきた一眼スチールを受け取りもせずに、クルリと壁の方を向いた。

「?」

 何を見ているのだろうかと食堂に面した通路の壁を見ると、そこには掲示板が設けてあった。電子的なモニター等ではなく、メモなどを画鋲で留める本当の掲示板である。

 右側には連絡事項などが貼り出されており、昼の会食(ランチミーティング)時にサドが提案していた乗組員の健康診断の予告がさっそく留めてあったりした。

 ダンゾーの用事があるのは、どうやら掲示板の左側の様である。

 そこの一番上には赤と黒で派手に塗粧された宇宙船の写真が飾られていた。その下に「船内編制図」と大書された掲示物があり、部署ごとに責任者の顔写真が貼り出されていた。どの写真も立体映像などではなく、普通の写真であった。

 おそらく一番上の写真が<メアリー・テラコッタ>の外観であろう。左舷真横から撮影された宇宙海賊船は、とてもかっこよく見えた。

「ほわわ」

 初めて自分が乗り込んでいる宇宙海賊船を見て変な声が出た。

 まず赤い斜線と黒い斜線が入り混じったようなカラーリングが見慣れなかった。一般的な常識として、戦闘艦は黒や紺など寒色系統で塗られている事が多かったからだ。やはり常識外れの色は、宇宙海賊船だからであろうか。

 色は見慣れなかったが、形自体はフレッドの常識の範囲内であった。ラグビーボールのような外観は、ワープ実行時に次元の壁を抜ける時の抵抗を少なくするためであるし、進行方向とは反対側には大きな推進器(メインノズル)が四つ付いているのも、もっと巨大な宇宙戦艦と同じだ。

 上側に短い砲身の連装砲塔が前後に一基ずつ、下側の船体が一番太い箇所に同じ物が一基ある。あれが主砲の六〇センチブラスターであろう。

 前の主砲の後ろ、全体の三分の一の所に盛り上がった場所がある。信号灯やマストなどが備わっているので船橋(ブリッジ)であることは素人のフレッドでも容易に想像がついた。

 その後ろには何も装備されていないように見える部分が続き、前から三分の二に当たる辺りに丸い突起が離れて上と下にくっついていた。<メアリー・テラコッタ>の正左舷からの画像であるから、反対側にも同じ物が二つ、合計四つ付いている事が想像できた。そこには主砲よりも細いが長さのある砲身が一本ずつ備わっていた。

 主砲の他に装備しているのはポンポン砲しか聞いていなかったので、その球体は自分がさっきまで配置に就いていた近接防御の砲座であると想像できた。

 ポンポン砲の後ろには第三砲塔があり、その後ろはすぐにメインノズルだ。宇宙戦艦などに比べてノズルの比率が大きいのは、やはり巡洋艦として航行能力が求められるからであろうか。

 大雑把に言って以上のような姿である。細かいディテールを含めてフレッドは、素人なりに見て「かっこいい」と感じたが、実は計算された姿でもあった。

 本来、ワープ時における抵抗を考えなければ、宇宙空間で最適な形は球形なのだ。重心を中心に置いておけば、どちらの向きにも同じ加速率で動けることになるからだ。敵に対する投影面積も最小になるから被弾確率も最小ということになる。

(だから某、機動な戦士に出て来るザコメカが球形しているのは、理にかなっているはずである)

 だが銀河連合宇宙軍を始めとする各星間国家宇宙軍で球形の宇宙戦闘艦は採用されていなかった。

 理由は単純だ。納税者が見て「強そう」「かっこいい」と見えないからだ。

 もちろんワープ時に次元の壁を抜ける時の「次元抵抗」という問題もあるが、一番はそれなのだ。自分たちの税金で購入された宇宙戦艦が「弱そう」だったり「かっこよくない」と、その形の意味が分かるプロは別として、納税者の大多数を占める素人が納得出来る物ではない。やはり自分の星の宇宙戦艦には一目で「強そう」で「かっこよく」あってもらいたいからだ。

 また、あまり仲が良くない星間国家を表敬訪問する時にも「かっこよさ」という物は求められる。あまりにも弱そうな宇宙戦艦で訊ねて行っても、プレッシャーを与えるどころか見くびられるだけだ。

 つまり砲艦外交という物は、銀河に乗り出した今でも有効な手段なのだ。

 そうした事情があるため宇宙戦艦を頂点とした戦闘艦は、外観も十分に考えられて建造されていた。

 その「かっこいい」<メアリー・テラコッタ>の写真の下に「船内編制図」は貼り出されていた。樹状図になっており偉い順に写真が貼り出され、頂点にはもちろんキャプテン・コクーンが収まっていた。

 身長の関係でフレッドが船内編制図を見上げたところで、ダンゾーがニヤリと笑った。いつも不愛想な彼女がニヤリとやると、不敵という言葉が似あう顔になった。

「写真が古くなったと思わんか」

「は?」

 言っている意味が分からずにフレッドは訊き返してしまった。

「あ~、そういうことね」

 カメラをストラップで首から提げているステイサムが納得の声を上げた。ダンゾーを挟んで向こう側に立っていたステイサムは、ひょいと彼女を避けるように体を傾けてフレッドの方を向いた。

「つまり、たいちょはココの写真を全部最新版に変えたいんだ」

「そういうことだ。それがフレッドに与えるバツゲームだ」

 言外に簡単だろと言っているような不敵の笑みのまま、身長差からダンゾーはフレッドを見おろした。

「バツゲームって。なにか失敗しちゃったの?」

 ステイサムが心配そうに訊いてくれた。

「ええ、まあ…」

 自分の失敗を言いふらすほどフレッドには変な趣味は無かった。曖昧に浮かべた笑顔で誤魔化した。

「順番はどうでもいい。必ず勤務中の写真。当直ではなく非番の時でもいい。ただし待機や公休を取っている時は禁止」

 ダンゾーが撮影条件を上げた。言われて見れば、現在掲示されている写真も勤務中の写真ばかりだ。

「撮影中、誰にヒントを貰ってもいい。立ち入り禁止の場所は、そこの責任者の許可を取る事もバツゲームの内だ」

 次々と貼ってある写真を回収しながらダンゾーは言った。壁には「船長」などの役職が書かれたキャプションだけが残された。

「もちろん撮影される本人に撮影許可を得てから撮影する事」

 結構な厚みになった写真の束を持ったダンゾーは、バツゲームを理解したかどうか確認するために、フレッドを(身長差から)見おろした。

 当のフレッドは、ステイサムにカメラの使い方を教わっているところだった。

「バツゲームのやり方は分かったか?」

「はい。それじゃあ隊長。さっそく一枚いいですか?」

 ステイサムにストラップを首にかけて貰ったフレッドが、にこやかに訊いた。

「よし」

「では」

 写真の束をステイサムに押し付け、相変わらず不愛想に腕組みしている隊長の写真が一枚目となった。

「プリントアウトは事務室でやってもらえるからね」

 ステイサムの言葉がヒントとなり、次は事務室でレディ・ユミルを撮る事にした。




 解説の続き


舷の交代:全員が揃って戦闘訓練する事で、お互いの体調などもチェックしている。また公休で緩んだ精神を引き締める効果もあるだろう

朝礼の時間に交代:で、艦長訓示みたいなのがダラダラ続いて乗組員が苛立つのがテンプレ

食堂:広い空間なので食事時以外は、フィットネスやら、後の方で格闘術の講義やらに使用すると設定した。また戦闘時に大量の重傷者が出た時は簡易手術室としても利用される

白トックリ:底に磁石か何かが仕込まれていて、無重力になっても神棚から外れないようになっているとか

一眼スチール:一眼カメラのこと。最近はスマートフォンの撮影機能で廃れてきたが、高級機種は生き残っている。それがそのまま宇宙時代まで続いたものと仮定した

ステイサム:初日にレディ・ユミルとマサが冷蔵コンテナを運んだ時の女パイロットである

掲示板:未来なんだから電子的な掲示板というガジェットも捨てがたいが、停電時にも使用可能というアドバンテージで、いまだ現役じゃないかと考えました

納税者が見て…:現在の各国海軍も、新型艦を建造する時に「かっこよさ」を一考するようだ

船内編制図:誰が重要人物かなんていう情報を不用意に貼りだしておくと、何かの時に問題になりそうだ。でも本文中に書く機会がなかったが、各役職は一年程度で入れかわっているという設定だ。入れかわりがあるので、現在の長が誰だか分からなくなる時があるとする。ひとつの事を突き詰める「職人」も必要だが、全員が全部の仕事をできるようにしておかないと、人手が足りなくなった時に困るからである


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