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宇宙海賊やろう!  作者: 池田 和美
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宇宙海賊やろう! じゅうご

 支給品を受け取ったら、あとは寝起きする場所と、配置場所を教えて貰いましょう



「さて、これで用事はお終い。支給品は所定の場所に片付けてね」

 立ち上がったレディ・ユミルが、フレッドへというよりも、リーブスに向かって言った。

「だから、俺じゃなくて隊長預かりなんですって」

 強調するが、どこ吹く風といった態度で、レディ・ユミルは言った。

「ちゃんと寝る場所、食べる場所。お風呂にトイレまで教えるのよ」

「…」

「…。へえい」

 しばらく待っても彼女からの返事が無いので、リーブスが渋々と答えた。

「それじゃ、行こうか」

 ダンゾーが床から声をかけた。見ると彼女は床に膝をついて、フレッドが脱ぎ散らかした簡易宇宙服を、丁寧に畳み終えるところだった。

「あ、すいません。やらせちゃって」

 慌てるフレッドにダンゾーは手にした簡易宇宙服を押し付けた。

「私が布団を持つ。リーブスは宇宙服」

「ちぇ」

 一番大きな荷物を指定されてリーブスは顔をしかめた。それでも宇宙服へ手を伸ばしてくれたのは、フレッドでは運ぶだけでも難渋しそうだからであろう。

「ほらよ、端末」

 宇宙服につけっぱなしだった端末をフレッドに渡してくれた。

「靴、忘れるなよ」

「あ」

 宇宙服を試着する時に脱いだことを忘れていた。自分の履いていたスニーカと戦闘靴を見比べ、戦闘靴の方を選んだ。

 スニーカに簡易宇宙服を抱え、端末は戦闘服のポケットへ放り込んだ。

「お? 引っ越しかい?」

「ちげーよ、新入りだよ」

「おはよう」

「見える! 見えるぞよ。キミの後ろによからぬモノが。これは誓約の腕輪。これを購入すれば…」

「おまえ、さっきあっちに居たんじゃないのか」

「はよん」

「おーっす」

 通路を、荷物を持って移動する。また海賊どもと挨拶を交わしながら歩いて行く。とはいってもそう遠くまで移動しなかった。ひとつ気密扉をくぐると、通路が床も壁も木調となり、ちょっと豪華になった。フレッドが事情聴取された船長公室を含む区画である。

 もちろん本物の木ではなく、プラスチックの模造品であるが、目に優しい風景であった。足元も剥き出しの金属ではなく絨毯が敷かれていた。

「ここだ」

 なんとダンゾーの部屋は船長公室の隣であった。後ろポケットから端末を出して扉に掲げると、カチリと鍵の外れる音がした。

「二人とも廊下で待ってろ」

「この大荷物を抱えてですかい」

 宇宙服の下半身を左脇に、上半身を肩に抱えたリーブスが、情け無さそうな顔をした。ただ立っているだけでも通路を塞ぐような大男であるから、人が通りかかるとすれ違うのも一仕事なのだ。

 だが反論は許さないとばかりに睨まれてリーブスは黙った。

 施錠してあった他は通常の扉と同じであった。レバーを下げて内側へ押し開くと、猫を通すほどだけ隙間を作った。

「絶対、覗くな」

 布団を一式抱えている割にはスルッと扉の隙間から忍び込むようにダンゾーの姿が部屋へと消えた。

 まるで罠にかかっていた鶴のような事を言われた二人は、思わず顔を見合わせた。

「なんなんでしょうね」

 当然の疑問をフレッドが口にすると、リーブスが当たり前のように答えた。

「そりゃあれだ。人には見られたくない物を片付けてんだろ」

「例えば?」

「そうだなあ…」

 宇宙服を抱えたまま天井を見上げたリーブスは、ニカッと笑った。

「フリフリのたくさんついた魔法使いの衣装とか?」

 言われてフレッドは、幼い頃自分が夢中になって見ていた変身アイドルの主人公を思い出して、その服をダンゾーが着ているところを想像してしまった。

 中学生という設定の女の子が画面狭しと動くアクションでも、チラリともスカートがめくれないのは、画角の演出が絶妙だったからである。

 もちろん大人の女性であるダンゾーが着たら似合うわけがない。まあ目の前のリーブスよりはマシではあろうが。

 それに魔法のステッキで華麗に難解な事件を解決していたが、ダンゾーだと魔法のステッキで野蛮に撲殺の事件が発生かもしれない。

 ちなみにその変身アイドルは二人組であった。もう一人をレディ・ユミルで想像したことは一生の秘密にしようと思った。

「いいぞ」

 そこまで想像の翼が広がったところで、扉が必要最低限だけ開かれて、ダンゾーの首だけが差し出された。

「やれやれ」

 リーブスが肩に担いだ宇宙服の位置を修正するようにしながら前に出ようとすると、ダンゾーがまた厳しい目をした。

「リーブス。お前はそこで待機」

「ええっ。殺生な」

「ここにソレは必要無いからな」

「へえい」

 リーブスを廊下に残してフレッドはダンゾーの部屋に入った。

 広さは六畳ほどである。小型巡洋艦の割に居住スペースに余裕があるのは、長期航海を意識しての事だろう。フレームにマットレスだけ置かれたベッドがあり、出入口以外に扉が奥に一つあった。

 フレッドのイメージとしては、各部屋に円い舷窓が一つついているという物だったが、どちらの壁にも窓は無かった。

 そのせいで装飾品の類は一切無い、殺風景と言うか使われた形跡すら薄いことが強調された部屋であった。

「ここは風呂とトイレだ」

 奥の扉を開けると風呂とトイレが一体化された様式の浴室であった。

 こちらもあまり使用された形跡が無かった。

「こっちがクローゼットだが…」

 別にある引き戸を指差した後、フレッドが仰け反るほど怖い顔を近づけたダンゾーは言った。

「絶対開けるな」

「は、はい…」

 震えあがったフレッドを見て、腕組みをしたダンゾーは、それでも信用できなかったのか、脇にある机の引き出しからメモ用紙とペンを取り出すと何やら書き出した。

 書いた物をバシッとクローゼットの扉に貼りつけた。


『この扉を開く者に災いあれ』


「あの~」

 フレッドが遠慮気味に声をかけた。

「着替えなどは、その箱に入れろ」

 足元に衣装ケースが置かれていた。慌てて中身を出したのか、隅にホコリが残っていた。

「いえ、あの…」

「なんだ?」

「隊長はドコに寝るんでしょうか?」

 見ればマットレスだけのベッドの上に、事務室でフレッド用にと渡された封筒型の寝袋が敷いてあった。つまり隊長の寝る場所が見当たらないのだ。

「私か? 私は船長室で寝ている」

 重核子爆弾級の事実をシレッと告白されて、フレッドの顔が赤くなった。

(あうう。それって…)

 これが小学生ぐらいならば「ふーん、そうなんだ」程度の情報であるが、曲がりなりにもフレッドは昨日まで女子高生であった。それが意味する事を分からない年齢ではなかった。

「戦闘服の下にズボンを重ね着しているだろう。脱いだ方が良い。動きが阻害される」

 フレッドが七面鳥のように顔色を変えているのにダンゾーは変わらない口調で言った。

「ようそろ」

 手にしていた簡易宇宙服をベッドへと下ろし、急遽着替えることに。

「ここには予備の靴が入れてある」

 ゴソゴソとやっている間にもダンゾーの説明が続いた。

「君の靴もここに置いておくがいい」

 見ればベッドの下にも収納があり、その脇に数種類の靴が綺麗に並べられていた。戦闘靴は今履いている物の予備であろうが、フレッドが履いていたようなスニーカや、パンプス、透明なハイヒールまであった。

「ようそろ」

 ズボンを脱いで下着にトレーナーだけという、ちょっとみっともない格好で自分のスニーカを片付け、再び戦闘服へと袖を通す。脱いだ物は畳んで衣装ケースへと収めた。

 ポケットに入れっぱなしにしていたマスコットを取り出すと、ダンゾーが敷いてくれた寝袋へ寝かすように置いた。

 ダンゾーに言われた通り、確かに戦闘服の下にズボンは履かない方が動きやすかった。

「鍵の番号が必要だな」

 ダンゾーが端末を取り出した。ポケッと見ていたフレッドに振ってみせる。慌ててフレッドも端末を取り出して、二台を向き合わせた。

「これで、この部屋の扉が開く。だがマスターキーを持っている者が複数いるから、安心しないように」

「誰と誰です?」

 画面に表示された扉を開けるアプリを確認しながら当然のように訊くと、ダンゾーは微妙な顔をして考え込んでしまった。

「まず船長は全ての扉を開ける権限を持っている。あと船内を管理している中央コンピュータ。副長も持って…た…?」

 首を傾げて固まってしまった。

「わ、わかりました。とりあえず寝ていても誰か入って来るかもしれないってことですね?」

「まあ、そんな不届きな奴は、この船にひとりぐらいしかいないから安心しろ」

 やはり完全否定はされないようである。

「それでは簡易宇宙服を置きに行く」

 ダンゾーを先頭に部屋を出ると、相変わらず宇宙服を抱えたリーブスが、情け無さそうな顔をして待っていた。

「待ってましたよ」

「なんだ、その顔は?」

「『こんな廊下に立たせられるなんて、なにかのバツゲームか?』なんて言われましたぜ」

「誰にだ?」

「マルコムの野郎でさ」

「お、そうだ。マルコムも鍵を持っているはずだ」

 ポンと手を打ったダンゾーが振り返った。

「えっと、その方は?」

 さっそく自分の端末で鍵をかけたフレッドが訊ねると、リーブスが教えてくれた。

「応急長だよ。ドンパチの最中に敵の弾を喰らったら、そこへ駆け付けて、それ以上被害が広がらないようにする役目だ。ええと、惑星(おか)の上の火事屋…、消防署ってトコかな」

「ああ」

 確か消防士は火事の時に色々な超法規処置が取られると学んだ記憶がある。延焼しそうな隣家へ無断で入ったりしても、住居不法侵入などで罪に問えないなどである。そうでないと火事が町全体に広がって大惨事になるからだ。それと同じと納得できた。

「まあ、あれだ」

 リーブスは抱えている荷物のせいで顔だけでリアクションを取って言った。

「ナナカに頼んでおけば、誰かが入ってきても注意してくれるさ」

「ナナカ?」

 またフレッドの知らない名前が出てきた。

「ありゃ? ナナカを知らない? 教えてなかったか? <メアリー・テラコッタ>の中央コンピュータの名前だよ」

「随分と人間っぽい名前がついているんですね」

「そりゃあ…」

「行くぞ」

 空手になったダンゾーは、すでに警務室がある方向へ歩き出していた。

「待ってくださいよ」

 慌ててその豊かな髪しか見えない背中を追おうとした。

「ほれ、自分の分は持て」

 靴や布団を部屋に置いたので、フレッドはダンゾーが畳んでくれた簡易宇宙服を両手で抱えていた。

「ありゃ」

 荷物を押し付けようとしていたリーブスは一目で諦めて、そのまま歩き出した。

 やはり宇宙服の上半身を肩に担ぎあげ、下半身は小脇に挟んだままで、リーブスがダンゾーの後へと続いて行く。フレッドも負けじと追いかけた。

 通路でも区画ごとに気密扉が設置されていた。その度に敷居を跨ぎ越さなければいけないのはちょっと不便であった。しかし扉ごとに閉鎖標識が書いてあるので、いざとなったら区画ごとに仕切られることが想像できた。

 通路の壁には一本の矢印が書いてあった。赤い矢印に同じ色の菱形が挟まれている。

「この矢印は戦闘治療所通路標識って言うんだ。誰かがドンパチの最中に倒れたら、この矢印に沿って連れて行けば、サド先生のところに辿り着くっていう寸法だ」

 不思議そうに矢印を見ているとリーブスが教えてくれた。

 そうやって居住区を進んでいくと、駅でもお馴染みの男女のピクトグラムがあった。

「ここが女子便所(トイレ)。居住区だと右舷(みぎげん)左舷(ひだりげん)に一か所ずつだ。フレッドは左舷の方を使うんだ」

 トイレマークを指差してリーブスが教えてくれた。

「右舷はお偉いさんが使う。下端は左舷を使う。これは他の軍艦でもそうだから覚えておけよ。あと、戦闘中は男も時間短縮のために、コッチでも使っていいことになっているから、悲鳴を上げるなよ」

「ようそろ」

「ま、覗くなんていう奴は、ひとりしかいないから気にするな」

「…ようそろ」

 そろそろ簡易宇宙服の重さに顎が上がって来たフレッドが答えると、もっと重いはずの宇宙服を抱えたリーブスがチラリと様子を見た。

「もう少しだ、頑張れ」

「ようそろ」

 警務室まで来て通路はドン詰まりである。その先には閉めてある扉を開ければ進むことができる。先頭のダンゾーが扉を開け、リーブス、フレッドと続いて扉をくぐった。

「閉まっていて開けた扉は、通ったらすぐに閉めるのが基本だ」

「ようそろ」

 言われる前に閉めようと思っていたが、素直に答えて扉をガチャリと閉めた。

 そこはラッタルが上下に伸びている縦方向の通路というべき部屋であった。ラッタルの裏に何やら荷物が山積みになっているので、倉庫兼用なのかもしれない。

 ダンゾーは下へのラッタルを選んだ。

 階段と言うより梯子と言った方が正しいような急な角度である。荷物を持ったままだと大変そうであった。

「おう」

 先に下りたダンゾーが、ラッタルの途中で振り返った。そこには通路に設けられていた物と同じ気密扉が寝かされる形で設置されていた。閉める時はラッタルを外して閉めないとぶつかってしまうだろう。よく見ればラッタルを跳ね上げる方法が壁に図解入りで掲示されていた。

「いきますよ」

 リーブスが声をかけて宇宙服の上半身をダンゾーへと渡した。

 一番狭くなっている所を手渡しする事で無事に通り抜けられた。ダンゾーと宇宙服の上半身は下で待つことなく先へ行ってしまった。

 荷物が半分になったリーブスが宇宙服の下半身を床へ置いた。

「おう」

 同じくラッタルの途中で振り返ったリーブスが、フレッドに向けて手を出した。

「お願いします」

 説明されなくても意味が分かったので、リーブスが置いた宇宙服の下半身を彼の手が届くところへと引き寄せた。

 荷物を手にしたリーブスが下の階へと下りていき、フレッドも慌てて追うようにラッタルに取りついた。

「こら」

 リーブスがラッタルの下から声を飛ばした。

「一人が下りきるまで、次は待つんだ。そうじゃないと、物を落としたり、足を滑らした時に巻き添えにして危ないだろ」

「は、は…。ようそろ」

 慌てて金属製のラッタルに電気が流れていたようなリアクションでフレッドは飛びのいた。

「よし、いいぞ」

 下から声をかけられて、フレッドはラッタルに取りついた。急な傾斜であるから、二人のように普通の階段のように下りる自信がなかった。背中向きで畳んだ簡易宇宙服を抱え込むようにしないと下りられなかった。

 下の階につくと、リーブスが宇宙服の下半身を小脇にして言った。

「あと上りが優先な。ラッタルを使う時は、先に覗くのが基本だ」

「ようそろ」

 フレッドが頷いて答えると、リーブスが訊いた。

「何か言いたそうだな?」

「エレベータとかじゃないんですね」

「どこの豪華客船だよ」

 半ば笑ってリーブスは教えてくれた。

「そんな豪華な設備、こんな小舟についているわけないだろ。あ、あれか。ドラマの…」

「はい。自動ドアにエレベータで移動していたので、てっきりそうなっている物かと」

「ありゃ、お話だからな」

 通路から次の区画へ移動しながらリーブスが教えてくれた。

「もし船内が無重力になったら、逆にエレベータなんて危ないぞ。動き出しはいいが、目的の階に着いたら頭をぶつけちまう」

 言われてみればそうかと思いつつ気密扉をくぐると、リーブスに「そこも閉めてこいよ」と指を差された。閉めた扉のカテゴリー表示がⅡとなっていた。

 そうやって辿り着いた区画には、戦闘服を着た別の男が立っていた。ダンゾーに親し気に話しかけているし、おそらく同じ陸戦隊所属なのだろう。やはり戦闘服を着て筋肉ムキムキの大男である。戦闘服を大きくはだけて、頭には黒ベレーの代わりに黄色いタオルを包むようにして巻いていた。

 左腰には鞘に入れた海賊式蛮刀(カトラス)を提げ、右側には拳銃弾をそのまま大きくしたような物を幾つも差し込んだハーフポケットだらけのホルダーを下げていた。

 後ろ腰から拳銃のグリップのような物が見え隠れしているので、どうやら単発式のグレネードランチャーを所持しているようだ。

「おっす」

 軽い調子で手を挙げて挨拶された。リーブスも気安く返事をした。

「おう、おはようさん」

「おはようございます」

 言われる前に頭を下げて挨拶を返した。

「ほれ」

 リーブスに新たな大男へ挨拶するように促された。

「新入りのアルフレッドです。フレッドと呼んでください」

「フレッドね。俺はナーブラ。第四近接防御の砲手(ガンナー)だ」

「だいよんきんせつばうぎょ?」

 また新しい単語に首を捻るフレッド。するとナーブラと名乗った大男は、チョイチョイと手招きをした。

 背中側から見ると、やはり腰の後ろに信号銃のような小さな銃のホルスターがあった。彼の武器は、カトラスとその単発銃のようだ。

 その区画には床と壁の間に、大きな丸い突起物が一つあった。球形の物体の一部分だけを切り取ったような形だ。そこには四角く溝が入っており、その溝の中には向かい合った扇形の凹みがある。凹みにはそれぞれレバーがあり、今は「ハ」の字になっていた。

 ナーブラがその両方のレバーに手をかけて「ハ」の字から、逆さの「ハ」の字になるようにレバーを下ろした。ちょうど向かい合った扇形の凹みの上から下へレバーが動いたことになる。

 すると丸い突起物に刻まれた四角い溝が少し浮き上がった。両手で操作したレバーの中間より上の方にある取手を掴んだ。どうやら下がヒンジになっており、手前に開く様だ。

 ナーブラその丸さに沿うように曲面の一部を形成していた四角いハッチを開いた。

「わあ」

 覗き込んだフレッドは思わず声を上げた。

 地上で見るよりも綺麗な星空が向こう側に広がっていたのだ。昨日の中継ステーションの公園で見た風景よりも綺麗であった。

 ハッチの向こう側は球形の空間で、その外側は宇宙空間だったのだ。球形の中には座席と操縦桿のような物があり、何かを操作する席という事が機械に疎いフレッドにも察せられた。

「ここからポンポン砲を操作するんだ」

「ポンポン砲?」

「ちっちゃなブラスターだよ」

 フレッドの質問に、反対側から首を突っ込んだリーブスが答えてくれた。

「まあ、敵艦をやっつけるほどの威力は無ェが、一分間に一二〇発も連射ができるから、ミサイルに追われたり敵の飛行機が近づいたら、これで撃ち落とすんだ。入ってみるか?」

「はい」

「ようそろって言えって言っただろ」

 リーブスは文句を口にしつつも、フレッドに砲座への入り方を教えてくれた。

「足から入るんだ。足はそこの足掛けに」

 下側には薄いクッションが敷いてあり、ちょうど尻の下から腰にかけて受け止めてくれた。ハッチの内側にも同じ物が貼り付けてあるので、閉めれば背もたれとなるのだろう。

言われた通り足から入って、パイプでできた足掛けに両足を乗せると、股の間に操縦桿が来るような位置となった。

 球形に合わせて体を丸め込むような感じである。尻が少し痛いなと感じたが、どうやらシートベルトをシートとの間に挟んでしまったらしい。

 小柄なフレッドには十分な空間があった。だがガンナーと自己紹介したナーブラに入れるかちょっと疑問だ。それぐらいの大きさをした球形なのだ。

 見晴らしは最高であった。

 操作する器械と、頭の上にある小さなモニター、それと座っているクッション以外はすべて透明な装甲で出来ているのだ。厚みなどは分からないが、戦闘服のままで座ることが許されたのだから、有害な宇宙線などはカットされているに違いない。

 ゆっくりと星空が上から下へと流れていた。やがて惑星<カゴハラ>が視界へと入って来た。

「うわあ」

 地球と同じ七対三の比率になるように開拓時に海の広さを調整された<カゴハラ>は、大地の緑と海洋の青さで宝石のように見えた。

 青い大気の周辺部には虹色で輪があるかのように母星からの光が入り込んでいる。そして刷毛で塗ったように白い雲がアクセントを加えていた。

 学校で教わった通りの大陸の形を見て、ほぼ無意識に自分が暮らしていた街の位置を目で探してしまった。

 手前にある機械的な建造物は、軌道エレベータと中継ステーションである。その周囲には色々な種類の宇宙船が、好き勝手に飛んでいるように見えた。これらも航行灯などを点灯させたり点滅させたりしているので、華やかなイルミネーションに見えた。

 風景が流れていくにつれて中継ステーションの周囲に浮かんでいる他の軍艦も目に入るようになってきた。きれいに格子型に並んだグンマ宇宙軍の艦艇は統一されたカラーリングがなされていた。

 衝突予防灯の点滅まで統一された姿に、フレッドは宇宙軍の士気の高さを見たような気がした。

 初めての経験に、やっと自分が宇宙船に乗り組んでいるという実感が湧いて来た。それまでここは宇宙海賊船<メアリー・テラコッタ>の船内だと口頭で伝えられていたが、どこにも窓が無かったので外の景色を見ることが無かったのである。

「よし、もおいいだろ?」

 感動の声を上げていると、リーブスの苦笑しているような声が背中から降って来た。

「やることやっちまわないと、仕事が終わらないぜ」

「ようそろ」

 後ろ髪を引かれる気分で砲座から這い出そうとした。人工重力との兼ね合いで抜け出しにくいところを、両側のリーブスとナーブラが腕を掴んで引っ張り上げてくれた。

 反った四角いハッチを閉めて、二つあるロックを上げて「ハ」の字形に戻す。そこでハッチに、白い菱形の中にⅢと書いてあることに気が付いた。

 リーブスに負けない程の大男であるナーブラが、宇宙服を着てこの中に入れるとは到底思えなかった。

「宇宙服はココだ」

 背後から声がしたので振り返ると、ダンゾーが反対側の壁に並んでいる宇宙服の前に立っていた。宇宙服の上半身は壁から生えている突起を、左右両脇に挟むようにして浮かせてあった。ドレもバックパックが手前に来るように後ろ向きである。組である下半身は、サスペンダーが同じ突起にかけてぶら下げてあった。

 ダンゾーが運んでくれたフレッドの分の宇宙服も、上半身はそうやって壁にかけてある。一つだけサイズが違うのは一目瞭然であった。砲座に首を入れるためにリーブスが床へ散らかした宇宙服の下半身を持って行き、他と同じようにサスペンダーを突起にかけた。

 宇宙服が五着並んだ両脇に、簡易宇宙服が壁の手摺からハンガーにかけられて吊るされていた。二着ずつ並んだどちら側にするか迷うと、ダンゾーが不愛想に親指で左側を示した。

 空いている予備のハンガーに、冬服を干すような感じで簡易宇宙服を吊るした。

 壁際には鉄製の不愛想なキャビネットが置いてあった。警務室と同じタイプの物だ。そこに四人分のヘルメットが二人分ずつ二段に置いてある。三段目に空きがあるので、フレッドはそこへ手袋を突っ込んだままのヘルメットを収めた。

「戦闘配置の話しをしておく」

 ダンゾーは短く言うと、砲座の右側壁にあるコンソールの前に立った。

「これが砲側指揮装置(ほうそくしきそうち)。私の受け持ちだ。君は、私の横で補助してくれ」

「ほじょ?」

 何をしていいのか分からずにキョトンと訊き返すと、リーブスが例の大きすぎる囁き声で教えてくれた。

「取り敢えず横で見て覚えろってことさ」

「ああ、そういう事ですか」

 フレッドが納得の声を上げると、リーブスが説明してくれた。

「隊長の役割は、実は無いんだ」

「は?」

「ほとんどの仕事を、艦橋の後ろにある近接防御指揮所がリモートでやっちまうからよ。目標の選択から照準、ポンポン砲の発射まで上でできるんだ」

「じゃあ、なんで私たちはここに居るんです?」

「そら敵の攻撃で指揮所が全滅した時のためさ。上からの回路が断たれたら、隊長が目標を指示して、ナーブラが照準して撃つんだ」

 指をピストルの形にしてみせるリーブス。

「んで、俺の受け持ちはこっちだ」

 砲座を挟んだ反対側にもコンソールが立っていた。

「こっちでポンポン砲が安定してプラズマを吐き出せるように見張っているわけだ。こればっかりはリモートってわけにゃいかねえ。で、こいつがプラズマの素」

 コンソール横に配管で繋がれたボンベが二本並んでいた。ボンベの大きさは一般的な消火器程度である。繋がれていないボンベも周囲に六本ほど壁に金具で固定されていた。リーブスは一本のボンベを軽く蹴った。戦闘靴とボンベがぶつかってコンという固い音が聞こえた。

「この中にゃ液体金属がたんまり入ってる。猛毒だ。忘れるな、猛毒だぞ。この中の液体金属を、機関部から供給される電力で沸かしてプラズマに変えて、ポンポン砲の砲身から撃ち出すっていう寸法だ」

 作動原理は分かるような気がした。たしか学校の物理の授業で習った、物質の三態というやつだ。プラズマなどは気体からさらに変化した物と教わった気がした。機関部からの電力をエネルギー源として、液体から気体、そしてプラズマに励起して撃ち出すのだろう。

「この一本で三〇発ほど撃てる」

「え?」

 いまさっき一分間に一二〇発連射すると言っていたから、三〇発だと一五秒ほどしか持たないことになる。

 素早く計算したフレッドは、小首を傾げて口を開いた。

「それじゃあ…」

「そうだ。弾切れになる前に、次々と交換しなきゃならねえ。それを、こっちにいる連中でやるのが、主な仕事よ」

「全部、空になったら?」

「貰いに行くんだ」

 リーブスが砲座とは反対側にある扉を指差した。その扉は他の気密扉とほぼ一緒であったが、下側に円形のハッチを抱え込んでいた。楕円形の扉を開かなくても、円形のハッチだけ開けば向こう側へ行けるようになっているようだ。

 楕円形の方には「Y」の文字が白い正方形の中に書いてあるが、円いハッチの方にも白い正方形が書かれてあり、そちらには「円にZ」の文字が書かれていた。

 リーブスの顔が教えたよなと言いたげに笑った。

「つまり戦闘中は、こっちのハッチを開けてボンベを運ぶんですね?」

「正解だ」

 扉を開けて隣の空間へと移動する。そこは通路になっており、向こうにも同じ楕円の中に円形のハッチを持つ扉があった。基本に忠実に開けた扉を閉める。

 ぞろぞろとリーブスを先頭に、フレッドとダンゾーは突き当りまで歩いた。向こう側の扉を開くと、複雑な配管が集められた空間となっていた。

 部屋の形は丁字形である。フレッドたちが入って来た扉と同じ物が向かい合っており、右に曲がる端に赤色が入った簡易宇宙服を着た男が暇をつぶしていた。右腰に大型のビームガンを入れたガンベルトを巻き、反対側には儀礼用のような美しく彫金されたサーベルを提げていた。

「お、おはよ。どうした?」

「ほら」

 リーブスがフレッドの背中を押すように前に出した。

「新入りのアルフレッドです。フレッドって呼んでください」

「おう、こちらこそヨロシク。第一分隊のホーサムだ」

 壁には砲座のある部屋で見た物と同じボンベが何本も積み上げられていた。半分ぐらいが配管と繋がっており、半分はすぐに運べるように並べられていた。

「いま、あれだ。研修中ってヤツだ」

 リーブスの説明に納得した微笑みを浮かべたホーサムは、ちょっと恐い顔をしてフレッドを見た。

「聞いちゃいると思うが、ボンベの中身は液体金属だ。これが猛毒ときてるから、取扱注意な。手袋は絶対だ。そして配管から外す時、嵌める時、絶対に口金を雑巾(ウエス)で覆え。少しでも漏れていると、無重力になった時に、テメーが吸う事になるからな」

 実際に簡易宇宙服の手袋を嵌めると、配管の一つにかけてあった雑巾を手に取り、配管とボンベが繋がれている箇所に当てた。コックを捻り配管を閉鎖すると、半周捩じってバシュと圧力がかかった物が外れる特有の音がしてボンベは配管から外れた。

「いいか。猛毒だからな」

 また強調して、ホーサムは別のボンベの口金のところに雑巾を当てると、配管の下へ持って行き、半周まわして配管と接続した。コックを捻ると配管の中を物が流れる音がシュウと聞こえてきた。

「外す時も、嵌める時も、ウエスを忘れるな」

「よ、ようそろ」

 何度も猛毒だと強調されたうえでの取り扱い説明であるから、フレッドから緊張した声が出た。

「よし、返事はいいな。手袋、ウエス。忘れんなよ」

 そこで初めてホーサムがフレッドに向けて表情を崩した。そうしていると町の気の良い兄ちゃんといった風情である。

「これは空かい?」

 リーブスが反対側にあるボンベを軽く蹴って訊いた。

「ああ、そっちは空だ」

「持ってみろ」

「ようそろ」

 空のボンベに手をかけた。学校の防災訓練で消火器を扱った事があるが、あれと同じぐらいの重さであった。まだ非力なフレッドでも扱える重さである。

「じゃあ、こっちは?」

 いまホーサムが外したばかりのボンベを示された。空のボンベを置いて、そちらに手をかける。

「お、重…」

 まったく持ち上がらないほどの重さがある。液体金属が詰められているというのは本当の様だ。水や消火剤が詰められていた消火器とは段違いの重さである。

 それでも床から一センチは持ち上げたフレッドは、ヨロヨロと数歩歩いてみた。

「こりゃ給弾係にゃ無理じゃないか?」

 ホーサムが素直に感想を述べた。

「まあ、力が無くてもやる仕事はたんまりあるから」

 リーブスが変な慰め方をした。

「しばらくは隊長の横で、仕事を見て覚える係だな」

「大丈夫だ」

 ホーサムが笑顔で言った。

「リキなんてすぐにつく。生きてりゃな」

「じゃ、また」

「おう」

 リーブスが短い挨拶をして、ボンベを充填する部屋を後にした。

「これで戦闘配置の場所は覚えたな」

「ようそろ。通常配置の時が分からないのですが」

 素直に訊くと、リーブスが百面相で後ろからついてくるダンゾーを示した。

「だから隊長にくっついていれば間違いないから。まあ、だいたい警務室でムスッと恐い顔して座っている事が多いけどな」

「リーブス」

 一言余計だと言わんばかりの声が背後から聞こえてきた。リーブスと揃って首を竦めたフレッドは、振り返ってダンゾーを見た。

 相変わらずの仏頂面だ。

「フレッド。これから私と一緒に来い」

 元の砲座がある部屋に戻ると、ダンゾーが言った。

「俺は?」

「警務室の当直をレッドミルにやらせているんだよな」

 彼女の指摘にリーブスはそうだったとばかりに首を竦めた。

「隊長が、ちゃんとフレッドの面倒をみようとしないからですぜ」

 リーブスの言葉に対して、言い訳は聞かないといった態度のダンゾー。三人はナーブラに挨拶をすると、再びラッタルの部屋から上の甲板へ戻った。

「時間かかりすぎですよ」

 それでも暇を持て余していたようにレッドミルが警務室で待っていた。

「サド先生が、フレッドの健康診断がまだだから、医務室へ来いって」

「ようそろ」

 ダンゾーが短く答え、フレッドと二人で歩き出す。一瞬だけリーブスがついて行かなくて大丈夫かなというような顔をしたが、レッドミルと警務室の当直を交代することにしたようだ。




 解説の続き


罠にかかっていた鶴:夕×かな?

窓は無かった:閉塞感を無くすために壁一面に映像が投影できるようになっているとか、なにかしら気を紛らわせる物があるのかもしれない。どちらにせよ防御力が下がるので窓は無いだろう

バスルーム:言うまでも無いと思いますが、トイレは和式では無くて洋式

クローゼット:まさか、本当にフリフリ衣装が…

衣装ケース:もちろんダンゾーの私物である

透明なハイヒール:宇宙海賊も幹部クラスともなれば公式な場所でドレスを着る事もあるだろう

ひとりぐらい:後ほど判明します

通路の気密扉:開けっ放しである。船内閉鎖標識で言うところの「W」

ポンポン砲:もとは英国海軍の対空砲の名称。語呂の良さから使用する事にしました

星空が…流れて:バーベキュー航行のせいである

フレッドは宇宙軍の…:同じ艦列を見ても、シロウトのフレッドが見ると感激して、コクーンが見ると文句があると対比してみました

砲側指揮装置:手動でポンポン砲を撃つときに、狙う目標をドレにするか指示する装置

液体金属:ブラスターは重い分子をプラズマにして撃ち出した方が破壊力を出せる設定。液体なのは取り扱いしやすいようにである

次々と交換:大きなタンクから各砲座にパイプで圧送すればいいじゃないかと思うが、いざ敵の攻撃を被弾した時に、そのパイプが破れて液体金属が流れ出た場合の方が危険と判断されたと設定した

ホーサムのいる部屋:実は第三主砲塔の機関部という設定。主砲塔はそれぞれ液体金属のタンクを抱えている。一発ごとに使用する液体金属の量が多いので、こちらはタンクから圧送されてくるという設定。ただし区画を超えてのパイピングは安全のためにされていないので、ココまで取りに来なければならない

ボンベと配管の接続部:いちおう何重にも液体金属が漏れないような処置がされているはず。さらに安全性を高めるために、手袋と雑巾を使用しているものとします

ボンベの重さ:もちろん液体とは言え金属だから中身が詰まった方が重い


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