宇宙海賊やろう! じゅういち
フレッドの修業はまだまだ続く。普通のスペースオペラには、こういった些末な設定が出てこないので、気になっていた和美なのでした。いや些末すぎてヒーロー&ヒロインが活躍するページが足りなくなるから省略するんでしょうけどね
フレッドに閉めさせた部屋のドアを、今度は開けさせてリーブスは彼女の顔を覗き込んだ。
「カテゴリーと閉鎖標識は覚えたな」
「は、はい」
「本当に後でテストするからな」
ニカッと笑ってから、また明るい雰囲気を取り戻すと、リーブスは別の話しを始めた。
「次は船内で暮らしていくのに必要なことだ。お前さんも飯食ったり風呂に入ったりしたいだろ? この<メアリー・テラコッタ>も小さいながら風呂も食堂もちゃんとある。それの利用の仕方を教える…」
そこで言葉を区切ったリーブスは、ダンゾーへ視線を送った。
「とはいえ隊長。しばらくは隊長と飯や風呂は一緒ですからね。さすがに飯の面倒は見てやれないことも無いが、風呂は美男子の俺たちと一緒だと照れるでしょうから。か弱き乙女同士で仲良くしてくださいよ」
「…」
ダンゾーはしばらく周囲を見回した。もしかしたら余計な事を言ったリーブスへ何か投げつけようとして探していたのかもしれない。
「よし。次は分隊と班、そして当直の話をする。ちょっとややこしいがちゃんと覚えろよ」
「はい」
「まずこの<メアリー・テラコッタ>にゃ、一二〇人ぐらいの海賊が乗り込んでいる。それを四つの『舷』に分けているんだ」
「げん?」
聞き慣れない言葉にフレッドが難しい顔をした。
「簡単に言えば組分けだ。『A舷』『B舷』ときて…」
「C、Dとくるんですか?」
「残念。『R舷』に『S舷』の四つだ」
リーブスの言葉を先回りしようとしたが、外したようだ。
「A、B、R、Sなんですね?」
なんでその四文字なんだろうと言外に訊ねたが、そんな事は知らないとリーブスの歯の白さが答えていた。
「この一個の『舷』で<メアリー・テラコッタ>は動かせることになっている」
「え?」
フレッドが理解できないという顔をした。リーブスの言葉が本当ならば、余分に四倍もの人員が乗組んでいる事になるからだ。人がいないよりはいた方が良いだろうが、四倍は多すぎのような気がした。
「だが注意して聞け『動かせる』だけだ。ドンパチやったりするには人手が足りねえ」
ああとフレッドは納得の声を漏らした。
「いちおう突然襲われた時なんかは、逃げる隙を作れる程度にゃ戦える事になっているが、まあその程度だ。この一個の『舷』で動かしている事を、通常直…、通常配置って言うんだ」
教えたよな、覚えているよな、と確認するようにリーブスはフレッドの顔を覗き込んだ。
「一個の『舷』で通常配置」
「まあ通常直っていう呼び方の方が使うかな?」
咀嚼するように呟くフレッドに、リーブスは付け加えた。
「で、通常直の場合は、二時間ごとに持ち場を交代するんだ」
リーブスが天井を指差した。
「?」
タイミングよく船内放送が入った。ガガーピーと号笛の代わりにスピーカが鳴ると、女の声でアナウンスが入った。
「当直交代の時間です。『R舷』のみなさんお疲れさまでした」
すると席についていたレッドミルが立ち上がり、芝居っ気をたっぷり乗せた海賊式の敬礼をリーブスにした。
「警務室異常ありません。申し送りも…」チラッとフレッドへ視線をやってから「…ありません」
「ようそろ。お疲れさん」
答えるリーブスも海賊式敬礼をしていた。
「これで警務室の当直が『R舷』から『B舷』に交代したわけだ」
「みんな二時間ごとに交代なんですか?」
「そうだ、と言いたいがちょっと面倒臭くてな。今日の当直割で言うと、A、B、Rが当直に就いて『S舷』は当直に就かなくていいんだ」
不公平じゃないのかなと言いたそうな顔をしたフレッドに、リーブスは笑顔を向けた。
「四つの内、ひとつはお休みなんだ。これを『公休』って言う。二十四時間のお休みだから、寝てようが、部屋で趣味をやろうが自由だ」
「へー」
休みがあることが意外に思えてフレッドは感心した声を漏らした。
「こういう港に居る時なんかは、上陸許可を取れば遊びに出かけてもいい。もちろん帰って来る時間は厳守な」
「じゃあ三つの『舷』で代わり番こに当直をするんですね?」
「そうだ。職務に就く『当直』。他の仕事をこなす『非番』。そして休憩する『待機』の三つを二時間ごとに交代するんだ」
「なんで二時間なんです?」
「それぐらいしか神経が持たないからだよ。警務室は、まあこんなノンビリしているが、ブリッジ詰めとかだと、けっこう疲れるぞ」
「そうなんですか」
フレッドは自分に務まるだろうかと不安を表情に浮かべた。
「まあ、なんにしろ慣れだ慣れ。これで通常直のことは分かったな?」
「はい」
「フレッドがどの『舷』になるかは、本採用になった時に決まると思う。この一ヶ月は、隊長預かりなんだから、隊長と同じペースで生活をするんだ」
「わかりました」
フレッドが頷いていると、リーブスが何か言いたそうにしていた。
「なにか?」
「わかりましたじゃなくて『ようそろ』って答えねえか? 今日から宇宙船乗りなんだからよ」
「変ですか?」
「ん~。俺が聞き慣れないだけだけどよ。物は試しだ言ってみろ」
「よ、ようそろ」
フレッドが恐る恐る言うと、まるで秋の虫の声が耳に染み入るような顔をしてリーブスが頷いた。
「やっぱり宇宙船乗りはそうじゃなくちゃな」
リーブスの機嫌が良くなったところで話しが進んだ。
「『非番』ってのは他の仕事をする時間だ。警務室で何かあるかボーッと待っているのが『当直』だとしたら、『非番』は自分の宇宙服のメンテナンスなどをする。だから遊んでいる時間は無い」
「『非番』は他の仕事」
「で『待機』ってのが休憩時間だ。だが二時間じゃ碌な事できねえ。寝るか食べるかウンコするかで時間が来ちまう」
「え? 寝るのも二時間なんですか?」
母と暮らしていた時も、孤児院で暮らしていた時も、しっかり睡眠時間を取っていたフレッドが意外な顔をした。
「二十四時間代わり番こって言っただろ。誰かが二時間当直に就いている間に、身の回りのことを終わらせてないと次が困るだろうが」
「二時間…」
フレッドは果たして自分が起きられるだろうか不安になった。
「目覚ましをかけるのは忘れるなよ」
リーブスは冗談めかして言ったが、寝坊は許さんという目をしていた。
「次は警戒配置だ」
リーブスは人差し指を立てた。
「船長、もしくはその場の先任が『警戒配置』を命令した時には『右舷』と『左舷』の二つに分かれる。『A舷』と『B舷』が『右舷』で、『R舷』と『S舷』が『左舷』だ」
「四つから二つになるんですね」
「そうだ。だから、もちろん公休は取り消しになる。警戒配置に着くって事は、何かヤバイ事が始まる前兆だから、ノンビリしているわけにはいかねえ」
「ヤバイ事…」
背中に汗を感じた。宇宙海賊がヤバイ事を感じるなんて、よっぽどの事だろうと思ったからだ。
「まあ、大抵ドンパチが始まる前だわな」
「ドンパチ…」
自然とフレッドの目がリーブスの右腰にぶら下げられたショットガンに向いた。
「警戒配置は大変だぞ」
フレッドの視線に気が付いたのか、ちょっとリーブスは恐い声を出した。
「なにせ二つの組で『当直』と『待機』を二時間ごとに繰り返すんだ」
「え…。『非番』も無くなるんですか?」
「そうだ。メシも戦闘配食って言って、のんびり食堂で食べるわけにはいかねえ。持ち場に就いたまま食べるんだ」
「え…、じゃあ。寝て起きて当直で、また寝て起きて当直って…」
「そういうことだ」
リーブスに頷かれてフレッドの顔が崩れた。
「うひゃあ、大変だ」
「そらドンパチが始まる前だもの、大変に決まってるだろうが」
何を今更といった声でリーブスは言った。
「いちおう警戒配置でもケンカはできるようになっているが、これが戦闘配置になると、もっと大変だ。全員が持ち場に着いていなきゃならねえ」
「え、じゃあ」
「もちろん戦闘配置に就いたら三日だろうが四日だろうが持ち場で頑張らなきゃならねえ」
さっき言ったよなとの百面相に、フレッドは恐る恐る頷いた。
「まあ、頑張っても一日ぐらいでセントラル・コントロールの誰かが船長にそれとなく乗組員が疲れていますとか囁いてくれるから」
安心させるようにリーブスはニカッと笑った。
「当直については以上だ。当直のことは理解したか?」
「はい…、よ、ようそろ」
頷いたフレッドは慌てて言いなおした。リーブスが笑顔のまま発していた圧力のような物が室内の空気に霧散した。
「よし。次は分隊の話しをする。<メアリー・テラコッタ>に乗り込んでいる海賊は、当直割とは別に、仕事で大きく分けて七つに分かれる」
「七つですか?」
大男にふさわしい大きな掌に、太い指が二本加えられて数字の七を表していた。
「そうだ七つだ。学校に通っていたら分かるだろうが、まあクラス分けのようなもんだ。教室ごとに分けるのが分隊で、その教室に必ず誰かが居るようにするのが当直割だ」
イメージしやすい例え話を出してくれたのでフレッドは頷くことができた。
「七つっていうのは、第一から第五分隊、それに俺たち陸戦隊と、怠け者たちだ」
「怠け者ですか?」
意外な言葉を聞いてフレッドはキョトンとした。
「ああ。レイジー・フェローって言われるのは、船長、副長、先任伍長、それにウチの隊長の四人だ。お前さんも隊長預かりなんだから、今日からはレイジー・フェローとして暮らすんだ」
「なんで怠け者なんです?」
非難されているようで肩身が狭い気がしてフレッドは訊いた。
「その組は、当直に就かねえからだ。朝の〇九〇〇時に持ち場に着いて、夕方の一七〇〇時に終業だ。休みも週休一日半で、隊長は日曜日に全休、水曜日に午後半休を取ってるな」
「へえ~」
意外な気がしてフレッドから感心の声が出た。
「つまり惑星の上のサラリーマンみたいな生活をしたかったら、偉くなれってことさ。まあもちろん緊急事態になれば、時間関係なく呼び出されるがな。他の乗組員は当直に就かなきゃならねえから、のんびりとは程遠いのさ」
「ああ、なるほど。つまり隊長さんは偉いんですね」
改めてダンゾーを見ると、照れたのかソッポを向いていた。
「そうだ、ウチの隊長は偉いんだぞ」
なぜかリーブスとレッドミルの二人してガッツポーズなんかしてみせた。
「で、まず分隊ってのは何かって言うと、やる仕事によってクラス分けがしてあるんだと思え」
「やる仕事?」
フレッドは不思議そうに訊き返した。宇宙船の中に仕事が七つも種類があるとは思っていなかったのだ。
「まず第一分隊。こいつらはブラスターとかミサイルとか艦載兵装を担当する。専門用語で砲雷科って呼ぶ。ビームとかミサイルをピコピコ撃つのが仕事だと思えばいい」
「ぴこぴこ…」
「まあ年がら年中ドンパチしているわけじゃないから、こういう平和な時は他の分隊の手伝いやら、甲板作業やらも仕事の内だ。まあ雑用係だな」
「ざつよう」
「もちろん、いざとなったら頼りになる連中だぜ」
不思議そうな顔をして首を捻るフレッドに、慌ててフォローの言葉を重ねる。
「第一分隊も全員が全員ブラスター担当じゃねえ。ミサイルだったり武器整備だったりそれぞれ担当が細かく分かれている。これを班って言うんだ」
「学校のクラスで図書係とかに分かれているのと同じですね」
「そうだ」
フレッドがちゃんと理解していると実感できたのか、リーブスは大きく頷いた。
「次の第二分隊は、船を動かすことが担当だ。<メアリー・テラコッタ>の舵を握って動かすのが仕事だ。専門用語では船務科と航海科って呼ぶ。舵を握るって事でレーダーなんか電波関係の仕事も全部担当する」
「二つで一つなんですか?」
「そうだ。船務科と航海科の二つだ」
「それと電波が船を動かすのに関係するんですか?」
「宇宙船ってのはな、地面を走る車と違って、無茶苦茶速いスピードでぶっ飛ぶんだ。そんな速度だと、何か物があっても眼で見てから避けるんじゃあ到底間に合わない。だからレーダーで行く先に危ない物が無いか確認しながら飛ぶんだ。っーことで舵を握るのとレーダーがワンセットになっているわけだ」
ああ成程とフレッドが頷いたのを見てリーブスはニカッと笑った。
「第三分隊はエンジン担当だ。機関科だな。この<メアリー・テラコッタ>には四つの縮退炉と、四つの主機がある。縮退炉で発電した電力を主機にぶちこんで推進剤をプラズマにして、それを噴き出して前に進んだり、行く方向を変えたりするんだ。また忘れちゃいけないワープ機関ってのもある。そういう複雑な機械の面倒を見るのが第三分隊の仕事だ」
「縮退炉って、中に一つの宇宙が入っているっていうヤツですか?」
「詳しい原理までは勘弁な。なにせ高卒なもんでよ。知りたかったら第三分隊の誰かを捕まえて訊いてくれ」
「ようそろ」
専門的な知識が必要ならば分業する事も分かるとばかりにフレッドは頷いた。
「ええと、第三まで来たから次は第四分隊か。第四分隊は食堂やら売店やら、生活に必要な事全般を担当している。専門用語で補給科だな。サド先生の医務室も第四分隊だ」
「売店まであるんですか?」
驚いて訊き返したフレッドに、リーブスはニッコリと答えてくれた。
「パンツやら靴下、飲み物やお菓子まで扱っているから、後で覗いてみるといい」
「でも、お金…」
「端末で決済して、給料から天引きって事になってる。まあ使いすぎると誰かに借りるとか情けないことになるから、使い方には気を付けるんだぞ」
「ようそろ」
「第五分隊は搭載艇の担当だ。飛行科って呼ばれてるが<メアリー・テラコッタ>に積んであるのは飛行機じゃねえ。二隻の艦載水雷艇と、一台の装甲車が積んである。装甲車の方は、単に『クルマ』って呼んでいる。水雷艇の方は赤い方が<オクタビウス・ワン>青い方が<オクタビウス・ツー>と名前がついている」
「おくたびうす?」
昔の偉人の名前のような気がしてフレッドは首を捻った。
「大昔の皇帝だそうな。歴史の授業で地球史を取っているとチラッと齧るらしいんだが…」
リーブスが自信無さそうに説明した。どうやら高校時代の成績はあまりよろしくなかったようだ。
「あ~、初代ローマ皇帝アウグストゥス」
ポンとフレッドは手を打った。地球史の授業で先生が雑談として、初代ローマ皇帝アウグストゥスは幼名がオクタビウスであったが、後に何度も改名したことを話してくれたことを思い出した。
「なんでそんな名前にしたんですか?」
「それはアリウムに…、飛行長に訊いてくれ。由来も何も名付けたのはアリウムなんだから。ただし…」
リーブスは人差し指を立てた。
「あいつは女と見ると、相手がババアだろうが赤ん坊だろうが粉をかけるから、要注意だ」
「は、はあ」
今までの明るい雰囲気から一転して真面目な顔をされてフレッドは気を呑まれた。
「そして最後に俺たち陸戦隊って事になる」
「第六分隊ってわけではないんですか?」
当然の質問にリーブスはニカッとまた歯を剥きだした。
「陸戦隊は特別なんだ。まず船でドンパチする時は、第一分隊の指揮下に入って、近接防御を担当する。まあ主砲よりは小さいがブラスターだよ」
バンバンと何かを抱えて撃つ仕草をしてみせた。
「白兵戦なんかが控えたら本業だ。この部屋に駆けつけて来て、あの装甲服を着る。カチコムこともありゃあ、向こうがカチコンで来ることもある。そんときゃ他の乗組員も一緒になって戦うが、みんな隊長の言う事を聞いて戦うんだ」
「ようそろ」
フレッドの目が、ダンゾーが壁に立てかけた太刀を見た。
「で、平和な時は何をしているかと言うと、警務…、船内で警察みたいなことをする」
「お巡りさん? 宇宙船って何でもあるんですね」
「まあ小さいが一個の世界だからな。だから何かが盗まれたとか、痴漢されたとか、上司のオッサンがセクハラするとか、愚痴があるならここに来れば聞いてやる。男の俺たちが嫌だったら、隊長もいるし、サド先生とか他の女海賊も協力してくれることになっている」
「お巡りさんとして、悪い奴を捕まえたらどうするんです」
頭にまだ「エアロック・ナンバー・フォー」が残っているフレッドが訊いた。
「いちおう罰金刑から始まって、自室での謹慎までちゃんと処罰がある。もちろん仲間を裏切って傷つけたり殺した奴には、それ相応の罰を受けてもらう」
グイッとガッツポーズをしてみせて軽い調子を装っていたが、眼が笑っていなかった。
「一番酷いと、やっぱり死刑なんですか?」
恐いもの見たさにといった感じでフレッドが訊いた。
「反乱を首謀して人殺しをした奴なんかは、海賊式絞首刑だな」
「海賊式絞首刑?」
訊き慣れない単語に首を捻ると、机からリーブスの仕事を見ていたレッドミルが教えてくれた。
「ロープで吊るして死刑にした奴を七回蘇生させて、八回目に吊るした後はマストにぶら下げっぱなしにするんだ」
「ひえ」
想像以上の刑罰にフレッドは首を竦めた。
「ちなみに海賊式銃殺刑というのもあってな…」
「も、もういいです」
思わず後退りをするフレッドに、今まで笑顔混じりだったリーブスが怖いぐらいの真面目な顔で言った。
「陸戦隊は船長に忠誠を誓っているんだ。まあ乗ってる誰もが忠誠を誓っちゃいるが、俺たちとは違う。俺たちは死んでも船長についていく覚悟で陸戦隊やってんだ。絶対なんだ」
「いきなり、どうしたんです」
あまりの変わりように背筋に寒い物すら感じてフレッドは訊き返した。
「もちろんキャプテン・コクーンはいいヤツだからそんなことはねえが、もし変な奴、悪い奴が船長になっても、俺たちは裏切れないんだ」
「は、はあ」
気を呑まれたフレッドが息を呑むように返事をすると、横からレッドミルが付け足した。
「船内で反乱が起きたとしても、鎮圧するのが俺たちの仕事なんだ。気に入らねえからって船長に立てつく奴は、陸戦隊の資格が無いのさ」
「それは…」
フレッドは部屋の隅で観察するように見ているダンゾーを振り返った。彼女も腕組みをして深く頷いていた。
レッドミルの言葉を受けてリーブスも深く頷きながら言った。
「だから時には他の部署から恨まれたりもする。嫌な仕事だが、誰かがやらなきゃならねえ。お前さんがウチに居る内に、そんなことにゃならんと思うが、覚悟はしておけ」
真っすぐ指差されてフレッドはタジタジになった。
「新入りが取り敢えず陸戦隊に預けられるのも、そういった覚悟を腹に据えさせるためだ。他の部署で船長の悪口をポロッと言っても怒られねえが、ここじゃ厳禁だからな」
「よ、ようそろ」
「宇宙は厳しい。なにせ板一枚向こうは空気も重力もねえ。放り出されたら三秒で死んじまう世界なんだ。だから船長をトップにしてみんなで苦労をひとつずつ乗り越えて行かなきゃならねえんだ。わかったな?」
最後の一節は年長者として優しさを含ませた響きを持っていた。
「一蓮托生って事ですね。わかりました」
「よし、それでいい」
リーブスは再びニカッと歯を剥き出しにして笑うと親指を立てた。
「あの、やっぱり…」
自信たっぷりな彼にフレッドは訊いてみたくなった。
「それって男が男に惚れるって奴なんですか?」
フレッドの脳裏に船長公室で忍び笑いのように笑っていたコクーンの面差しが蘇った。
「おれのケツはおれのもんだ!」
いきなり叫び声のような声を上げてリーブスは両手で戦闘服に包まれた自分の尻へ手を当てた。
「は?」
キョトンとしたフレッドに気まずそうにリーブスは言った。
「冗談だよ。まあ、この船は恋愛自由だが、船内でお互い合意していてもエロい事はご法度な。もし誰かと仲良くなったら、そういう事は港に居る間に上陸してやってくれ」
「よ、ようそろ」
ビクビクと頷くフレッドに、本当に分かっているのかなという疑惑の目を向けるリーブス。その視線に耐えられなかったのか、彼女はダンゾーを振り返った。
「あの~、やっぱり隊長さんも船長さんに忠誠を誓っているんですよね?」
「船長に隊長と呼べ」
短くダンゾーが言って訂正させた。
「決まっているじゃないか」
リーブスが、またニカッと笑って言った。
「なにせ隊長は、船長の…」
その時、室内に電子音が響いた。全員の視線が、音の出どころである机の上へと集まった。机の上には内線電話が置いてあった。
「はい、こちら警務室」
当直から非番に代わったはずのレッドミルが受話器を取った。電話機本体上空に表示されるはずの相手の立体映像は出ずに、平面的なスクリーンだけが現れて「SOUND ONLY」の文字だけが表示されていた。
「はい、コッチにいますよ。あ~、そうですか、わかりました。それでは向かわせます」
短い会話で内線電話は切れたようだ。
「レディ・ユミルからです。フレッドを仮採用するための書類があるから、連れて来いと」
「そうだな。他にも支給品があるはずだしな」
リーブスはダンゾーに顔を向けて言った。
「隊長。隊長が預かってんですから、そんな他人の振りなんてしないで下さいよ」
リーブスに言われてダンゾーはとても面倒臭そうに応じた。
「やっぱり行かないとダメか?」
「ダメです」
クワッと目を剥いて睨みつけるリーブス。もちろんスキンヘッドの大男にそんな顔をされたらフレッドだったら腰が抜けるかもしれないが、ダンゾーは泰然と立ち上がった。
「じゃあ、行くか」
立ち上がるまでは遅かったが、キビキビと動き出しガンベルトを巻いて太刀を佩くとフレッドに振り返った。
「じゃあ済まないがレッドミル…」
「ええ、代わりに当直に就いておきますよ」
どうやらダンゾーだけだと、ちゃんと新入りの面倒を見ないだろうというのが二人の共通認識の様だ。
「ま、こうやって臨機応変に当直を代わるのも必要な事だ。覚えておけよ」
「ようそろ」
解説の続き
A、B、R、S:フレッドも思っているがなんでなんだろ。アメリカ陸軍機甲部隊の編制がA、Bときて三つ目がリザーブのRだからか。Sはその次だからかな
通常直は…二時間ごとに…交代:現行の護衛艦とは変えたところ。二時間ごとなのは、じつは乗組員を慢性的な寝不足にして性欲を抑えさせるためだったりする。男所帯に女子高生が入り込んで無事とは思えなかったもので
ようそろ:本体の意味は「舵をまっすぐに」だったらしい。いつの間にか「了解」の意味も持つようになったようだ
戦闘配置:和美が某図書館で知り合った艦長さんは「戦闘配置」をかけて「その場で休め」で、航海中は乗組員を配置に就けたままだったと教えてくれた。「そうじゃないと実戦で役に立たないんだもの」と言われたけど、その艦の乗組員は大変だったろうな
分隊:こっちは護衛艦に近い分け方にしてみました
怠け者:これは英国海軍の呼称を真似てみました
二隻の艦載水雷艇と、一台の装甲車が積んである:もちろんクラシャージョウの影響である(笑)
海賊式絞首刑と海賊式銃殺刑:これはモーレツ宇宙海賊ではなく同じ笹本先生の「ARIEL」から拝借いたしました
「おれのケツはおれのもんだ!」:多様化した世界という設定だから、そういう趣味の男もいるよというフリ。いちおうリーブスは異性愛者のつもりだ




