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宇宙海賊やろう!  作者: 池田 和美
10/51

宇宙海賊やろう! じゅう

 てなことで見習いのさらに見習いの宇宙海賊としてフレッドの修業が始まります



 船長公室からフレッドは通路を進み、居住区の後ろの方へと連れて来られた。通路では仕事の途中らしい海賊どもとすれ違うたびに挨拶された。

「おはよ!」

「おはようございます」

「はよ~ん」

「見える! 見えるぞよ。キミの後ろによからぬモノが。これは誓約の腕輪。これを購入すれば…」

「若いもんを変な道に勧誘するな」

「おはよう」

「おーっす」

 みんな二十代と思しき世代の者ばかりである。着ている服もバラバラで、簡易宇宙服の者が居れば、司祭平服(キャソック)や野球のユニフォーム姿の者もいるという具合だ。

 そんな色とりどりの連中とすれ違って、三人は居住区の一番奥までやってきた。

 そこには制帽を象ったピクトグラムの看板を掲げている部屋があった。右の開けっ放しの扉からは自由に出入りすることができ、扉に並んで設けられたカウンターには透明なプラスチックで窓があり、室内は覗き放題だ。

 ダンゾーとリーブスの案内で、フレッドはその部屋へ招き入れられた。

 六畳ほどの室内には事務机が置いてあり、手前と奥に椅子が置いてあった。突き当りの壁には奥の部屋へ行くための扉と、二十四時間表記の時計がある。

 座れる物はもう一つだけあって、扉から見て一番奥に当たる角に、座り心地が良さそうな一人用ソファが置いてあった。反対の隅には金属製のキャビネットが置いてあった。

 出入口すぐに受付のように置かれた事務机に、リーブスとは「黒ベレーにスキンヘッド」がお揃いの男が、暇そうな顔をして席についていた。上半身は筋肉を見せつけるようにタンクトップであり、下はツナギの戦闘服を履いて上半身分を丸めて腰のところで結んでいるようだ。

「あ、(あね)さんにリーブス。おはよっす」

 軽い挨拶の後に視線がフレッドに向いた。

「そのコは?」

「…」

 ダンゾーは黙ったまま左腰の佩緒をガンベルトから抜くと、外した太刀を鞘ごと部屋の一番奥に当たる角へ寄りかけた。腰から外したガンベルトで輪を作ると、その横に置いてあるソファの背にかけた。

「…」

 当然のようにダンゾーがソファに座るのを見ていた三人。リーブスはたまらず溜息をついた。

「隊長ぉ。このコは隊長預かりなんですから、面倒見は隊長がお願いしますよぉ」

「…」

 しばし意外そうな顔でフレッドを見ていたダンゾーは、リーブスの訴えに「うむ」と頷いた。だが、もう動く気は無いようだ。

「まあ、こうなるんじゃないかと思ってましたがね」

 もう一度リーブスが溜息をつくと、身長差からフレッドを見おろした。

「よし。当たり前の話しだが、誰かが教えてやらんといかんしな。これからこの俺が…、リーブスが先生役だ」

「は、はい」

 フレッドは恐縮したように答えた。なにせ彼女は痩せっぽちのハーフエルフである。筋肉の塊のような大男を話し相手にするだけで気後れしてしまう。さらに付け加えると、リーブスの声は大きいのだ。

「まず最初の一歩だ。こいつに挨拶をしてみろ」

 事務机を回り込んだリーブスは、席についていた男の肩を叩いた。

「え、えっと。こんにちは」

 途端に二人の男に笑われた。

「?」

「宇宙船にはな、昼も夜もねえんだ」

 意味が分からずキョトンとしているフレッドに、リーブスは例のニカッと歯を剝いたような笑顔を向けた。

「だから挨拶は一つだけ。『おはよう』だけなんだ。朝早くからって意味じゃなくて、当直に就くのに対して早いですねって意味だ」

 リーブスの分かりやすい説明にフレッドは「ああ」と声が出てしまった。そういえば通路ですれ違った海賊どもは揃って「おはよう」またはそれに近い言葉で挨拶をしていた。

「おはようございます」

「よし、そのとおりだ」

 リーブスが笑顔の質を変えた。

「本日からお世話になりますアルフレッドと申します。以後お見知りおきを」

「か~」

 続けてフレッドが口にした挨拶に、リーブスは素っ頓狂な声を上げた。

「海賊がそんな丁寧でどうするよ。もっと砕けた感じで」

「砕けた感じ?」

 フレッドはちょっと天井を見て考えると、再び口を開いた。

「新人のアルフレッドです。フレッドって呼んでください」

「お、いい感じだ」

 親指を立ててリーブスが褒めてくれた。

「よろしくフレッド」

 彼女の挨拶にタンクトップの男がこたえてくれた。

「俺はレッドミル。陸戦隊所属な。よろしく」

 レッドミルと名乗った男も親指を立てた。筋肉ムキムキで剃った頭を天井の照明に光らせた男二人が揃って親指を立てているのは、ちょっと圧力を感じる絵面だった。

「よし。その調子で他のヤツにも挨拶するんだぞ」

 レッドミルの肩から手を離したリーブスは、フレッドの前に戻って来た。

「それじゃあ、これから色々と質問するが、答えたくなかったらちゃんと『嫌だ』とか『NO』とか言うんだぞ。黙りこくるのは無しだ」

「はい」

 つい上目遣いになりそうになるのに気を付けながらフレッドは頷いた。ちなみにリーブスが含み笑いでダンゾーの方へ視線をチラリとやった事は、正面に居たフレッドだけとの内緒であろう。

「まず、フレッドは学校へは行ってたか?」

「高校三年生です。いえ、でした?」

「お~、じゃあ読み書き算盤の基本はできるっちゅうことだな」

 けっこうとばかりに頷くリーブスに、フレッドは顔を曇らせて質問した。

「やっぱり学歴がないと海賊船ではやっていけないのでしょうか?」

 フレッドの言葉を聞いてリーブスはたまらず吹き出した。

「でえじょうぶだ。俺も高卒だし。なんだったら隊長なんか中学中退だったんだぜ」

「中学中退?」

 星間国家グンマでは、地球の日本と同じ制度で、六年間の小学校の後に三年間の中学校がある。そしてその九年間は義務教育であった。

 おそらく日系宇宙人であるダンゾーも同じような教育制度であったろう。その義務教育期間である中学校を中退とはどういうことだろうと、彼女の方へ視線をうつした。

「…」

 ダンゾーは機嫌を悪くしたように黙っていた。

「ま、いまでは通信で資格を取って、大学の法学部卒ということになっているけどな」

「大学の法学部?」

 今度は逆の意味で興味が湧いて彼女を見てしまった。ダンゾーは忌々しそうに舌打ちをした。

「私の学歴は関係ないだろ」

 珍しく言葉を発するぐらい気に入らなかったようだ。

「よし、次の質問だ」

 触らぬ神に祟りなしとリーブスは話題を変えた。

「体力の方に自信は…」

 言いかけてリーブスはフレッドの体を上から下まで遠慮なしに眺めた。

「痩せっぽちだなあ、おまえ」

「はあ」

 フレッドも自分の体を見おろした。身長体重どころか、プロポーションのラインに至るまで、ダンゾーとは大違いの体である。ダンゾーを擬音で表現するとボン・キュ・ボンだが、フレッドはストーン・ストーン・ストーンという感じだ。つまり、どちらかというと男の子のそれに近い体型であった。

「体育の授業は出ていたのか?」

「はい。いちおう体育の授業にはついていけてました。それに早朝の牛乳配達のバイトもやっていますし。あ、やってましたし」

「まあ人並みに動ければ合格だ」

「あの~」

 小さく手を挙げて質問があることを示すと、リーブスはまたあのニカッとした笑顔をつくった。

「なんだい?」

「やっぱり宇宙では体力は大事なんでしょうか?」

「なんでもそうさ」

 優しい声で質問に答えてくれた。

「重い物を持てないよりも持てる方が有利だろう。それに仕事が立て込んで何日も徹夜する破目になったり、何時間も高い遠心力に耐えなきゃいけなかったり。体力ったって様々だ。だがな…」

 もったいぶるように言葉を切ったリーブスは、歴戦の勇者らしい貫禄のある微笑みを浮かべた。

 グイッと力瘤を作って見せた。

「一番なのは体力でも…」

 力瘤の次は自分のコメカミを指差した。

「学歴…、頭の良さでもねえ」

「なんなんです?」

 つい引き込まれて訊ねると、待ってましたとばかりにリーブスが親指を立てて言った。

「運の良さよ」

「運?」

 意外な答えにフレッドはキョトンとしてしまった。

「運が良ければどんな逆境だって生き残って、経験値をためる事ができる。人が貯めた経験に勝る知恵はねえ。腕力が足りない? 眠いのがつらい? だったらロボットにやらせりゃいいんだよ。計算が遅い? 言葉を知らない? だったらコンピュータにやらせればいい。だが、そいつが持つ経験値だけは、何物にも代えられねえんだ」

 フレッドはリーブスの垂れる言葉を半ば感動して聞いていた。

「それに…」

 ダンゾーがソファの上で口を開いた。

「それに運が良ければ、いい部下に巡り合うこともできる」

「お!」

 花丸が散っているような声をリーブスが出した。ダンゾーに振り返ると親指を立てた。

「さすが隊長。いいことを言うねえ」

「そして運が悪いと、しょーもない部下の面倒を見る事になる」

 言いたいことは山ほどあるぞと、ダンゾーは目を細めてリーブスを睨んだ。

「おっといけねえ。火の粉が降って来やがった」

 コミカルに首を竦めるものだから、ついフレッドは引き込まれて、レッドミルと一緒に笑ってしまった。

 笑いがひとしきり収まると、リーブスは部屋の出入り口にある扉の所へフレッドを連れて行った。

「よし、これから教える事は、宇宙船の基本中の基本だ。どこの配属になっても役に立つし、一ヶ月で解雇(クビ)になっても、覚えておいて損はねえことだ」

「はい」

 フレッドが頷いたのを確認したリーブスは、扉を指差した。

「じゃあまず、その扉を閉めてみろ」

「閉めるんですね」

 他の場所にある扉と同じく、その部屋の扉は床から少し上に設置された楕円形をした扉であった。

 不意に閉まらないようにか、輪にしたロープをレバーに引っ掛けてあり、反対側は部屋を上下に貫通している配管に結び付けてあった。

 これならば少し開く方に動かせば、簡単にレバーからロープの輪が外せて、閉める事ができるようになる。実際にロープのかけ方を見て取ったフレッドは、レバーからロープの輪を外すと、扉を閉める事が出来た。

 斜め下を向いていたレバーをガチャンと水平に上げれば内蔵されていた爪と枠が噛み合って固定された。

「このタイプの気密扉は、船内至る所に設置されている。閉めておけば、向こうが宇宙空間だろうが、こちら側から空気や水分、人工重力が漏れる事はない。また反対に、向こうの空気や水分、人工重力が漏れてくる事も無い。有害な宇宙線や放射線もカットしてくれる。もし船体に穴が開いたら、周辺の扉を閉めれば、他の所へは被害は広がらない。ここまで分かったか?」

「はい」

「よし、いいぞフレッド」

 グイッと親指を上げたリーブスは、扉の上から三分の一あたりに表示されている白い菱形を指差した。

「これは、なんて書いてあるか分かるか?」

 白い菱形の中には黒い一本棒が書いてあった。

「アルファベットの(アイ)ですか?」

「惜しい。これはローマ数字の(いち)だ。他に四まで各扉には書いてある」

「一番から四番ってことですか?」

「そうだ」

 リーブスは大きく頷いてみせた。

「これは『扉の向こうのカテゴリー』って奴を示している」

「かてごりー?」

 初めて聞く言葉にフレッドは首を捻った。

「カテゴリーは一から四まであって、それぞれ保たれるべき環境ってやつを示している。ええと…」

 ポリポリと頭を掻いたリーブスはフレッドに訊ねた。

「宇宙戦艦が出て来るような映画は見た事あるか?」

「映画はありませんけど、『宇宙戦艦ノシャブケミング』なら」

 なんでそんな事を訊かれたのか分からず、フレッドはキョトンとしてしまった。

「こりゃまた古いタイトルを知ってんなあ。俺がガキの頃にやってたコメディじゃねえか」

「まあキテレツ大■科と同じで、再放送ばっかりやってますもんね。俺も見てましたよ」

 レッドミルまで知っているようだ。フレッドがそのSFコメディを知っていたのは、端末の動画アプリで無料配信されていたからなのだが。

「よし、あん中でバスカーク艦長が『戦闘配置』とか言ってたろ、あれに関係するんだ。<メアリー・テラコッタ>じゃ厳しい順に、戦闘配置、警戒配置、通常配置の三つがある。三つ、言ってみろ」

「はい。戦闘配置、警戒配置、通常配置」

「よし、その通りだ。基本、ウチの船は通常配置の間は、服装は自由だ。そうだったろ?」

 リーブスが顔の表情筋だけで扉の向こうの通路を示した。たしかに軍艦ならば乗組員は軍服で揃えているだろうし、客船ならば揃いの制服を着ているだろう。だが、この部屋に来るまでにすれ違った海賊どもの服装はみんなバラバラであった。

「あ、そうだ。女の子はスカートを選ばない方がいいぞ」

「なんでです?」

「無重力になったら、めくれちゃうからな。そんな色っぽい事をしておいて、誰かに襲われたとしても、俺は責任取れないからな」

 責任切ったとばかりにリーブスは人差し指同士でバツ印を作った。

「やっぱり、そういうところは気を付けた方がいいんですか?」

 当然の質問に明るい表情でリーブスは答えた。

「ま、いちおう破落戸の集まりだしな。だが安心しろ。今まで船内でそういう事件を起こした奴で、いま残っているのは一人ぐらいしかいねえ」

「一人いるんですか」

 そこは誰も残っていないと答えて欲しかった。

「まあ、男の注目を集めるのもある程度、女の(さが)なのかもしれねえが、予防だけはしてくれって話だ」

「でも…」

 フレッドは頬に人差し指を当ててちょっと考えた。

「先ほどのエルフの方は、スカートだったような」

「まあ船務長は特別だからな。いちおう言っておくと、船内をスカートでいっつもうろついてんのは、船務長を入れて三人だ」

「わかりました」

 どうせ好きな格好をしても良いと言われても、自分が持っている服は、今着ているこの一揃えしかない。後は孤児院の部屋に置いてきてしまった。

「さて、通常配置はそうとして、他の警戒配置、戦闘配置が命令されたら、そうはいかない。カテゴリーⅠの場所では、簡易宇宙服を身に着けて、ヘルメットと手袋はすぐにつけられる位置に置いておかなきゃならん」

 リーブスは部屋に置いてあるキャビネットを指差した。そこに一人分のヘルメットが置いてある。上下逆に置かれたヘルメットに詰めるようにして手袋が入れてあった。

「宇宙服を着て、ヘルメットと手袋は近くに」

「宇宙服じゃねえ、簡易宇宙服だ。まあ、これから教えるから順番にな」

「簡易宇宙服に、ヘルメットと手袋用意」

「そうだ」

 言いなおしたフレッドにリーブスは大きく頷いた。

「これがカテゴリーⅡになると、ヘルメットと手袋は着用しなきゃならない。つまりカテゴリーⅠからⅡの区域へ移動するなら、ヘルメットを被り、手袋を装着しなきゃいけねえんだ」

「簡易宇宙服で宇宙(そと)に出られるようにするってことですか?」

「そうだ」

 またリーブスは大きく頷いた。

「そしてカテゴリーⅢともなると、簡易宇宙服じゃいけねえ。ちゃんとした宇宙服…。簡易宇宙服に対して標準宇宙服って言ったりするが、普通は宇宙服ってだけ言うな。その宇宙服をちゃんと着てないといけねえ」

「数字が増えるごとに宇宙に近づくんですね?」

「そうだ。頭の回転は速そうだな、いいことだ。で、カテゴリーⅣは、もろ宇宙空間に曝露(ばくろ)する場所だ。警戒配置以上の時にそんなところへ出るってことは、もう宇宙服でも危ねえ。だから装甲宇宙服を着るんだ」

 ついっと指だけで手招きをされて、奥の扉へ案内された。

「俺たちはタコ部屋って呼んでいる」

 そこを開けると、モワッと臭いの籠った空気が漂い始めた。

 わざとらしく鼻を摘まんだフレッドが奥の部屋を覗くと、六畳ほどの空間があり左右の壁には、まるでロボットのようなごつい見た目の人型をした物が壁の金具で固定されていた。

 突き当りの壁にだけ、そのロボットのような物は無かったが、代わりにヒートライフルと思しき銃器が綺麗に並べて立てかけてあった。

 部屋の真ん中に万年床が敷かれていたのは、見ないふりをした。

「パワード・スーツではないんですか?」

 ドラマから仕入れていた知識で確認する。ただの装甲服とパワード・スーツと、見た目は同じだが、性能は段違いである。パワード・スーツの方には倍力装置が組み込まれており、それこそ戦闘用ロボットのように戦車とだって渡り合えるのだ。コメディドラマの中では装着した海兵隊員の関節が逆に曲がって悲鳴を上げていた。

「あんなバカ高価(たか)い物が、ウチの陸戦隊に配備されるわけないだろ」

 リーブスが何を分かり切ったことをといった感じの声を上げた。

「銀河連合宇宙軍とか、金回りの良いテキサス・スペース・レンジャーには、ワープ・ブースターとドッキングできる奴もあるそうですよ」

 レッドミルの言葉にリーブスが呆れた声を上げた。

「ただの歩兵一人にワープ・ブースター一本? どんだけ金がかかるんだよ」

 もちろん言外に、歩兵が一人だけで戦地へ派遣されることは無いと知っていることを含ませていた。連合宇宙軍の特殊部隊である<バーミリオン・ナイツ>でさえ一個小隊は一二人だ。パワード・スーツ一二体に、ワープ・ブースター一二本を準備するだけで、下手をすると<メアリー・テラコッタ>と同じイサリオン級軽巡洋艦が一隻買えてしまうかもしれない。

 リーブスは男臭い部屋の扉を閉めると、また説明するためにフレッドに閉めさせた扉の前に戻った。

「一つ質問があるんですが」

 フレッドは小さく手を挙げた。

「おう、なんだい?」

「自分が今居る部屋のカテゴリーを知るにはどうすればいいんですか?」

「それを今言おうとしてたところだ」

 ニッと笑うとリーブスは扉の上の方を差した。扉ではなく枠の方に小さな白い菱形が書いてあった。

「自分のいる区画のカテゴリーを知りたかったら、あそこを見るんだ」

 そこにも白い中に黒い棒が一本書いてあった。

「とすると、この部屋もカテゴリーⅠなんですね?」

「そうだ、正解」

 リーブスは親指を立てた後に、扉を指差した。

「アルファベットは習っているな?」

「はい」

「じゃあ、これはなんと書いてある?」

 白い菱形の下に、同じ大きさで白い正方形が書いてあった。正方形の中にはWの文字が黒く書かれていた。

「Wでいいんですか?」

 さすがに小学校の問題である。フレッドの答えに満足そうに頷いたリーブスは説明してくれた。

「これは船内閉鎖標識って言うんだ。Wから始まって、X、Y、Zと四種類ある」

「四種類」

 早くも頭の中でカテゴリーの四つと混ざりそうで不安そうな声が出た。

「これも警戒配置が関係する。Wは警戒配置が出ようが出まいが開けておく扉に書いてある」

「開けておいていいんですか?」

「もちろん、どこかに穴が開いて空気が漏れ出した時なんかは閉めるのは当たり前だが、警戒配置で全部閉めちまうと、そらあ防御力は最大になるが乗組員が暮らしにくくっていけねえ。うっかり便所にも行けねえってのは、まさしく不便だろ? だから段階をつけて、これは開けておく扉、これはすぐに閉める扉って取り決めがあるんだ」

「Wは開けておく扉」

 自分に言い聞かせるように噛んで含めるように呟いたフレッドに、リーブスはニカッと笑ってみせた。

「その調子だフレッド。で、Wから始まってX、Y、Zと続くんだが、一番厳しいのはXなんだ」

「えっと、順番ではないんですね」

 ちょっと戸惑うフレッドを安心させるようにリーブスは言った。

「まあX(エックス)じゃなくて、X(ペケ)って覚えてもいいぞ。ともかくX(ばつ)印は、警戒配置じゃなくても、いっつも閉めておく扉に書いてある。開けるには、その扉の責任者の許可が必要だ」

「Xは開けるな」

「そうだ。それでYは、普段は開けておき、警戒配置以上が出た時には閉める扉だ。もちろん各扉には担当者が居て、閉め忘れるとこっぴどく怒られるってわけだ」

「Yは警戒配置以上で閉める」

 XとYとの違いを咀嚼するように呟いた。

「んでZは戦闘配置の時に閉める扉だ。それまでは不便なんで開放しておくこと」

「Xは開けるな、Yは警戒配置、Zは戦闘配置で閉める。Wは何かあるまで開けっ放し」

「そうそう正解だ。ただ…」

 リーブスは扉に歩み寄ると、白い正方形の中に書かれたWを囲むように指をなぞらせた。

「こういう風にアルファベットが円に囲まれている扉もある。それは特別な場合に開け閉めをするっていうマークだ」

「円?」

「丸でもいいぞ。丸にWとか丸にX、丸にY、丸にZとある。これはそれぞれ丸印がないアルファベットと基本同じ意味だ。丸にWは、こっちの船内に白兵戦(カチコミ)された時に、毒ガスなんかを警戒して閉める扉だ。そん時は『NBC防御』っていう命令が出る。丸にXは開けない扉だが、警報器が鳴った時、戦闘配置につく時、戦闘中に弾薬を運ぶ時、室内に重要機器があってその操作が必要な時には、誰の許可も得ずに通っていい。ただし基本は閉めておく扉だから、通ったらすぐに閉める」

 四つの条件を指折り教えてくれたリーブスに頷き返すと、フレッドも指を折って繰り返した。

「警報器、戦闘配置、弾薬を運ぶ時、重要機器」

「そうだ、そのとおり」

 リーブスは頷いて親指を上げると説明を続けた。

「丸にYも丸にXと同じだ。警戒配置までは開けておくが、警戒配置が出たら…」

「警報器が鳴った時、戦闘配置で通る時、弾薬を運ぶ時、重要機器の操作」

「そう、その四つの時には通っていいんだ」

 四つの条件をフレッドに言わせたリーブスは、見事正解した彼女に満足そうだ。

「丸にZも同じく戦闘配置で閉めて、四つの条件で通れるんですか?」

「違う」

 残念だねえと眉毛の先が下がった。

「丸にZは、便所に行く時と、メシを運ぶ時しか開けちゃいけねえんだ。戦闘配置が三日も四日も続いたら、みんな敵に撃たれる前に腹減ってブッ倒れちまうだろ。だからその二つの時だけ通っていいんだ」

「三日も四日も? ええと…。その間、お風呂は?」

「ダメに決まってんだろうが。風呂どころか寝るのもなし! さもないと寝首をかかれるからな」

 そんなことになったら大変な事になりそうだと考えているのが顔に浮かんでいた。それに対してリーブスが、またニカッと笑った。

「安心しろ。そんなことは滅多にない。船長だってアホじゃないから、何時間も戦闘態勢を維持できないことぐらい知っている。もし長時間睨みあって乗組員が倒れそうな時は…」

 ニヤリと笑った顔をフレッドに近づけるリーブス。

「んな時は逃げ出すに決まってる。俺たちは宇宙軍でも警察でもない。宇宙海賊なんだぜ。逃げるのなんかチィとも恥ずかしいことじゃない」

「ああ、なるほど」

 ついポンと手を打ってしまった。

「あと表示にはD(デー)の中にZってのもあるが、滅多に見かけねえ。これは灯火管制の時だけ閉めるっていう意味だ。敵から隠れる時に、のんびりと灯りを点けっぱなしにしておくアホはいないだろ?」

「灯火管制」

 初めて聞く言葉に、ちょっと戸惑った反応が出た。

「他にも電波管制、重力管制ってのもある。みんな敵から隠れる時に必要な処置だ。電波管制になったら、船内で端末の使用は禁止だ。重力管制はカテゴリーⅠの所は重力が〇、二G、他の所は無重力になる。慣性制御装置で人工重力を発生させていると、敵の重力波センサーに見つかるからな」

「不便そうですね」

「そらあな。でも見つからないってのは一番だ。こちとらブラスターだろうがミサイルだろうが何発も喰らっても大丈夫な宇宙戦艦さまじゃねえんだ。それに壊したら修理代の高さにレディ・ユミルの機嫌が悪くなるだろうしな」

「はあ」

 知らない人名を出されても反応に困るといった感じで、フレッドは生返事をした。

「よし。覚えたかな? カテゴリーと閉鎖標識は? あとで覚えているか訊くからな、答えられなかったら、バツゲームだ」

「は、はい」

 最初の頃に教えられたカテゴリーの事に自信が無くなっていたフレッドは、少し焦った声を上げた。




「『おはよう』だけなんだ」:普通の職業ではあまり無い習慣ではあるが、現代日本でも二十四時間警備なんかの場所ではこうなっている

大学の法学部卒:警務隊として法律の勉強が必要だったのだろう

ボッ・キュ・ボン:もしかして死語?

「一番なのは…運の良さ…」:ミニスカ宇宙海賊でなく、同じ笹本先生の「星のダンスを見においで」から拝借いたしました

「気密扉を閉めておけば…」:警務室のカウンターは同じ性能を持ったシャッターが下りるようになっていると設定した

カテゴリー:宇宙船に人員を配属する時に、全員がずっと宇宙服を着ているのも不便だよなと考えた設定

宇宙戦艦ノシャブケミング:ノシャブケミングの名前はレンズマンに出て来る神さまの名前

キテレツ大■科:レッドミルはもしかしたら惑星<ハママツ>の出身なのかもしれない

バスカーク艦長:これもレンズマンに登場するノシャブケミングを信仰しているバレリア人

「一人ぐらい…」:誰と言わないのが花。後ほど判明する

スカート…三人ぐらい:船務長ロウリーと、<彼女>それと登場しなかった三人目である

カテゴリーⅠ:電子機器の操作など細かな作業をする部署。なので手袋やヘルメットが邪魔になるので着用の義務を外されている

カテゴリーⅡ:船内のほとんどが該当するカテゴリー。これで不意に外壁に穴が開いても生命は守られる

カテゴリーⅢ:ブリッジ以外の窓がある部署。より敵に壊されやすい場所のつもり。ブリッジは繊細な作業が必要な機器があるだろうからカテゴリーⅠである

カテゴリーⅣ:説明通り船外である

テキサス・スペース・レンジャー:日系は県ごとの植民だがアメリカ系は州ごとに植民したのかもしれない

船内閉鎖標識:たぶん現行の護衛艦と同じなはず。違ったら和美の記憶力のせい。あとスペースオペラのくせに手動の扉ばっかり出てくるのも、現在の艦船を参考にしたから



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