漫才「じゃんけんのルールに納得できない」
ボケ→『』
ツッコミ→「」
でカギカッコを分けています。
「はいどうもー」
『突然だけど、じゃんけんって知ってる?』
「そりゃ知ってるよ。グーチョキパーのやつでしょ?」
『うん。あれなんだけどさ、今すぐルールを変えたほうが良いと思うんだよね』
「はい?」
『絶対変えた方が良いよ。歯ブラシは生まれて一度も替えてない俺でさえ、じゃんけんは変えたほうが良いって思うもん』
「歯ブラシを替えてないのがキモすぎで会話が入って来ないよ」
『じゃんけんを変えた方が良い理由は二つ。一つはじゃんけんがトレパクだから』
「はぁ?トレパクって他人の絵を無断でパクるやつでしょ? 今関係なくない?」
『じゃあ考えてみて。英語でじゃんけんはロックシザーズペーパーって言うよね』
「うん。グーチョキパーは石ハサミ紙が元ネタだからね」
『今元ネタって言ったね。よし、それではここで日本のじゃんけんを見てみましょう』
「どの立場で何を喋ってるの?」
『英語のじゃんけんはロックシザーズペーパーって、形の元ネタをちゃんと明言することでリスペクトを表してるよね。でも日本はグーチョキパーって、元ネタが特定されないよう別の名前をわざわざ付けて言ってるんだよ。こんなのトレパク以外の、なんなんだー!』
「情緒が怖いよ〜」
『あー!! しね!!!』
「シンプルに暴言を叫ばないで」
『でもパクリだって指摘すると、オマージュって言うんだよなあいつら』
「マジで、一人で何と戦ってるんですか?」
『次に二つ目の理由だけど、じゃんけんの三すくみの関係が実はそれほどさんすくんでない所が気に入らないんだよね』
「さんすくむって動詞初めて聞いたよ」
『石はハサミに勝てる、ハサミは紙に勝てるは理解できる。でも石は紙に包まれるから負けって。はぁ?』
「はぁ? じゃなくて」
『包まれたら負けってなんですか? じゃあ母親の愛に包まれた赤ちゃんは負けてんの? って話になるよね』
「ならないと思う」
『パーの愛に包まれたグーが敗者のレッテルを貼られ、愛に満ちたパーがチョキみてーな、陽キャのムカつくピースポーズに凌辱される。そんなルールのジャンケンを認めることは、出来ないんだよねー!』
「凌辱って言葉使わないで欲しいし、あとチョキに対する認識歪んでるよ」
『俺はおぎゃあおぎゃあと言って生まれた時からずっとじゃんけんに納得してなかったし、そして今後もぐぎゃあぐぎゃあと言って死ぬまで絶対に納得しないからな!』
「死に際苦しそうだけど大丈夫?」
『なので今日はグーチョキパーが本当に三すくめるじゃんけんを考えて、石ハサミ紙の現行の三すくみ体制をぶっ壊したいと思います』
「大層な言い方するなあ」
『そしてそれこそが、殺伐とした現代日本を救える唯一の!唯一の方法です。あー!この国を変えたい!』
「狂った政党ですか?」
『でも新しい三すくみを考えるのって難しいんだよね。世の中に三すくみの関係が無数にあるから選べないんだよ』
「えーそんなにあります?」
『いっぱいあるよ。例えば司法・立法・行政とか』
「それは三権分立だよ」
『そこで一旦考えやすくするため、チョキだけはハサミのまま変えません』
「なんでチョキだけ残すの」
『チョキで勝ったら超ハッピーだから変えたくない』
「いや根拠がジャポニカじゃんけん」
『ということで、グーっぽい物を石以外で考えよう』
「ハサミに勝てるけど、パーには負けるから強すぎるとダメなんだよね」
『ハサミで切れないけど強くないもの。だったら『ぬるぬるの球体』とかどうよ?』
「どうよってなんですか」
『だからぬるぬるの球体だよ。ハサミでは切れないから球体の勝ちってこと』
「説明されても納得感がない」
『ぬるぬるの球体をジャンケンで出す時は手から粘液を分泌すればOK』
「粘液を出せねぇですね〜」
『待って!そうしたら必然的に、パーをタオルにすれば良いじゃん!』
「こんなに必然性を感じない必然は初めて聞いたな〜」
『説明するわ。まずぬるぬるの球体はハサミで切れないから球体の勝ち。ぬるぬるの球体はタオルで拭き取られて無力化されるからタオルの勝ち。タオルはもちろん、ハサミに負けるー!』
「凄いテンションで全く意味不明なことを叫んでますよ」
『出来た!新しいじゃんけん』
「ダメだよ。ぬるぬるの球体の異常性が無視できないよ」
『そして新しいじゃんけんは元ネタをリスペクトするから、最初はグー!じゃなくて、最初はぬるぬる!って言ってじゃんけんを始めるわけよ』
「凄くキモい何かが始まりそうな合図だ」
『いやーマジで大満足だわ。今日は僕たちの顔と名前は覚えなくていいので、ぬるぬるの球体だけでも覚えて帰って下さい』
「やだよそんなの」
『そしてどうか、台所のぬるぬる汚れを見るたび、私たちのことを思い出してください!』
「汚れで連想されたくないな」
『あと、出来れば今日聞いたことを、家族や友達に話して広めてください!』
「そんなこと話してどうなるんだよ」
『頭がパーだと思われまぁす』
「いやダメじゃねーか。もういいよ」