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【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜  作者: O.T.I
レティシア15歳 時代の変革者たち

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土下座の人


 また、とある日のモーリス商会にて。

 秘書のエリーシャがレティシアに来客を告げる。



「会長、ランドール様がいらっしゃいました」


「ランドールさん?なんだろ。工事関係かな……?応接室?」


「はい、応接室にお通ししました」


 ランドール商会は、鉄道開発事業に出資する商会の一つだ。

 主に土木工事関係を取り仕切っている。



「分かった、すぐ行くよ」


 そう言って彼女は書類もそのままに執務室を出ていった。


 部屋に残ったエリーシャは、テキパキと書類を分かりやすいように分類して整理し始める。







 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「申し訳ありませんでしたぁーーーっっ!!」



 応接室の扉を開けたとたん、見事な土下座をして謝罪するランドール商会会長がレティシアを迎えた。




「あ、ランドールさん、こんにちは。今日も見事な土下座ですね〜」


 異様な光景にも関わらず、レティシアはにこやかに挨拶する。

 ……どうやらそれは、いつもの光景らしい。



 ランドールがレティシアを怒らせたのは、最初の一度きりなのだが……

 その見事な土下座によってピンチを乗り切った経緯から、何かネガティブな話をする時は土下座から入るのが、彼の習慣と化していた。

 最初は止めていたレティシアも、すっかり慣れたものだ。



「それで、今日はどうしたんです?」


「は、はい……それが……」


 顔を上げたランドールは、申し訳なさそうに訪問の理由を話し始める。




「実は工事が予定よりも大幅に遅れている区間がありまして……」


「そうなんですか?前回の会議では、順調だって聞いてましたけど……」


「すみませんすみません!」


 再び土下座をしかねない勢いで謝るランドールをなだめながら、レティシアは遅れの原因を聞き出そうとする。




「実は、前回の報告時点では、まだ着工しはじめたばかりだったので……それは予定通りだったのですが、そのあと難工事となる事が少しずつ分かってきたんです」


「そっか〜……そういう事ならしょうがないですね。それで、難工事……というのは?」


 事前にルート選定のため調査したときには、『大河』を除いて、そこまで難工事となる区間があるという報告は無かった。



「軟弱地盤です。どうやら過去にアレシア大河の氾濫域だった場所のようでして……湿地というほどではないのですが、相当な路盤強化工事を施す必要がある……とのことです」


「ふむふむ……じゃあスケジュールを見直さないとだね。え〜と、工程管理表は……」


「こちらです」


「あ、ありがとうエリーシャ」


 いつの間にか応接室に来ていたエリーシャが、工事の進捗管理をするための資料をレティシアに手渡す。


 工事関係の話になることを見越して、応接室に来る前に関連資料を準備してきたのだ。

 デキる秘書である。



「工期はどれくらい伸びます?」


「およそ一ヶ月ほどかと」


「遅れ分の増員は?」


「調整可能です」


「増分の見積もりは後で下さいね。じゃあ、この工事は期間を伸ばして……ここの線路敷設と設備工事をこっちにずらして……ここは並行できるから……」


 ランドールに聞き取りを行いながら、管理表に書き込んでスケジュールを修正していく。



「うん、クリティカルパスじゃないみたいだから、全体スケジュールには遅れを出さなくて済みそうです」


「そうですか……良かったです」


 レティシアの言葉に、ランドールはほっと胸をなでおろした。

 初対面こそアレだったが、彼はなかなか真面目な人物のようだ。

 今は商会同士も良好な関係を築いている。




「まあ、不可抗力で遅れるのはしょうがないですよ。スケジュールを厳守するより、安全第一ということを忘れないでくださいね」


「はい、それはもちろんです」



 レティシアは関係各所に対しては、『安全第一』の意識を徹底するように伝えている。

 それは、最終的な成果物の品質が人の命に関わる……というだけでなく、作業従事者の安全管理も疎かにしてはいけないということだ。

 納期を守ることや、利益を出すことも重要であるが、安全であることは何よりも優先する。




「それじゃあ、引き続きよろしくお願いします」


「はい、お任せ下さい!……ところで、なんですが」


「?」



 ひとまず話は終わったと思いきや、ランドールには何か他の話があるようだ。


「レティシア様は……そろそろご婚約などは?」


 またその話か……と、彼女は顔をしかめそうになるが、何とかそれを我慢した。



「いえ……いまは鉄道開業のことで頭が一杯なので……」


「そうですか……実は……」


 と、彼は切り出した。

 いわく、『知り合いの息子に良い人がいる』とか、『得意先の青年が誠実そうだ』とか……あれこれ候補を上げてくる。


(……お見合い薦めてくる近所のオバちゃんみたい)


 内心で辟易としながらも、好意を無下にすることもできず……

 だが結局のところは『今は興味がない』と、やんわりと断った。


 そして、彼女の応えを聞いて残念そうにしながら、ランドールはモーリス商会をあとにした。









「……私、モテ期が来てるの?」


「それはそうですよ。モーリス家の家柄、類まれなる美貌、穏やかで明るい性格、モーリス商会会長としてのこれまでの功績と展望……モテる要素しかないですね。年齢を考えても、そろそろ……となるでしょうし」


「そ、そんな大層なものでは……」


 と、彼女は謙遜するが、エリーシャの言うことは正しいだろう。


 レティシアの心の内がどうあれ、周りの者はそういう目で彼女を見る。

 家柄や功績を見る者のは打算的な思いで、人柄を知るものは純粋な好意で……これからも彼女は、否が応でも注目を浴びることだろう。



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