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【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜  作者: O.T.I
レティシア15歳 時代の変革者たち

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牽引試験



 学園の入学試験を受けることになったレティシアであるが、それで日々の生活が大きく変わることもない。

 試験に合格して実際に学園に入学することになれば、その生活も一変するだろうが……それも、まだ先のこと。


 そんなわけで、今日も鉄道関係の仕事である。


 公爵邸の裏、車庫兼工場の中。

 作業員たちに混じってレティシアやリディーの姿はあった。



「トゥージスまでの線路は完成までもう少しかかるから……今日は先に客車の牽引試験をやってみよう!」


 先日の初走行以来、これまでは機関車のみの単機による試験が行われていた。

 本来であれば、実験線の全線開通を待ってから、単機の高速度試験を実施。

 その上で、客車を連結した本格的な試験に移行……という予定であった。


 しかし実験線の建設に遅れが生じているため、先に客車を繋いで試験をしようというわけだ。

 今回は初回ということでリスクを想定し、連結する客車は1両だけということになった。


 実車で連結・解放を行うこと自体も初めてのことであり、それも試験項目の一つ。


 そして、車庫の中では機関車と客車は並んで格納されていて、連結するためには機関車を転線させる必要がある。

 転轍機(ポイント)が正常に機能する事を確認するのも、今回の試験の一つだ。



「機能状態よし。前方よし。901型、最徐行で進行」


 ピィッッ!


 親方が指差し確認し、警笛を一つ鳴らしてから機関車がゆっくりと動き出す。


 歩く速度くらいにゆっくりと、やがて車庫から出てすぐのところにあるポイントへと差し掛かる。

 転線方向に切り替えられたポイントを先輪が通過すると、機関車は進行方向を変えた。


 合流側のポイントも通過してから、機関車は一旦停止する。

 そして、合流側ポイントを切り替えると、機関車と客車は同じ線路上に配置された。


 機関車が、今度はバックで動き出す。

 再び車庫の中に戻ってきた機関車と、客車が近づいていく。


「距離10…………5……はい、ゆっくり〜!」


 作業員の一人が手旗信号で誘導を始めると、歩くほどだったスピードはさらに緩やかになる。

 そして、機関車と客車の緩衝器(バッファー)同士の距離が1メートル程のところで一旦停止。


 ピッ!!


 また警笛を鳴らしてから、最後の距離を詰めるためジワジワと動き出す。


「はい、やわやわ〜……」


 ガシャン……


「停止!!」


 音を立ててバッファーが僅かに押し込まれたところで、機関車は停止した。

 この状態で機関車と客車は密着したが、連結作業はこれからだ。



 機関車と客車の間の隙間に作業員が潜り込む。

 彼は、バッファーの間にある連結器……『ねじ式連結器』の、機関車側の鎖を客車側のフックにかける。

 そして、鎖の途中にあるネジを回して締めていくと、鎖のたるみが無くなってピンと張り詰めた。

 続いて、ブレーキ管や導魔管などのホース類を接続すると……連結作業は完了となる。



「連結完了!」


 作業を終えた作業員が車両の間から抜け出して、完了を告げた。



 今度は客車に乗り込んだ別の作業員がチェックを行う。

 しばらくすると客車の照明が点灯し、窓から明るい光が漏れ出した。

 この照明には、機関車から導魔管を通じて客車に供給されるサービス用の魔力が使われる。

 照明の他、空調や車内アナウンスなどにも用いられる。

 車両側に魔力池を装備する事も検討されているが、当面はこのような方式になるようだ。




「よ〜し、それじゃあ牽引試験、始めるぞ!」


「私たちは客車に乗るよ!」


 レティシアとリディー、他に何人かの作業員が客車に乗り込む。


 901型魔導力機関車の設計上の牽引力からすれば、客車1両程度など余裕のはずだ。

 なにせ営業時には10両以上も連結することになるのだから。



「よし!ブレーキ緩めるぞ!チェックしろ!」


 親方が合図とともにブレーキを緩め、客車のブレーキ状態をチェックするように指示が飛ぶ。


 機関車のコンプレッサーで作られた圧縮空気が、ブレーキ管を通って客車に供給されれば、客車のブレーキも緩む仕組みだが……



「公式側、前方台車はオーケーです!」


「同じく後方台車オーケー!」


「非公式側前方、問題なし!」


「同じく後方、よし!」


 目視でブレーキシューが緩んだことを確認した作業員が、声を張り上げて報告する。



「よし!出発進行!」


 ガチャンッ!!



 連結部分から衝撃音を発し、列車は動き始めた。

 単機の時と大きく挙動は変わらず、滑らかに加速する。



「うん、まだまだよゆ〜だね」


「ここで躓いても困るからな」


 リディーは当然とばかりにそう言うが、ほっとした様子でもあった。


 レティシアとともに考え抜いた設計には自信をもっているし、親方たち製造部門の事も信頼している。

 しかし、これから試験を重ねていけば、何か想定外の事が起こる可能性も十分にある。

 だからこうして、一つ一つ試験項目をクリアするたびに胸をなでおろすのだ。




 客車を牽いた機関車は徐行で実験線の終点まで進み、折り返しは推進運転で車庫まで戻る。

 そうして何度か往復してから、最後は機関車と客車の連結を解放。


 無事に本日の試験メニューを終えるのだった。



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