巨人の目覚め
15歳編の始まりです!
技術開発品評会にて、モーリス商会の出展が特別賞……初代『レティシア=モーリス賞』を受賞してから、3年の月日が過ぎ去った。
その間、『鉄道』の存在は広く国内に知れ渡り、アクサレナ〜イスパルナ間の建設の気運も高まっていた。
多くの技術的課題は、ひとつひとつ着実に解決していき、関連する法整備も進んだ。
新たな法律として、柱となる『鉄道建設法』『鉄道営業法』、そのほか細則を定めた様々な法令が制定され、既に施行に至っている。
それらを背景に最終的な営業開始に向けての試験車両の開発が行われ、将来の営業路線として使用することも見据えた実験線の建設も始まった。
いよいよ本格的な開業が現実味を帯び、レティシアの夢がついに実を結ぼうとしていたのである。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
イスパルナのモーリス公爵邸にて。
邸の裏手の一画に、以前は見られなかった大規模な建物が出現していた。
赤茶けたレンガ造りのそれは上から見ると細長い長方形をしていて、一見して倉庫のように見える。
短辺が数十メートル程度であるのに対して、長辺方向はおよそ数百メートルはあるだろうか?
高さもかなりある。
いくつかの扉が設けられているが、特徴的なのは短辺の片側が大きく開口しているところだ。
そして、そこから外に向かってレールが伸びている。
そう……それは鉄道車両の車庫であった。
いや、それはただの車庫ではなく工場としての役割も持っているので、総合車両基地とでも呼ぶべきものである。
実際、その建物を含む一画の正式名称は『イスパルナ総合車両センター』と呼ばれていた。
今はまだ公爵邸の所有物の扱いだが、将来的には鉄道関連施設を保有・管理する組織に土地と共に譲渡される予定だ。
施設管理組織は、鉄道建設における最大の出資者であるイスパル王国や沿線各領が保有する形で発足。
その名称は『イスパル邦有鉄道』となる。
そして、鉄道を運行管理や営業などを行う組織は、モーリス商会のほか、協力団体の出資のもと発足。
その名称は現在検討中となっていた。
レティシアの前世で言うところの、上下分離方式による運営ということになる。
さて、車庫の中に目を向けてみると……
中では多くの作業員が作業を行っていた。
彼らが囲むのは大きな鉄の塊。
かつて技術開発品評会で好評を博した機関車の二倍のスケールを持つ魔導力機関車が、威風堂々と佇んでいた。
作業員の中には、製造責任者の親方のほか、リディーやマティス……そして、周りの作業員と同じ作業服を着たレティシアの姿があった。
彼女ももう15歳……少女から大人の女性になりつつある。
その輝くばかりの美貌にはますます磨きがかかり、街を歩けば男性たちの視線を釘付けにするほどとなった。
そんな彼女であるから、作業服はまったく似合っていないのだが、当人はまったく気にしていない。
周囲の人々も、もうすっかり慣れている様子だ。
機関車を稼働させるための最終チェック作業の様子を眺めながら、レティシアは呟く。
「いよいよ試運転だね……頼むよ、『901型』」
祈りにも似た彼女の言葉。
それは、その場にいる全ての者たちの心の内を代弁するものでもあった。
「大丈夫だ!俺達のこれまでの集大成なんだから、必ず成功するさ!」
「親方の言う通りだ。ここまできたら、あとは前に進むだけだ」
「魔力充填も問題なし。見た目だけでなく、内側から溢れんばかりの力強さを感じさせるではないか」
親方、リディー、マティスが口々に言う。
彼らの瞳に宿る光は、少年のようにワクワクする気持ちを表していた。
今日は魔導力機関車が落成し、初の走行試験を行う日である。
十年前、レティシアがたった一人で始めた鉄道開発……今となっては多くの人が関わる国家プロジェクトの集大成の一つが、『901型魔導力機関車』である。
やがて、稼働前の最終チェックも終わり、ついに機関車が稼働するときがやってきた。
万感の思いを込め、満を持してレティシアは最後の指示を出す。
「最終チェックはオールグリーン。よし……『901型』起動開始!!」
彼女の号令のあと、命の火を吹き込まれた鉄の巨人がついに目を覚ました……!




